やまけんの出張食い倒れ日記

初登場にして食い倒れ殿堂入り! 豪快・繊細・オンリーワンのシチリア料理 北沢 「無二路(ムニロ)」は食い切れねぇ! の序章

muniro.jpg ああとうとうこの店も出すことになってしまったなぁ。この僕をして、「もう食べられません」と言わしめる店は、この世にそう無い。しかも多いだけで味がそこそこだったら、とてもじゃないが限界までは食べられない。従って、僕が限界まで食べてしまう店というのは、「もっと食べたい~でももう食えない~」という超絶ダブルバインド状態を生ぜしめる、とてつもない店なのだ。
 そして、東京は笹塚と下北沢の中間に、そんな希有な店があるのだ。その名を「無二路(ムニロ)」という、日本では珍しいイタリアのシチリア料理店だ。今回、喜びをもってこの店を紹介しよう。

 出会いは1年前だ。仕事で知り合い、食い倒れ仲間になったイツキヒロシさん(本当にそう言う名前である)が、「僕の同級生がやってる面白い店があるから、食べに行こう」と言うのだ。この方は味に関してはかなりの審美眼をお持ちなので、無条件に信用できる。ただその時僕を見て「ニヤリ」としたのが少し心に引っかかったのだが、、、
 渋谷からタクシーで1000円程度。北沢高校前で降りると、住宅街に面した幹線沿いに、ムニロはあった。意味不明なオブジェ風看板と、それに反してシックな店構え。
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不思議な感覚を味わいながら、厨房が薄く透けるガラス張りの店内に入る。黒を基調にしたファッションに固めたオーナーの大塚さんが、

「今日は、お一人だけチャレンジャーでしたっけ(ニヤリ)?」

という。イツキさんも「そうそう、僕らも多めに食べるけど、チャレンジャーは彼ね(ニヤリ)。」

と僕を指す。なんだナンだ何なんだ? 答えはすぐにわかった。

 まず運ばれてきた前菜は、僕以外の人は9品目の手の込んだ料理が一口ずつ盛られた皿だが、僕には3口ずつ、どどぉ~んと皿に盛り込まれている。
 それはいいとして、とてつもなく旨い前菜だ。一つ一つが練り込まれていて、ガシッとした筋が一本通った強い味付け。この前菜にまずやられてしまった。次にパスタが運ばれてくる。これがまた絶妙だった。

 「スパッカレッラのマグロと赤ピーマン、トマトのソース」

スパッカレッラはご存じだろうか?その名のごとく、飛び跳ねるように強力にねじれたショートパスタだ。ぶっといU字型に切れたマカロニが半身をよじっているような、弾力の強い癖のあるパスタなのだ。写真がないので申し訳ないのだが、これが強烈に強いソースに絡まっている。赤ピーマンを裏ごししたものにトマトを合わせて、ツナとともにスパッカレッラと絡めている。これに強力なアクセントをつけているのが特大のケッパーの塩漬けだ。酢漬けではなく、塩漬けを使うのがシチリア風だという。それと、褐色のホールのオリーブが遠慮無くぶち込まれている。

 これを一口食べて、そのブリンブリンと弾けるスパッカレッラを強引にねじ伏せ噛みしめながら、ケッパーの鮮烈な香り、強い酸味と塩気が、一瞬にして僕をシチリアの潮風吹くテラスハウスへと運んだ(ような気がしたんダ)!ちなみにその分量も他の人は60g程度の盛りなのに、僕だけ100g。そして一皿揚げ物を挟んでその次に、驚いたことに「お口直しに」と、またもやパスタが出てきたのだ!今回はアーリオ・オーリオ系のスパゲティーニだ。と思って食べようとしたら、上に茶褐色の粉がかかっている。これをみてピンと来た。

「おお、炒めパン粉だ!」

「ああ、よくご存じですね、、、シチリアではチーズじゃなくてこうやって煎ったパン粉をパスタにかけるんですよ。」

このパン粉をよく絡め、オイリーなスパゲティーにを口に運ぶと、今度はきめ細かいパン粉のカリッとした感触と、ガーリックの香りとパン粉の香ばしさの気の流れが鼻孔に抜ける。この瞬間またもや僕はシチリア島に居た。隣には何故かジャン・レノが居て、マンマのパスタを食べながら怒られていた。

 しかし思い切り盛りのよいパスタに、すでにみな胃袋飽和状態である。僕はと言えば、パスタをもう一皿くらい食べてみたかったが、大塚さんが「今日はシェフがいいイベリコ豚を仕入れたんで、ぜひ食べて頂きたいと言ってます」と言う。そうそう、この頃に本場のイベリコ種の輸入が解禁されたのであった。果たして運ばれてきたのは、、、骨付きイベリコ豚のイタリアンローストであった。

「山本さんのは、200gくらいかな。」

と言うようにどぉーんと大ぶりである。ゼラチン質の多いプルプルの分厚い豚の肩ロース厚切りには、サシが入っていてネットリとした食感。濃厚にしてねっちゃり、そしてジュワッと旨味の素を噛みつぶしてしまったかのような圧倒的な味が拡がる。ワインを煮詰めたソースも、バターは使われていないようなのにコッテリとしている。

 さすがにこれだけ食べて死にそうになったが、ドルチェもちゃんと食べた。そうしたら、厨房からシェフが出てきたのである。シェフは、30代後半だろうか、重(しげ)さんという、ちょっと見は典型的デニーロ風イタリア人的濃い顔の人である。
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「いやー どこまでいけるかな、と思って出してたんですけど、こんなに食べた人は初めてです。今回は僕の負けです。でも次は負けませんよ。

 、、、ここでの勝利が、実はこの後の連敗の引き金となったのであった、、、

 その後、数回訪れたが、連敗中である。なんていったって、例えば某世界最大のデータベース企業の方々と5人で行った時には、前菜と揚げ物、ソテー、パスタ3皿がでた後にこんなものが登場したのだ!
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羊の足一本である。うーむ さすがに皆、これを見た瞬間に手が伸びなくなったのであった。僕も二枚食べるのがやっとであった。

ということなのだが、今回は今まで貯めていた分、このムニロの魅力を伝えたいと思うが、ちょっと眠いので明日に続くのであった。