やまけんの出張食い倒れ日記

復興の先達・宮崎の農家たちの苦闘に学ぶことがあるかもしれない。 新燃岳を間近にのぞむ四位農園のホウレンソウは元気に育っている!

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3.11以降、すっかり東北および東日本の震災・原発関連に目が集まっているけれども、昨年度中にトリプル被害(口蹄疫・鳥インフル・新燃噴火)を被った宮崎県の苦闘はいまも続いている。こういう状況は「忘れないこと」が重要だ。それに、中身は違えども被災したということで、何かしら学ぶことがあるはずだ。

2月後半、新燃岳の噴火後それほど経たないうちに、小林市に拠点をおく四位農園を訪れた。四位と書いて「しい」と読む。実はここ、県の関係者が「ホントはここは宮崎の秘密の四番打者という位置づけの、超優良法人なんです」という農業生産法人だ。

最初に訪れたとき、社長の息子さんが対応してくれたのだが、そのときにほ場に植えられたホウレンソウの味にびっくりした。市販されている市場流通品よりも食味がよい。実はここが、表にはあまり出てこない農業法人なのには理由があって、小売向けの市場流通品は一切出していない。生産のほとんどが外食などに向けた加工用品なのだ。従って市場流通規格は関係なく、ホウレンソウを歩留まりMaxになるまで大きく育て、独自の洗浄・茹で・冷凍処理をして出荷している。出荷先企業は名を聞けば「おおおっ」というようなところばかりだ。

ホウレンソウの味がよいのは、市場規格を二回りほど上回る大きさに仕立てているから。ホウレンソウは大きければ大きいほど旨いのに、市場の規格はぜんぜん味が乗らない、未熟な状態で出荷している。ここのは業務用だからそこにこだわる必要がないわけだ。これが家庭用に出回ればいいのに、と思ってしまった。

さてこの四位農園が、新燃岳の降灰に立ち向かっているということで、無理を言って40分だけおつきあいをいただいた。

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初めてお会いした四位社長は、実にタフな人という印象だった。

「山本さんね、降灰した畑が大変なことになってるって思うでしょ?それは逆です。作物はもっと強い!」

あたりが一面灰色になるような降灰状況を写真で見ている僕らからすれば「大変だったでしょう」と声をかけたのに呼応しての一言だ。

「きっとね、そういう『思いすぎ』の部分が風評被害を生むんじゃないかと思うんですよ。僕らは降灰に直面して、いったんは畑を放棄しようかとも検討しましたが、いろんな手を打っているうちに状況は好転していきました。」

まず、ホウレンソウの洗浄ラインを一から見直し、灰を振るい落とす風力選別ともいうべき行程を追加。その後に通常より厳重な洗浄ラインを敷き、これまで以上に徹底した衛生管理体制を作って製造をしているとのこと。

もともとこの四位農園はものすごく高いレベルの品質管理で定評がある。出荷前の自前のサンプル検査は専用の検査室を持っているほどで、農業生産法人というよりも製造業といえる内実である。

「まあ今日ゆでたてのホウレンソウを食べて見てくださいよ。」

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冷凍前の茹でホウレンソウをいただいてみる。口に残るようなシュウ酸は全くなし。硝酸をほどよく使い切り、ホウレンソウの葉茎の味に転嫁された佳い味わいだ。

「しかもね、降灰後の畑地に新しく播種をしたら、ちゃんと発芽して育ってくれてるんですよ!帰りがてら観に行きましょう」

と車に乗る。

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ごらんのとおり右に新燃岳がみえるような距離感だ。

一見すると砂利道のように見えるかもしれないが、これはれっきとした舗装道で、そこに灰が積もってこんな風になっていた(この写真は2月後半時点なので、いまはもっと状態がいいと思う)。

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あれが新燃岳だよ、と指さす方向の雲の奥に、新燃岳があるわけだ。これは風向きによってモロに直撃する位置である。

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しかし、そのほ場にあるホウレンソウはしっかり元気に育っていた。

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少し灰をかぶっているような状況ではあるが、それでも植物体はぴんぴんしていた。

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灰はpHが4~5と酸性に傾く恐れがあったのだけれども、それほど影響は出ていないそうだ。四位農園では化成肥料に頼らず、有機質肥料を中心に施して地力を上げる農業をしてきたからだろうか。

「pH調整なんて簡単だし、そんなに騒ぐもんじゃないよ。むしろ僕は、この広域への降灰で大気が酸性化することによって、病害の原因になる菌や虫の発生が抑えられるんじゃないかって思うよ。」

おおっ そんな見方をする人は初めてだ!たしかに、もしかすると病害予防には少し酸性の方がよいかもしれない(そんな単純な話ではないかもしれんが)。

「とにかく、余計に心配しすぎるのも風評被害ですよ。自然に沿った形で対処していけば、作物は応えてくれる。うちのホウレンソウは元気です。」

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そう自信を持って言い切ってくれた四位社長に感謝。

いま、東北の被災地の生産者たちは、風評被害なども含め大変な危機に直面している。これを単純に「大丈夫さ,がんばって」などとは声をかけることはできない。けれども先に困難に直面した人たちがこうして再起を賭している姿を見ることは、無駄ではないはずだ。

宮崎の生産者はがんばっている。その力の余波が東北にも届くことを祈っている。四位社長様、忙しいところ、ホントにありがとうございました!