やまけんの出張食い倒れ日記

三重県いなべ市、静かに太い芯をもったイタリアン「トラットリア・トマト」がある。食材の持つ力を信じる人の料理を、驚きつつ愉しんだ。

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三重県での、地域食材お宝探しの当日。前泊した的矢湾から一路、ググッと内陸のいなべ市へと向かう。途中、発酵食品ハンターの山本洋子姐さんをひろって昼食へ。

「地元の食材を使ってくれているイタリアンに行こうと思います」

と県の人達が連れて行ってくれたのが「トマト」という看板。ん?カジュアルレストランだね、と思いつつ入店する。

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それがですねえ、カジュアルレストランみたいな感じじゃなかったんですよ。ビックリ。お店に入ると、落ち着いた感じのマダムが案内してくれる。軽いパスタコースを頼んでいたらしく、おまかせで出てきます。

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とはいえ、ですねえ、そんなに期待をしていませんでした。「Tomato」という名前の郊外型イタリアンと聴いて、そんなに上質なイメージ、しないよね。そう思いつつだったんだけど、これはよい方に裏切られました。

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前菜のサラダ。数種の葉物とトマト、丁寧にオリーブオイルと塩、少量のビネガーが手でまぶされているようだ。ごくごく控えめな下味。けれども、葉を口に運んで訝しく思う。いや、いぶかしくなんていったら失礼か。

「美味しい野菜だ、、、」

イソチオシアネートの辛みが効くべき野菜には効き、苦みを感じるべき野菜には苦みがある。そして全て細胞に水分が湛えられたままの状態で、とても状態がいいのだ。

どうしてなんだろう、そういえばマダムが「自家製の無農薬野菜サラダなんです」と言っていた。けどね、自家製っていったって、全て作らないでしょ?どれが自家製なんですかね。

「あ、オリーブを除いて全部、、、」
(※もしかしたらトマトだけは時期的に購入だったかもしれない。記憶違いでしたらごめんなさい)

え? えええっ?? 本当に!? ちょっと驚いたなぁ、、、少なくともここに5種類の野菜が盛り込まれているわけで、これらをアベレージの品質で作るだけでも相当大変である。いや、料理人がやるのは、という意味ですよ。でもここはそれをやっているのだという。驚きである。

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イタリア風オムレツの卵も地元で素性のわかる養鶏場のもの。上に添えた菜花、市場流通の出荷荷姿とは違う、手折ってきたのがわかるものだ。全体的にとても優しいお味。塩のアタリはギリギリで弱めにしてあって、素材をフィーチャーした味にしたいという思いがメッセージとしてよく伝わってくる。

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さてパスタ。ん?と思うほどにシンプルなオイルベースのパスタだ。濃厚なトマトソースのからまったのを想像していたら、実にふんわりとしていたのでちょっと肩すかし。

しかしですなぁ、これが実に美味しくて驚いてしまったのである!

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麺もまた自家製麺!しかも聴いたら、県産小麦も練り込んだもの(100%ではないけど)で、手打ちにしては腰は十分、よくありがちなモチモチ食感ばかり強いのではなく、パスタとしてのきれをしっかり持った噛み応え。それに、ベーコン、キャベツ、トマトとミニマムな具材だけなのに、実にそれぞれの風味がプンと薫りながら麺に絡んでいる。

美味しいよ、、、これ。 とてもシンプルな作り方のはずなのになんでだろう? 色々考えたけど、これは食材の力なんだろうというほかない。オイルも上品で奥ゆかしく、すべての味付けがドンと主張する一歩手前で引いていて、最終的な味のまとまりも控えめになるはずなのに、押しだしが強い味がするというアンビバレンツ。

美味しいんですよ、マジで。

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これで終了かなと思ってたら、どーんとこゆそうなのが出てきました!

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豚肉ももちろん一般流通品ではなく、地域内の養豚場からのものだという。通常の三元後輩豚だと思うけれども、この辺の業者さんは餌がいいのだろう、臭みもなく旨み十分の美味しい豚肉でした。

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ドルチェは、これまた丁寧に作られたパンナコッタ。

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出てきたコーヒーがまた、一切の酸化臭のしない、実にすっきりしたお味のコーヒーで驚いた。

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ここでシェフご登場。いろいろお話を伺ったんだけど、やっぱりぜーんぶ自分で作ってるひとなのであった!

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「東京で修行をして、ここで店を出したんです。トマトはずっと自分で作っていて、年内でしたらソースに向いたサンマルツァーノがあったんですけれども。この辺でも私しか作っていなかったと思います」

と、なんだかシェフなのか農家なのかわからないゾというくらいの食材へのコミットぶりである!

しかも驚いたんだけど、コーヒーは自家焙煎だという、、、 以下、その証拠写真。

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うーん、、、

この店、価格が若干高いということでちまたでは識られているようだけれども、食べ終わった感覚からするとけっして高くありません。素材の野菜の多くを自家栽培していて、それぞれに仕事がしてあって、素材への愛情と使いこなしも見事。

おしむらくは、この立地と店名、中と外のギャップがすごいということかな。おそらく立地的に、もっと気軽にボリュームのある濃い味のきさくなイタリアンを愉しみたいという人が多いと思う。そんな思いで入ったら、なんだかすごく上品なので驚いた、という人が多いのではないだろうか。

でも、ここは常連さんがかなりいるらしい。ということは、味に関してやはりわかる人には受け入れられているということなのだ。そりゃそうだろう、全体的な味のレベルは高かったです。

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こういう店に会えるのは嬉しいね。また行きたいので、頑張ってくださいネ。