やまけんの出張食い倒れ日記

白菜漬物O157中毒が牛糞堆肥に由来するものだとして、牛の全頭検査を要請するのはナンセンスじゃないの?正しい堆肥の作り方をすれば問題は起きない。全頭検査より堆肥化の指導を徹底させることの方が重要で有効なんじゃないかな。

札幌に到着。なんだか、全然涼しくなくて愕然としています、、、北海道人にとっても蒸し暑い日なのだそう。明日から涼しくなってくれ、、、

さて、JGAP協会の武田君のツイートで識ったのだけれども、先頃おきた北海道の岩井食品の白菜漬物で発生した集団食中毒事件について、佐賀大学の教授がその原因となったO157は牛糞堆肥に由来するものだという可能性を指摘しているとのこと。

まあ、それはそうでしょう、大腸菌だし、生きている牛のいくばくかは保菌していますからね。

しかし、だ。そこで、牛の全頭の保菌状況を全頭検査すればいい、などということを言っているらしい。本当にそれ現実的?一体そんなことのためにどれくらいのコストがかかるのでしょう?

もうひとつ言うと、これは巧妙な「有機農業つぶし」ではないのかね。化学肥料であればo157に汚染されませんよ、という、、、なんて考えるのは、うがった見方だろうかね?

昔から、有機農業を推進したくない派の人たちは、ネガティブキャンペーンをする際にいろいろなことを言ってきた。たとえば「有機肥料のやり過ぎで窒素過剰になりやすく、硝酸態窒素の集積が多くなりやすい」というのはよく聞かれる。けどこれ、おかしい論理だ。化学肥料だってやり過ぎれば窒素過剰になる。というか、お茶の産地では化学肥料のやり過ぎで、河川の窒素濃度が異様に高くなるということが多発している。つまりリスクは化学農法だろうが有機農法だろうが同じで、問題は「うまくコントロールしましょうね」ということなのだ。

そして今回の堆肥に由来するo157も同じだ。そもそも堆肥というのは、動物の糞や稲わらや草などを堆積し、発酵させたものだ。そう書くと簡単だが、実に複雑なプロセスで作られるものだ。僕は高校時代に働かせてもらった有機農場で、乗馬クラブの馬糞をトラックいっぱい持ち帰り、堆肥の山に積み込む重労働をえんえんさせられていた。わらと草と馬糞を、4本の杭を打った中にどんどん敷き詰め、最終的には1.8メートルくらいまでの高さに積む。材料に水分が十分になかったら、しっとりするくらいまで水をいきわたらせる。そうすると動物糞が発酵のスターターとなり、70度くらいまで一気に第一段階の発酵をする。湯気がもうもうとあがり、手を突っ込むと熱い。その熱で雑草の種や雑菌類が死滅する。

ある程度温度が収まったら、「切り返し」をする。いままで上になっていたところを下に、外に出ていたものを内に入れ替えるのだ。そうしてまたギュウギュウと踏み固め、嫌気性発酵を促す。これを何回か繰り返していく内に、発酵熱はだんだんと下がっていき、ワラや雑草の組織も崩れて、だんだんと土のようになっていく。そうして夏場なら半年くらい、気温が下がってからだと1年くらい置いて、さらさらの土状になったものを完熟堆肥として畑に施していた。

さて、問題はこうした丁寧な堆肥生産ばかりやっていられないということだ。いま、しっかり管理されている有機農場では、堆肥生産には自動切り替えし機(正式名称がわかりません)があり、数10トンの堆肥を年がら年中切り返ししながら発酵を進める。けれども、もちろん堆肥をまじめに作る人たちばかりでは無いだろうから、今回のように有害菌を死滅させるまでに発酵を進められないまま、完熟堆肥として出荷しているケースもあるのだろう。

最初の話に戻るけれども、この、完熟していない堆肥を掴まされないために全頭検査をするということと、いやいや、しっかり堆肥を作りましょうということで指導をすることの、どちらのほうが発展性があるか。僕は後者だと思う。だいいち、糞を利用する牛となると、乳牛も肉牛もすべて含むことになる。その全頭検査って、、、肉牛だけでも全国に200万頭いるんですけれども、、、

漬物業者やカットサラダ業者はこれから、仕入れる素材の生産ほ場について精査し、とくに堆肥の利用についてはその製造段階についてもチェックする、ということが先なんじゃないのかな。

最後に、堆肥は農業に必要なものです。化学肥料には窒素リン酸カリなどの肥料成分はあっても、有機質がないため、有機質の補充をしないでいると土壌の物理性が損なわれていきます。堆肥には畜糞を使うものと、植物性の原料だけで作るものがある。近年では後者の植物性堆肥のほうが、肥効は低いものの、できる農産物の品質は高くなるという人が多く、僕もそれを実践する篤農家に何人もあって来た。

しかし、多くの日本人は牛乳を飲み、肉や卵を食べる。畜産が必要なのであり、そこから出てくる糞尿は適切に処理されなければならない。有害な放射性物質のようなやっかいなものとは違って、糞尿は適切に処理すれば植物を育てる肥料になる。ならば、それを利用するのが正しい。そうでないと、糞尿に含まれた窒素分はただ単に環境を汚すこととなってしまう。

家畜糞尿をベースにした堆肥を嫌う人は、その餌に輸入コーン(遺伝子組み換え作物も含む)が含まれていたり、医薬品が残留している可能性を指摘する。確かにそのリスクはある。だから僕は、できるだけ自国で獲れる飼料作物を使う畜産スタイルに少しずつでもいいから変えていくように、関係各所に進言をしている。そういう立場からみて、今回のように農業への堆肥の利用に対して色眼鏡で見られそうな扱い方をメディアにされることに、強い違和感を感じる。

あ、でも本稿は、獣医師の友人達になにも聞かずに書いているので、もしかすると全頭検査のほうが現実的なのかもしれない。時間を見て、その辺も調べてみるとします。