やまけんの出張食い倒れ日記

ブルームきゅうりが旨くなる季節だ。

IMG_4148.jpg 友人のタクが祝いを持ってきてくれるというので、江東区のカリスマ八百屋である八百周の前で待ち合わせた。店先をのぞくとオヤジが声をかけてくる。

「おうヤマちゃん、ブルームキュウリがはいったよ!」

ブルームきゅうりとは、白く粉を吹いたようなキュウリだ。白い粉をブルームといい、成熟果の表面にうっすらと出てくる粉のことだ。これを農薬と勘違いする人が多く、ブルームレスきゅうりという粉なしきゅうりが最近では主流だ。

「うまいのはやっぱりこのブルームが出る方だよ!ブルームレスはカボチャ接ぎ木してるから、その分、皮が硬くて旨くないんだヨ」

解説すると、野菜の苗を強くしたり、病気への耐性をつけるために、別の品目の根っこに接ぎ木する技術がある。きゅうりはなすに接ぎ木することによって、ブルームが押さえられるのである。しかし、オヤジの言うとおり、皮が固くなり、きゅうり特有の微細な香りも押さえられてしまう。でも、今の若い人たちは、おそらくその違いがわからないだろう。幼少のころからすでにブルームレスしか食べていない可能性が高いからだ。

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「このきゅうりは千葉の農家さんが作っていて、市場でも個選品として出てるんだよ、でも出たら全部俺が買っちゃうんだけどね!」

 個選とは、沢山の農家さんの収穫物を農協ブランドで一括して出荷する「共選」とは対局で、少なくても個人農家のものとして出荷する方式だ。技術がたかく、「あの人のはおいしい」という評判があれば、個選として出すことになるのだ。オヤジが目をつけているのだから、この人は相当に旨いのだろう。

4本買い求め、その場でタクと一本ずつかじる。

「シャリッ」

と軽い歯ごたえの後、水気が口の中に飛び散る。何ともいえない緑の香りと、淡い甘さと瑞々しさが拡がる。文句なしの旨いキュウリだ。

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「旨いなぁ、このきゅうり!味があるよ」 とはタクの感想だ。

僕は、ブルームレスきゅうりに一種の苦みとえぐみを感じてしまう。それがこのブルームキュウリには全くない。透明感のある空が限りなく拡がっていくような、いいキュウリだ。

 残り二本はタクにみやげに持たせ、帰り道に再度八百周によって10本買い求めた。

「いつも出てるとは限らないから、買える時にかっちゃうほうがいいよ!」

 全くその通りだ。今年も夏野菜の季節がそろそろやってくる。夏野菜は基本的には身体を冷やす効能がある。だから冷え性の人は沢山食べ過ぎてはいけない。が、この清々しさは、すべての人に味わってもらいたいものだ。