March 18, 2004

農薬について書いておこう。

 とある仕事で消費者に対するアンケート調査を実施した。僕の現在の専門である、食品のトレーサビリティに関する意識調査だ。質問項目の軸となすのは、

「トレーサビリティシステムの中で、どのような情報が公開されることが望ましいか」

ということだ。そして消費者の回答は、集計するまでもなく大筋がわかる。7割以上が「農薬情報」を答えるのだ。果たして今回もその通りだった。青果物の安全性という問題に対して、消費者の関心はほとんどが農薬に集中する。この傾向は10年以上前から同じである。「関心のある情報」を問うと、例外なく農薬という答えが返ってくるのだ。

 ただ、農業生産・流通業界からみると、いささかこの傾向には首をかしげたくなることもある。農薬の危険性と安全性は、非常に複雑な問題だ。大多数の消費者はそれをあまり理解していないと思うのだが、それなのに「農薬の情報を公開して欲しい」というのはなぜなのだろうかと言うわけだ。

 僕の職業的私見としては、消費者が知りたいのは「農薬に関する情報」という漠たるものではなく「残留農薬の危険性があるかどうか」だと思う。2年半ほど前から、無登録農薬問題の事件などもあって、農薬の使用情報を公開する事例が増えている。その中には、使用した農薬の散布歴や希釈倍率まで出しているところもあるわけだが、20回くらい農薬をかけているリストをみてギョッとする消費者も多いという、笑えない話がある。この辺について、正しい理解をして欲しいこともあり、農薬の問題について少々書いてみたい。

 まずこの国のシステムとして、農薬は全て国によって認可・登録されなければ販売することも使用することもできない。その認可の内容の多くを占めるのが毒性の試験だ。農薬とは「薬」と書くものの、その実態は「毒」である。そして、その毒が何に対してどれくらい効くのかというのが「毒性」である。毒にもいろいろあって、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、土壌消毒剤などがある。実はこれらは成分も目的も、そして強さも全く違うものなのだ。この毒性を評価するために、とてつもなく厳密に(と僕には見える)様々な試験が課される。その毒性評価試験の方法は、政府外郭団体のWebに掲載されているものを一度プリントアウトしようと試みたことがあるのだが、600枚くらいのボリュームがあることがわかり、断念したことがある。ちなみにこの試験の費用はその農薬を登録する企業が持たなければならないのだが、だいたい一つの農薬を世に送り出すのに1億円程度はかかると言われている

 農薬として認可される際、農薬取締法という法律によって、使用基準が定められる。ここでは主に使用回数と希釈倍率、そして収穫の何日前まで使用していいか、が規定される。つまり、この基準に従って利用すれば、この国で登録・認可されている農薬は危険性はないと判断されているわけだ。まず、この点が農薬についての第一のポイントだ。

 では、その判断の基になっているのはどういうものだろうか、専門用語を使わずに説明するが、まず人間がその成分(毒)を摂取した時に、影響が出ないとされる値というものが求められる。これはラットや魚などの生命をいただきながら実験を重ね、試算された値だ。この値を、さらに安全性を高めるために100分の1にした値が、「人間が一日あたり摂取しても問題ないとされる値」となる。先の農薬登録時の試験では、作物が人間の口に入るタイミングでこの値を下回ることが要求されるのである。そこで、「その農薬をかけてよい回数」と「かけてよい濃度」が決まる。これが第二のポイントだ。

 さてこのようにして登録・認可された農薬を買った農家は、その基準を守っていれば「安全です」と言って良いことになっている。そう、この国のシステムでは、上記手続きを踏んでいる限りにおいては農薬を「安全なもの」としているのである。ここで多くの消費者意識との相違が出てくる。消費者からみれば、どんな農薬も使って欲しくないと思っている。農薬イコール悪、ということだ。しかし、国の判断としては、基準に合致している限り悪ではない、と言っている。このギャップが、農薬に関する問題がいつまでも尾を引きずる原因だと思う。

 もう一つ農薬の使用について難しいのは、作物というのはすべて栽培方法や期間が違うということだ。例えばほうれん草は種をまいてから1ヶ月足らずで収穫できるが、きゅうりは3ヶ月以上植えて収穫を続ける。当然、トータルで使用する農薬の量は変わる。しかし農薬の使用歴を表示することになると「ほうれん草は2回、きゅうりは15回。ほうれん草のほうが安全なんじゃない?」と理解してしまう消費者の方が圧倒的に多いのが事実なのだ。米なんぞは春に田植えをして秋に収穫する。回数が多くなっても仕方がない側面があるのだ。
(続く)

Posted by yamaken at March 18, 2004 11:04 PM
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?