やまけんの出張食い倒れ日記

食品ロス関係の知識は、この二冊を読んでおけばとりあえずOK!今後の日本の食に関する有力論者となるであろう井出留美さん「賞味期限のウソ」と、気鋭の研究者・小林富雄「食品ロスの経済学」

賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか (幻冬舎新書)
賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか (幻冬舎新書) 井出 留美

幻冬舎 2016-10-28
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ココイチのビーフカツ事件でクローズアップされた食品ロス問題。それに付随して、食品流通業界に根付く悪しき慣習である、賞味期限の3分の1ルール問題などがようやく一般の知るところとなりつつある。

そもそも消費者が賞味期限や食品製造と消費・廃棄の現状についてよくわかっていないことと、小売・外食業者が「なるべく消費者に文句を言われないように」と振る舞うことで、この国の食品ロスが膨大なものになっている。だから、消費者にもこれらのことを識ってもらわないと、この国の食品ロスはなくならない。

そのきっかけになるとても佳い本が発刊された。食品ロス問題をわかりやすく、しかもその現場にながく身を置いていた井出留美さんによる本だ。

一読したが、お見事と言うほかない。井出さんは数年前の食生活ジャーナリストの会シンポで講演をしていただいたのだが、実にわかりやすい語り口で、実務上経験してきたことを披露してくれた。井出さんは栄養系の大学を出て、世界的な食品企業であるケロッグで働いていた人だ。その後、食品ロスに取り組む活動をしつつ大学院で博士をとったという、もうこんな人を待っていた!というプロフィールを持つ。

この本は新書ということもあり、食品のことに明るくない、まったくの一般人でも賞味期限や食品ロスの構造がどのようになっているかを理解することができる内容になっている。まずはこれを読め!という、ぜったいの推奨本である。

惜しむらくは、本のタイトルだ。別に賞味期限はウソをついてないのだから、このタイトルはあまりよいものと思えない。でもこれは井出さんのつけたタイトルじゃないね。おそらくこれは版元の幻冬舎が「こんなタイトルのほうが売れるぞ」という視点でつけさせたものだろう。きっと井出さん自身は副題の「食品ロスはなぜ生まれるか」をタイトルにしたかったのではないだろうか。版元の営業的思惑を呑まざるを得ない著者の立場は、よーくわかります。幻冬舎ももうちょっと考えてやれよな。山下一仁さんの「バターが買えない不都合な真実」だってなにが不都合な真実なのか、竜頭蛇尾としかいいようのない内容で、タイトルで買った人はちんぷんかんぷんだったと思うぞ。

さて、井出さんのこの本を読んで、さらに食品ロスについて深く識りたい、とくに日本だけではなく世界の各国ではどんな食品ロスがあり、どんな対策をしているのかということまで拡げてわかりたいという人には、この本がお薦めだ。

食品ロスの経済学
食品ロスの経済学 小林 富雄

農林統計出版 2015-05
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著者の小林富雄君とは仕事を一緒にしてきて、個人的にも気のあう仲間だ。実は十年ほど前、彼は僕と一緒に働きたいと申し出てくれたことがある。その頃はスタッフを雇う余裕がなかったので、単発で仕事を受けてもらったりしたのだが、それ以来よく仕事を分け合っている(笑)

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かれは、大学時代に食品ロスの研究で博士をとり、その後は青果物流通の業界に入り、その後はニッチ業界の市場規模調査などで有名な某シンクタンクに籍を置きつつ、学術の世界に復帰した男だ。二〇年前にすでに食品ロスの研究をしていたのだから、慧眼としかいいようがない。

その彼は今、愛知工業大学で食品ロスの研究をしている。今回のココイチビーフカツ事件でもテレビでコメントしていたこともあって、名前を識っている人もいるかもしれない。

本書は、食品ロス問題を横断的にとりあげ、データ等も豊富に盛り込まれているので実に内容の濃い本なのだが、標題の「経済学」からみてとれるように、学際的な内容でもあるので、井出さんの新書にくらべると少し気合いを入れて読む必要がある。だが、正確な数値データが各所に記載され、彼自身が足を運んだ外国の状況がよくわかったりするので、貴重な内容になっている。

国が違えば、消費の形も違うので、食品ロスの品目がかわったりするのが、とても面白いのである。ぜひ一読をお勧めしたい。

ちなみに彼は飲食店で食べ残した料理を持ち帰るための容器、いわゆるドギーバッグを普及するためのNPO組織の顧問的立場でもある。上の写真で彼が組み立てているのがそれだ。

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フランスでは今年、飲食店にドギーバッグの常備を義務づける法律が施行された。日本では衛生面での懸念から、飲食店は積極的に持ち帰りをさせないようになっている。衛生観念を優先させるか、食品ロスの削減を重視するか、それは私たちが決めなければならないことだ。さあどうしましょう?そんな議論のきっかけになる話題が満ちた本である。

なお、専門料理2016年5月号に掲載した僕と小林君との対談連載では、本に載っていないアップデート情報も多々載っているので(フランスの法律の話しなど)、ぜひバックナンバーもお買い求めいただけると嬉しい。

月刊専門料理 2016年 05 月号
月刊専門料理 2016年 05 月号
柴田書店 2016-04-19
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ということで、このふたりの本を読んでおけばとりあえず食品ロスの問題はよくわかるはずだ。どちらも強く推薦しておく。