いやーこの週末、色んな識者と意見交換をしたのだけれども、朝日新聞もおかしな記事を書くね。明らかに間違っていることが多数!記名記事で、和気真也記者と多賀谷克彦記者の名前が書いてあるが、マズイでしょう、この記事。
下記、いろいろ書くけど、明らかに事実と違うことが記事になっている話、は最後に書いておく。
最初に記事の概略を示す。名古屋のホテルで朝刊サービスでもらった紙面を開くと、表題のような記事が5面に書かれていたのだ。
副題は「農地は貸借『本腰入れにくい』」とある。リードの文章にも「菅内閣の政策課題に、農地法の見直しが浮上してきた」とある。よくある「農地法ががんじがらめで新規参入できない」の話である。
引き合いに出しているのは人材派遣のパソナグループの事業で農業を始めた人の談話。自宅周辺のガラスハウスが放置されているのでやろうとおもったら、農業参入には50アール以上の土地を借りねばならないと言う原則があり、ハウスが14アールだったので「途方に暮れた」そうだ。そこに「道を開いた」のはパソナで、周りの畑とハウスを一緒に借りてくれたので農業ができるようになった、と。
パソナの南部社長も「企業は農地を取得できず、農業生産法人の議決権の過半数を持てないのはおかしい」という。さらに「経営権がもてないので、本腰を入れにくい」と発言しているようだ。
そして菅直人首相は5日のテレビ番組で「もっと規制を緩和する」と発言したそうだ。
さて、何も知らないひとからみればこの記事はそのまんますんなりと、「既存の規制が、意欲的に農業に新規参入しようとする企業や人を不当に阻害している。規制緩和は歓迎」と読むだろう。
ずーっと前からこういう議論はあるけれども、明らかにオカシイ。まずパソナの南部社長は「企業が農地を取得できないのがおかしい」と言っているが、では企業が農地を取得した場合、どんなメリットがあるのですか?ないでしょう、、、何も。現にいま、日本で大規模に米や青果物の生産をしている団体のほとんどが、規模拡大を借地で行っていて、農地は買っていない。つまり、純粋に農業をやりたいという時に、農地が貸借によるものであっても何も足を引っ張るものではない。
先の事例で、ハウスを借りようと思ったけれども、、、というくだりがまたおかしい。
農家認定には50アールの土地が必要だが、借りようとしているハウスは14アールしかなくて「途方に暮れた」という。正直、そんなことで途方に暮れるなら農業やるなよ、と思う。まずそもそもおかしいのだが、露地栽培ではなく施設園芸であれば、50アール以下でも認定されるケースがほとんどだ。それにもし無理なら、何とか頑張って50アール分の資金を捻出して借りることでしょう。10アールあたり年額で10万もしないはず(だと思う)。その金策ができないということであれば、それは単なる準備不足です。
ただし、農家認定に重要なのは農業経験の有無や、実際に経営をしていけるのかという計画があるかということ。その土地の農業委員会はそうした総合的な判断をして認定の可否を決める。この農業委員会は、なかなか新規参入を認めないということは確かだ。けれども、ちゃんと当該地域の農業関係者に根回しをして口添えしてもらえれば、何とか道は開けるはず。その手順をきちんと踏んだのだろうか?怪しいものだ。
極論からいえば、「農家としての認定がなくても農業はできる」なのだから。つまり14アールのハウスを自分で賃料を払って借り受けて、施設園芸してしまえばいい。農家としての税制優遇等は受けられないかもしれないが、それでもやりたいならやればいいではないですか。
で、パソナ南部氏や他産業の連中が言っている「企業が農地を取得したい」の理由は何なのか。推測ですが、それはつまりこの記事でも書いている「農地転用」を企業自身がやりたいからではないだろうか?その点は後段に。
また「議決権を持てないのはおかしい」とも言っている。確かに現状の制度では、株式会社は議決権を1/4しか持てないことになっている。何故か。それは、
「農業法人においては、農業関係者を主体とした経営を維持し、農業関係者以外の者の意思で経営が支配されることのないようにするため、(株式会社等の議決権は)1/4に制限されている」
ということだ。さてここでパソナ南部氏に問いたいのは、じゃああなた方、農外の企業が、出資した農業法人に対して何を議決したいのですか?ということだ。普通、議決権があろうとなかろうと、農業法人の目的は「生産と販売」が円滑に行われるようにするということだろう。それを行うのに過半数の議決権が必要なの?それとも、法人で実務についている農業関係者が望まないことをさせようとしているわけですか?
ご丁寧なことにその横には「農水省はこれ以上の規制緩和に反対」。だがその裏では「農地転用で農地をマンションなどの用途に高く売りたい」と考える農家の思惑がある、とする。つまり農地が流動化しない仕組みなのは、がめつい農家と農業委員会の既得権益を守るためであるという論調だ。
でもねぇ、、、 じゃあ、農外の株式会社に議決権と農地の所有を認めた場合、それで「いいこと」って起こるんでしょうか?僕からみれば、生産組織として前へ進んでいくための推進力になるのではなくて「撤退するときの力」にしかならないと思うんだけど。宅地等に転用可能な土地を持っていれば、いかようにも使えるもんね。
あのねぇ、本当にみんな誤解しているけれども、金にあくどい個人農家が農地を持っているのと、もっと金にあくどい企業が農地を持ってるのとではどちらが危ないと思ってるの?企業の方が断然、危ないでしょう。株式会社とは、定款に則したビジネスで株主の利益のためになしうることを淡々となす主体だ。農業が儲からないとあらば、保有している資産を利益最大化して売却することをなんら妨げるものではない。
じゃあ個人農家はどうか。少なくとも転用期待と呼ばれるものはもっていても、それは彼が抜きうる伝家の宝刀であって、抜くのは最後の最後だ。後がないからね。それに「先祖代々」という(これはウソだけどね)意識や、地域の相互監視の目もある。だから現状、まだ農地がこんなに残っているわけだ。
そして決定打。「海外に出る動き」として、宮崎県の新福青果の新福社長が写真入りで掲載され、なんと「中国沿岸部に50ヘクタールを借りて小松菜やほうれん草の生産を始めた」とある。そして「日本は時代遅れの法律で現代農業をやれと言う。このままだと志のある企業は、農地を確保しやすい海外へ出て行かざるを得ない」と発言した、とのこと。
発言内容がどうかはしらんが、確実なことが一つある。
新福青果は中国沿岸部で50ヘクタールを借りて農業をしてなどいません。
これは各所から確認済みの確定情報。どういう取材してるんだ朝日新聞。裏をとらずにこんなデカイ記事載せるなよ。
実はこの記事が出てから宮崎県内の農業関係者も皆ビックリで、新福さんに問い合わせ殺到。しかし当の新福青果の社長自身は「ん、こんな取材、いつあったっけかなぁ?」と首をかしげているそうだ。つまり、ずいぶん時点が古い。しかもこんな文脈で掲載されると、あたかも「新福社長は既存の日本農業に嫌気がさして、中国進出している」と見えるけれども、そんなに単純な話ではないよ。
この辺は、詳細な情報はちょっと待ってくれと言う筋があるので詳しくは書かないが、とにかく朝日新聞の記事に書いてあることは間違いです。
Don"t Trust Over 30 という言葉はヒッピー達が掲げた「30代以上の奴らの言葉なんて信じるな!」というスローガンだけど、こんにちのマスコミの論調は本当に危険だ。朝日新聞には生活部などに僕が非常に信頼する記者さんがいる。あの日経新聞にだって、素晴らしき論者は居る。のに、こんなことになってしまう。今の日本は経済を復興させるために何でもやるぞ体制になっているからだろうか、必要以上の規制緩和を容認するムードを醸成しようとしている。
とある関係者のため息混じりの言葉。
超超超残念すぎる朝日新聞、私も拝見しました。「企業の農業参入による・・・」の農地法改正部分、パソナやその他、知ったかぶりのエセ専門家が政府に提言し、戦略のない政治家が物事を判断し、阿呆な記者が記事にする、、、一体どうなってしまうのでしょう?私の仕事の専門は農地法ですが、TPPなどと同じで、よく判らない人同士で何もかも決めしまうことに物凄い恐さを覚えます。
「農地が購入できないから本腰入れられない」・・・爆笑でした。
爆笑されてますよ、朝日新聞。今度はちゃんと、まともなことを書いてね。
16:21 追記
いまさっき、朝日ではない某大手紙の記者さんが別件で来社されたので、この記事を読んでもらった。詳しく説明するまもなく、「うーん、、、なんか、よく読むとエピソードと結論が微妙に連関していないような気が、、、」とのこと。やっぱりそうだよね。
数日前に宮崎で朝食時に読んでた日経新聞の社説で、案の定というかやっぱり来たかという論調で「こんな時だから、TPPを推進していこう」と書いていた。タイトルが「経済復興のためにもTPP参加を急げ」である。ここから読める。
「日本は自由貿易の中で生きていく国である。その立場は、震災が起きても変わらない。」
だそうである。それホント?この文章、俺が添削するとしたら、頭に「日経新聞としては」とつけるべきだと思うね。自由貿易を推進してきたことは事実だが、この先も自由貿易体制を進めていくのかどうかということについて、まさに議論が巻き起こっていたのだから。いまは原発推進をどうするかという問題と共に、日本の進むべき方向性を考え直す、もしかしたら最後のチャンスなのかもしれない。そう思う人が、震災を機に増えてきているのをけん制しようとしているように読める。
また、
「財政難の下で震災後の復興に必要な資金を稼ぐためにも、日本の輸出を先細りにしてはならない。日米FTAと同じ効果があるTPPへの参加を、これまで以上に急ぐべきだ。日米の経済連携をテコにすれば、EUとの交渉も進めやすくなる。」
とあるけれども、ここもまるで小学校の生徒に対する「言い聞かせ」のようだ。復校に必要な資金を稼ぐためにもといえば誰もが「うーん仕方がない」と思わざるを得ない。さすが文章のプロである。けれども、その公団で「日米FTAと同じ効果があるTPP」と書いているところがくせ者である。そんな効果、本当にあるの?いや、どこにも示されていないでしょう。これまでもTPP推進派は空気のように「TPPに参加しないと経済が」というが、それは全く立証されていない。
震災以後のジャーナリズムの中でも、独立系としてギラッと光っているザ・ジャーナルではこんな記事が載っている。
■高増明:TPP内閣府試算の罠 ── 菅内閣がひた隠す"不都合な真実"
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/04/tpp_15.html
ありがたいことに無償で読める記事なのでぜひご一読いただきたい。いかにTPP推進派が、あやふやな根拠を元にしているかということがわかると思う。
さて先の日経だが、笑っちゃったのは、いつもの日経的締めくくりとして、「被災した地域の農業も、より強い農業にしていくことができる」的な言い方をしていたことだ。
「大津波に襲われた地域の農業を再建するうえで、農地の集約など生産性を高める仕組みが欠かせない。政策次第で、自由化に耐えられる強い農業を東北に築くことができる。菅政権が設立した復興構想会議は、そのための道筋を議論してほしい。」
これ、本当に無責任な書き方だね。「政策次第で~できる」と書いているのは、いずれ失敗した場合でも「政策が悪かったから実現しなかった」と逃げられる、巧妙な文章だ。第一、最後に「復興構想会議は道筋を示して欲しい」と他力本願である。
農地の集約はある程度は有効だが、TPP推進時に大農業産出国と肩を並べるほどの生産性向上には全くなり得ないことはこれまで何度も書いてきたとおりだ。それでも新聞がこうやって何回も書くと、放射能に対して「直ちに影響はない」と言い続けられたように、なんとなく大丈夫なのかなと思ってしまいそうだ。でもごまかされんぞ。
悲しいのは、さきのザ・ジャーナルの記事にも引用されていたが、僕が大学で授業をきいていた竹中平蔵先生がいまだに「東北の農業を単に復元するのではなく、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)対応型の強い農業にする」などという空想を語っていることである。本気ですか、先生。それって、20年前から言っておられることが一貫しているのはご立派ですが、根本から違っているように思えますが。東北に必要なのは「強い農業」という空論をかざすことではなくて、東北の厳しい風土の中で形成された現時点の農業スタイルを、日本の社会が受け入れることではないだろうか。つまり農業が変わるのではなく、「たべもの」というキーワードを軸に、社会が変わっていくべきなのだと思う。
で、震災があったことでTPP議論がふきとびそうになったけれども、きちんと言うべきことは言っておかねばならない。農文協という出版社からでている「季刊 地域」という雑誌でTPP反対の議論を、僕も書いている。
■http://kikanchiiki.net/contents/?p=624
僕は7つの疑問というテーマの中で、「農業」と「たべもの」の二編を執筆した。


そっちも読んで欲しいが、個人的には、経産省の役人でありながら、現在は京都大学大学院に助教として出向し、切れ味鋭いTPP反対論を展開する中野剛志さんの記事を読んで欲しい。
| 季刊地域No.05・2011年春号 総力特集 TPPでどうなる日本? (キカンチイキ) | |
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なんにしてもこれだけは言える。もしTPP参加して国内農業が弱体化していたら、今回の震災で東北沿岸部を中心とした被災による影響で、食料生産には大きな打撃を被っていただろう。ところが、福島・宮城・岩手でコメの作付けができない地域が相当あるにも関わらず、今年度のコメの需給は逼迫しない見通しだ。食料生産には冗長性が必要なのである。そこを「効率化」などしてはいけないのである。
節電で暗くなった街、エスカレーターの動かない階段を登りながら最近思うのは、「だいぶ慣れたな。だって、昔はこれが当たり前だったもんな」ということだ。家庭内でも、いままではいつも点けっぱなしにしていた電気製品のスイッチやコンセントをこまめに切るようになった。そうして思うのは、意図的に生活レベルを落とすって、意外にできるじゃん、ということだ。
消費経済の推進者は「昔の生活レベルに戻れますか?」と問うてきた。残念ながら現在の生活レベルが満たされた中では選択肢はないようだった。けれども、こうして震災によって強制的に生活レベルと落とされた時、多くの人が「まあこれでもいいや」と思ったのではないだろうか。つまり、国民の選択で、過剰な生活レベルと落とすことは出来ないわけではないということである。
その感覚をまだ覚えている間に、きっちりとこの国の方向性を考え直していかなければならないと思う。原発についても、食べ物についても。国のたべもののあり方を大きく変えてしまうようなTPPという枠組みへの参加を、6月までにまとめるなんて出来るはずがない。やめましょう。
そう言うのは異端だろうか?そうは思わない。大義はこちらにあると僕は信ずる。
宮崎に向かう羽田空港にいます。ここ数日激務でブログろくに書けません、ゴメンナサイ。
さて折に触れ、現場の観点から鋭いコメントをいただく農業生産者さん(メイン品目はホウレンソウ)から下記のようなメールが。私もこれまで書いてきたことを現場視点から補強してくれているので、引用します。
日経新聞HPに注目してます。
「日経新聞ホームページ 創論・時論 TPP参加、影響は アンケート」の途中経過をチェックしてます。 農業強化策についての設問で7割近くの人が「規制緩和を通じて企業などの農業参入をすすめる」を選んでます。おそらく規制緩和とは企業が農地を所有することだと思います。私は試算などしなくても、企業が水田を所有できたとしても稲作経営が成り立たないとわかります。他産業に比較すると、投資額に対する生産額・販売額があまりにも低いからです。労働時間を平準化できない等々、雇用も問題山積です。
さて日経の記者(と読者)が掛け算もできないほど数字に弱いなどと言うことはありえないですし、稲作経営の基本的データを農水省ホームページで見ることもできます。それにも関わらず企業が稲作経営できると考えているとしたら、世の中にはとんでもない誤解があるような気がします。
もしこの誤解があるとしたら、その原因はなんだろうかと考えました。農家や農水省、農協、農業ジャーナリスト、学者その他農業関係者はこのとんでもない誤解を放置してきたことが、一番の原因だと私は思います。世の中には教えてもらわないと理解できないことはいっぱいありますから。
たぶん誰一人として日経の記者に「もし企業が100億円投資して、まとまった水田を購入し、稲作経営したらどれほど利益がでますか?」とたずねたことがなかったのです。畜産と園芸作物では企業が大規模経営をしていることも、あまり知られていないのかもしれません。私は「エア・ウォーター農園」が成功するか時々ネットでチェックしてます。過去に2回も失敗した後のチャレンジですから、あらゆる工夫をしていると期待してます。
この中で最も重要と僕が思う部分はここだ。
他産業に比較すると、投資額に対する生産額・販売額があまりにも低い
これまで著書にも書いてきたし、言葉をかえて何度も言っていることだけれども、農産物の価格は安すぎる。それは、「市場原理のなかで公正に決められた価格」という枠組みから逸脱した価格になっているのだ。コスト削減をしろとか、中間マージンを削減しろとかいわれるが、そんなことをしても追いつかないほどにアウトプットの価格が安すぎる。それでも現在の農家がやっていけているのは、地方の生活コストが安く住むことや、兼業で生計を立てることができるからである。「兼業農家はけしからん」という何も考えないやつがいるが、兼業農家がすべて農業を捨てたら、この国の食べ物は一気に半減(どころではないとおもうが)するだろう。
ともあれ、企業が参入すれば効率的な農業が実現され、農業が活性化するという盲目的な言説は、まやかしでしかない。しかし、日経新聞はそんな言説を胸を張って主張する。日経新聞の中でも、第一次産業に造詣の深い記者の知人が「あれは本当におかしい」と眉をひそめている内容だが、そういう良識派が書く余地は、いまの日経にはないらしい。
ということで、宮崎へ飛んできます。