やまけんの出張食い倒れ日記

静岡の伸び新茶の4種飲み比べをした。(後編)

その1より続く)

 さて お茶のテイスティングだ。

 4種の茶葉を紙の上にあけて観る。茶葉の形状と光沢などから、茶葉の性質や揉み具合を推測するつもりになってみる。プロの茶業人や日本茶インストラクターだったらこういう時にすごい言葉を持っているのだろうが、、、

 今回いただいた茶は、A、Bが本山茶、C,Dが静岡茶と書かれている。本山とは、静岡市内の安倍川流域にある、最も素晴らしいお茶が育つと言ってよい地域である。静岡茶という表記は、それ以外の場所と考えていいだろう。

================================================


・外観太く、巻きがゴワッとしている。照りはほとんどない。


・外観は若干Aに似ているがたまに細い葉が入っている。


・細めの上品な見た目。照りも観られる。


・かなり粉っぽいというか砕けているが、逆に繊細さを感じる外見。

================================================

 茶葉を同じ条件下で煎れる。 浄水器(うちのはシーガルフォー)を通した湯を沸かし、いったん急須に煎れて湯飲みに移し、湯音を80度前後に下げる。その間に茶葉を急須にスプーン一杯投入しておく。

 「茶葉はおごって煎れた方がいい。茶で身を持ち崩した人はいないから。」

とは、僕に茶を教えてくれた葉桐の社長である清一郎さんの言だ。それに従い、いつも周りの人に「うそっ」と言われるくらいに茶葉を使い、煎れる量はお猪口サイズに一口程度だ。その方が、ダシのように出る。レストランでの食事みたいなもんだ。家庭ではとうてい恐くて使えない分量の油や砂糖をガバッと使うことで、味が出るのだ。それがプロってものだ。

 湯音が下がったら、急須に湯を注ぐ。4種あるので手際よく。

 蓋をして蒸らす。ただし初めての茶を煎れる場合は、葉の開き具合を時々蓋を開けて観て確認する。開けっ放しにして、茶葉がゆるんで開いてくるのを観るのも、とても乙なものだ。この間、急須の外側を触って温度を確かめておく。

 温度とのかねあいで変わるが、茶葉がゆるみ、良く出たと思える1分数十秒で湯飲みに入れる。僕はいつも茶業務用の白い磁気の湯飲みを使う。茶の色(水色という)を確認するためだ。湯飲みと言っても本当にお猪口サイズなので、いつもはこれで日本酒も飲んでしまっているのだが。

「本当に感動できる茶は1煎目まで」

ということも葉桐清一郎氏に教わった。本当の茶を、気合いを入れて煎れると、2煎目以降は抜け殻になってしまう。だから、1煎目に勝負をかけるのだ。急須から湯飲みに注ぐとき、最後の最後の一滴まで振り絞る。

 やや濃いめに出したので水色があまり綺麗でないが、このように煎れた。

Aから順に飲んでみる。
、、、びっくりするほどに濃い旨み成分が舌に回る。すべて、ダシの旨みを感じる。茶葉には大量のアミノ酸が含まれている。熱い温度で煎れると、苦み物質であるタンニンが染み出てきてしまうため、その旨みがあまり感じられなくなってしまう。だから、湯を多少冷まして、旨み成分が沢山溶出するように煎れるのだ。そうすると、本当に鰹ダシっぽい味になるのだ。

================================================


・煎れると旨み成分の量は4種中もっとも濃いと思う。旨みが強くて味の決め手がどれだかは判断が付かない


・味は旨みと様々な特性が混在していて、豊かである。ただしAよりコクは少なめ。喉の奥に残り香が残る度合いはもっとも強い


・上品な見た目。照りもあり、細め。煎れると味のバランスがよい。旨みが特別に濃いわけではないが、優しい味で好ましい。静岡茶とラベルに記載されているが、本山茶っぽさを感じた。玉川横沢っぽいというとおかしいか?


・かなり粉っぽいというか砕けている。逆に繊細さを感じる。煎れるとダシのような濃い旨みを強く感じる。Aとは別種の旨みと感じる。味の組成はA,Bと比べ複雑ではない、わかりやすい。ただし残り香が少ないか

================================================

 ん、大したことはかけんなぁ。品種や産地をあてろと言われても、無理だ。僕には、静岡茶と書かれたCが、本山の玉川横沢地区の茶に似ていると思えた。混乱しつつそれぞれを3煎くらい煎れて味わう。ん~ やっぱり難しい。

簡単ながら感想を石部さんに送った。以下が、回答である。

================================================
A『本山産』¥1,200/100g

詳細:産地は安倍川上流西河内川流域玉川地区のお茶です。男茶と称されるような力強さ。また、ハサミ刈りの最盛期前半の味わいは産地特長が色濃く出ている味わいになっています。

B『本山産』¥1,200/100g

詳細:安倍川上流の玉川地区のお茶と安倍川支流藁科川上流清沢のお茶のブレンド。玉川のお茶と比べておとなし目で茶葉の色の青さが特長でもあります。

> ・外観は若干Aに似ているがたまに細い葉が入っている。味は旨みと様々な特性
> が混在していて、豊かである。ただしAよりコクは少なめ。喉の奥に残り香が
> 残る度合いはもっとも強い

流石ですね。ブレンドによる奥行、清沢のお茶のおとなしさを感じていらっしゃるのでしょう。


C『静岡茶 日本平産やぶきた』¥3,000/100g
詳細:4月23日摘採製造の日本平(やぶきた発祥地)の自然仕立て手摘みのやぶきた。

『お茶は土地が生み、育てる。やぶきたの栽培適地はそのふるさとである日本平なのではないだろうか。』をテーマとした生粋の品種茶『やぶきた』土地特長に左右されずに、やぶきた本来の味を知るにはこのお茶意外には無いといえるでしょう。

> ・上品な見た目。照りもあり、細め。煎れると味のバランスがよい。旨みが特別
> に濃いわけではないが、優しい味で好ましい。静岡茶とラベルに記載されてい
> るが、本山茶っぽさを感じた。玉川横沢っぽいというとおかしいか?

横沢のお茶のように作りたいと考えている生産家の単品ですから類似点を感じているのかもしれません。
今シーズン寒さに当たらずに摘採期を迎えられた数少ない産地でもあります。 総生産量●●kg


D『静岡茶 品種茶 静7132』¥2,400/100g

詳細:品種としてはやぶきたの実生選抜。お茶の芽は紅く不思議な品種です。また、茎の太い品種で茶園での様からも強い旨味を予感させます。上手にはいるとどこか桜葉の香りを連想させるお茶です。総生産量●●kg

> ・かなり粉っぽいというか砕けている。逆に繊細さを感じる。煎れるとダシのよ
> うな濃い旨みを強く感じる。Aとは別種の旨みと感じる。味の組成はA,Bと
> 比べ複雑ではない、わかりやすい。ただし残り香が少ないか

味の組成については単園単品種故にわかりやすさと感じられたのでしょう。残り香の少なさは土地特長と思います。山間地茶の香気が強いところでは逆に品種特長は感じ難いともいえるのでこれはこれで致しかた無いのでしょうね。

注:●●の部分は勝手に極秘情報として伏せ字にした。

================================================

ううむ、、、 なるほど! 僕が好んだCは、大好きな生産地である玉川横沢地区のような茶を志向しているしているという。あながちはずれではなかったか。

Aのすさまじく濃い旨みについては、よくわかった。まさに男茶というべき力強い旨みであった。Bの、一煎でいろいろな風味がわき起こってくるのは、これぞまさにブレンドの妙味だ。石部さんの手腕が、この茶を現出せしめたのである。Dは驚いた。茶葉が紅色だという、、、アントシアニンの作用だろうか、みにいきたいなぁ。

 と、こんな感じで茶を煎れた。ただし、毎日こんなにイイ茶を飲んでるワケじゃないよ。うちのおふくろに飲ませるのは彼のブレンド「特上茶」だが、それを飲んでみて、個人的には十分なクオリティであると感じた。

 最後に価格について。なぜか日本人は茶が安いものだと思っている人が多い。これはオカシイ。コーヒー一杯250円支払う人が、お茶にはその価値を認めない。僕が100gで5000円の茶を飲むというと、驚く人が多い。一人に煎れるのに必要なのを5gとしよう。100gだったら20回楽しめる。5000円を割ると250円だ。そこで得られる感動は、最上級のコーヒーと同等に深く、美しい。特に最上のお茶が持つ香りは、スーパーの店頭で炒りながら出している火香と言われるものではなく、茶葉から抽出された、喉の奥にへばりつき、鼻孔まで戻ってくる香りである、、、 これを味わうと、もう後戻りできない。

 石部商店は、マニアックな茶の世界を、きちんと消費者に説明し、素性のよい茶を販売している希有なお茶屋さんである。多くの茶葉が、僕が信頼する製茶メーカー・葉桐から石部さんの手に渡る。是非一度ショップのWebページを覗いてみて欲しい。ちなみにいつものことながら、僕は石部さんから一銭ももらってません。勝手に、心からリコメンドするだけだ。

日本茶専門店 錦園石部商店
http://www.nishikien.com/

 一人でも多くの人に「伸び」の日本茶のすばらしさを知って欲しい。最初は、50g1500円程度のものでいいだろう。それでも市販の茶とは全く違う。僕のお薦めは、玉川横沢地域のお茶、そして「築地勝美」氏の茶だ。それなら、間違えることは絶対にないはずである。