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2005年01月30日

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記・パスクワリーノの世界を満喫する~農場編

今回の旅で、前半の最大のキーポイントは間違いなくパスクワリーノという人にあると言える!今年65歳くらいになるはずの彼は、凄まじいパワーとテンションで喋りまくり、人をからかい、無茶苦茶な運転をし、そして抱擁するのだ。僕からみたら太ったMr.ビーンという感じなのだけど、一方で愛さずにはいられないチャーミングなオッサンだ。

「大変なんだよ、彼と付き合うのは、、、」

と苦笑いをしながら重シェフが言う。

「だけど、人脈だけがものを言うシチリアで、彼のネットワークはとにかくすごいんだ。どこに行っても彼の友達がいる。僕なんか、ビザを獲るのが難しいこの国で、一時シチリア人だったんだよ!彼が奔走して、市民証をとってくれたんだ。それをみて、イタリア人の友人が驚いてたくらいだよ。」

このように、超世話好きで、人を自分の世界に引きずり込まなければ気が済まないパスクワリーノの世界は、存分に発揮され続けるのだ。

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パスクワリーノの別荘はイオニア海に面した別荘地にある。


「イタリア人は夏のバカンスが3ヶ月もあるからね、そうなったらこっちに来て、海で泳いで飯を食って騒ぐって生活をずーっとしてるんだよ。俺なんか気が狂っちゃうけどね。彼らはそれが大好きなんだなぁ。」

と、エスプレッソを煎れながら重ちゃんが言う。

エスプレッソといえば、イタリアのエスプレッソは反則だ!バールとよばれる店でのめるエスプレッソは、マシンの蒸気圧が違うのか、日本で飲むそれとは全くの別物なのだ。デミタスにほんの少し入った泡だった液体を口に含むと、トロリと芳醇な香りの玉が弾ける!コーヒーのそのまたエッセンスを飲んでいるようで、一瞬にして気分がリセットされる。

「一日に5~6回くらいは飲んじゃうよね。さっとバールに入って『ウン・カッフェー!』といって、友達と喋りながらグイッと飲んで、それで出る。1ユーロに満たない金額で飲めるから、一日にそれを何回も繰り返すんだよ。」

無論、家庭ではマシンを買えないから、簡易版のエスプレッソマシンになるけど、それでも旨いことにはかわりがない。

パスクワリーノの別荘のテーブルに束ねてあった写真に、重ちゃんがシチリアで修行している頃の一枚があった。若い!

一息入れていると、ヒュー、、、ドンっ!と車が止まる音がし、庭先でけたたましく叫びながら、パスクワリーノが登場した。

「どうだお前達、いい夜だったか!」(←想像)

ちなみにパスクワリーノが首にかけている赤い眼鏡は、なぜか郵便貯金のマークの入った老眼鏡だ。どうやって手に入れたんだろう、、、?

「お前らとにかく用意しろ!行くぞ!」(←想像)


車に乗ると、コバに対しちょっかいを出しまくっているパスクワリーノ。実は以前、パスクワリーノを日本で呼んで、無二路でコバはフェアをやったことがあるらしいのだが、その時に彼の飯を作っていたのがコバだったのだ。なんとパスクワリーノの好みは「カルボナーラ!」だそうで、「今日はパンチェッタを少しスモークしたのをいれてくれ!」などと注文をつけて毎日毎日食べていたらしい。そしてパスタを食べ終わった後に、小さな声で少しだけ恥ずかしそうに「クレームカラメル、、、(←プリンのことだ)」と申告し、コバが持ってくると、嬉しそうにウインクをしていたそうだ。ということで、パスクワリーノ担当はコバに決まっているのである。

今回、シチリアの畑をみたいと重ちゃんにお願いをしていた。シラクーサは、トマトで有名なパッキーノがあったりと、農業の盛んな地域だ。アランチャ(オレンジ)やリモーネ(レモン)の果樹園は道沿いに延々と連なっていて、たわわに実がついている。

リモーネ!と叫ぶと、パスクワリーノが車を止め、果樹園に勝手に入っていった。「おいおい、いいのかよ、、、」

全然お構いなく中に入っていき、リモーネをもぎ取ると、持っていたナイフで刃を入れる。それだけで果汁がジュルっと出てきた!

「喰ってみろ!」(←想像)

というので囓ってみると、、、なんだよこれは、香りが芳醇!
カリフォルニアから入ってくるレモンとは全く違う!

まあ要するに、樹の上で熟しているか、輸送途中に色だけ熟させているかの違いだ。はっきり言って次元が違う、、、

周りの畑の土壌をみると、どちらかというと日本の黒ボクに近い性質にみえる。ご覧の通り有機物や石がゴロゴロと入っている。日本の農家さんでは嫌われる光景だが、実はこの石の混入が、ミネラルを補給する役割を果たしているという話がある。

「なんだかパスクワリーノが、親戚の果樹園に連れてってくれるみたいだぜ。」

おお!それはすごく嬉しい!
イタリアに行ったことがある人は必ずといっていいほど、「野菜が美味しい!」と言う。ヨーロッパは土が日本より全般的に痩せているはずなので、その分野菜の個性が強く出るはずだ。けれどもホントにそんなに旨いの?という疑問があったので、とにかく確かめたかったのである。先ほどのリモーネの一事をみると、確かに日本で食べられるものと比べると段違いに旨い!樹上で完熟しているということに加えて、先に述べたような土質の要件があるのではないか。確認してみたい、、、

パスクワリーノが車を90度旋回させて、金網で囲われた大きな敷地に入るゲートにつける。インターホンのようなものを押すと、ゲートが開いた。その中は大型のビニールハウスが数棟建ち並び、奥に選果場が2棟と事務棟が建つ、JAのような出荷組合があった。

パスクワリーノが作業員に話しかけている間、僕らもにこやかに「ボンジョルノ!」と挨拶をまき散らす。重ちゃんに習った重要なことがあって、それは「イタリアでは、挨拶をしない人は変な眼で見られる」ということだ。

「店に入った時でも、ちゃんと挨拶をすること。誰に対してもそうしないと、礼儀違反だからね。こちらが客でも、何かしてもらったらグラッチェと御礼をいうのも重要。大人の社会なんだよ!」

とのことだ。確かに「ボンジョルノ」「ボナセーラ」と声をかけると、いかめしい顔をしたオッサンでも何でも、返事を返してくれる。これは気持ちが良いものだ!


さて選果場の中では、アランチャ(オレンジ)とリモーネの選果ラインが廻っていた。



オレンジはタロッコという品種らしく、割ると果肉の所々に赤いまだら模様が入っている。最盛期はもう少し後らしいが、そうなるとほぼ真っ赤になるらしい。

おっさんが「これ食いな」という感じで持ってきてくれたオレンジにかぶりつく。

ぐおおおおおおおおおおおおお 旨い!

やられた、、、脳天にアドレナリンが噴出する旨さである、、、
日本で食べている輸入オレンジには含有されていない、第三の成分があるとしか思えない素晴らしい味だ!香りとコクの奥行きが深く、味の世界にもう一つの次元が増えてしまったかのような味である!レモンとオレンジに関しては完全に屈するほか無い。

「モルト・ヴォーノ!」

と叫ぶとオッサンがニヤッと笑う。

「日本から来たって?」(←想像)と、背の高い、町中であったらあまり友達になりたくないなというようなヤツが現れる。パスクワリーノの親戚で、この農場の経営者の息子らしい。パスクワリーノが、ぼくがトマトに関心があるということを伝えてくれ、農場を見せてくれるという。本当にこっちではコネだけがものをいう世界だ。知ってるヤツの頼みは訊く、という姿勢が徹底している。


さて車で少し走ったところにトマトのハウスがあった。規模的には日本より少し大きいくらいだが、まとまって建っているところをみると、こちらでは零細農家が小さな畑を持っているという日本式ではなく、富裕な生産者が土地を大きく所有していて、労働者を雇用して生産を管理するというスタイルなのではないかと推測した。今後日本でも増えてくるべきスタイルだ。

ハウスに入ると、見慣れたトマト栽培の光景が広がっている。生っているのはいわゆる大玉トマトだ。

もいで食べさせてもらうと、これもまた味が濃い。トマトについては一応本業として取り扱いをしていたのできっちりとみたのだが、あまり雨が降らないためか水分含有量が低く、瑞々しさよりも濃縮された旨味が強い。雨が降らないというのは農産物の味を濃くするためには非常に重要なことなのだが、その観点からすると非常に恵まれた土地だということだ。

肥料には何を使っているかと訊いてもらうと、なんと「オルガニコ(オーガニック)」という返事が返ってきた!ほんとかよ!ぜひ見せて欲しいと頼むと、先ほどの選果場の裏にある資材置き場に連れて行ってくれた。

積み上げられた資材にはConcime Organicoと書かれていて、各種成分比率が記載されている。堆肥資材を購入して生産しているということか。

オーガニックの表示がないのでおそらく100%有機ではないのだろうが、ちょっと感動してしまった。味が良いはずである。



野菜の選果場に入ると、ズッキーニ、房つきトマトなどの選果をしていた。


そういえばこれら野菜やオレンジはすべて通い箱というプラスチックコンテナに入れて出荷されている。段ボールと違い、小売店からまたこのコンテナが帰ってくるという循環型のリサイクル容器なのだが、日本ではこの普及が1割に満たない程度である。

コンテナの中に入れられた出荷カードにはロットナンバーなどが記載されている。

日本の農協の選果場をみているような感じなのだが、実に面白い!パスクワリーノのいとこが、「今度はビジネスの話をしにこいよな!オレンジ、レモン、野菜、なんでも売るぜ!」と笑いながら去っていった。

この味の濃いオレンジを食べたら一発でノックアウトだ。しかし、コスト的にカリフォルニア産のものに敵わないので、残念ながら日本には入ってこない。イタリア国内でもボンボンと生産されているので、大半が果汁になってジュースに回る。なんとイタリアではファンタオレンジには果汁12%が含まれているのだ!しかも日本で飲むファンタとは段違いに旨く、リストランテでもアランチャータ(オレンジジュース)というとファンタが出てくる(笑)

それだけオレンジに関しては豊富で旨いのだ。ああ、日本から出ないでいると損をするな、と痛切に感じてしまった。食い倒れネットワークをさらに各国に拡げる必要を感じてしまったのだ。

果樹園を辞すると、パスクワリーノが近くのにんじん畑を見せてくれる。といっても、勝手に人の畑に入って行ってしまっただけなんだが、、、(笑)

「イタリアのにんじんは日本みたいにふとくないんだけど、これは何でなの?」

と重ちゃんが訊く。まさにそこがポイントで、どちらかといえば痩せた土壌なので、日本のようにぶっとくはならないのだ。しかし、こっちのほうが味が濃いことは間違いない。日本で味の濃い野菜が作りたければ、肥料を少なめにすると、近いものができる。しかし、写真のような細く見た目の違う人参になり、まとまらず小さいため、売れない。ヨーロッパでは「にんじんてのはこんなものだ」というのが当たり前になっているからこれで行けるのだろう。

僕は日本の農産物に誇りを持っているので、海外から帰ってきてやたらと「むこうの野菜は日本より断然美味しいんだよ!」という輩を好きではない。日本の農産物にも、大したことのない規格品と素晴らしいレベルのものがあり、後者を食べればムムムと唸ることは間違いないのだ。しかしながらそれは一般には出回らない。イタリアの事情を見る限り、基本的に出回っている食材が旨いというレベルは日本より高いと認めざるを得ない。んー 悔しいけどしょうがないね。

しかし農場では、外国とは思えぬなんともくつろいだ気持ちを取り戻した。やっぱり俺のホームグラウンドは農場なのであった。

「さあ、メルカート(市場)を観に行くぞ!」

パスクワリーノの強烈な運転がまた始まった!

2005年02月01日

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 余談その1

全くの余談だが、、、
シチリアの女性は美しい度がかなり高い。

「イタリアの中でもシチリアはアラブ系との接点だから、色んな顔がいるよ。」

とキーコが言うのだが、たしかに顔の系統がいくつかあるようだ。ちなみに眼鏡っ子が多いのが非常に目につく。そしてその眼鏡顔がとても美しい。

「綺麗だなって思ったら『ケ・ヴェッラ!』」って言えばいいんだよ」(byキーコ)

この言葉、同行のコバちゃんが胸に刻んでいたことは云うまでもない。
僕?僕はそんなの眼中にありませんよぉ、、、
なーんちゃって 日々眼球運動が活発になっていました。

「夏に来たらもう大変だよぉ!みんなスゴイ格好してるからね、、、しかもね、こっちの女性は観られることに慣れてるから、ジーッとみてても怒られないよ。」(byキーコ)

マジ?
今度は夏に来よう!

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 ミラノで考えたこと

シチリア編が続いているけどここで一息。ミラノに来て、カフェなど廻っている。

こちらに来て、うーんと考え込むことが多い。それはイタリアの食の豊かさということへの感動なのだけど、最初の興奮が過ぎ去って、少しだけ冷静に観られるようになり、考え方がまとまってきたので、書いておきたい。

11時頃、コーヒーを飲もうとバールに入る。「ウン・カッフェー」で一杯のエスプレッソが飲めるわけだけど、どのバールでもその脇には、様々なハムやチーズを挟んだパニーニなどがぎっしりと並べられている。
IMG_0139.jpg

観ていると、ビニールに入った巨大なハムの塊をどすんとカウンターにおいて、スライサーで薄切りにし始めた。そのハムの巨大さと、精肉店で使うようなスライサーが、何の変哲もないバールのカウンターに鎮座し、あたりまえのようにスライスしている風景にびっくりした。上記画像を拡大したのがこちらだ。このハム、お腹にかかえるくらいの大きさなのだ。
ham.jpg

スライスしたハムを、暖めたビタパンの上に置き、チーズ二片をのせてくるくる巻いてできあがり。ケースに並べる。このように、バールで食べられる軽食も、だいたいは店で完成させるのがイタリアのバールでの日常のようだ。日本のように、既製品のサンドイッチが並んでいる風景はみられない。そして客は、「あそこのカフェーは旨い」「あそこのパニーニのパンが旨い」という感じで、名指しで食べに行くのだ。

こうしたサンドイッチ類だけではなく、アランチーニ(ライスコロッケ)やショートパスタなどもカフェの奥で作り、店に並べているというのが多いように見受けられる。こうした風景に、非常に豊かさを感じてしまった。

一言で言えば、どの店も個人も、オリジナルであることを求めていて、それを具現しているようにみえるのだ。

日本のカフェでも、店頭でサンドイッチを作っている店はかなりある。しかし、日本ではFCチェーン展開が進んでいるのが普通だろう。その場合、大量生産された具材やバンズが並ぶのが普通だ。だからオリジナリティがない。イタリアでは、バールはあまり派手にFC展開されていないようにみえる。一軒一軒が独立していて、洒落ている。日本の個人経営の喫茶店のようだ。それが、メルカートなどに溢れている多種多様なメーカのチーズ、パン、加工肉などを選んで仕入れ、独自の組み合わせで出しているのだ。

このように、簡単な料理でも自分の店で調理するバール文化に感動したわけだが、じゃあ日本ではどうなの?ということだ。

先に出したように日本のカフェはだいたいがFCだから今ひとつ楽しくないが、カフェという業態自体が日本のものではない。イタリアのカフェを日本のカフェを比べてもしょうがないのだ。カフェは、コーヒーなどの飲み物が飲めて、軽食も食べられる。さっと立ち飲みもできて、座ってゆっくりすることもできる場所だ。日本では同じようなところは少ない。昔ながらの喫茶店という存在といえるだろう。

ただ、喫茶店の食事というのはあまり比較にならない。日本で先述のようなパニーニなどの豊かさに匹敵するものはなんだろうな、と考えた。

なんのことはない。日本にもある!それはご飯だ。白飯とみそ汁と漬け物、そして干物でも卵焼きでも一品つけば、それだけで十分な食事だ。そして、だいたいどこでの家でも店でもオリジナルな味付け(米を選べる、みそ汁のダシや味噌を選べる、漬け物のバリエーションも豊富)を追求できるではないか。

そう考えた途端にすっきりした。

そのすぐ後に問題につきあたった。では、そうしたご飯文化がきちんとイタリアにおけるカフェー文化なみに行き届いているだろうか。そう言われるとなんだかはっきりしないな、というのが感想だ。

日本には、いろいろとご飯を食べさせる店があるが、オリジナリティを発揮しているのはやはり個人経営の定食屋であったりラーメン屋である。コンビニやファミレスの食事は、すべて画一化されている。

そう思ってミラノの町並みを眺めると、たまにマクドナルドがあるが、飲食チェーンというのがあまりないことに気づいた。欧州ではスーパーマーケットはチェーンの寡占化が進んでいるのだが、こと飲食店については、個人経営的な店が圧倒的に多いようにみえる。

この辺に日本の食とイタリアの食を比べた時に、少し後ろめたさを感じるという問題の根があるように思った。

もうすこし考えを進めていくと、キーワードは「家庭料理の消失」ではないか、と思うに至った。もう少し歩きながら考えてみたいと思う。

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 ミラノで考えたこと その2

あともう一つ。
こちらのスーパーではよくサラダのパックをみかける。いわゆるカット野菜だ。
IMG_0073.jpg
ロメインレタス、ルッコラセルバチコ、アンディーブなどが小さくカットされて入っており、1ユーロ未満で買える。

すでに洗浄されているのでこれをサラダボウルにあけ、好みのアチェート(酢)とオリーブオイル、塩をかけて混ぜるだけでビックリするほどに旨い。
IMG_0133.jpg
思わず、ホテルの近くにあるスーパーで野菜類を買い込み、部屋でむさぼり食べてしまった。外のリストランテで食べると軽く日本円で5000円程度になってしまうが、スーパーで食材を買うと、500円程度で済んでしまう。

日本ではカット野菜の販売量の伸びがこのところスゴイのだが、それにしてもあまりこうしたサラダようパックに対する感覚は低い。日本人特有の清潔感にそぐわないのだろうかとも思うが、かといって生野菜が売れているかというと、売れていない。料理自体をする人が減っているから、サラダ自体を食べていないと考える方がいいのかな。

あと、日本でサラダにする野菜とイタリアでのそれは少し違うと思った。レタス、ルッコラをカット野菜にして売り場に並べると、日本ではかなり高くなってしまう。日本型のサラダ、例えば春菊やシイタケのスライスなどを使った、新しいサラダのスタイルを考えた方が良いのかもしれないな、と思ったのであった。

2005年02月02日

これから帰ります

あと数時間でミラノ空港から帰国します。残りのエントリは機内および日本で。

ミラノではあまりアクティブに食い倒れせず、日々本業のことなど含め内観していました。

ていうかね、デジカメが動かなくなってしまったのよ。出国前に買った1GBのSDメモリカードが原因だったのがわかったのだけど、後の祭り。なので、ミラノでお世話になった3人の友人には申し訳ないのだが文字で簡単な日記になっちまうな。

では、旅の無事を皆さんで祈っててくださいね。

2005年02月03日

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 峡谷の街・モディカで伝統的チョコレートの世界と出会った後、生命の危険を感じたのだった 前編

パスクワリーノの家で昼食後、ゆっくりと市内観光を終えて戻ると、別荘が大変なことになっていた。

「電気がつかないよ、、、」

この日は断続的に雨が降っていたのだが、水漏れで電気の配線がどこかでショートしてしまったらしい。ブレーカーがすぐに落ちてしまうのだ。原因はどうやら、久しぶりにブレーカーを上げた後に、その電気ボックスの蓋を開け放したまま出てしまったからのようだ。

「フゥム、、、」

パスクワリーノも困った顔をして、申し訳なさそうにしている。家中を探し回ってろうそくを見つけ、さらに別荘地内の他の家からろうそくを分けてもらってきた。ろうそくの灯りでなんとか移動ができるようになると、

「まあ、ロマンティコだろ!」

とパスクワリーノが言う。以降、「ロマンティコ」は僕らのキーワードになってしまった。

「まったく、こういうハプニングまでパスクワリーノらしいよ。」

キーコが苦笑いをする。実はこの日はキーコとコバがメルカートで買った食材で料理をしてくれるということになっていたのだ。ガスはプロパンなので何とか使えるが、暗闇の中での調理に「火が通ってるかどうかみえません!」というコバに大笑いしながらのディナーとなった。これはこれで忘れがたい。すでにメルカートでの大量撮影(240枚撮っていた!)でデジカメの電池は無くなっていたので、この時の写真はない。残念だ!

本当にパスクワリーノは、何から何までエピソードに困らない人だ。しかし、最大のエピソードは実はこれから始まるのだ、、、

ろうそくの火で暖をとった夜が明けると、ようやく乾いたのか通電するようになった。

「ケンズィ、どうだった!?眠れたか!?」

「すっごくロマンティコだったよ、、、」

とパスクワリーノに伝えると、ニコッとあのパスクワリーノスマイルが炸裂した。

この日は、シラクーサからちょっと内陸にあるモディカという街に行き、ボナユートという伝統的なチョコレートを作っているパスティチェリアに行くことになっている。実はこのボナユートに、日本からスタージュ(研修)で一人の女性が入っているのだ。その佐藤れいこちゃんは、blog仲間でもある、料理ジャーナリストのカマタスエコさんから紹介してもらった。

「わたしの友人がちょうどシチリアにいるから、会ってくれば?」

そう、カマタさんはイタリア紀行を著している、いわば先輩であり、今回の旅に必要になる電気プラグのアダプターや電子辞書を貸してくれたのだ。この場を借りて御礼を述べたい。アリガトねアネゴ。

さてモディカはシラクーサから1時間少しかかる距離にある。シチリアに来てから無茶苦茶寒いのだが、それ以上に天候が不順でくるくると変わる。曇り空になぜか虹が架かっていたのをみて歓声が上がるのだけど、今から思うとこれは凄まじい展開への予兆だったと思われるのだ。

前日の昼、モディカの佐藤さんに電話をかけ、到着時間を告げる際にパスクワリーノは「10時半に着くよ!」と明言していたのだが、途中車を停めていろんなものを解説しまくる。まあそれがイタリアってやつなんだが!

「ケンズィ、これはアーモンドだぞ!」


おお、これがアーモンドの木なのか!ちょうど花が咲いていて、これがなんだか櫻のように綺麗で甘い香りがする花なのだ。

こちらのバックに写っているのは、モディカ特産であるモディカ牛だ。

ちなみに僕はマフラーなどしないのだが、パスクワリーノがくれたのでしてみた。以来、マフラーっていいもんだな、と思って愛用している。

そんなこんなで寄り道しながらモディカの市街に着く。

シラクーサは海の街というイメージだったが、モディカは峡谷の街という感じだ。街は山間に密集しているので、「上側」と「下側」で街が分かれている。

ちょうど昼時で渋滞するのをすり抜け、ようやくボナユートの店前に到着した。

そういえば昨日、今回行きたい店の件でパスクワリーノと弟のロベルトにさんざん「あんなとこに行っても旨くないぞ」などと水を差されていたのだが、ボナユートに関しては二人とも「ん、あそこはイイね!」と意見が一致していた。

正直言って僕はそんなにチョコレートが好きではない。従ってバレンタインにはチョコレート以外のものが欲しいのだが(笑)、このボナユートという店のチョコレートはかなり特別なものらしい。今時のチョコはカカオを精製しまくり、色んなものを添加しているわけなのだが、ここボナユートでは古くから伝わるシンプルなチョコ作りを継承しているという。つまりカカオを磨り潰し、糖分や伝統的な香料を加えるということに徹しているそうだ。それ故、「チョコレートが持つ本来的な催淫効果がある」という逸話もある。うーんそれならたくさん買って帰らなきゃなぁ。

店内はとても小さく、売り場と小さな工房に分かれている。チョコレートはここではなく独立した工房を持っているということだった。

大幅に遅刻してしまったので、店の女性に佐藤れいこちゃんに連絡をしてもらう。その間に、パスクワリーノが店の若旦那といった呈の若者に僕らのことを紹介してくれる。

彼はパウロという名前なのだが、聖書の登場人物に出てきそうな顔立ちである。

「こいつはクッチーナ(料理)のジョルナリスタ(記者)なんだ」

とパスクワリーノが紹介してくれたおかげもあってか、非常に好意的に迎えてもらう。さっそく件のチョコレートがずらっと並ぶ。

赤い包み紙がシナモンを加えたもの、ピンクがバニラを加えたものだ。食べてみると、慣れ親しんだチョコレートのトロリとした溶け加減は全くない。ザラリとした食感で、砂糖の小さな塊がジョリッとくる、実に粗い舌触りなのだ。しかしこれは非常にイケル!

「本物の味、だねこれは!」

そう、一切へんな混ぜものをしていないという話が納得できるナチュラルな味だ。媚びることのない、本来的なカカオのパワーを感じさせる骨太な剛球といえる味だ。

「これが、この店で有名なペペロンチーノのチョコレートだよ。」

と出してくれたのが、トウガラシ入りチョコだ。噂には聞いていたのだが、、、

一粒を食べてみると、口の中にある時点ではそれほど辛さというのを感じない。しかし、喉下してみてビックリした!喉にチリチリと刺激が来る!

「おーっ こうチューニングされてるのかぁ!」

こいつぁ 乙だ! これ、女性には非常に受けると思うのだが、、、ちなみに日本でも輸入されているらしいゾ。

とそこに、このボナユートにスタージュに来ている日本人、佐藤れいこちゃんが登場した。

実はカマタスエコさんからメールで紹介してもらって数回やりとりをしているのだが、相手がどんな事情でスタージュにくるようになったのか、そしてこの人が何歳くらいの女性なのか全く知らんかった。どんな人が来るんだろうか、と思っていたら、実に素敵にチャーミングで明朗快活、イタリア語堪能で、生命力の強さを感じさせる女性であった!

「どーもどーも、ドルチェ好きが高じて仕事を全部辞めて、イタリアに来てしまった佐藤です。」

彼女が開設しているWebサイト「ドルチェマニア」もかなりの情報を伝える良いサイトだ。

★イタリア留学日記--イタリア・シチリアより生情報を実況中継中!
http://dolcemania.exblog.jp/

★Dolce Mania---イタリア菓子の情報サイト
http://dolcemania.cside.com

彼女が来てくれたことで、工場の中の人たちとの仲介役になってくれて、素晴らしい取材をすることができるようになった。

「今日はカンノーリを集中的に作っている日なんですよぉ。」

とれいこちゃんが言うとおり、工房ではカンノーリの皮がスゴイ勢いで作られていた。カンノーリとはこのお菓子である。

そう、シラクーサの空港のバールで早速食べたお菓子だ。パリパリに揚がった筒状の皮の中に超濃厚なリコッタクリームが詰められている。映画「ゴッドファーザー」にも出てきたらしい、由緒あるシチリア名物だ。

「コバ!きっちりと勉強しておけよ!」

とキーコの激が飛ぶ。そう、無二路のドルチェ番はコバこと小林君なのである。


これがカンノーリの皮生地だ。ほんのりピンク色なのは、こういう色の豆だったか何かの色素を練り込んでいるらしい。それを薄く伸ばし、切り揃えていく。

これが一枚分のカンノーリ生地だ。

これを耐熱性の筒に巻いていく。

筒に巻かれた生地は、フライヤーでじっくりと揚げられる。みたところ低温で時間をかけて揚げているようだ。揚げ上がると斜めに置いて油を切る。

「この揚げ油、ラード(豚の脂)かヘット(牛の脂)を使っているらしいんだよ。だからコクのある風味がつくし、パリッとした食感になるんだな。」

とキーコが言う。これが揚げ上がった皮だ。

これをすぽんと筒から外し、皮の完成。筒の部分にリコッタクリームをタップリ詰めて、ピスタチオの飾り物をまぶせば完成である。

ちなみに、通常店頭ではクリームを詰めたものが並べられているが、家で大量に、しかもできたてを楽しみたい人には、リコッタクリームをチューブに入れ、皮を別にして販売もしている。つまり家でリコッタクリームを詰めて、皮がパリパリの状態で楽しめるということなのだ。

このカンノーリ、色んなところで食べたけど、ボナユートのそれは非常に上品な出来だった。リコッタクリームはすごく濃い油脂なので、ともすれば一口で飽きてしまうのだが、、、

ちなみにカンノーリ以外のお菓子もたくさんある。例えばこれもボナユートの名物らしいのだが、超絶なお菓子なのである。

「この菓子は小麦の生地でチョコレートの詰め物をしたものですが、チョコレートには様々なナッツなどとともに、肉のミンチも入っているんです。滋養強壮の為に最高なお菓子なんですよ。」

なんと肉入りのチョコである!うおおおお こわごわ食べてみるが、その餡の部分はとても複雑な味のする、かといって別に変な味ではない、なんともいえない高度な味だった。毎日食べたい味かというとそうでもないが、これはこれで、非常に歴史の重さを感じてしまう。いや素晴らしい逸品だった。

キーコは先述のチョコレートに加えてこの肉入りチョコ菓子を3キロくらい買っていた。運がいい人の口には入ることだろう。

しかしこの工房で感じいったのは、イタリアの粉食文化である。下記写真は、粉屋さんみたいな屈強な人が、小麦粉の保存容器に粉を詰めているところだ。
無茶苦茶に腕の太い男が恥ずかしそうに「ボンジョルノ」というのはナカナカに素敵な光景だ。しかもその分量が半端じゃない!改めて、小麦文化大国・イタリアを感じたのだ。

しかし、パスクワリーノは僕が写真を撮っている間にもいろんな注文をつけまくり、しかも店を辞する時にもまたパウロ君にいろいろと話をしていた。ものすごいバイタリティである。

「メシに行こうよぉ!」

と車に引っ張り、パスクワリーノの知り合いのリストランテに向かうことになったのだ。この時すでにどんよりと曇った空ではあったが、まさかこれが大変な事態になっていくとは思っても居なかったのだ、、、

(続く)

日本に帰ってきた!

成田に到着しました。
帰りの機内は長かったぁ、、、「ターミナル」と「キャットウーマン」を観て、原稿を書いて、飯を食って、隣に座ってた女子大生(可愛い)とのお話しで過ぎていった、、、

機内朝食は抜いた。だってもっと旨いものが食べたい!

今食べたいもの、それは、、、
純日本風のカレーである。
ああ、インデアンを食べに大阪に行きたい! 帯広インデアンでもいいな。

シチリア編、まだまだ続きます。
そうそう静岡バスツアーの詳細決定と、山形まあどんな会のなんばん粕漬けの販売の詳細も決まる頃だし、話題豊富すぎ。

ということで帰国の報告でした!

2005年02月05日

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 峡谷の街・モディカで伝統的チョコレートの世界と出会った後、生命の危険を感じたのだった 後編

さてボナユートを辞した後、レイコちゃんもパスクワリーノの車に同乗し、スクワリーノの友人のリストランテへと向かう。

空はどんよりと曇っている、、、だけかと思ったら、あられが降ったり雨になったりと、非常に不安定な様相を呈している。んー大丈夫なんだろうか、、、
パスクワリーノの友人の店はモディカから1時間程度さらに内陸に走ったところにある。パスクワリーノが鼻歌を歌い、レイコちゃんと一同が歓談しながら旅は進む。向かう店のオーナーはバールを数軒にリストランテを一軒経営している、地元の名士らしい。これがそのバールだ。

バールでのカフェー(エスプレッソ)が日本と段違いに旨い、と言う話はしたんだっけ?水の硬度が違うし、エスプレッソマシンの圧も違うのだろう、トロリと粘度のある液体がデミタスカップにほんの少し、注がれて出てくる。これを一口か二口で飲んでしまう。

「こうやってカフェーを何かの合間に一気に飲んで、店に入ってから3分くらいで出て行く。そういうのを一日に5回くらい繰り返すんだよね。」byキーコ

すっかり僕もはまってしまった。ただしイタリアの人(含キーコ)は例外なくこの粘度の高いエスプレッソに砂糖をタップリ入れて飲むが、僕はブラックの方が好きだった、、、

さてリストランテに到着した。予想以上にシックな構えの店だった!



店にはいると、オーナーは留守で、その妹さんが迎えてくださる。この女性が知的な眼鏡美人で、振る舞いも親しみ深く、非常にエクセレントな方だったのだ。

我々には入ってすぐ目の前にあるテーブルがキープされていた。

「料理人同士だと、メシを振る舞うのは当たり前のことなんだよ。だから、パスクワリーノと一緒だとこういう風にシチリア中のリストランテでメシを食べさせてもらえるんだよなぁ。」

ということだ。押しと個性の強いパスクワリーノだが、それだけに人望も豊かなのだろう。おかげでスゴくいい思いをさせてもらった。そのありがたみは後にもっとよくわかるのだが。

さて、17歳のヤングなで肩カメリエーレ君が、前菜を運んできてくれた。

シチリアでは標準的なアンティパストだ。カポナータ、サラミ、プロシュート、そしてチーズをフリットしたものなど。

いつも無二路の前菜ではカポナータが一番旨いと思うのだが、シチリアではやはりこれが定番というかなんというか、きんぴらゴボウ的な存在なのではないか、と思う。メランザーネ(茄子)がクタクタになるまで揚げてあり、トマトと馴染んで甘く、最高に旨い。


パスタはラビオリのクリームソースと、手で撚ったようなショートパスタだ。
こちらにもメランザーネが入っている。この旅行を通じて、何種類もパスタを食べたけど、結局のところ一番ぼくが何度も頼んでしまったのは、ポモドーロとメランザーネのこのソースなのだ。やっぱりこいつが一番だ。

パスクワリーノはレイコちゃんがすっかり気に入ったようなので、安心して僕らは食事を楽しんだ(笑)レイコちゃんはまだイタリアに来て4ヶ月だということなのだが、イタリア語べらべらでかっこよいのであった。んー すげえなあ。

さてセコンドが出てくる。

薄切りのメランザーネとサルシッチャ(生ソーセージ)のグリル、そして豚肉のフリットだ。軽めにみえるだろうが、キーコ曰く

「こういうもんなんだよ。セコンドは肉をちょっと。それで満足できるように、パスタをタップリ食うもんなの。うちの店(無二路)では肉をガツっと出すけど、本当はこういう感じでいいのかもしれないね。」

まさしくその通りで、これだけで十分に満足だった。だってキーコとレイコちゃんが「もう食えない」と僕に回してくるんだもの、、、

このサルシッチャ、ウイキョウ(フェンネル)の種がはっきりとみえるだろう。非常に香りが強く、旨かった。サルシッチャの味付けは、もうシンプルに塩と胡椒だけだそうだ。

「本当にこっちは反則だよ。塩と胡椒だけで深い味がでちゃうんだよね、、、」

まさしく!物足りなければリモーネ(レモン)をかけたりすれば、それだけで味の次元が加わってしまう!うーん いやこれがイタリアンなのだ。それはそれで素晴らしい!

さてドルチェはこの辺の名物と言われる、コーンスターチを使ったういろうのようなお菓子だ。

梅肉の色のやつがそれで、オレンジの方は、同じようなものを使ってゼリーのように固めたものだ。感想は、、、んー ういろうと羊羹という感じか!日本でういろうを食べたくなるタイミングがあるかというとそんなにないのだが、それと同じような感覚かな、、、


お隣のレイコちゃんが食べてるのがティラミスとアイスクリーム。うー やっぱこっちの方が旨いと思ってしまうのであった。ティラミスに含まれる豊富な油脂と砂糖、そしてチョコレートの油分がダイレクトに快楽に突き刺さるのだ。

でも、伝統的なドルチェを食べることには意味がある。おそらく油脂が簡単に手にはいるようになるまでは甘味の要素が限られていたのではないだろうか。そう思って食べると、非常に地味ながら暖かい舌触りのするドルチェだった。
いや実にシックでエレガントな昼食だった!みんなで一枚。

お腹も満腹、気分も非常にエレガント、素晴らしい一日であった! ここまでは、、、

さて店を辞すると、想像を絶する事態が発生していたのだ。それは、、、まさかシチリアで眼にすることがないだろうと思っていた「吹雪」だ!

1時間かけて来た山道が、視界10メートル程度になってしまっている!

「パスクワリーノ、チェーンとかってあるの?」

「そんなもん、したこともないから持ってきてないぞ!」(←想像意訳)

なぬぅ???
でもそれはそうだ、シチリアの住民が、路面がみえなくなるほどの雪など想像できるはずもない。

来る時は鼻歌混じりだったパスクワリーノの顔から笑みが消える。ちなみに時速はいいとこ10kmくらいしか出ていない。大渋滞である。じれったくなるが、どの車もスタッドレスでもないし、のろのろ運転になるのは仕方がない。

しかしここで第二の恐ろしい事態が判明する。

「おいおい、なんだかガソリンメーターがエンプティになりそうじゃないか!」

キーコの声に皆がフロントパネルを注視する。確かにガソリンメーターの針はEに限りなく近づいている。そして道は上り坂で、ギアはさっきからずっと1stに入っている!イタリアに来た人はご存じと思うが、ここの国民性としてオートマという選択はないらしく、ほぼマニュアルだ。従って、上り坂の渋滞だと1stにいれたままふかしまくっていることになるのである。

このままだとガス欠は近い!
でももう歩いて引き返すなんて絶望的な山道である!
会話が止まり、皆が生命の危機を感じる、、、

「ガソリンスタンドってあったっけ?」

「ん~ たしか山頂を超えるとあったようななかったような、、、」

「まだ山頂まで結構あるぞ!」

などなど不安に苛まれながらのろのろ運転が続く。
前の車が動かないなぁと思っていると、実はタイヤがスリップして空転しまくっている。おおおと思って居たら次はこの車の後輪が空転しまくって前に進まない!そんな焦る事態が数十分続き、緊迫度合いが高まる、、、

「あ、ガソリンスタンドだぞ!」

あれほどスタンドがオアシスにみえたことはない。しかし!パスクワリーノは何もみていないかのごとくそこを超えようとする!

「なにやってるんだよパスクワリーノ!スタンド、スタンドぉおおおお!!!」

みんなが騒ぐので「ん?」という顔をしながらパスクワリーノがスタンドに車を入れる。

ところがなんとこのスタンド、誰もいない、機械も動いていない、、、

「もしかしてスタンドの従業員も、身の危険を感じて逃げたのか??」

一層の不安がよぎる、、、俺たちはどうなってしまうんだろう、、、
もう雪は路面を覆い尽くしている。

来る時に飛ばしていたのにモディカまで1時間、シラクーサまで1時間かかるはずだ。雪道だとどれくらいかかるのだろう、いや、その前に生還できるのだろうか???

顔は笑っているがかなりこわばった形相の一同、車に乗ってしばらく進むと、神の光が見えた。

「スタンドだ!今度は営業してるぞ!」

やった、、、今度こそガスが入れられる!
なんとかたどり着いたスタンドでパスクワリーノが店員に叫んだのがまた振るっている。

「20!」(←20リットルってことね)

満タン!と言わないところが非常に笑えるではないか、、、と思ったら、キーコいわく「満タンにすると重くなるからだよ」とのこと。あ、失礼しました、、、

ともあれ、この雪の中でガス欠になって凍死するという事態だけは避けられそうだ!

この後、あの陽気なパスクワリーノが一言も発せずに1時間以上運転を続け、モディカに到着。その頃には雪ではなく半分雨に変わっていたのだが、、、

「お疲れ様でした。怖かったけど超楽しかった!」

ケラケラと笑うレイコちゃんとお別れ。どうもありがとう!
レイコちゃんはこの恐怖の中、逆に楽しんでいたようにみえた。生命力の強い、魅力的な女性である。イタリア男に引っかかるんじゃないぞ!日本に生還してこいよな!

さて鉄の男・パスクワリーノもさすがに「疲れた、、、」とつぶやいている。大事を取ってバールでお茶をする。バールでつまみを食べているうちに、いつもの調子が戻ってきて「ケンズィ、これを食べろあれを食べろ!」と口を出しまくるパスクワリーノであった。

この後、1時間20分かけてシラクーサに到着。これが今回の旅行で生命の危険を感じた夜の出来事だった。これに比べたら、空港で荷物が届かなかったことや、別荘が停電になった夜のことなど遊びであった、、、

あとでテレビニュースなどで確認したとこと、モディカで雪がふったというのは本当に珍しいことだったそうだ。帰国して日本でも大寒波だったことを知ったが、イタリアも相似状態であったのだ、、、

誰だ、シチリアは冬でも暖かいなんていったヤツは???

(続く)

2005年02月07日

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 吹雪からの生還後、ヨニコにて激ウマパスタを食べた!

生命の危険を感じたモディカ行からの生還を果たし、シラクーサに着くと、雪ではなく雨になっていた。さっきまでの状況が嘘のようだ、、、すっかり喋らなくなったパスクワリーノが、弟のロベルトの店であるヨニコに車を停める。ここで夕食である。一昨日の到着日はピッツァだけだったので、本日が初めてのきちんとした食事である。

席に着き、ふぅーっと息をつくパスクワリーノ。この写真の顔を見てもお分かりの通り、疲労困憊である。無理もない、この日5時間近く車を走らせ、しかもシチリアで初といっていいほどの吹雪の中をチェーンも無しに走ったのだから、、、

「いや、パスクワリーノはタフネスで鳴らした男だったんだけどね。さすがに体力落ちたなぁ」

とキーコが言うが、もういい年なんだから当たり前と言えば当たり前である。おそらく60過ぎてるハズだもんな。

さてヨニコでは無二路で見慣れている前菜が並んでいる。自分で好きなものを取っていくと、やっぱり前菜盛り合わせだけでこんなことになってしまった!
味は無二路で慣れ親しんだ系統。ワシワシと食べる。

さてヨニコにはカメリエーレ(給仕)としてキュートなシチリア女性が一人いた。

初日はちょっと無愛想というか、あまりフレンドリーではなかったのだが、あれはキーコによれば「パスクワリーノやロベルトが僕たちを紹介してなかったからかな。シチリア人は一声かけて仲良くなるとすごくいいんだけど、顔見知りになるまでは堅いんだよ。」ということだった。

この日はかなり仲良しモードに近くなっていたのだが、同行の無二路のパスタ&ドルチェ番であるコバこと小林君は、「あのコと写真取りたいッス」と、目線を送りまくりである。果たして彼はイタリア語で「写真を一緒にとって良いですか?」を言えるのだろうか!?

さてそれはともかく、このあと運ばれてきたパスタが、キーコこと重シェフにとって今回シチリア行のベストディッシュとなったのだ!

麺は手打ちのタリオリーニ。ビアンコ(白)で仕上げてあり、具材は何かの貝のような小さなかけらとイタリアンパセリが絡んでいるだけにみえる。

「なんだろうな、これ」と言いながら一口食べるキーコ。

「うおっ! これは美味しい!」


これは「コッツェ(ムール貝)のタリオリーニ」であった。盛り蕎麦じゃないかと思うくらい素っ気ない外観に反して、一巻き口に入れると、芳醇な海の香りがブワッと花開く。コッツェを白ワインで蒸したものがベースになっているのかと思うけど、その濃厚さ、麺への旨味の辛み方が絶妙だ!

「これはどうやってるんだろう、、、ワインは使ってないかもしれないな、塩茹でしたブロード(スープ)だけかもしれない、、、」

など、キーコとコバが分析に余念がない。

確かにこのパスタ、非常に旨い!僕もマシーンを使った手打ちパスタに凝っていた時期があるのだけど、やはりアルデンテが楽しめる乾麺を使いがち。久しぶりに食べる手打ちのタリオリーニだったが、タリオリーニは手打ちの中では細い麺なので、どういうサルサ(ソース)を絡ませるかはいつも悩むところだ。

しかし今回のコッツェのタリオリーニは確かにこれまで食べた中で一番旨い手打ちパスタと言えるかも知れない。これまでは、数年前に銀座の「エノテカ・ピンキオーリ」で食べたフンギのクリームソースのタリオリーニがNo.1だったが、今回のコッツェでそれは塗り替えられた!

ロベルトが他の席に皿を運んでいるのを呼び止めて、キーコが「どうやって作ってるの???」と質問を飛ばすと、ロベルトがにんまりと笑ってナニゴトかをささやいてチョンと肩口を突いた。

「ははは、『お前はまた盗むのか?』って言われたよ。この店で働いている時、俺のイタリア語も日常的な話題を話すのは辛かったから、プライベートの時もロベルトと二人になったら『あの料理でああするのは何故なんだ?』と訊いてばかりだったんだ。だから、『何で?のキーコ』って呼ばれてたんだよね(笑)」

それでもロベルトは椅子を持ってきて、キーコにこのコッツェのタリオリーニの作り方を伝授していた。

横で訊いていたが、このコッツェのサルサにはかなりの知恵が凝縮されていた。例えば蒸し煮したコッツェを半分ずつにして、半分は煮汁とともにミキサーにかけてクレマ(クリーム)状にして絡めるのだという。そして、肝心の味を決めるあるモノが介在するのだが、それはここでは秘密ということにしておこう。kurakiさん、気になります??

さて キーコがあまり食べないので僕がいつもパスタの半分を食べている。コッツェもそうだったのでもう腹がけっこう一杯なんだけど、こんなのが出てきてしまった!

リコッタチーズをベースにした、小海老のショートパスタだ。パスタは、チョウチョ型をしたアレ(名前しらん)である。

これがまた、例の海老のダシがよーく染み出ていて実に旨い!海老の味がしなければ単調でつまらない味になるところだろうが、全く飽きない。見た目は淡泊だけど、実にコッテリしたペシェ(海の幸)の風味がするのである。

旨いな、と思っていたらパスクワリーノと目が合う。「お前、俺の分も食え」と半分も皿に盛られた!もう腹一杯だー と思っていたら、

「今日はペシェを用意したぞ!」(←想像)

と、いかにもシチリア風の魚の煮込みが出てきた!

どうだろうこの、日本人からするとセンスのない筒切りにした魚。これをトマトとオリーブと大粒ケイパーで煮込んでいる。

「ああ、これがシチリアの普通の魚料理だよ。」byキーコ

ということだ。食べてみるがみたとおりの味である。シチリア料理はやはり基本的には田舎料理なんだよな、と思った。これは悪い意味ではない。日本で煮魚を食べて、「うわっびっくりした!」という体験は、あまりないだろう。だいたい想像がつくというか、冒険ではないはずだ。それと同じで、見た目で味が想像できるという意味で、オリーブとケイパーの風味とトマトの合わさり方が実にシチリアっぽい。郷土の味、と言っていいのだろうと思う。

さて、実はパスクワリーノはペシェを好かない。

「やっぱカルネ(肉)だろカルネ!」(←想像意訳)

といつも肉を食べている。この日も彼はシチリア風の仔牛ステーキを食べている。

子牛肉の上にタマネギのソテー、トマト、チーズなどがかかっていてグリルされている。少し食べさせてもらったが、美味しい。美味しいが、これも郷土料理の範疇だろうな。

「どう、わかった?シチリア料理っていうのは、色んな意味で地味なものなんだよ。だから日本のイタリア料理店でシチリアそのままを出すというのも、けっこう難しいんだ。これをベースにしながら、別の要素を加えていくのがいいんだと思うんだよ。」byキーコ

よーく分かった。

たしかにこれは日本のレストランで一品料理として出すものではない。例えば日本料理の店で「豚のショウガ焼き」とか「野菜炒め」とかは余程の趣向を加えない限り出さないだろう。それと同じようなことだと思う。ヨニコは地元では高い部類のリストランテだが、今回僕らには意識してシチリア料理を出している。おかげで、無二路がシチリア料理を標榜していながら、また違う次元の料理世界を拓いているということがよく分かった。

「これも食べろ!」


うわー また出てきてしまった!さすがの僕でももうはいらんぞ!
でも実はこいつが激ウマ!
茄子のかさねグラタンみたいなやつだけど、茄子とトマト、そしてなんと卵が間にはいっていて、それが実に旨い!

「最初にこれを持ってきてくれぇ~」

という感じだ!
今夜は、あのリコッタと小エビのショートパスタに負けた、、、

いやしかし 堪能した!ヨニコはやっぱり良い店だ。

「ユーロになってみんな景気が悪くなって、外食を手控えるイタリア人が多いから、ヨニコにも一時の活気がないなぁ、、、」

とキーコは心配をしていた。ぜひシチリア・シラクーサを訪れた人は、このヨニコに寄って頂きたい。今回のシチリア編の終わりの記事に、各所の住所等を載せるつもりなのでそれを参考にされたい。もし行ったら、「ヤマケンのWebでみたんだぞ」と言えばいいし、プリントアウトを持参すれば美味しいモノを出してくれるだろう。自分の店に少しでも関係があると思うと、こっちの人は一挙に心を開いてくれること間違いなしなのである。

さて
超満腹になった!
残るはコバの「いっしょに写真撮ってくれますか」の成否である。
結果から言えば見事成功!これがその成果である↓

「おれ、マジ嬉しいッス!」

と喜ぶコバである。

しかしコバ、君はまだまだ甘い、、、

キーコも僕も、お世話になった人にあげるためのお土産を日本から大量に用意してきた。僕は和風の手ぬぐいを持参。ロベルトやパスクワリーノにはもちろんだが、彼女にもあげようと思い、厨房に引っ込んだ時に手渡しに行った。

どちらかと言えば無愛想だった彼女に「プレゼント」と言ってお土産を手渡した瞬間、みるみるうちに彼女の顔が光り輝き、この3日間観たことがなかった最上級の美しい笑顔で僕の手を引き寄せ、イタリア人がよくやる両頬への音だけキス(チュッチュッと音をさせながら頬をつけて、親しみを表すやつ)をしてくれた。

「私に!?本当???とっても嬉しい!貴方は英語話せるの?そう、よかった!ねえ、次はいつ来るの?来年?本当に?本当にまた来てね!」
(↑英語だから想像意訳ではないよ(笑))

思わず「俺も明日からヨニコで働くゾ!」と言ってその身体を抱きしめてしまいそうだったが懸命にこらえた。こらえるのに数十トンの圧力で歯を食いしばりつつロベルトや店に別れを告げた。

そう、実は明日の朝にはシラクーサを発ち、カターニャへ移るのである。パスクワリーノともこれでお別れだ。この3日間、パスクワリーノには本当にお世話になってしまった。彼なしでは、このあまりに濃い3日間は体験できなかったことは間違いない。なんといっても生命の危険まで共有しあったのだから、、、

「ケンズィ!俺が日本にいったらよろしく頼むぞ!」

もちろんだパスクワリーノ!全力で接待申し上げるよ!

そうそうなぜかパスクワリーノは「4月に日本にいくからな!」と勝手に決めてしまっていた。ほんとか?もし本当に4月に来日する場合は、もしかするとどこかの店でフェアをすることになるかもしれない。その場合は告知するので、ぜひパスクワリーノの世界を堪能しにきて頂きたいと思う。

パスクワリーノとも、両頬への音だけキスをして別れる。

「さて、明日はカターニャだ!一気に治安も悪くなると思うから、気を引き締めよう!」byキーコ

シラクーサ最後の夜は、モディカからの疲れで泥のようにぐっすりと眠りについたのであった。

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 余談その2

イタリアの冬は寒い!

南国シチリアであってもとにかく寒い!
それはそうだ、道路は石畳だし、家の中も大理石などの石での建築が基本になっているので、身体の芯からものすごく冷えるのだ。ジワジワと足下から冷えていくので、現代人に多い冷え性の女性は特に要注意だ。

「シチリアでは2時に昼飯を食べたら仕事を休んで昼寝したりして、5時くらいからまた働き出す。夜のご飯は20時以降だね。最初はこいつらなんでこんなにさぼるんだと思ったけど、そうしないと寒さが足下から上がってきて疲れてしまうんだね。昼寝したりバールでカフェーを飲んで休むと、また元気が復活するんだ。その国の生活のリズムには、それなりの意味があるんだと思ったよ。」

とキーコが云うのが納得できる。

ちなみに夏は夏で暑すぎるので、上記文章の「寒さ」を「暑さ」に変えればいいのであった。

日本もこういうリズムにすべきだー ていうか昼寝制度はぜひとも導入したいもんだ。
というのもまあ問題が多いわけだが、、、

とにかくイタリアの冬はどこにいっても寒いので要注意!

2005年02月13日

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 カターニャのオステリアは活気に満ちたカメリエーレ満載であった!


朝、パスクワリーノの別荘に別れを告げる。楽しい三日間だった!

「ちっきしょー! シラクーサを去る日に晴れるなんて、どうかしてるぜ!」
とキーコが舌打ちするように、イタリアに来て初めてと言っていいくらいの綺麗な綺麗な、青い空が拡がっている。

「夏になると、この辺の草が全部枯れちまって、荒涼とした風景になるんだよ。だから今から数ヶ月が一番綺麗な時期だよな。」

なんと!暑すぎて草も生えないとは凄まじい!

ちなみに僕らが立っているのは、実はこれバス停である。

「パスクワリーノの別荘に住み始めた時、シラクーサまではバスで15分くらいかかるんだけど、『朝ここで待ってろ』としか言われなかったんだ。待てっていったって、バス停の看板があるわけでもないし、すっげぇ不安なんだよ。しかもバスの時刻表なんてこっちにはなくてね。『9時に始発の駅を発車する』てことだけが決まってるだけなんだ。だからこのバス停に来る時間がいつも違うんだよ。一度、あと200メートルくらいでバス停ってところでバスが去って行ってしまったことがあるよ、、、」

そんなときは一体どうするんだ?と訊くと、

「ぼーっとしてると、バイクに乗った人とかが停まってくれて『どうした?』て訊いてくるんだ。事情を話すと乗っけてくれて、シラクーサ市街まで送ってくれるんだ。」

そんな、牧歌的な土地なのだ、シチリア・シラクーサは。

さてこの日バスはあまり遅れずにやってきて、暴走と言えるスピードですっとばした。このバスの前の方に15歳くらいの少女が立っていたのだが、この娘が実に美しい造形であった!僕とコバがしげしげと眺める。と、コバが確信に満ちた声で「やまけんさんオレ、ウルトラマン顔が好きなんすよ。鼻が高いのが最高っす!」とのたまっていた。

初日にバスが停まったのと同じところからカターニャ行きの長距離バスが出ている。1時間半揺られてカターニャ到着。インフォメーションに行ってパンフをもらい、ホテルをその時点で決める。キーコが昔停まったことがあるホテルにし、市内行きのバスに乗る。

通りを10分ほど歩いて着いたホテルは3つ星ランクで、中の上といったところだ。でも、これでも十分。

キーコが停まった時には着いていなかったエアコンがついていたため、寒さにやられるということもない。

一服した後、「さあそれじゃあ メルカート(市場)に繰り出すか!」となる。そう、ここカターニャは活気のある市場があるのだ。それも目当てだったので、実はホテルから150メートルほどの距離にメルカートがあるという絶好のロケーションである。

「とにかくスリとかに気をつけて!」

とキーコが繰り返す。結局この旅の中でスリやひったくりといった盗難に遭うことは一度もなかったのだが、それはこの頻繁にキーコからかけられる警戒の声があったからかもしれない。
ともあれ、メルカートはシラクーサのそれよりも一段活気のあるものだった。シラクーサのメルカートは野菜が中心だったのに対して、ここのは肉や魚が中心になっていたからだろうか。

羊肉なんかは、一頭を半身に割ったのがそのまま吊されている。この他、ウサギなどもあり、肉の種類は本当に豊富だった!

圧倒されたのはチーズの種類だ。おびただしい乳白色の塊がショーケースの中にずらずらと雑然と並んでいる。イタリアの人たちはこの一つ一つをきちんと峻別して買っているのかと思うと頭が下がる。

さてこの日は、実はメルカートではなく、ペシェ(魚)を食べさせるオステリアに行くのが目当てであった。

「昔入って、すっごく店に勢いがあって旨い店だったんだ。結婚してからも嫁さんと来たことがあるけど、やっぱり嫁さんも喜んじゃってさ。あそこにいってみよう。」

そう思い出にふけるキーコが足を向けたのがこの店だ。

■オステリア アンティカ・マリーナ

メルカートの魚売り場のすぐ横に位置するこの店は、いってみれば築地の場外市場みたいなものだ。

観ているとひっきりなしに客がその扉の向こうに吸い込まれていく。

「前に行った時は、昼飯を食べようと思ったら一杯で、予約を取りたいって言ったら、なんとその日の23時にならないと入れないって!仕方がないから23時から飯を食べに行ったよ。そして、あまりの新鮮さ、勢いの良さ、キップの良いサービスに参っちゃったんだよね!」


店内はほどよく狭く、外の光が入ってきて明るい。注目すべきはカメリエーレの数で、40数席ほどの小さな店なのに5人くらいのカメリエーレが居る。全員男で、ジーンズにワイシャツ、そしてベストを着ているのがトレードマークとなっている。全員にプロ意識がしっかりと行き渡っているようで、このカメリエーレ達のきびきびした態度、客への適切な距離感が実にいい。

前菜は氷蔵ケースにある大皿からカメリエーレが盛って客席に運ぶ。また、パスタも厨房から大皿できたものを人数分、彼らが取り分けてテーブルに持っていく。魚を頼むと、皮がバリバリに焦げるまで焼いたのを、彼らがこうして綺麗に取り分けるのだ。

ちなみに写真の彼はディカプリオ的ハンサムなカメリエーレだったゾ。

さて僕らの食卓にもパンが並べられ、料理の準備が整った。

前菜は小皿に7種類盛られて運ばれてきた。どれもこれも旨そうだ!

タコなどのマリネ、鰻のフリットを甘酢に漬けた、南蛮漬けみたいなの、小さな貝のマリネ、野菜、小イカのフリットなど、すべて酢が効いたものばかりで嬉しい。

再三言うが、料理で絶対的に重要なのは前菜アンティパストだ。これが旨ければ、後が満足行かなくてもなんとか我慢できる。前菜にケチケチしていて、しかもその後が今ひとつだと、目も当てられない。

7種を全部こんもりと載せるとこんな感じだ。

「相変わらず喰うなぁ」

と言われながらも、好きなんだからしょうがない!
この前菜、どれもこれも旨かった。特に好きだったのが、例の「魚屋の息子が剥いている」海老のマリネだ。小指の第一関節くらいの小さな海老だが、トロリとして、甘くて濃い海老の味がする。

前菜とセモリナ粉のパンをむしって食べていると、パスタが上がってきた。

これを、客にあまり愛想をまかないカメリエーレの渋いおっちゃんが取り分けてくれる。これがまたカッコイイのだ。

「こっちはカメリエーレはプロ意識がビシッとしていてかっこいいんだよ!イタリアでは厨房よりサービスにお金をかける。この店だっておそらく厨房には2人くらいで、カメリエーレは5人。その方が店の活気が出るし、お客さんだって楽しいでしょ?」

そう言えば、満員のテーブルを見回すと、男ども、女性の母子、家族といった雑多な集まりの各テーブルでは皆が楽しげに皿をつついている。確かに心地よい空気が流れているのだ!

「日本にもこういう店があればいいのにね。」といっていると、パスタが運ばれてきた!

一皿目は白魚のパスタだ。これは昨年、木場のイ・ビスケッロで食べたシラスのパスタにも似ているが、もっとトマトを淡くしたものだ。こちらで食べるパスタはあまりトマトがタップリとは使われていない。オイルでペシェを香ばしく炒め、プチトマト少しみたいな感じで風味付けに使っているようだ。そしてその方が逆にトマトの存在感がでるような気もする。

二皿目はトンノ(まぐろ)のブカティーニ。

ブカティーニはこの写真を見れば分かるように、真ん中に穴の空いた太めのロングバスタだ。噛みごたえがあるので、濃いめの味付けがよく合うと言われている。このパスタのサルサは、シチリアの基本である、オリーブとケイパーと一緒にトンノを炒め、ペシェのブロードを少し加えたのにやはり少量のトマトを加えたという感じのアッサリ度だ。しかし、ブカティーニの強さに真っ向から対決できる強い味が付いている。

「なんてことはないんだけど、旨いよね!」

そう、なんてことはないんだが、実に旨い!本当はボッタルガ(マグロの卵巣を干したカラスミみたいなの)のパスタを頼んでいたんだが、違うモノが出てきた。それでも満足、満足!

「カラマリ!」と出てきたのは、巨大な甲イカのフリットだ。こんなに大皿で出てくるとは思わなかった!

リモーネを絞って食べると、フカフカの柔らかなカラマリが引き締まって、それでも柔らかくて甘くて、もう言うことなしだ!

そして、かちゃかちゃと音をさせながらスズキのグリルの皮を外したものがやってきた!そう、今回は一匹の魚をオーダーしたのだ!

みればお分かりの通り、単にスズキ一匹にハーブを噛ませてグリルし、皮目が焦げるまで火を通しただけのものだ。日本の焼き魚と何ら変わりはない。これにテーブルに置かれたエクストラ・バージンのオリーブオイルをどっぷりとかけて、リモーネと塩をかけて食べるだけ。

こいつが実に旨い!まずオリーブオイルのフレッシュさ、まさにオリーブのジュースのような豊かな香りと焼き魚の汁が混ざり、無愛想な塩がリモーネの果汁と合わさることで豊穣に変身してしまう。超満足である!

勢いよく食べ、ご満悦の僕たち。気持ちよく勘定を頼むと、、、なんと123ユーロ(17200円くらい)もしてしまった!ワインは一切飲んでいないから、かなり高い!

「ん~ そうかスズキ一匹で60ユーロくらいしてるね。魚はねぇ、こっちでは高いんだよ!けどそれにしても高いな、、、ユーロが高くなって、イタリアの人でも外食を控えているってきいたけど、これは酷いね!」

ちょっとビックリしたが、それでもまあこの店の旨さと勢いの良さは特筆に値する。そういえば食い倒れ仲間となった築地王様の名著「築地で食べる」にも書いてあるとおり、築地は安い、ということではなく、「良いものが、高級店よりは安く食べられるのだ」という捉え方をした方が良いというのと似ている。確かにこの満足感は得がたいものだ。実はこの後の数日間よりも高い満足度をこの店では感じた。もし訪れるひとがいるなら、魚一匹の値段に気をつけるならば満足度の高い食事ができること請け合いだ。

いやー高かったけど、旨かった!かなり気持ちよくなってホテルに戻るのであった。

2005年02月15日

陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 ついに遭遇!食い倒ラー仕様の「何でものっけパニーニ屋台」にノックアウト!

 さて昼を食べた後は、ホテルで休憩。この「少し休憩」が非常に効く。キーコの言うとおり、イタリア時間である「昼飯食べたら休んで、5時くらいからまた動き始める」というパターンがとても動きやすい。日本の観光気分で日中はずっと歩きづめ、という感じになると、きっと3日と持たないだろう。各自ベッドで眠りにつく。1時間くらいで目覚めると、メインストリートに繰り出してウインドウショッピング。僕は、COINというデパートで念願のイタリア製ジャケットをキーコに見立ててもらい買ってしまった。サルディ(セール)だったので4万円のものが1万2千円で買えた。モノも非常によい。

それにしてもイタリアの建築物と、それで構成された町並みはとても美しい。写真は、ビア・エトナという名前の通りで、その彼方に小さく雪を冠したエトナ山をうかがうことができる。

その後、僕だけインターネットポイントに行く。日本ではインターネットカフェとか漫画喫茶でやるが、イタリアでは本当にインターネットに接続可能なPCが並んでいるだけのインターネットポイントが多い。一時間2ユーロくらいの低価格で使うことができる。シチリア編の数回、ローマ字だけで打ち込んだのは主にこのカターニャでのものである。1時間ほどWebメールを閲覧。帰ったら仕事が大変だなぁと冷や汗をかいていた。

「さってと、メシはどうしようか?馬肉を食べさせる店があるんだけどそこにする?それとも、俺がホテルの厨房に務めてた時によく行ってた、すっごい安くてボリューム満点のパニーニ屋台に行く?」

正直言って連日の大食いでそんなに腹は減っていないのだが、、、んー 馬肉レストランっていかにも重そうだ。パニーニで軽くというのがよさそうだな、ということでパニーニを選択することとなった。

「じゃあ、バスでいくよ!」

カターニャではバス停に並んでいても、ほぼ時刻表というのが無いので、ひたすら待つしかない。314系統というバスが来るのを待っているのだけど、15分以上こない。身体はキンキンに冷えてくる。この間、コバと僕とでひたすらシチリア美人のチェックをし、寒さをやり過ごしていた。

「やっぱこっちは眼鏡美人がどう考えても多いよな!」

「サイコーっすよ!」

黒髪に特徴的な高い鼻に眼鏡をかけているシチリアーナは知的で美しい。しかしその向こうに、眼鏡を外した時に拡がるであろう官能的で蠱惑的な微笑のようなものが透けてみえてしまうのは何故だろう!?いやぁ 女性って本当に素晴らしいですね。

さて待つこと20分でようやくバスが到着。荒っぽい運転に揺られて15分、海岸沿いの通りに出る。

「えーとそろそろあるはずなんだけど、、、お、あった!あれだよあれ!みんな降りるぞ!」

とキーコが懐かしそうな声をあげてバスを降りる。もうすっかり暗くなった、海へりの車だまりの横に、屋台が2つ立っていた。

屋台は二つともパニーニを供するものらしい。屋台と言ってもなんだかトレーラーハウスなみに横に長く、屋根のついた立派なものだ。営業許可を取って、ここで据え置きで営業している店なのだろう。

ショーケースの中にはずらりと惣菜が並んでいる。ドライトマトやフンギのマリネ、揚げナスのマリネやカポナータなど、野菜系の惣菜が中心だ。

その横に肉類が並んでいる。ハンバーグパテもあるが、サルシッチャ(生ソーセージ)に鶏の胸肉、そして写真の中央上部にみえる赤肉は、なんと馬肉である。

「こっちではけっこう馬肉をよく食べるんだよ!しかもすごく安い。」

ふううううん。 馬肉、旨いもんな! 日本では馬肉と言えばまず馬刺が出てくるけど、こちらでは違うらしい。

「馬肉を鉄板でジューって焼いて、暖めたパニーニに載せて、それに好きな惣菜をのっけて挟んでできあがり、だよ。」

うおおおおおおお こいつぁ いい!
自分の好きな具を選んで挟める、お好みタイプのパニーニなのだ。僕は今までパニーニというと、お上品にハムとかチーズ、トマトなんかを挟んでホットプレッサーで挟んで焼き目をつけてハイできあがり、といった綺麗でお上品なスナックの感覚だった。しかしここのは全然そういうのとは違うお好み感である!

「よし、それならおれは馬肉を食べるぞ!あとメランザーネ(ナス)が大好きだからナスマリネを載せて、オリーブオイルをかけてもらおう!」

キーコがそれを伝えると、早速傍らで馬肉をジューと焼き始める。飲み物にバカルディのレモンカクテルを頼んでいると、すぐに出てきた!

おおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

これぞ僕が望んでいた食べ物ではないか!?
なんだかんだ言ってどうせおいらはこんなB級っぽいのが好きなのさ!
でもマジで旨そう! さっそくかぶりつく。
馬肉はこちらでは安肉だというが、まったくクセがなく噛みごたえとコクがあって美味しい!それにメランザーネのマリネの酸っぱさ、オリーブオイルの香り、そしてパニーニのきもちパリッとした香ばしいパンの香りが、もうたまらん!

激烈に旨い!

「やまけん、フリット・パタータ(ポテトフライだ)は?」

「もちろんいるいる! ケチャップとマヨネーズたっぷりかけろって言って!」

というと、本当にデロッとかかってきた!

ぐおおおおおおお
もう悶絶である。こちらのポテトフライはどこかのハンバーガーチェーンのようなポテトにいろんなのを加えたまがい品ではなく、本当に芋を割って揚げただけのものだ。こんな簡単な料理でも旨い、、、

パタータとパニーニ、そしてバカルディだ。キーコはもうみるだけで食欲を無くして、ポテトを数本つまんだだけだった。コバはまた何か違う組み合わせで旨そうなのを食べていた。

「よーしもう一個たべるぞ!」

「え、まじ?まだ食えるの???」

という声を尻目にまた具を頼む。こんどはサルシッチャを焼いたのをメインに、フンギのマリネ、ドライトマト、カポナータを欲張って載せてもらう。それがこんなになって出てきたのだ!

うおおおおおおおおおおおおおおお
なんて殺人的な光線を放つ旨そうなプレゼンテーションなんだ!

もちろんすぐさまかぶりつく。滑らかなフンギの食感と風味、ドライトマトの塩気と酸味、そしてサルシッチャの旨味。

旨い~~~
シチリア上陸後の中でこれがベストだ!
しかも会計をして本当に驚いた。なんと最初に頼んだのが2ユーロ、後のてんこもりが3ユーロ程度だ!500円前後である。昼間のアンティカ・マリーナの3人で120ユーロと比べたらいけないのだが、、、いやぁ、これはノックアウトだ!実に最高ではないか!

屋台の兄ちゃん達も相当にノリが良い。僕が喜んで喰いまくって写真を撮っていると、ポーズを撮ってくれるし、遊んでくれた。

「ホテルで働いていた時、月末になると金が尽きてくるから、ここでパニーニ食べて夕飯にしたもんだよ。でも、旨いでしょ?こういう勢いがあってオペレーションが可能なのを日本でもやりたいんだけどね!」

僕はパニーニという食べ物を見誤っていた!上品なホットサンドイッチかと思ったら、違うじゃないか!これは労働者向けの激ウマなんでも挟みサンドである。日本で言えば、どんぶりご飯の上にいろんな惣菜をのっけて「何とか丼」と言ってしまう類のものではないか!

カターニャの屋台で食べるパニーニは、食い倒れ仕様の逸品なのであった!
いや大満足。寒空を忘れるほどに興奮してしまったのであった。