やまけんの出張食い倒れ日記

今夜は最高!久しぶりに地方で予期せぬ旨い店との出会いアリ!島根県は出雲の飲み屋街にて、驚愕のそば・うどん店に行き当たって、心が震える思いがした!

いやああああああ こんな体験久しぶりだ!

今日は朝から出雲に入っていた。明日、講演をすることになっているのだが、せっかくだから前のりして、産地をいろいろ見て欲しいといって下さり、気心も知れた県庁Y氏の手引きで産地を廻った。早めの昼は蕎麦で、いつものごとく僕は釜揚げ蕎麦、割り子そば(一段だけ)、そして牛すじ蕎麦というオリジナルメニューを腹一杯いただいた。

産地ツアー終了後は、以前、木次乳業の佐藤社長に連れて行っていただいた「漁人」にて関係各位と会食。美味しい料理をたらふくいただいた。

みなさんと分かれた後、繁華街をぶらつく。以前、木次乳業の佐藤社長が二軒目に連れて行ってくれた寿司屋に行きたくなって、ふらりと入って地の魚ばかり9貫と巻物一本食べて満足。

また繁華街をホテル方面にあるき、そろそろ帰ろうか、いやもう少し散歩したいと思い、脇道に入った。そうしたら、その店があったのである。

飲み屋街の合間にある小さな店。磨りガラスで中は見えない。どうみても素人の手書きで手打ちそば・うどんと書かれた看板。ゆるいぞ、ゆるい雰囲気だ。でも、なにか匂う。なんだか匂うゾとそこから足が動かなくなった。

うーん、と店先で唸ること3分。まあ、入ってみようじゃないかと思った。昼に食べた蕎麦は、そば粉もその地域で生産されたものだし、それを製粉して蕎麦にして茹でているのも、生産法人の人たち。とっても美味しいものだった。だから、夜に不味い蕎麦にあたったとしても、まあ昼間の旨い蕎麦の記憶で塗り替え可能だと。

磨りガラスの戸を開けると、L字カウンターの狭い店内。初老のご夫婦と、息子さんだろうか、若い青年の三人。客はいない。外には品書きもなかったので、店に入って壁のメニュー短冊をみる。三色そば、五色そばといった感じで並ぶが、「お薦めは特製うどん、天かす入りあたたかいの汁なし」と書かれているのを見て、「あー、終わった」と思った。

だってここそば屋でしょ?それなのにお薦めがうどん、それも汁無し?さぬきうどんの亜流かよ、と思ったわけだ。仕方が無い。無難なのを食べてすぐ出よう。

「お蕎麦で、この辺で普通に食べられてるやつって何ですか?」

「割り子そばか、あったかいのなら釜揚げですね」

と青年が教えてくれる。じゃあ、釜揚げでお願いします。

ちなみに釜揚げそばとは出雲地方独特の食べ方で、茹でたそばがゆで汁ごと丼に入って出てくる。そのどんぶりに直接、そばつゆを注ぎ入れて食べるというもの。こいつが実に旨いのである。なんで関東でもこの食べ方が広まらないのか不思議なくらい。

まあしかしこの店の釜揚げにはぜんぜん期待してなかった。店内の雰囲気も緩い。不潔感はないが、ビシッとした感じは一切無い。みなゆるやかに動いている。おやじさんが切りそろえてあるそばを箱から出して釜に投入。ほどなくしてゆであがり、どんぶりへ。釜からゆで汁つまりそば湯を注ぎ入れる、、、と思ったら、さにあらず。

あれっ?

なんか、別鍋で仕立てていたのか、トロリと濃いそば湯というか、そば粉を溶いて火にかけていたポタージュ状の液体をどんぶりに注いでいる。ええっ そばのゆで汁じゃないの?

「はい、おまちどおさま」

と出てきたそのどんぶりの中は、白濁しとろみのついた濃いそば汁の中にそばが沈み、鬼おろしと青ネギの小口切り、そしてもみ海苔が乗っている。最初からおちょこいっぱいくらいのつゆが入っているが、「足りなかったらお好みで足して下さい」と徳利に入ったつゆが着く。

さっきまでの期待度ゼロだったところから一転、おいなんだよこれはという気分でそばを一口啜る。そのそばにまとわりついてくるのはそば湯というよりそば粉をポタージュ状に溶いたものであるからして、程よいあんばいのつゆとからまって、、、

実に旨い!

これ、そばで蕎麦を食うという感じである。鬼おろしの風味もまた涼やかでよい。海苔もまた、控えめに主張し蕎麦を飽きさせない。

「うーん、、、、、 旨いなぁ」

とおもわず漏らしてしまった。さっきまでのプチガッカリ感は雲散霧消である。

女将さんが「旨いでしょ」という。自分の店の味に確たる自信があるのだろう。

おやじさんは蕎麦を出したらすぐに奥に引っ込んでしまっている。俺は悩んだ。何に悩んだかというと、ここのうどんのことだ。さっき店のお薦めが特製うどんだというのをみて「ケッ」と思ったわけだが、ベーシックな釜揚げがこんなに旨いんだ。もしかしたら、この特製うどんはマジでうまいんじゃないのか?

こういうとき僕の決断は早くて正確である。

「すみません、特製うどん、あったかくてつゆ無しで。」

また店のおやじさんが出てくる。さてどんなうどんなんだろう、さっきの蕎麦みたいに打ってあるやつが出てくるんだろうと思っていたら!

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい! なにそれ!

なんと、小麦粉に水をまわして捏ねて、寝かせて、伸して、一枚になってる麺生地がベロンとでてきた! ええええええええええええええええええええええっ 生地をここで切るの?

だって、そば屋とかうどん屋の、誇らしげにガラス張りで打ってるところ見せるブースとかじゃないぞ、すっげー小さな厨房スペース(おそらく居抜き)の一角で、麺生地を出してきて、打ち粉して、たたんで切り始めたのである! なんだそりゃーーーーー

「こ、ここで麺を切るんですか!?」

「そうよ、うちはお客さんから注文はいってから麺を切るんです」

しかし、、、驚愕はそこでは終わらなかったのである。

切ったうどんを無造作に釜に放り込んだ後、おやじさんが小さなボウルにもったりした濃度で小麦粉を溶き始める。ん? んんんんんんんんんん?

特製うどんは天かす入りと書いてあったけど、もしや、、、

「あの、あの、もしかして天かす揚げたりするんですか?」

「ええそうですよ、うちはお客さんの注文受けてから天かす揚げるんです」

ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

しゅわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ! 揚げ油を熱したところに衣をバラ撒き、天カスが形作られていく!

そして驚く程短時間でゆであがったうどんをどんぶりに盛り、まだしゅわしゅわ言ってる天かすをのせ、おにおろし、ねぎ、のり、そして鶏卵の黄身である。

「お好みでつゆかけて、混ぜてたべて!」

いやもうヤバイっす。うどん麺は薄めの生地を平打ちにしたもの。短時間でゆで上げられる割りに、平たいので食べ応えもある。絶妙に縮れていて、さぬきのブリブリ腰ではなくやんわりした、これも心地よい食感。

「旨いよ!っていうか、目の前でうどん切って、天かす揚げてくれるとは思わなかった!」

「あら、うちは必ずそうだから」

「出雲の店は全部そうなの?」

と尋ねると、ふたりとも「いやいやいや」と首を振る。

「だいたいみんな機械切りでしょ。観光客相手にはそれで売れるからね。でも出雲の地元の人たちはそういう店には行かないよ」

どうやらこのお店、市街地からはなれたところにある自宅に本店があって、昼間はそこで営業し、夜は繁華街であるこの店で営業しているらしい。

「ずっとむかし、もっと目抜き通りで店だしてたんだよね。でも俺が病気になっちゃってさ、店をたたんだんだ。でも、治して10年たったからまた繁華街でやろうって、こないだ店を出したんだよ」

なあるほど、あまりに緩い店の看板や立地の謎が解けた。 それにしても、当初の予想をすべて心地よいほどに裏切ってくれた。

断っておくが、この店が昼間の店に比べて旨いかというと、それはよくわからない。美味しさって絶対的なものではないからだ。けれども、僕はこの30分間を宝物のように思う。そこには素晴らしくエキサイティングでスリリングな体験があったからだ。

いやーーー ホント、感動した。ここまでの驚きに出会ったのは、大阪のインデアンカレーとの出会いぶりかもしれない。

もちろんこれを呼んだみなさんが足を向けたとしても、僕と同じように感動するとは限りません。でも、なかなかここの味は、出雲のどこでも食べられるものではないと思う。

その店の名は、「石臼 一合」。

いや、今日はいい日だった。ごちそうさまでした!

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みよ、この正体不明な佇まい、そしてこの看板!

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白濁したポタージュ状のそば湯で、麺がよく見えない。上に乗っていたトッピングは写真撮る前に溶かしてしまってるのでゴメン。

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うどんを注文するとおやじさん、麺生地を出してきて、その場で切る!

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これが驚愕の、揚げたて天かすだ!

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あなたのそばに そば屋がある (笑)