やまけんの出張食い倒れ日記

山形県最上地方の食の多様さに畏れ入った! 舟形マッシュルームにてジャンボマッシュに度肝を抜かれる!

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山形市内に招かれたイベントは、百人程度の小さい会だと思いきや、東北6県から1200人が集まる大イベントであった。ノブさんこと山形県庁の地域興し屋・高橋信博さんの策略である。なんてったって副知事まで「だまされたぁ」と言っていた。「食堂でラーメン食べてるときに『挨拶お願いします』って軽く頼まれたから、小さいイベントだと思ってたのに」と言ってたくらいだ(笑)

さて翌日。ノブさんと僕で産地ツアーをやらぬはずがない。宿を7時半に出発し、目指すは秋田県にほど近くなる最上地域の舟形町である。

「やまけんちゃんよ、いまこっちの方じゃキノコが面白いことになってるんだわ。原木ものも菌床ものも含めてな。ちっとみてもらいたくてよ」

と最初に連れて行かれたのは「舟形マッシュルーム」。地域の名前を冠したマッシュルームの生産法人だ。実は看板を観たときに「ん?どっかできいたことが、、、」と思ったのだが、、、

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社長の長澤光芳さんは食品業界から数年前にこのマッシュルーム生産に乗り出した。事務所の壁に目をやると、農場管理の標準認証であるJGAPの認証書と、リーファースという組織からの生産工程の認証書がかかっていた。

 

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あー、生産情報公表JASの認証でも撮っているのかな、と思って話を聞いてみると、そこからもう農産物業界のあの人やあの方など、つながりまくり。そして思い出してしまったのだ。僕はここのマッシュルームを食べたことが多々ある! 「大地を守る会」の宅配で注文できるマッシュルームがここのものだったのだ!僕の家ではサラダにここのホワイトマッシュを生のまま薄切りにして混ぜるのだ。

「そうでしたかそうでしたか、、、」と一気に打ち解ける。それにしても取引先をきいてなるほどなあと思う。大地に出荷できるということは、もうこの国のほとんどのこだわり系流通で取り扱うことができる生産方式であるということだ。らでぃっしゅやネット通販、生協等に出荷しているとのことだった。最後の驚きは、僕も少し関わったイトーヨーカドーの「顔が見える野菜。」にも出荷しているということ。

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お近くのイトーヨーカドーでこのシールが貼ってあるマッシュルームがあったら、迷わず買いですぞ。

さて、生産状況を見せていただく。

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「マッシュルームはね、実に色んな意味でクリーンに生産できるものなんですよ。うちは農薬のたぐいも、化学肥料のたぐいも使わない。病害が一切発生しないという前提で栽培しています。そのために徹底的な洗浄をするけど、それも変な殺菌剤は使わないで、蒸気で殺菌。」

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その設備の内部はこんな感じだ。

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頑健なスチール製の棚に培地を敷いて、そこに菌を植え込み培養していく。この培地は実はベルトコンベアのようになっていて、収穫があらかた終わったら培地を巻き取り排出できるようになっている。かなりシステム化されている生産方式なのだ。

「これはヨーロッパのシステムですね。アメリカとかだとトレイで生産するんですけど、培地を出すのが大変なんですよ。」

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それにしてもマッシュルームである。菌床キノコの中でもかなり可愛らしい部類に入る。これがわーっと菌床いっぱいに発生している様は圧巻だ。

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舟形マッシュルームの名物はジャンボマッシュルーム。

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通常サイズの5倍以上あるどでかいのを作るのだ。飲食店や一部スーパーから熱烈な取引要望があるようだが、こればっかりは生産に1週間程度かかるので、受注生産じゃないとできないということだった。

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ジャンボになりそうな素質のものは、付箋を表面に貼っておくことで「これは穫っちゃダメ」フラグを立てておくのだそうだ。

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菌床きのこの栽培において、味は種菌の品種の素質と、餌である菌床の中身、そして散布される水の質、温度や湿度の環境管理で決まる。舟形マッシュルームの大きな特質と言えるのが培地の中身だろう。話を聞くとこれはここでしかできないものだ。

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培地工場を見せてもらうと、ワラが発酵中の堆肥のように積まれている。

「これ、輸入ワラですか?」

「いえいえ、この辺のある馬の厩舎からもらってくる国産稻わらですよ。」

おおおおおおおおおおおおお それは豪勢だ、、、

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中に入ると発酵の水蒸気でもうもうとしているのがわかるだろう。しかし悪臭はほとんど無し。

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「うちの培地はね、稻ワラとコーヒー粕、石膏に大豆粕。動物性のものはほとんど使わないんですよ」

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これらの有機物を、専用の機械で細かく裁断・混合する。

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この培地をさきのトレイに敷き詰めるのである。

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しかもここ、すぐ横に実に綺麗な川が流れている。

「この川、ダムがなくて山から直接流れてくる川なんです。あまりに水が冷たくてそのままじゃ稲作に使えないくらいの清流なんですよ。」

そんな水を引きこんでいるので、すごい水質の水をふんだんに使うことができるわけだ。

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ちなみにスチームを使う時の熱源は、なんと木材チップ。

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もちろん、これは地元の間伐材をチップにしたものだ。

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ノブさんが言う。

「実はさ、この辺は菌床キノコ栽培が多いんだけど、菌床に使うおがくずはほとんど秋田県から持ってきてるのよ。コストの問題とかあるんだけど、なんで地元の木材使わないんだ、って思ったりするわけ。それを今度の俺らの部課で取り組んでいこうと思ってるんだよ。」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお なるほどぉ!

ノブさん鋭い。菌床キノコというものは、実はコストを安くしようと思ったら、輸入したものばかりを使って作る方が楽なのだ。例えば飼料用トウモロコシの芯を乾燥させたものをコーンコブといって菌床に使うことが多いのだが、これはほぼ輸入。それも、遺伝子組み換え作物の取り締まりがない国から輸入してくるが多い。

そんな風に、菌床キノコは「その土地」となんの関わりも持っていないことが多い。最近、農業ビジネスブームとやらで何となく注目の集まっている植物工場も同じだ。良くも悪くも場所性とまったく関係ない農産物になってしまう。しかし、菌床の素材を地域の副産物・残渣を利用し、そして地域の美味しい水を使うならば、施設の菌床栽培でも「最上の味」といえるではないか。かなり面白い取組である。

もちろん、栽培の終わった菌床も利用価値がある。

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出荷が終わった棟で菌床を排出するところ。先に書いたとおり、ベルトコンベアのように菌床を掻きだしていく。ご覧の通りもうもうと湯気が上がるくらいに発酵しているので、辺り一面に少し生臭い発酵臭が立ちこめるが、腐敗臭ではないので嫌なものではない。

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これはもちろん良質の堆肥として販売されているのだ。中身は植物性中心の信頼の置けるものばかりだし、発酵も進んでいるので非常に品質がいい。

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いや、隙のない経営でビックリした。もちろん順風満帆ではなかったようだけども、なかなかすごい経営だ。

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「ささ、じゃあマッシュルーム食べていただきましょう!」

と社長が事務所の一室で、料理をしてくれる!

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マッシュルームは、キノコ類の中でグルタミン酸やグアニル酸といった旨味成分が最も多いと言われている。また生で食べても美味しい。塩かけるだけで美味しいし、冒頭に書いたように油と合わせると実に風味豊かに食べられる。

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長澤さん、フライパンにバターとニンニクを入れて温め、香りが立ってきたところでジャンボマッシュルーム投入。

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おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

これは旨い~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

肉厚のマッシュルームが加熱され油を吸うと、まるで肉のごとき旨味と食感である!トルンとした弾力のある食感に、アミノ酸たっぷりの汁がシュッとしみ出てくる。いや、これは旨い。いつもの小さなマッシュルームでは味わえない強いインパクトのある味だ!

「やまけんさん、これも食べて見て!」

と社長がくれたこれ、何か分かる?

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これ、なんとマッシュルームの石づきの部分だ。

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これが極めつきに旨いのだ、、、タダでさえ味のあるマッシュルームの、繊維が一つの方向(縦)に密集した組織だから、はっきりした食感がある。まるで貝柱のような存在感なのだ。

「これをオムレツに入れるとねぇ、なんとも旨いんだ」

という社長、この石づきだけでも商品化はしているが、それほど量産できるものではないので限定販売だそうだ。なんと、Webで買うことができるようなので、もし関心がある人は、ジャンボマッシュルームと共に買ってみることをお勧めする。

「あ、ヤマケンそれじゃそろそろ次へ、、、」と慌ただしいスケジュール。名残惜しい、、、舟形マッシュルーム、素晴らしきマッシュルーム生産者さんであった!

■舟形マッシュルームのWeb
http://f-mush.shop-pro.jp/

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