やまけんの出張食い倒れ日記

秋田県太田町の特別栽培米 タカハシさんの米はグレートフルに旨い!

 先日のエントリで紹介したとおり、仕事で伺っている秋田県太田町の米農家である高橋さんから、特別栽培のあきたこまちをいただいてしまった。

 特別栽培とは、農薬と化学肥料の使用を、慣行農産物(通常の栽培方法で作られたものをこのように表記する)の二分の一以下にしたものを言う。昨年度中にガイドラインの改正があり、これまでは無農薬とか減農薬とか減化学肥料と呼称していたものを、「特別栽培」という呼称に一本化するということになったのだ。詳しくは農水省のQ&A(PDFファイルです)をご参照のこと。

 このガイドラインはあくまでガイドラインであり、法律ではない。しかし、消費者にとってはわかりにくさは解消されない場合がある。減と無の違い、そして農薬と化学肥料がいったい何なのかという認識が消費者には正確に伝わっていないこと、そしてなにより慣行農産物というものの定義である。しかしこの辺は食い倒れ日記的ではないので、いずれ兄弟blogである「俺と畑とインターネット」で書いていきたい。

 で、高橋さんをはじめとする太田町の一部の農家さんが、この特別栽培に取り組んでいる。農薬使用量や化学肥料の使用量を減らすという取組みは、おそらく一般的には

「ああ、安全なのね。」

という受け入れられ方をするだろう。消費者の農産物に対する関心時の中で、依然として農薬使用に関するものがほとんどだというのは、様々な調査からも明らかなのだ。

 しかし、食い倒れ読者にはきちんと理解して頂きたいことがある。それは、『減化学肥料』または『無化学肥料』その上の『有機』というものにおいては、味が違うはずなのだ。

 農産物、そして畜産物、きっと海産物もそうなのだが、味を左右する大きな要因として「それが何を餌としているか」がある。鯛も、天然の海で、海老ばかり食べているものと、養殖環境で人工餌を食べているものとでは味が違うのはおわかりだろう。牛・豚・鶏そして卵の味を左右するのはやはり餌だ。

餌×飼育(栽培)方法×産地×品種 = 味

という方程式が、最低限の要素だ。本当はもっと一杯の要素がある。第一次産業というのは本当に変動要素が多いのダ!だから、最もインテリジェントな産業なのである。

で、農産物においては、化学肥料を使うのと有機質肥料を使うのでは、明らかに差が出る。まず、作物の図体は、あきらかに化学肥料を用いた方が大きくなる。しかし、味もぼやけてしまうことが多い。と断言すると物議を醸し出すこと間違いないので、あらかじめ言っておこう。これは科学的な根拠に基づくものではない主観判断だ。僕は食に関わる人間として主観データを重視する。科学的根拠はないが、化学肥料の施肥量は食味に影響があるというのが僕のベースだ。

 ということで、減農薬であるということ以上に、減化学肥料という側面に、食味の向上という価値を見いだしてしかるべきなのである。

 ただ、残念ながらこれは理論上でしか言えない。化学肥料を多用する農家さんと、有機の農家さんとの産品を食べ比べて、明らかに差が出るわけではない。先に掲げたように、肥料は味を左右する要因の一つでありすべてではないからだ。そこが難しい部分であり、農産物の面白い部分なのだが、、、

というジレンマをまた思いつつ、高橋さんの米を炊いてみた。秋田県のNさんが、玄米でいただいた米を白米、7分づき、5分づきの3種に精米して送って下さったのだ。

この高橋さんの特別栽培米は、減農薬・減化学肥料というだけではなく、米ぬか資材である「米の精」というものを投入している。最近一般化した無洗米を製造する際に出る米ぬかや大豆カスを、農業用資材に加工したものだ。完全植物性だし、環境へのインパクトも押さえられる。ただしこうした資材を有効に使って、成果を出す=美味しい米を育てるということができるかどうかは、ひとえに農家さんの技術による。

どうなんだろうな、、、旨いだろうか。少し不安だった。実はしばらくまえに、同様の農法で栽培された米を食べてみたことがあるのだ。慣行栽培米と、特別栽培米、そして米の精を使った米、、、正直なところ、食感・食味ともに米の精が一番とはいいきれない状態だったのだ、、、

高橋さんの米を軽く研ぎ、吸水させ、いつものように業務用アルミ鍋で強火で炊く。粘りのある汁が鍋フタから溢れる。甘い米の香りがする、、、

旨い具合におこげが出来た。通常の火加減でこうなったということは、甘みの強い米なのだろう。何もおかずナシで一口運ぶ。ふわっと立ち上るあきたこまち特有の甘い薫り。噛みしめると、絶妙なネッチリ感がする!米の命は適度なネッチリ感だ!組織がしっかりとしていて、しかもネッチリと歯にまとわりついてくる。そして染み出てくる旨味、、、

すんげー旨い!

いつもミルキークイーンをお願いしている、同じ秋田県の大内町のひろっきいのところからあきたこまちも送られてきたが、今回の高橋さんの米はそれを少し上回る美味しさだ!

やられたぁ!
ビバ!高橋さん! 賛辞を送りたい。

こんなに旨い米だが、以前も書いたとおり、通常ルートで販売する際には、ある数値に設定した網目を通し、一定以上の大きさの粒でなければ価格が落ちてしまう。そして、減化学肥料栽培は、小さい粒になりやすく、鑑定価格が下がってしまうことが多い。

しかし、どう考えても旨い!

価格側面が上向きにならないと、特別栽培を辞める農家さんも出てくるだろう。そりゃ当然だ、苦労が報われないわけだから。そして消費者は旨いご飯をたべられなくなるのだ。

じゃあ、どうすればいいのか。僕は業者としてサポートしていきたいと思うけど、消費者にとって一番簡単で有効なことは、美味しいものにはきちんと賛歌を送るということだろう

食い倒ラーの皆さん、米に対する審美眼を磨いて、旨いと思った米には、賛歌を送りましょう!その方法は色々あると思うけど、例えば米袋に書いてある販売責任者に、商品名と購入場所を明確にした上で「美味しかった」という連絡をする。そういうデータは、事業者はきちんと記録するはずだ。米屋だったら、きちんと会って口頭で「このお米、美味しい!」と言うこと。

これは米だけの話ではない。日本には賛歌を送るという習慣があまりないから、メーカーはそれだけでかなり奮い立つハズだし、何より「苦労して特別な造り方をして良かった」と思うに違いない。

日本の流通は、メーカが誇りを持てないようなものになってしまっている。逆に言えば、それは「恥」という意識も持たないということだ。きちんと声を伝えていくことが、健全な食を作っていくことに繋がる。

ただし、それにはセンスが必要だ。ごねたり文句いったりクレーマーになるのではなく、相手をいい方向に導くような、そんな賛歌を送ってあげて欲しい。

これ、食い倒ラーの基本だ。

さて残念なことに、高橋さんの絶品な米は、一般には手に入りにくい。太田町の特別栽培米の数量が少ない上に、取引先がある地域に限られているのだ。どこで販売されるかは知っているが、ここで言うわけにも行かない。

なので、とにかくちらしなどで「秋田県太田町の特別栽培米」という文字があったら、注意してみて欲しい。まぁ高橋さんの米だけが来るわけではないから、保証はできないが、、、そういうストーリーを持っている米だということは、言っておこう。

いやしかし
旨い米だった、、、しばらくオカズはいらないや。