やまけんの出張食い倒れ日記

本場・札幌の黒もちトウモロコシに感動した!

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札幌に来ています。いや、遊びに来たわけじゃありませんよ。でも本日はほとんど移動で一日が潰れました。ホテルにチェックインしてから、珍しく嫁さんが「ラーメン食べたい」というので、僕も珍しくススキノのラーメンで検索して、ホテルからほど近い、味噌ラーメンが美味しいという店へ。

 

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バターコーン味噌ラーメン角煮のせでオーダー。

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うん、美味しいスープでした。でも、やっぱり札幌のラーメンはほとんどの麺が、グルテン添加しすぎのゴムっぽい麺で、そこだけは美味しいとは思えない。スープは旨い店が多いのになぁ、、、

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朝から空港ラウンジで原稿書きしてたら、飛行機が遅延に次ぐ遅延で結局3時間半ほど待たされたので、運動してないのにクタクタ。これはイカンのでちょっと散歩。札幌の大通沿いの公園では夏祭りの盆踊りが開かれていた。

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祭りに付帯しているのだろうか、屋台が出ている。それが結構賑わってて、道行く人々がかなりの頻度で立ち寄り、なにやら買ってかじっている。

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ニコンD700 50mmF1.4で撮影

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あれは、、、とうもろこしか、と思ってふとみたら、買った人が持っているトウモロコシ、のような物体が、非常に細くて黒い!

おおおおおおおおおおおっ あれはっ もしかしてっ

北海道で昔から栽培されてきたモチキビ系のトウモロコシではないか!?

大急ぎで屋台に駆け寄り、並べられたトウモロコシを見てみると、現在主流の黄色いスイートコーンの横に、黒と紫の中間くらいの色で細いトウモロコシが置かれている。

「ええっ これ、もしかして八列トウモロコシ?」

「いいや、これはね、黒もちトウキビ。珍しいでしょ?もう農家さん、何軒も作ってないんだよ。」

という。そうだ、これは黒もちトウモロコシだ。初めてではない、僕はこれを数回食べたことがある!

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もちろん買わせていただきました。300円なり。

「これはね、かなり大きいわ。他のお客さんがねたんじゃうくらい大きい。運がいいね!」

と渡してくれた。本当に運がいいぜ!

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黒もちトウモロコシは、こんにち普通に食べられているスイートコーン、またはスーパースイートコーンと呼ばれる激烈に甘い品種とは全く違う、フリント種というものだ。この辺は昔、僕が書いた記事より、ちょっと長いが引用しよう。

南米原産と言われるトウモロコシは、ヨーロッパが新大陸アメリカを“発見”して以来、世界的に非常に重要度の高い作物として利用されてきた。それも、生食するだけではなく加工用原料にもなり、家畜の飼料用としてはもっとも重要な位置を占め、そして最近では燃料であるエタノール原料として注目を浴びている。実は主役級の作物なのだ。そんなトウモロコシが日本に渡ってきたのは戦国末期の16世紀頃。ただしその頃は穀物としての扱いに近く、乾燥したトウモロコシを挽き割り粉にし、米に混ぜて炊いて食べていたらしい。

そんなトウモロコシに日本でも脚光が当たってきたのは明治以降だ。北海道の札幌市内で“焼きとうきび”の店が繁盛し、昭和20年代後半からは、東京でも焼きトウモロコシが販売されるようになった。その頃に出回っていたのはフリント種というトウモロコシで、デンプン質が多く含まれ、もちもちネットリとした食感のものだった。「昔のトウモロコシが懐かしい」という人たちは、きっとこのフリント種の血統が濃い品種を食べていたのではないだろうか。

そんな牧歌的な日本のトウモロコシ界に参入してきたのがスイートコーンだ。スイート種とは、粒にデンプンよりも糖分を多量に含むように改良された品種群のことで、SU(シュガリー)という遺伝子を持つ。その味はまたたくまにトウモロコシ界を席巻し、以後日本の主力栽培品種はスイート種となったのである。

さらに最近では、SUタイプの品種をさらに甘くするSE、SH2といった遺伝子を含む、スイートを超える品種“スーパースイート種”や“ウルトラスーパースイート種”なども登場してきた。最近はやりの「生で囓っても美味しい」という品種たちはこれだ。このようにトウモロコシの味を決定づける遺伝子の解析が進んだため、消費者の嗜好にねらいを定めて様々な食味の新品種が産み出されている。今や店頭でみかけるのはこうした甘みの強い品種が主流だが、この先いったいどこまでいくのか。一方で、「昔のトウモロコシが食べたい」という声もよく聞かれる。フリント種や、その性質を色濃く残した改良種なども販売されている。

この「昔のトウモロコシ」と書かれているのがフリント種だ。スイートコーンに比べると大粒で、一本のトウモロコシに実が8列くらいしかできない。その子実にはとにかくでんぷん質が貯まるようになっていて、食べると液体がほとばしるようなスーパースイートコーンとは全く違い、本当にお餅を食べているようにモチモチした食感になる。しかも、鮮度が落ちるのが非常に早く、収穫後1日以上経ってしまうと、もう甘さもなにもなくなってしまう。

実は昔、雑誌記事のためにこの八列トウモロコシと黒モチトウモロコシを北海道の農家さんから取り寄せようとしたのだが、かなり渋られた。送りたくない、というのだ。その理由は、東京までは配送が2日かかるので、確実に不味くなってから届いてしまう。そうすると、このトウモロコシの真の実力が発揮されないから、現地にきてとれたてを食べるのでなければ、出したくないということなのだ。その時は、ちゃんとその分を差っ引いて評価しますのでなんとか送ってくださいと拝み倒した。でも、やはり二日経ったフリント種は、加熱するともう甘さもなにもない、たんなるデンプン質という感じで美味しくはなかったのである。

その黒モチトウモロコシの、おそらく一日くらいしか経っていないであろうものがここにある!

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かぶりつくと、ポロリと実が豆のように外れる。表皮もしっかりした硬さで、つぶれてジュースが染み出るということは全くない。屋台のおばちゃんが「かみしめるから、結構顎が疲れるよ」と言っていたのだが、なるほどそうかもしれない。

しかし、噛んでいると何とも言えないトウモロコシの風味が、スイート種のように派手にグワッと迫ってくるのではなくて、じんわりと、ゆるやかに染み出てくる。もっちもっちもっちもち、という感じの食感に、じ~んわりとした風味。これははかなくも腹にたまる、何とも言えないおやつだ。

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意外なことに、多くの札幌市民または観光客がスイートコーンではなくこれを買い求め、食べていた。

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今日はこれを食べられただけでもいい日だったな、とそう思った瞬間だった。

ちなみに、このような在来のフリントコーンは、北海道以外では岐阜県の飛騨地方の朝市で見かけたのと、あとは高知県の日曜市で見かけたくらいだ。高知県または愛媛県の山中の集落に栽培する人たちが残っているらしいが、かなり少なくなっていて、種の保存の危機がささやかれている。

いまみんなが「あまーい!」と喜んでいるスーパースイート種は、ほとんどが海外の種苗メーカーが開発したのを日本のメーカーが輸入販売しているものだ。そんな中でいくつかの種苗メーカーがかなり自前で美味しさを追い求め、品種に磨きをかけている。その一方で、ぜひこうした「甘くない」「生だと食えたもんじゃない」「時間がたつとすぐ不味くなる」という”使えない品種”も残していってほしいものだ。

食べ物はすべて美味しくなければならない、なんてのは、人間のエゴだ。ましてや甘い・柔らかいを金科玉条にしてはいけない。ほんのりした美味しさの風流を味わい楽しめる人でありたい、と思いますね。