March 18, 2004

農薬について書いておこう。 その2

(その1より続く)

 ところで根本的に、「農薬を使わないと農産物は収穫できないの?」という問いかけがあるだろう。僕の結論を言わせてもらうとこうなる。

「農薬を使わない農産物生産は可能だが、農薬を使用するよりもコストがかかる。」

 どんな農家でも、喜んで農薬を使っているわけではないのだ。だって農薬を散布するのは農家自身だ。毒を浴びているのだ。僕の友人の農家、とくに花の生産農家は、ハウスのような密閉空間で農薬を散布し、頭がくらくらして倒れた経験を持つ人が多い。消費者の口に入る際には毒性が消えていても、散布している人は確実に毒に被爆しているのだ。それでも使うのは、生産者にとってみれば農業はビジネスだからだ。生産効率と品質のかねあいの中で、農薬を使うシステムが構築されてきたのが日本農業だ。その背景には、生産効率だけではなく、安いものを求める消費ニーズがあることも忘れてはならない。みな、責任を負っているのだ。


 長々と農薬とその無理解について説明をしたが、とどのつまり僕は、農薬について自分で勉強もせずに、とにかく安全安心を求める人たちが少々腹立たしいのだ。何も知らずに農薬を悪と決めつけて忌避する態度は僕には受け入れられない。農薬情報を公開して欲しいというが、判断する指標を自分の中に持っているのか?

「じゃあ、誰にでもわかるように残留農薬検査をして、その結果を公開して欲しい。」

 了解した。ただし残留農薬検査をするには、一つの農薬を分析するのに2万円程度かかる。例えば15種類の農薬残留検査を行うと、30万円かかることになる。この金額は販売する際に上乗せることになるが、いいのだろうか?それともそのコスト分は提供する側が泣け、といえるのだろうか?また、皆さんが求める安心性を担保するために、どれくらいの厳密度で分析すればいいのだろう?つまり、一枚の畑の作物のうちどれくらいを分析にかければよいのか?分析に回したサンプルは食べることはできないわけだから、分析したもの以外を食べていただくことになるのだ。それでも安心していただけるのですか、、、?

 このように、分析にも情報公開にもコストがかかる。コストを負担しているのは現状、生産・流通業者だ。
では、そのコストに見合う価格で買われているか?しつこいようだが買われていない。だから今、この国の第一次産業は喘いでいる。よく農林水産業への補助金が問題になる。農業者に手厚く補助しすぎではないか、ということだ。では補助金をカットしたらどうなるだろうか?かなりの農業者がやっていけなくなり、離農するだろう。そして、前回も書いたように、日本から食べ物がなくなっていくのだ。

 それがいやならば、自分が求める安全・安心の度合いを見極め、それに見合った食べ物を、いくらで買いたいのかを試算してみてほしい。そして、店頭にいって、欲しい商材があるかどうか。情報公開の度合いがどうか。自分がそれに安心するか、そして価格的にその安心性とのバランスがとれているかを見て欲しい。価格や情報公開度、安心度が自分のニーズにマッチしていなかったら、どこに問題があるのかを考えて欲しい。その上で不満があるのであれば、それを堂々と述べるべきだ。そこまでされたら、生産・流通業者も謹んで、本気で対応させていただくと言うだろう。僕でも「そういうニーズであれば、こういう生産者や流通団体が居て、どれくらいの価格でどういうものを提供できる」とアドバイスは可能だ。とにかく自分が何を食べるかを決めるのは自分自身だ。口に入れるか入れないかという指標は、自分で決めて欲しい。農薬がかかっているのが絶対にいやだという人は、有機栽培農産物や特別栽培農産物を購入すればよいのだ。それらは農薬使用の農産物より高いことが多いが、農薬を使わないことにより手間がかかっているのだから当たり前の話だ。

 さて最後に、農薬に対する僕のスタンスを表明しよう。ここまで書いてきた内容からするとびっくりされるかもしれないが、、、

 僕は大学・大学院の6年間で50品目程度の野菜を作ってきたが、農薬を使用したことは一度もない(僕の畑をみていた用務員さんが虫害を心配して勝手に殺虫剤をかけてしまったことはある)。そしてこれからも農薬を使用するつもりはない。僕が農業に初めて出会い、傾倒するきっかけとなった農園が、最初から無化学肥料・無農薬の農業を行っていたからだ。使わなくても野菜を育てることができる環境にいる限りは使わない。だって毒だもん。毒を浴びるのはいやだ。自分のことと、いずれ自分の子供ができた時のことを考えてしまう。
 ただし、環境要因で害虫発生度が高かったり、この作物を収穫できなければ飢え死にする、、、と言う場合は、躊躇無く使うだろう。生きるためだからだ。もちろん飢える心配がないのであれば、作物が全滅しようとなんだろうと使う気はない。

 ちなみに世の中には訳知り顔で「農薬を使わずに農業なんてできない」という輩がいるが、それこそ無理解というものだ。農薬や化学肥料がこれほど使用されるようになったのは大戦後の話だ。ほんの100年前までは、化学合成農薬など使われていなかったのだ。農薬を使わなくても生産はできる。くどいようだが生産効率が落ちるだけだ。このように化学合成農薬や化学肥料を可能な限り使用しないというポリシーを持った生産者や流通業者もたくさんいらっしゃるし、僕の仕事で関わりを持つ多数はそういう人たちだ。
 ただし「農業」という言葉は、「農」を「業(なりわい」とするという意味だ。生きるための原資を得ることができなければ業ではない。今の流通システムでは、圧倒的に農薬を使った農産物しか「売れない」ようになっている。その辺はまたいずれ述べるが、だから使わざるを得ない側面を、僕は否定できないのだ。

 では僕は農薬を使った農産物を口にしないか、というと、全くそんなことはない。生産者さんからいただく野菜も食べれば、スーパー、八百屋で普通に野菜を買っている。それは「安全だと思うから」ではない。前にも書いたが、食物が安全かどうかは究極的にはわからない。体質や摂取環境により条件が変わるからだ。そんなことより、安全を担保するのは、最終的には食品を食べる人間自身の「健康力」の問題だと思うからなのだ。人間の身体には、毒を排出するあるいは無毒化するシステムが備わっていると考える。自分なりにその能力に磨きをかけるしかない、と僕は思っている。そのための努力はしているつもりだ。この考え方を他人にも押しつけるつもりはない。あくまで僕はそう自分に課しているというだけのことだ。だから、勝手ながらこの考えについての批判はいっさい受けないつもりだ。
 それに、、、農薬を使っていようがなんだろうが、食べ物はありがたいものだ。美味しくなくても、ありがたいものだ。僕は他方で、出張食い倒れ日記などという、食べ物に対して無礼千万なblogを書いてはいるが、それでもまずい食事をした時、それを出した店を恨みはするが、食べ物を恨みはしない。どんなにまずくても僕はご飯を残すことはない。それをやったらバチが当たると思う。

、、、ということを書いて、一時間半が経った。6時20分発の新幹線に乗って、現在朝の8時。広島つけ麺の夢を見ながら眠ることとしたい。

Posted by yamaken at March 18, 2004 11:05 PM
コメント

山本さん初めまして。私帯広インディアンのファンで検索したところこのHPに辿り着いて、食・農について語られている山本さんにとても感銘を受けました。私は十勝の更別村という村で農家をやっている者です。高卒で家に就農して六年目になる若僧ですが、先日、農協青年部の総会で何回も「トレーサビリティ」という文字が出てきて、???モードになりました。文章の内容から推測して何となくはわかりましたが、いままでなんとなくそういう形があったものが、くくられて単語に出たことにより、やはりこれから重要になってくる問題いやチャンスだなとおもいました。

Posted by: 十勝やっち at March 25, 2004 08:58 AM

十勝やっちさん:
 なんと更別ですか!私の親友が牛飼い(酪農)です。森田英樹というのですが知りませんか?
 帯広インデアンは大好きっす、、、
それはともかくトレーサビリティについては私の著書を是非お読みくださいな。食い倒れ日記の左側のプロフィールの中に紹介してますわ。
 今度北海道いったらメシ食いましょう!

Posted by: やまけん at March 25, 2004 09:04 AM

ところで、農薬のことで書き込みしようと思います。私の村では農業が中心の村であり、農家一戸個数平均作付け面積が40ha超と日本でも最大級の大規模農業地帯です。私の家も50ha位作付けしており、やはり農薬は欠かせない資材ではあります。作物は馬鈴薯・甜菜・小豆・手亡・小麦を作付けしてます
近年、減農薬といわれる手法が大事な時代となっており、とくに馬鈴薯の一部(生食)では枯調剤を使わずチョッパーによる茎葉処理や生育期の防除回数を減らす技術も農協のもと実行しています。私はこれから全部やっていくことになることだなとおもっています。
しかし、近年馬鈴薯栽培体型を変える試みがおしすすめられ、矛盾なことがおこりはじめています。
それは「ヨーロッパ式」の栽培です。日本では整地した畑に種芋を植え、生育に合わせカルチ(除草機)をかけながら土を盛り、倍土に至ります。しかしヨーロッパ式は種芋を植えてすぐに倍土を作り、栽培します。たしかに畑を踏まない分収穫時期の泥は少なく芋も変形は少なくなるのですが、結果最後まで除草機はいれられず、草は初期段階でいっぱいになるのです。ということは、除草剤を多くかけるという失敗になるのです。
最近でも導入してる農家は多くなりましたが、私と父は考えました。「カルチの回数を増やせば除草剤の回数が減らせる!」平均三回やっていたカルチの量五回に増やし、除草剤は一回減らし、結果除草剤10万分節約し成功しました。労働力はプランターに深耕爪をつけそこをカルチの爪がなぞることにより簡単&速いによりカバーされました。(想像つきます(汗)?)来年度はトラクタタイヤを一番細くして土の硬化を防ぐことにチャレンジしていこうとおもってます。
つまり、機械の利用の仕方次第で除草剤や労力は減らせるということです。

Posted by: 十勝やっち at March 25, 2004 10:04 AM

マジっすか!汗)調べたとことろ英樹さんはいないんですが、森田洋樹さんなら2km先の近くにいます。35歳くらいの方で、場所は近いけどちょっと面識は・・・・

Posted by: 十勝やっち at March 25, 2004 10:22 AM

やっちさん、ごめん、その洋樹です!私の友人ですよ!もしも会うことがあったらヤマケンと言ってみてください。学生のころ、二人してヤンマーの学生懸賞論文で優勝しました。同率一位で、二人が優勝したんです。仲間なんです。

Posted by: やまけん at March 25, 2004 01:13 PM

ちなみに
カルチ活用による除草剤散布回数の削減、お見事ですな。ヨーロッパ式輪作体系は、北海道でも難しいでしょう。やはり湿度が違うと思います。それはいいんですが、「インカの目覚め」作ってたら分けてください。

Posted by: やまけん at March 25, 2004 01:21 PM

インカの目覚めですか〜。弟が種を入手できればいくらでも作る場所はあります。収穫時期などの栽培体型がわかれば、似た芋のかわりに栽培しますね。ほかにもとうややインカパープル・インカレッドなどいろいろ作って食べ比べしてみたいですね!

Posted by: 十勝やっち at March 26, 2004 10:14 AM

最近読ませていただくようになったので亀レスになります
けども。
私兵庫県出身、大阪府在住で、都会の農学部の出身で
あります。
青果物の収穫後の劣化生理というのがテーマで
学部の時は高級住宅街のキャンパスの中で、50坪位の畑で
自分の実験に使うトマト2000本を栽培してました。
でもって毎日、どの花が開花したか記録してました。
(かなり気が遠くなる作業でありました。)
もちろん、貧乏学生の当時の昼飯はトマト。
大学院では桃に対象を替えました。

それで嫌になったわけではありませんが現在の仕事は
全然学校での専門とは関係ないことをやっております。

農薬は、栽培中だけでなく、収穫後にも使用するものが
ありますが、これは一般の方はご存知ないのだけどかなり
問題あるものであります。
品質保持には相当有効ですけどもね。

農薬についての意見は、やまけんさんと全く同じです。
微妙な相違点すらない。(というのは少々気持悪いですが(^_^;))

Posted by: いわ at May 17, 2004 01:45 AM

いわさん:
 農学部出身なんですね!トマト2000本は難儀やなぁ。
 農薬について同意見は心強いです。

Posted by: やまけん at May 19, 2004 03:17 AM

初めてメールします。やまけんさんの意見大変興味を持つと同時に、共感します。私は薬学出身で、専攻が分析化学、しかも学生時代研究していたのが、残留農薬の分析と解析でした。やまけんさんが言うとおり、一つの農薬の分析には時間とコストが掛かります。特にコスト面から考えると、数種類の農薬を分析し、その分を価格にフィードバックするとなると、農家はやっていけなくなると思います。低価格でしかも口にしてもすべて安全という理想は分かりますが、もっと実態を知って欲しいですね。

Posted by: やっさん at July 5, 2004 02:12 PM

やっさん:
 コメントありがとうございました。薬学ですか!それは是非色々教えていただきたいものです。
 最近は残留農薬の分析も価格がだいぶこなれてきたり、多成分一斉分析がメジャーになってきましたが、それでもコストがかかることは間違いありません。消費者の理解は必要ですね。専門家のお立場からまた色々教えてくださいね。

Posted by: やまけん at July 5, 2004 10:28 PM

そういえば残農薬の分析についてなんですが、先日十勝で分析をしている研究所に視察してきました。
そこではものすごく高い機械が鎮座しており感心ていたところ、「ここでは野菜や作物を五件の農家さんの物を混ぜて調べ、基準より高い結果になったらその出た五件の農家の物を一個一個調べることにより、コストを下げています」と笑顔で話していたのです。
おかしくないですか?
ではもし一件の農家が基準を超えていたとしても、五件一緒にしたら平均値になってしまうので大丈夫といっているのと同じなのです。
だからといって一つずつ調べていてはコストと時間がかかるのでなにもいえませんよね。しかし消費者の目から見ればそれは安心できるとはいえないはず。
だからトレーサビリティーは消費者の信頼を勝ち取るための大事な手法なんですね。ただ消費者が生産者の顔を見るのも大事ですが、消費者の顔を見ながら作れば自然と良い物を作ろうとがんばれるはず!
消費者との交流も大事にしたいですね。

Posted by: 十勝やっち at July 26, 2004 01:17 PM

以前コメントしたやっさんです。最近は「俺と畑−」の更新がなく寂しいですね。
今日はぜひヤマケンさんのコメントを聞きたいと思います。
私は今漢方専門の薬局を経営しています。漢方薬といっても様々ですが、私の店は薬草を煎じて飲んでもらうタイプの薬局です。去年でしたか、農薬法の改正が行われましたが、残留が認められない農薬の使用に関しても規制が行われました。
毎日口にする野菜に対しては消費者である我々が選ぶことが出来ますが、漢方薬に使われる生薬に関しては店舗のサイドで選ばないといけません。薬草に関しても野菜の栽培と同様の農薬の規制が発生します。そうなると実際薬草を栽培する農家の方は、消費量の多い野菜類は栽培しても、消費量の少ない、しかも規制がかかってくる面倒な薬草の栽培が減少してくるようになってきました。そうすると国内で安全性が高く、しかも安定供給してくれる農家がいなくなってきています。薬草に関しては圧倒的に海外からの、もっと言えば中国からの輸入が多いのが現実です。しかし事残留農薬に対しては中国はずさんな面は否定できません。確かに価格的には安いのですが、安全性に関しては不安の部分が多くなります。
誰しもが健康のため新鮮で安全性の高い野菜を求めるならば、健康のための薬草もより安全性の高い国内栽培のものを使用したいと思っています。しかし供給してくれる農家の方が消極的になるような農薬改正法では・・・と感じてしまいます。
上手く説明できなかったのですが、ヤマケンさんはどのように思いますか?長くなってすみません。

Posted by: やっさん at July 22, 2005 02:24 PM
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