やまけんの出張食い倒れ日記

クロマチック・ハーモニカの名手トゥーツ・シールマンスを偲びます。高校時代、コピーしようと頑張ったけど全然できなかった超絶技巧、そして親しみやすい音楽は唯一無二です!

トゥーツ・シールマンスが亡くなったという。そうか、しばらく前までまだ生きていたのかと、そっちの方が驚いてしまったが、94歳の大往生。長年お疲れ様でした。

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じつを言うと、僕は高校時代にハーモニカを吹いていた。主にブルースハープで、いまやミュージシャンでありプロデューサーでもある片岡大志のバックで吹いたりもしていた(笑)ハーモニカはもっぱら新宿のマスヤだったかな?の二階にある売場で買っていた。そこにはブルースハープの名メーカーであるホーナー社のモデルがほぼ全部揃っていて、専用の音出し機とでもいうのかな、手動で空気を吹き込みハーモニカを鳴らすやつもあったので、どんな音が出るのか試すことができたのだ。僕の好みは、定番だけどマリンバンドだった。

ブルースハープと呼ばれる掌にはいるサイズのハーモニカは高くても5000円程度で手に入るのだが、その横にはふたまわりほど大きな、金属製のクロマチックハーモニカが並んでいた。クロマチックハーモニカはレバーがついていて、そこを押し込むと半音階を出すことができる、つまり全音階楽器だ。だから、クラシック奏者やジャス奏者などもこれをつかって超絶演奏をすることができる。その、ジャズにおける最高峰の演奏者がトゥーツ・シールマンスだ。(クラシックだとラリー・アドラーという凄腕の人がいた。ポップスだとスティービー・ワンダーが素晴らしい。)

なにしろ、マイルスやビル・エバンス、ジャコ・パストリアスといった伝説の存在たちに起用され、ハーモニカというハンデのある楽器で素晴らしいスイングをし、抜群の存在感を示していた。

僕は楽譜が読めないので(それなのにまあごまかしながら吹いてました)、全音階楽器であるクロマチックハーモニカは吹くのが大変だった。トゥーツの書いた教則本も持ってて、その中にはマイルスの「ソー・ホワット」の譜面とかもあったけど全然吹けねぇ!

けど、一本だけクロマチックを買って持っていた。それが「トゥーツ・シールマンスモデル」という刻印とシリアルナンバーいりのものだ。出たときにすぐ買った。じつは買った後、すぐにもともと欲しかったスーパー64というモデルにすればよかった!と後悔したんだけど、いまとなってはよかった(笑)

彼の演奏のどれを紹介しようかと思ったとき、彼のリーダ作よりも、彼がサイドマンとして入った演奏のほうがよいかなとも思ったりする。そういう存在なのだ。

一番好きなのは、ピアニストのビル・エバンス名義のデュオアルバム「アフィニティ」。冒頭の美しいイントロですぐにやられてしまうこと、間違いなし。

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Bill Evans Toots Thielemans
Warner Bros Mod Afw 1988-09-19

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もう一枚は、やっぱりこれでしょう、超絶ベーシスト・ジャコ・パストリアスの傑作「ワード・オブ・マウス」。

ワード・オブ・マウス
ワード・オブ・マウス ジャコ・パストリアス

ワーナーミュージック・ジャパン 2013-09-24
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二曲目の「スリー・ビューズ・オブ・シークレット」は、まるでトゥーツ・シールマンスのために書かれたのかというような曲で(実際は違うけど)、トゥーツが主旋律をずーっと極上のクロマチックハープで奏で上げていく。アルバム後半ではなんとビートルズのブラックバードを、急速なテンポで歌う。全体的には難解な構成になってるけど、これは名盤です。

いつまでも長生きするおじいちゃんだなぁ、と思っていたけど、お亡くなりになった。こんな、クロマチックハーモニカ一本で渡っていけるミュージシャンは、今後出ないだろうなぁ。ご冥福を祈ります。