やまけんの出張食い倒れ日記

新米ざんまい 秋田県大内町の大家族の宴は最高だった!

このblogでも数回紹介したけど、今ぼくの家では伊藤裕樹(通称ひろっきい)の作る米をメインに食べている。ミルキークイーンという米の紹介をした時のエントリに詳細は書いてある。

実は彼はバリバリの経営コンサルタントであり、自分の会社を持っている。会社の仕事は東京をポイントにしているが、その一方で秋田県大内町の実家の稲作も続けている。だから一週間に東京と秋田を往復しながらの生活をしているのだ。

彼を紹介してくれたのはしんのすけだ。寿司処 匠で寿司をつまみながら話している時は、同い年であることとナイスガイだということはよーくわかったが、米の味はわからない。だから、典型的週末兼業農家なんだろうなぁと思っていたくらいなのだが、後日届いたミルキークイーンを食べてびっくりした。旨いのだ。農業片足どころか、技術水準が高い優秀な農家ではないか。俄然彼に対する興味が沸き、改めて友人になった次第である。

「稲刈りの時期には友人が東京から来るから、やまけんもおいでよ」

というお誘いを受け、週末を使って参加することにした。おりしも台風22号襲来のタイミングだったが、移動前夜には台風も東京を瞬時に駆け抜け、東北を抜けて太平洋側に消えていった。東京組は、ひろっきいがやっている「コーチング」のお仲間の方々である。コーチングの話もしんのすけからきいて関心を持っていたので、今回はテーマが多い。ただしコーチングとは何かを書くには僕には見識がなさ過ぎるのでここでは控えたい。Googleなどの検索エンジンで「コーチング」と引っ張ってみて欲しい。ひろっきいは、このコーチングの世界ではかなり上位のクラスにはいる人間らしいのである。

さて
秋田空港に着くと、曇天ではあるが、晴れ間が少しだが見えている。一日何もやることがないということはなさそうである。東京組のみなさんと遭遇し、お迎えはひろっきいのおじさんの運転で大内町に向かう。空港から来るまで30分くらいで着くのだが、周りにはコンビニなどない、それどころか街灯もほとんど無い、あるのは田んぼと畑だけの田舎町である。実に最高だ。

それはもう典型的な農家の家に到着し、ひろっきいとご家族と挨拶を交わす。ここんとこ、雨ばかりで稲刈り作業が停滞しているとのことだった。僕の晴れ男ぶりが試されているな。沖縄で台風に遭わなかった運をここでも発揮したいものだ。

作業着に着替えて田に移動する。ひろっきいのお仲間の女性陣も農家ルックに変身し、にわかに農作業スタイルである。

まず最初に直播きをした田に向かう。直播きとは、種籾を苗にせず、直接田に撒いていく方式だ。

稲は通常、苗を育てていわゆる「田植え」をする。この田植え工程を外すことが可能なため、省力化に繋がる可能性がある方式なのだが、まだ実験段階であり、難しい。ひろっきいの田でもカラスに種籾を食われたり、ヒエの害が出ていて収量は通常の田の2分の1程度になっていた。しかし、これは未来に繋がる実験。彼は、現役農業者が減少していく中で、限られた後継者達で広大な面積を切り回していくための実験をしているのである。

しかしそれにしても素晴らしいパノラマ眺望である。時折陽がさす晴れ間はうっとりとするほどに美しい。

「メシにしようや」

声がかかりブルーシートの上に昼餉が並ぶ。大きなおむすびと「がっこ(漬け物)」、みそ汁、塩鯖。


「もちろん新米だからね」

というそのおにぎりは、一粒一粒がしっかりと立った薫り高い米だった!
このおにぎりと、塩の利いたナスとキュウリのがっこと一緒に噛むと米の甘みとがっこの塩味が混ざって、最高の宇宙が現れる。

「う、うめぇーなこれ!」

と、様々な具のおにぎりを都合6つ平らげてしまった。今回、おにぎりを頂くタイミングが3回あったのだが、一番美味しかった料理はこのおにぎりだとなんの躊躇もなく言ってしまう。お米、マジで旨い!

「それはそうだよね、大内町の水でつくった米を、大内町の水で炊いているんだもんね」

とは、ひろっきいのコーチ仲間の塚田さんの言だ。確かにその通りである!究極の食べ合わせだ。秋田県の水は本当に飲みやすく繊細な軟水。だから、米の美質を引き出し香りを際だたせるのだろう。米のモチモチ感と粒状感、そして香りが、東京で食べる飯の数倍強いのだ!

「うーん 初めて東京に行った時に、『俺んちの米って旨いんだぁ』ってわかったよ」

と淡々と言うひろっきいであった。

昼食後、残念なことにかなりの雨が降ってくる。稲穂が濡れるとコンバインで収穫することが出来なくなる。ほぞを噛む様な思いで撤収した。

温泉につかりひろっきいと話す。

「やっぱり一族の後押しがあるからやっていける。僕がいない間に、おばさんやおじさんが草取りやらなにやらしてくれている。『好きだからやるんだよ』といって御礼を受け取ってもくれない。本当に感謝だね、、、」

親父さんを数年前に無くしたひろっきいが、東京で働きながらも秋田の田を絶やすことなく続けていることを、一族みんなが後押ししているのだ。そのあたたかみは実に胸に響く。僕らを迎えに来てくれたおじさんの微笑みは実に実に深く温かいのだ。そして応援に駆けつけてきたおばさんも、軽妙なジョークを飛ばしながら(自分のことを『バックシャンだべ』と言った時にはおにぎりを吹き出すかと思った)皆のムードを限りなく陽性の方向に引っ張ってくれる。ちょっとこの家族環境に瞬殺されてしまった。

家に帰ると宴である。秋田の伝統料理が盛り込まれた重箱と大皿が並び僕らを待っていた!

秋田県は元来、大家族制の中で「内食」文化が長く続いてきた土地だ。だから、外食よりも家のメシの方が旨いということを、秋田出身の誰もが言う。だから一度、秋田の農家さんのメシを食べてみたかったのだ!実はそれが今回の旅の最大の目的。

「やまけん、ガンガンたべろよな!」

「おう、食べろ食べろ!」

食べろ食べろ攻撃の中、僕が気に入ったのはきのこのみそ汁だ。白いきのこで、菌床栽培ではない、天然のきのこである。

「ああ、これはスギモタチだね。このきのこ、出汁が出て旨いンだぁ」

というひろっきいの言通り、実に旨い! 大体関東のふつうの家庭では、天然もののきのこが食卓に並ぶチャンスはあまりないだろう。しかし知っておいて欲しいのだが、スーパーに売っているパック詰めのきのこ類と天然のきのこでは、味も香りも別物なのだ。その代わり買おうとすると値段も10倍くらいするのだが、、、

このチリモタキ、薄く白く淡い見た目なのだが、汁に味がしっかりと出るものであった。実に旨い、、、3杯お代わりする。

そしてガッコと白飯である。

「今日はササニシキだね」

ササニシキはコシヒカリと対局にある、淡く気高い風味のあっさりとした米だ。魚や漬け物にはコシよりもササの方が旨いと思う。これも新米で、腰が強くネットリ感が高く、そして鼻を抜けていく米の香りが最高だ。またもや4杯食べてしまった。

お定まりの日本酒も出て、家族みんなで騒ぎながら飲む。ひろっきいの家族におじさん、おばさん、いとこ一家など、とにかく入り乱れて笑いが拡がる。皆んな驚くほどに仲がよく、そしてよく笑う。

この笑顔のベースは伊藤家のカラーだろう。何もない瞬間、彼らは温かく笑っているのだ。白米の旨さとともにそれら笑顔を噛みしめると、限りなく甘い風味が身体に染み渡ってきた。明日は晴れるだろうか、、、