やまけんの出張食い倒れ日記

昨年度の食料自給率は41%。1%上がったけれども、今年はおそらく大不作になります。では、我々はどうすべきなのか!?

平成20年度、つまり昨年度の食料自給率の数値が公表された。カロリーベースで2年前が39%、一昨年が40%ときて、昨年は41%となった。1ポイントずつではあるが、順調に自給率が向上しているように「みえる」。

■平成20年度食料自給率について
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/pdf/point.pdf

「ようにみえる」としたのは、そんなに単純ではないからだ。

カロリーベース自給率の1ポイント上昇の要因は、

1 国内産糖(さとうきび)及び大豆の生産量が増加
2 国際価格の高騰によって一部農産物の輸入量が減少(大豆とチーズ)

したからだという。しかし実はこの中には出ていないが、米の消費量は大きく減退したという。実質的には日本全体が自給率を上げるような食生活にシフトしたわけではなく、外圧的なもので数ポイントの増減があるだけ、なのである。だから額面通りに「上がったぞ」と喜べる状況ではない。

それになにより、来年度に出る今年の自給率はほぼ間違いなく下がるはずだ。なぜか?

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今年の7月からの状況が、曇天続きで米、野菜や果物に大きな影響がでていることはご存じだろう。全国的に日照不足になっており、北海道では平年の二倍以上も降雨がある。かつ、中旬以降は記録的な低温下にあり、豆やじゃがいもなどの生育に大きな害が出ることがほぼ確実だ。

植物には、なにより日照が必要だ。積算日照・積算気温というが、一日一日太陽が出てくれる積み重ねで光合成が行われ、植物の身体ができ、実を生らせてくれる。その基本的な要素である日照がこれだけ不足している。

米に関して言えば、米穀データバンクによる7月現在での作況指数予想は96だというが、おそらくこれでは済まないだろう。出張で行った先々で「今年はヤバイ」「平成5年の大不作がふたたびくるぞ」という声を聞く。今後の天候の回復状況によっては持ち直す可能性もあるが、しかしこの台風・集中豪雨によるダメージもかなり深刻である。

つまり、今年度後半の国内での食料供給は、通常より(いや、もう「通常」なんて言葉は意味がないのかも知れない)大幅に少なくなる。そうなると、中国餃子問題などで減少していた輸入農産物の量が増大することは間違いない。それらはまずスーパー店頭ではなく業務用、つまり外食産業から入ってくる。というか、すでに輸入野菜や加工食品の利用は外食産業では一時期よりかなり増えているのですぞ。

そしてキャベツ一玉400円!とかになるに至って、スーパー各社も輸入農産物を並べ始めるだろう。「国産が高いんだからしょうがない」となるわけだ。まあそれは仕方がない。

ただし、勘違いしないで欲しいことがある。

「これだけ値上がりしてるんだから、農家は大もうけだろう」

これは間違いである。まず、収穫できている農家自体が非常に少ない。平年並みなら1000箱分の収穫がある農家が、今年は300箱しか獲れないという状況を考えればいい。単価が上がっても、絶対量が少ないから儲からない。全国的に見れば、満足に出荷できる農家自体が少ないのだから、農家ピンチがずっと続くのである。

だから逆説的だけれども、消費者ができることは、こんな状況だからこそ国産を買い支えることなのだ。

「国産高い」

と敬遠することで、輸入農産物がどんどん並ぶようになる。その価格は、それほど高くないだろう。「国産はやっぱり高いから買わない」と輸入農産物ばかり買う消費者が多くなると、市場の値動きは「よし、じゃあ輸入品並みの価格にならなければ国産は買わないよ」となる。結果、農家が再生産できない価格に追い込まれてしまう。

で、ますます農家は減るのである。すでに国内の農家は減少しているが、昨年からの不況でさらに離農が進んでいる。そして、この不作によってまた離農者が増えるだろう。そうなったら困るのは日本の消費者だ。

昨年、あるスーパー関係者に講演をした。「あんたらが食品を安く買い叩くから、日本の食がおかしくなった」と喧嘩腰に厳しい話をしたら、終わった後に社長さんがこういった。

「仰るとおりです。実は毎年契約取引をしている産地に『来年もよろしく』と言っても、『もう高齢化で栽培できないので、勘弁してください』と言われるようになってしまったんですよ!お金を出してもよい食べものが手に入らない時代がやってくる、と我々も実感しました」

と。まだ日本という国のタンス預金は尽きていないから、見た目上は食べものが余っている。けれども足下には火が付いている。日本で「飢える」という言葉にはまだ現実味がないかもしれないが、それはある日突然、目の前にやってくる大火事・大地震のようなものなのだ。

じゃあなぜ高いのに国産を買うべきだというのか。別に「高いモノを買え」と無理な注文をしているわけじゃない。考え方を変えてみよう。

安い輸入農産物を買うと、その場は「安かった」と思うかも知れないが、その半分以上は輸出国へ外貨として飛んでいってしまい、日本には残らない。その外貨をまた獲得するためには、自動車や機械などを売るしかないが、そちらのほうも世界的に減退しているわけだ。

一方、高くても青森県産のニンニク一玉250円を買えば、生産・流通・販売の各段階にお金が落ちる。そのお金は、回り回って日本国内に還流される。経済も地産地消がいいのである。

この考え方は、自分でもやもやと考えていたのを、カガヤから教えて貰ったこの本で確信を得たものだ。経済の地産地消。

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そう考えると、この日本の消費のあり方がまさにこれから試されていくような気がするのだ。

あ、そうそう、このように天候不順が続くと農産物の栽培ができなくなる。だから、これからは植物工場が有望だ! 工場内でLEDなどで栽培でき、農薬もかけなくていい植物工場がこれからの農業の主役だ! という話題が一杯出てくるだろう。しかし、そんな与太話は信用しない方がいい。たしかに植物工場にはメリットも多い。けれども、現状ではエネルギー投入と作物のアウトプットを比較すれば、非常に効率が悪い。しかも植物工場品で、文句なしにレベルが高いと言える農産物には、正直なところ出会ったことがない。

経済産業省などから補助金がでている関係で、メーカーが売り込みをかけ、農業ビジネスに参入したいという企業が群がっているため、この分野が注目されている。しかし、、、お金の無駄にならないよう、よーく検討してね、という感じだ。今の盛り上がり方をみていると、数年前に「RFIDタグを使って世界が劇的に変わる!」と喧伝され、世の中それ一色になったのを思い出してしまう。結果、そうはなっていない。

久しぶりに固い内容だったけど、今年は日本の食にとって大きな分岐点になりそうなので、今後もポツポツ書いていきたい。