やまけんの出張食い倒れ日記

岩手県山形村の短角牛を使った「日本一高い牛丼の会」開催。 この企画、もっと継続したい。


週末の土曜日、のどがイガイガと痛かったのだけど、重要イベントの日だ。先述の通り、岩手県山形村ので短角牛を肥育する生産者・カッキーこと柿木君がぶちあげた「日本一高い牛丼の会」が催されるのだ。

短角牛についてと、山形村については下記、僕が書いている連載コラムをご参照ください。

■日本短角牛を食べて霜降り信仰を考え直してみよう
http://www.blwisdom.com/umai/02/

日本短角種は、東北・北海道の数カ所で生産されているが、その頭数は黒毛和種と比べると圧倒的に少ない。なぜなら、いままで需要が少なく、また霜降りの度合いがどうしても低くなるため、市場での評価が低くなるからだ。つまり、叩かれるのだ。これは本当におかしな話で、短角種は霜降り度合いが低い反面で、うま味を生成するアミノ酸成分の含有量は黒毛和種の数倍になる。だから、黒毛和牛とおなじ尺度で評価することがおかしいのだが、日本の牛肉の格付け方式は一つだけだ。

このため、料理人からは絶大な支持を得ているにもかかわらず、短角種はあまり生産されていないのである。

さて地下鉄広尾駅から歩いて5分程度、香港ガーデンの裏のビルの3F,4Fに山藤(やまふじ)が入っている。


人数限定の会だったのだが、応募がかなりあったようで、3部に分けて実施することになったそうだ。盛会でよかった。

13時に入り、4Fで待機していると、「やまけんさーん」と、生産者のカッキーが顔を出してくれた。

33歳独身、このやさ男ぶりで母牛200頭を飼う、豪腕肥育農家である。

「いやぁ 大変ですよ。子牛価格が高騰続けているのに、肉の値段は上がらないから、僕らは本当に商売になりません。離農する人も多いですよ。」

前にも書いたが、現在、空前の牛肉高騰が続いている。それによって和牛の子牛価格がまず高騰する。一頭20万程度で買えていたのが、今は45万円前後、ヘタをすると100万円を越えるものも出てきている。

その子牛を買って肥育(太らせる)するわけだが、毎日の餌代その他がかかる。出荷体重まで肥育したものを出荷するわけだが、このとき、仕入れ価格に見合った金額で売れるかどうか、ということだ。巷には、最高価格をつけた1000万円クラスの牛が取引されただのと喧伝されるが、それはごく少数だ。通常はそんな高値にはならないため、牛肉の高騰が続いていても採算割れしている肥育農家は多いのだ。

「だから、こういうイベントをしていくことは大切だと思ってるんですよ。」

通常、肥育農家は出荷した後の肉の流通に関わることが出来ない。さすがに牛一頭になると、と畜・解体をした後、枝肉段階のものを自分で売りさばくことは難しい。けれども、彼は自分でなんとか短角牛の素晴らしさを知ってもらうための場を創り出そうとしている。

それに呼応したのが、大地を守る会の直営日本食レストランである「山藤」であるというわけだ。

「おっ やまけんさん どーも!」

と階段を下りてきたのが、山藤の料理長・梅さんだ。

青空をバックに、スゴイ写真になってしまった(笑)
梅さんは、この山藤を立ち上げる前の3年間を岩手県山形村で過ごした。町役場の臨時職員として、町内の食文化をフィールドワークして回っていたのだ。だから山藤では山形村の素晴らしい伝統食が、形をかえて出てくるのだ。この梅さんに連れられ、僕は昨年に山形村に食い倒れの旅に行った。その中身は今後、まとまった形で記録にしていきたいと思ってまだとってあるのだ。どういう形で世に問うか考え中。

それと今回の牛丼に使う米は、これまた新潟県の生産者である長平(ちょうへい)君のもの。大地を守る会の生産者会員でもある彼の生産する米は減農薬・無化学肥料の特別栽培米である。

そう、今回の企画は、「全ての食材の素性がわかる」というところに主眼があるのだ。

「それでは、食事を始めたいとおもいます!」

山藤の前田店長とカッキーと長平君の挨拶があり、いよいよ料理が運ばれる。
ちなみに「3000円の牛丼」というと単純に高いと思われるだろうが、実際には牛丼の他に、前にも買えたとおり「まめぶ」という山形村の素晴らしい郷土料理の椀ものがつき、小金井の生産者の白菜浅漬けが食べ放題、衣かつぎの揚げ物、長平君のコシヒカリのおにぎり、そして平飼い鶏の卵がつく。つまり完全なランチコースであり、3000円だと安いでしょ?という内容だ。これは、牛肉を持ち込みしてくれたカッキーら生産者の努力によるものだ。

そしてこれが運ばれてきた牛丼。

いつも上品な仕上げをする梅さんにしては、グワッと盛り込まれた褐色の肉!おおぶりに切られたタマネギがまた旨そうである。タマネギももちろん大地の生産者のものだ。
ワシッと喰らう。この牛丼は短角牛のバラ肉を使用している。吉野家で使われるショートプレートと近い部位だと思うが、これがまた実にうま味がギュッと凝縮した味だ。大地で扱っている醤油とせんそう糖という粗糖、そして酒くらいしか調味料には使っていないはずだが、複雑なうま味が肉自身とタマネギ、そして煮汁に染み出ている。

これに平飼卵をかけていただくのである。

この写真ではわかりにくいだろうが、大地の平飼い卵は黄身の色がレモン色だ。おそらく初めて見る人はその淡い色に驚くだろう。よくオレンジ色の濃い黄身をもった卵をファーストフード店等でみるだろうが、あれは栄養価にはなんら関係がないのでご注意を。赤みがかった濃い黄身のほうがイメージとして美味しそうだからつくられているだけだ。黄身の色は簡単にコントロールできる。パプリカ色素など赤みの濃い餌をやればいいのである。

卵をジャッジする場合にはそれよりも、割った卵を横から見たときに、白身の部分が2段に盛り上がっているかどうかを見て欲しい。白身がデロッと平板に拡がってしまうようなものは生命力が弱く鮮度が悪いことが考えられる。

この平飼い卵を混ぜて食べるとまた格別。すっかり堪能した!

満員のお客さんもみな満足している模様。井のなかの工藤ちゃんとアルキメーデの重も一緒に来ていて、カッキーに紹介したのだが、「ぜひ短角牛を使ってみたいね!」という言葉が出た。

いずれ、短角牛を食べるオフ会をやっても面白いかな!


梅さんが次の部の準備をしていたのだが、大量の短角牛肉にせんそう糖をふりかけ、よく揉み込んでいた。

「最初に砂糖を揉み込んでおくと、あとで肉を煮込んでもしょっぱくならないんですよ」

そうなのか! 早速家で試してみよう!

会は両生産者の挨拶で終了。

二人にとって佳い会になっただろうか。

さて
ここからが本題だ。
毎日新聞等、各社が取材にきていたようで、記事発表があった。

■[牛丼]東京の料理店が一杯3000円で限定販売  一杯3000円の「日本一高い牛丼」が25日、東京都港区の日本料理店「山藤」で、80食限定で販売された。脂身の少ない岩手県産「短角牛」を、新潟県産コシヒカリの新米と合わせた一品。双方の生産農家らで作る「大地を守る会」が、PRのため企画した。「おいしい」と好評だったが「高すぎて手が出ない」の声も。 (毎日新聞)

http://news.livedoor.com/trackback/2769589

今回のイベントは僕が企画したわけではないので口を出さなかったが、ちょっと「説明不足」の感がしたのだ。このイベントで伝えたいことは「高い牛丼」や「美味しい」というキーワード以外に重要なものがある。それが伝わる仕掛けがなされていなかった。

何が一番重要だと考えたかというと、まず一つはこの食卓に上がっている全ての食材の素性が明らかであるということだ。牛・米・野菜から調味料に至るまで、大地を守る会の生産者会員が生産したものである。

次に、3000円という金額が何を象徴するかということ。「高い牛丼」というのが「高級な」という意味にとられてしまうのは危険だ。そうではなく、ここで最も重要だったのは「国産の飼料を食べさせて育った牛肉を牛丼にするといくらくらいになるのか」ということと、それを消費者は受け入れられるのか?という問いなのだ。

新聞社の記事は「おいしい」と好評だったが「高すぎて手が出ない」の声も。」と締めくくられているが、これでは情報不足だと思う(むろん今回の記者さんは予備知識が無かったと思うので仕方がないことだが)。

山形村の短角牛は、なんと全国的にもまれなことに、国産の飼料のみを食べて育っている(これは大地を守る会の食肉として規定されているから実施していることで、他の産地で肥育されている短角牛はこの限りではないのでご注意を)。通常、牛の肥育はコーンを食べさせるが、その99%が輸入飼料である。輸入飼料は安いが、遺伝子組換え・ポストハーベスト等の問題がどうなっているか、完全なる状況把握が難しい。では、そうした安全性や地産地消性を全て担保された牛丼を創るにはいくらくらいかかるのか、そしてそれを消費者はどう感じるのか、ということが今回のイベントの大きな意味だと思うのだ。

実際には、流通の仕組みさえできれば山形村の短角牛の牛丼が3000円ということにはならないと思う。しかし現状ではその評価の仕組みさえないので、3000円という価格が妥当かもしれない。

「生産者の顔が見えて安全で、美味しくて、しかも安いものが食べたい!」

という無邪気にみえる消費者の希望は、しかし生産者の生活を破壊し、食の外部依存をより増加する。3000円の牛丼と300円台の牛丼、この振幅のどのレベルを、自分は選ぶのか。そうした問いかけがこのイベントの本旨であったように思う。

このテーマはもっと深く追っていきたい。
いずれ、短角牛をテーマにしたオフ会をやろう、と強く感じたのであった。