やまけんの出張食い倒れ日記

島根県出雲地方の旅 奥出雲~雲南には美しくてスペシャルな食文化が埋まっている! 紅梅しょうゆ~八山椒~吉田ふるさと村~飯石森林組合。何が綺麗かって、お煮しめが美しいのです。

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というわけで3月末は出雲地方を廻ったのだけれども、このへんの食文化の豊かさには本当に驚いてしまう。ちょうどビッグコミックスピリッツ誌上の「美味しんぼ」でも出雲編が展開されているようだけど、10回連続で書いてもネタが尽きることはないだろう。だって、沿岸部と内陸、それも広島との県境まで行くと全然食べてるものが違うという差異があるのだ。

いつも思うが、食文化の豊かさは、一つの地域内にどれだけの差異があるかという指標で捉えることができると思う。だだっ広い大陸があったとして、面積は広くとも、どこへいっても同じような料理しかならばないのであれば「食文化的には狭い」というべきだ。その点、日本は国の面積は狭くとも、食文化的には非常に広く深い起伏がある。

これは、日本という国の気候が南北で大きく違うことと、もともと平地が少なく、それこそ起伏に富んだ地形に分散して生きてきたからだろう。野菜でいえば在来品種を復活させる波がきつつあるが、これも昔は村々に特有の野菜品種があったりしたわけだ。

けれども、いま日本の各地方にいくと、やはり大手の飲食チェーンがどんどんと地域の食文化を浸食している。ロードサイドにはマクドナルドやケンタッキー、牛丼チェーンが必ずあるし、コンビニ依存率も高くなる一方だ。

また一番悲しいのは、その地域の若者(に限らないのだが)は、むしろ「古くさい郷土の味よりも中央の食文化が好き」という傾向があることだ。郷土の味は失われていく一方だ。中央の味がこの国の端々にまで浸透し尽くすと、エントロピーが極大化したのと同じで、この日本の食文化は死に絶えるということだ。いまはその、かなり危機的な状況に来ていると思う。

そんな中で、島根はやっぱり凄いゼ!と思ってしまった数日間だったのだ。と、前置きが長くなりました。

 

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先回、お煮しめが旨い!と書いたけど、この地域ではどこにいってもお煮しめがご馳走料理のメインとしてでてくる。お煮しめは全国各地にあるのだけれども、ここ出雲の煮しめはどうも見目が麗しい。それぞれの素材を別々に炊いたりする労をいとわず、素材に的確に煮汁が染み込んでいる。

でもそれは全国どこでもやってることだ。なんか違うなぁ、と思ったとき、あることに気づいた。それは、「茶色いはずのもの」が茶色くないのだ。

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上の写真のくるくるっと巻いたゼンマイ。これ、普通は摘んできたものを干しながら、手で揉んで”より”をかける。それを干しておいて水に戻すので、茶色くてよれよれになった煮物になるのが普通だ。韓国でもナムルに醤油で煮たゼンマイの干物が必ず入ってますな。

けど、出雲のお煮しめには、干さずに塩蔵したゼンマイを使うことが多いようだ。そうすると色素も抜けず緑色の綺麗なままで出てくることになる。これって、俺の少ない経験上ではあるけれど、あまり他の地域でみたことがないんだよね。そういうこともあってこの地域の煮物は綺麗だと思うのだ。

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さて、というわけでいろいろ巡ったわけです。

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えっちゃんの田圃とわさび田の空気を存分に味わった後、雲南市に移動して「紅梅しょうゆ」へ行ったわけです。

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で、この後にうかがったのが「いずも八山椒」。ここはその名のごとく、山椒を生産する農業法人だ。_D700857

いやしかし恐れ入りました。じつはこのお二人、もともとこの地で違う建設会社を経営していた。しかし全国各地でいま土木・建設業者は公共工事が減って経営が大変。そこで手を取り合って農業へ新規参入しようということになった。

そこで選んだ品種に妙味がある。それこそが山椒なのだ。

ここ10年来、農業への新規参入がどうこう言われるが、その際に多くの企業がトマト生産を念頭に置く。それは簡単なことで、卸売市場のデータをみると単価的に最も高く収益性が高そうにみえるのがトマトだからだ。でも、後から参入した企業が、市場性の高いトマトを安定的に供給できるわけもない。だから結局うまくいかないというケースがごろごろしている。

このいずも八山椒は、最初からそういうメジャー品目を選ばず、自分たちのいる地域・地形・気候にあったものを探した。そこでマッチしたのが山椒だったわけだ。ちなみに品種は「あさくら」だ。

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多くは原体で出荷をするけれども、加工品にするものもいろいろ。上の写真は全て彼らが開発したものだ。山椒番茶、ペッパーミル入りの山椒、山椒焼酎などなど。

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意外なことに、この山椒番茶がめちゃくちゃ旨い! シナモン(ニッキ)のようなつんとした香りがあるのだけど、独特の味わいだ。これはイケル。

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この「ジャコのり」は海産物のジャコと海苔佃煮と実山椒をご飯の友にしたものだが、こいつがまた実に旨い。海苔とジャコの佃煮か、と思ってたら、あとからジワリジワリとあの山椒の痺れ味が効いてくるのだ。_D700860

ペッパーミルに入ったあさくら山椒、都内の老舗うなぎ店の若旦那に食べさせたら、

「こいつは香りが強くて、痺れも後からグっと効いてきますね!うーむ」

と唸っていた。

で、ここで僕は一つの料理に思い至った。山椒を使うとグンと美味しくなる、ある料理だ。しかもこの出雲地方の名産品を組み合わせることで全てを構成できる。それをこの地域の名物として開発してみたら?と。 ホントにできたらいいんだけどなぁ。絶対にヒットするぜ。だからここでは書きません(笑)

さてお次は吉田ふるさと村。

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なぜここが有名かというと、、、誰もが知ってる、あの有名な製品を生み出した会社なのだ!

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そう、たまごかけご飯専用醤油というジャンルを切り開き、その後こぞって各社が「○○専用醤油」というのを売り出したきっかけとなったのが「おたまはん」だ。

このおたまはんのいいところは、裏面表示を見ればわかるとおり、アミノ酸など添加していない。じつにまじめに作った味なのだ。

「はい、商品にはよけいな味付けはしないというのが我々のポリシーです」

というが、それをできるところがなかなか無いのだ。

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おたまはん以外にいろいろある商品の中で僕のおすすめは、ちょっと上の写真で見にくいけど、焼肉のタレの隣にある青とうがらしニンニクというもの。さきも出たオロチの爪など地域の青とうがらしをペーストにして、やはり地域のニンニクとあわせたものだ。

これをパスタに加えるとダントツに旨い!最近の俺のパスタは、諸井醸造のハタハタしょっつるまたは紀和町ふるさと公社のさんま醤油に、この青とうがらしニンニクをつかったものが多いのだけど、味がビシッと決まるのだ。

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この日は、青とうがらしニンニクでマリネした鶏肉を焼いたのをいただきました。旨い!

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この可愛い女性が商品開発担当の板垣さん。応援してまっせ。

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さて巡回の最後は飯石森林組合。

え? 森林で食べ物って何?という人も多いだろうが、実は木からできる食べ物がある。それはキノコ。 屋外などで原木で育てるキノコの他に、スーパーで安価に年中並ぶキノコがあるが、あれは菌床キノコである。その菌床はおがくずなどでできているのだ。

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この地域の木材をおが粉にして、他の菌床材料と混ぜてブロック状にしたものに、きのこの胞子を打ち込んでおく。

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それを一定期間水分量を調節しておくと、ある時期にドワッとキノコが発生するのだ。

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このマイタケの株が数日後には、、、

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こうなる!

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こちらはキクラゲ。

そしてシイタケだ。

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実はこの組合さんの菌床栽培の方式は、通常のものとはちょっと違う。で、味も違う。

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詳しくはちょっと書けないが、生産方式が違うのだ。それによって、キノコの味わいも違うようだ。だって、原木シイタケより旨いとは言わんが、菌床で育っているとは思えない、実にしっかりした味わいだから。驚きました。

そんな、充実した視察を終えて、みなさんと交流。

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この地域では笹の葉に巻いたちまきがどうやら名物。

そしてもちろんこの地でも出ました、お煮しめ!

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色は濃く見えるが、実に端麗な味わい。素材の味重視の煮染めですな。

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お漬け物ももちろんすべて手造り。

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天ぷらも、買ってきた素材は皆無。

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そんな豊かな食卓を囲ませていただきました。

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みんなでぱちり。どうもごちそうさまでした!ちなみに僕の右となりにはいつもお世話になっている木次乳業の加納さんが。島根にも縁が深くなってきたなぁ。

(続く)