やまけんの出張食い倒れ日記

関東が誇る安定高出力の居酒屋 森下「山利喜」に集え

jpg 以前、竹鶴酒造の石川杜氏と一緒に行った森下の居酒屋「山利喜」は、その後かなり通っている。なんと言っても火力が安定しているというか、絶対にはずすことがない。ベースメニューである焼きとん各種と、この店の超名物である煮込みについては、席に着くなり頼んでしまう定番である。しかも、それ以外に細かく旬を感じさせるメニューが出るので、退屈したり飽きたりしないのだ。全日本居酒屋選手権を開催したらトップ3に食い込むのではないだろうか、というのは居酒屋評論家に任せるが、俺的にサイコーな店なのである!

■大衆酒場「山利喜」 (←最後の「喜」は本当は七を三つ書く漢字である。)
都営新宿線or大江戸線 森下駅 森下交差点すぐ。
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 問題なのは5時の開店時に、すでに店の前に数人が並んでいるという人気である。このスタートダッシュで着席出来ない場合、かなり待たされる率高し、なのだ。この時、行列を尻目に、5年くらい履き古したようなスエット姿のごま塩頭じいさんが、いい味出しながら
「おいら一人だから先に行かせてもらうよ、な~にすぐに空くからサ」
なんて言いながらさっさと入ってしまったりする。常連客は一人で来るのである。1Fにはカウンター(結構憧れだ)があるので、そこでさっと飲んでさっとつまんで帰るということだ。おおらかな日本が残ってる、、、
 そう、山利喜は、上の写真にあるように、あくまで「大衆酒場」なのだ。ゆめゆめ気取った店ではないし、それを期待してくる店ではないのである。

 この日は5時半に着いたが、すでに最初のローテーションには入れず15分ほど待つ。この店は2階建てで、座敷とテーブルで構成される2Fが比較的落ち着けるのでお奨めだ。1Fは完全に大衆酒場的様相、2Fはちょっと落ち着いた割烹居酒屋という風情である。ただ、1Fでディープさを味わうのもまたオツなもの。今日は1Fに落ち着いた。

 山利喜のメニューだが、これがまた、モノクロながら渋い色彩を放っている。
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 やきとんや煮込み、なすぬか漬けなどのオーソドックスメニューの合間に、スルリと「イタリア産生ハムクレソンサラダ」や「生野菜焼きみそ添え(エシャレット・アンディーブ・きゅうり)」、「白身魚のカルパッチョ」のような気の利いた洋食系の皿が並ぶ。これがダテではないのである。この店の看板の一つでもあるのだが、店員にソムリエさんがいるのだ。彼が定期的にフランスやイタリアを回ってワインを買い付け、かつつまみのメニュに目を配っているおかげか、大衆酒場なんだけど次元が数ランク上という状況になっているのである。
 この店で酒を選ぶのは結構苦労する。なんといってもギネスの樽生が飲めるのと、日本酒はかなり気が利いた地酒を燗にしてもらえるのと、そしてソムリエ氏によるグラスワインが500円で飲めるのである。とは言いながらいつもスタートはギネスハーフパイントなのであった。
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 この後頼むのは、まずおひたし(江戸っ子風に「おしたし」と言うようにしている)だ。たかがおひたしと思う無かれ。350円でスバラシイクオリティのおひたしが出てくる。野菜業者の僕が言うんだから間違いない。つい先日は、無造作に3種類くらいの青菜を取り混ぜたおひたしが出てきた。ホウレンソウ、小松菜、三つ葉というような個性のある青菜をそれぞれ茹で、それをダシ洗い(水ではなくダシに漬け洗いながら味を含ませる技法)したものを出してくる。シャクリという絶妙の食感に気が入ったダシが合わさって、これで350円は安かろうという出来映えだった。
 今日のおひたしは花わさび。わさびの先端部だが、ビリッと辛みが効きつつも、さわやかな香りが突き抜けていく。シャコシャコという歯触りが楽しく、存外に酒が進むのである。
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 そうしてビールを飲んでいるうちに、あの超絶煮込みがやってくる。ここの煮込みはブーケガルニを使っているということだが、難しいことヌキで言うと、これ上等なシチューです。いろんな味要素がどろどろに溶けているので、味の輪郭は若干ぼやけているが、コクがあるのにあっさり感を抱く、不思議な煮込み。下品と洗練の境界線を綱渡りするスリリングな煮込みなのである!これを別注のガーリックトーストに乗せて口に運ぶと、「ここ、スペインだっけ?」と錯覚してしまうこと間違いない。
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 グツグツと土鍋が沸き返っているのをにらみながらモツとネギを頬張ると、紛れもない日本人であることにほっとしてしまうのであった。
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 さてそうこうしているうちに、焼きとんが運ばれてくる。焼きとんとは読んで時のごとく豚の内臓を串焼きしたものである。必ず食べるのはカシラ・ハツ・タンそしてレバーである。注文の際にタレか塩かを選べるが、僕のお薦めは断然タレである。年配の方や通ぶった御仁が「塩」と頼むのをよく見かけるが、この店はタレじゃなきゃダメ!甘辛の醤油ダレの皿の横に、黄色いフレンチマスタード(種なしタイプ)が盛られているのだが、こいつとタレの相性が、まさに、グンバツのバツグンなのである!この組み合わせは、石川タツヤンと僕とで驚嘆した味。これなら20本食べられるぞ! ここの焼きとんはレバーから無くなるコトが多いので、まずレバーは食べるべし。
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それと、シコシコとした触感と肩ロースをしのぐ旨みの載った「カシラ」、「ハツ」を堪能する。
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「軟骨のたたき」は、いわゆるツクネなのだが、この色っぽい扁平さを見よ!鶏ツクネに比べるとむっちゃくちゃに濃い系の味だ。
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「テッポウ」は確か直腸だったかと思うが、、、この店のは臭みが少なく、クニュクニュとした歯触りとむっちりと千切れる食感が純粋に味わえる。モツ嫌いでも食べられるはずだ。
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 この辺でソムリエ氏によるワインのサーブが入る。いつ行っても、前と同じ銘柄であることはない。残念ながら僕はワインについては素人なので勧められるがままにいただく。本日のこのワインはビオ(EU圏での「オーガニック」の意味)のものであるとのこと。ライトボディだが、さわやかすぎず渋すぎずのちょうどいい軽やかさを持つワインだった。ちなみにボトルでとっても3500円程度なので安い部類だ。もう少し出せば、ソムリエのお薦めワインが出てくる。ただしこれは当たりはずれが当然ある。一度、とても旨いワインを飲んだので、次にまた頼んだが、全く別の個性のものが出てきた。それがまた楽しみでもあるのだが、、、今日のはまあまあ正解であった。
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 さて居酒屋といえば僕が一番好きなのは「ぬた」である。この店のぬたは赤みそ系を使った、かなりドライな仕上がりの酢みそ味だ。貝類とワケギ、グリーンアスパラに酢みそをかけたぬたをジーッと見ているだけで、僕は酒が飲める。この辺からは本来は日本酒がよい。神亀の燗があるので、これをヤルか、もしくは「鶴の友」が良いだろう。

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 そして運ばれてきたのがスペアリブである。大きい塊が3切れで980円とリーズナブル。これは注文が入ってから焼き上げるので20分くらいかかる。従って着席した瞬間の第一回注文で入れておくのがベストである。
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 で、このリブがマジ最高なのよ!何とも言えない味付けなのダ!口の周りをべとべとにしながら軟骨部分までがりがりと囓って食べてしまうのであった!うぉー今また喰いたくなった!
 気が利いてるなと思うのは、必ずオレンジの輪切りがついてくることだ。スペアリブには柑橘がベリーグッドマッチングなのである。こいつの果汁を絞りかけながらリブにかぶりつき、ふかふかとした肉とバリバリとかみ砕く軟骨のダイナミズムを味わうためにも、健全な歯を維持しておきたい!と改めて誓うのであった。

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 そうそうこれを忘れていた。「鯛の酒盗和え」である。細切りにした真鯛の切り身に、鰹の内臓の塩辛である酒盗をまぶしたつまみなのだが、これが秀逸!酒盗の塩から臭さがまったくなく、クリームっぽいねっとり感とほどよいこなれた塩味、そして鯛の甘さが相まって、これと神亀の燗酒を合わせたら、何もいらないと言いそうになるのだがやっぱり他にも食べたいんだけど、でもうーんやっぱりこれは旨い!っていう感じなのであったぁ!

 最後は春キャベツとベーコン、クルトンのサラダ。季節メニューだ。柔らかな春キャベツにうっすらと湯通しをし、酢のきいたフレンチドレッシングでベーコンと大量のクルトンと和えている。美味しい、、、
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 大体これだけ喰って飲んで、2人で8千円程度なのである。僕並みには食べないという人だったらもっと手軽に飲めるだろうことは間違いない。超優良店であるというのがおわかりだろう。
 本当は次回のオフ会はここでやりたいのだが、前述のように並ぶのが厳しい。時間厳守だしね。ただ、山利喜は儲かっているらしく、別館というのができた。こちらだったら予約も効くらしい。考えどころだね、、、と思いながら明日あたりまた行きたいなぁと思うのであった。