やまけんの出張食い倒れ日記

香川県にしかできない味わいの牛肉。それが、オリーブオイル粕を一定量給餌した「オリーブ牛」の肉だ。オリーブの樹が産み出す循環が、ヨーロッパにも認められる味になった!その1

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2013年の後半、ひょんなことから、香川県でオリーブ牛の振興に関わることになった。ひょんなこと、というのが本当にひょんな話。香川県庁と県内の牛肉関連の振興会で、オリーブ牛のタイアップ記事を「料理通信」に掲載するという。その記事の執筆というか「旅する人」になって欲しいと頼まれたのだ。

「え、なんで僕?オリーブ牛って黒毛和牛でしょ?僕はどっちかって言うと短角とかあか牛派の人間なんだけどな、、、」

「いやそれが、先方からやまけんさんに頼めないかってことなんです」

え?なんで??ほかに適任者はいるだろうに、、、と不審に思った。黒毛和牛大好きな人は一杯いる。そちらに頼んでもらえればいいのに、と本気で思っていた。

そうしたら今度はその短角牛つながりの岩手県庁・坂田氏からメールが来た。

「やまけんさん、香川県からオリーブ牛の仕事の打診が来てると思います。実はその担当の田中という人は大学で僕のゼミの一期先輩です。性格は、、、私と同じです!」

えっ そうなのか! 坂田さんは岩手県庁の畜産課の中でも短角を愛し、現場を重視する良心的な存在である。そして底抜けに明るい。その明るさがいろいろな意味で救いを産み出す人だ。この人が「同じ性格」というなら、信用するか。そういうことで食べたこともないオリーブ牛の肉を食べに行った。

そして、びっくらこいたのである。オリーブ牛の肉は、黒毛和牛の枠を大きくはみ出した、実にイリーガルな黒毛和牛の肉なのである。

その味わいについてはいずれ詳述するとして、このオリーブ牛の生産者さんたちのWebを僕の写真とテキストで立ち上げることになってしまった。そのテキストを書いているところなんだけど、下書き的にここで素敵な人達の写真をアップしておこうと思う。

■西尾和牛牧場 西尾直一さん

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Nikon D800 AF-S50mmf1.4 f2.5 1/2000

西尾さんはオリーブ牛農家のなかでもトップクラスの生産者さんである、ということを聴いていた。また味のある牛舎を持っておられるということも。期待して観に行ったわけだが、その期待は全く裏切られることがなかった。

コロコロとねこ車で運んできてくれたのは、自家配の飼料である。

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牛でも豚でも鶏でもそうだが、まず自家配でやっている場合、畜産物の味にはかなり特徴が出る。自家配とは自家配合飼料のことで、文字通り自分の家の庭先で飼料を独自に配合するやり方だ。とかくと「それって普通じゃないの?」と思われるかもしれない。けれども、毎日170頭分の牛の餌となれば、肥育期だと一頭あたり10キロ程度になる。つまり1.7トンだ。これを、コーンに麦ふすま、大麦にワラ、といったかんじで何種類も加えて混ぜて、ということをやるのは超大変なのである。

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だから、畜産は飼料会社との結びつきが強い。普通は餌会社が自分のところで混ぜた餌を満載したトレーラーでやってきて、自動給餌機のなかに餌を満タンにして帰って行く。この場合、餌会社が自社オリジナルでブレンドした「配合飼料」であることが普通である。餌のプロが配合するのだから、きっちりと体重が乗っていく配合になっているし、スケールメリットで安くなるのが魅力的なわけである。だから普通の農家は配合飼料を使う。

しかし、西尾さんは自家配を貫くのだ。

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鹿児島の和牛コンサルタントであり獣医氏である松本大策先生に教えてもらったのだが「人間が食べていやーな感じがする餌は、牛も嫌なんだよ」ということ。以来ぼくも必ず餌は食べさせてもらう。西尾さんのところの餌は、フスマから甘い香りがしてとても美味しい。

そして、この西尾家の牛舎が実になんというか、昔ながらの味がある牛舎なのだ!

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そして、極めつけが丁寧なブラッシングである!

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出荷まぎわの肉牛(いい形!)を外に出して、西尾さんが牛の毛並みを整えるための金属製ブラシをあててなで始めるやいなや、この牛ちゃんの様子が変わった!

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「ぶひゃっ ぶふっ ぶししっ」

と意味不明な声を発しつつ、舌をべろんべろんと出しまくるのだ。

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どーですか!?この気持ちよさそうな顔!眼つぶっちゃってるよ!

実を言うとぼくはブラッシングとかビール呑ませるとかって半分意味ないでしょ、と思っていた節があるんだけど、これは撤回します。確実に牛のストレスをなくし、よい影響を与えていると実感した!

そして、仕上げが餌に加えるオリーブオイル粕だ。

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もうお腹がいっぱいになっているはずの牛でも、オリーブ粕をまくとそこだけスゴい勢いで舐めてしまうのだ。どうもオリーブ粕の香気成分が遠くまでとどくらしく、まくとみないきなり寄ってくる。ほんとうに食い込みのよい飼料なのだ!

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次の農家さんのところへ移動しなければならない、、、ということで撮影機材の片付けをしているとき、何気なく聞いた言葉が一番心に残った。

「オリーブ粕を与えることで、確実に味は変わりました。実はわたし、出荷した牛の肉をできるだけ、少しでも自分で食べて味をみるために、買い戻すようにしています。それようの冷蔵庫も買いましたが、もう一杯です(笑)」

素晴らしい!

実は、これをしない肉牛農家さんが非常に多いのだ。流通が複雑で出荷したが最後、自分の牛でなくなるということもあるのだが、自分から出荷した牛の肉は食べないという農家さんも多い。しかしそれでは、自分の飼養管理がどんな味に結実したのかが最後までわからないではないか!だから僕は、自分の牛を食べていない人は信用できない。

西尾さんは信頼に足るオリーブ牛農家さんだ。その彼が、数年前に飼っている全ての牛をオリーブ牛に切り替えた。そこには必ず、理由があるはずなのだ。そして僕は彼のその判断を信じるのである。

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