やまけんの出張食い倒れ日記

静岡駅周辺のうまいもん その3

 過去に書いた静岡編の一番最初の記事を掲載し忘れていた。SAVAさん、これだけあれば困らないと思いますよ。感想よろしく。

2002年3月22日

 たった今、新幹線で静岡に向かっている。本日はあるお茶産地の生産者グループに対して実施しているコンサルの最終報告会である。
 静岡には、農業関連の仕事をしている知人が多く、そうした人が私を講師として呼んでくれたり、コンサルの仕事を紹介してくれるため、接点が多い。また、そうした知人がほとんど全て食に関心の深いため、県外人である私に静岡の美味い物をこれでもかというほど食べさせてくれる。おかげで、静岡についてはその辺の人よりは通じていると思う。

 静岡というと、ほとんどの人が反射的に「お茶」を思い浮かべるだろう。事実、私の仕事としての静岡との関わりはお茶関連のものが多い。私がまだ大学院生だった頃、静岡市内にあるお茶メーカーとお付き合いができた。深蒸し茶全盛のこの時代に、あえて若蒸し(業界では「伸び」という)の本物志向のお茶を前面に押し出すそのH社の最高級茶は、かの高級スーパー紀伊国屋にて一番高い価格をつけている(なんと100g5000円である)。このH社の専務が、船乗りになろうと水産大学にいったのにもかかわらず家業の都合でお茶の道を目指すこととなった快男児であり、かつまた食道楽なのである。私の静岡美味いものの旅はこの専
務との連れ食いから始まる。
 当時まだインターネットの普及が始まったばかりの頃、このH社のWebを立ち上げるべく、泊りがけで毎月若手社員に指導にいった。3度の飯より食べることが好きな私のために、専務は本当にいろんな美味しいスポットに連れて行ってくれたのである。

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■とんかつ「かつ好(よし)」
特製ロースカツ定食 2500円(当時)

 中でも最高だったのは、とんかつの名店「かつ好」。静岡と清水に店があるが、最近では恵比寿ガーデンプレイス内にかっちょいい店を出しているので有名である。ここに入ったら、トクロー定食(特製ロースカツ定食2500円!)を食べるべし。包丁の入ったかつが銅製の網にのせてやってくる。それをソースを使わず、店独自に調製した塩でいただくのだ。今でこそこうした食べ方は珍しくなくなったが、当時初めてこのとんかつを食べて私のとんかつ観は抜本的見直しを要することになったのであった。豚特有の獣臭みを抑えながらよい意味での香りはなくさぬように飼育された豚肉を、あくまで軽くふんわりと揚げている。噛むと肉のジュースが口中に染み出てくる。塩を使うことで甘味が引き出され、これまた店で調製された芥子をつけることで一層味が引き締まる。元来とんかつにはソースをどぼどぼとかけたいのだが、このかつはそれを許さない凛とした佇まいがあった。
「学生時代からよくここで食べてたからここのオヤジはよく知ってるんだ。今は一番いい職人が○×店にいるから今度連れてってやるよ!」
と専務は言っていたものだが、数年後の最近、「いい職人が辞めて味が落ちたからもうあまり行ってない」とのことだった。あのカツがまた食べたい、、、その後、恵比寿店に何度か足を運んだが、確かに「あの味」ではなかったのである、、、

■しずはた蕎麦 静岡市内
(詳細わからず)

 もう一つ忘れ得ぬ店がある。静岡の郷土の陶芸に「しずはた焼き」がある。市内に、このしずはた焼きの器でそばを供する小さな店がある。何処にでもあるようなその気取らない市中の蕎麦屋で「しずはた蕎麦大盛り」を頼むと、しずはた焼きの大きな鬼の面を器に、蕎麦が盛られてくる。この店のスタイルで素晴らしいのは、つゆと薬味である。薬味には白葱、青葱、ゴマ、天かす、鶉の卵が付いてくる。これをつゆに投入しどろどろになったところに麺を「和える」。これが素晴らしく美味いのだ!以来、家で蕎麦をゆでる際には、この薬味が私の定番に
なった。

 しかし今回は新たにチャレンジをしようと思っている店がある。それは前回そのお茶メーカーの営業の人に聞いたとんかつ屋である。何でも、そこの「特上」は、皿の上にとにかく肉が食いきれないほど載ってくるというものらしい。

「とにかく肉を食べたぁ、って気になりますヨ!やまけんさんでもあの特上を食べたらばっちりなんじゃないですか?」

という。で、あれば絶対に食べよう!と決心しているのであった。
 そうこうしているうちに静岡に着いた。これから山間部に入るのでしばらく筆を休める。

 、、、最終報告会の午前の部、終了!ここ静岡の新間地区には、素晴らしい中華がある!それは、満留賀(みるか)という店なのだ!私はこの産地に来るたび、お願いしてここに昼食に来ている。はっきりいって静岡市街から30分ほど山に入ったところにある、完全に田舎(失礼!)の川沿いの店である。知らない人もいると思うので言っておくと、静岡という土地は、中心部である駅から10分も車を走らせるともう山と川、、、である。私の通う産地は新間という地域にあるが、どだいここの街道筋に中華の店を出してもなぁ、、、というロケーションである。
 しかし!この満留賀、むちゃくちゃに繁盛していて、昼なんぞは時間をずらさないと入れないくらいに四方八方に名声がとどろき渡る店なのだ。店構えは小さくて汚いその辺の中華屋なのだが、店内の厨房はビカビカに磨かれ、使い込まれている。大火力コンロは4口ほどあり、熟達の料理人が鍋を振っている。聞けば、この満留賀の店主は、大ホテルの中華部門でコックを長年やっていたのだという。
 その料理は本当に驚嘆の味と価格なのだっ!!

■満留賀 静岡県新間
坦々麺 550円
上海焼きそば 550円
五目あんかけご飯 650円
鶏とカシューナッツの炒め物 650円
セットB レバニラ炒めセット 700円
セットD 豚の角煮セット 700円

 この値段を見よ!この店のロケーションがなせる技であろうが、この価格で出てくるのは、本格中華料理である。横浜中華街の名店のレベルと大差ない技術がおしげもなく使われている。特に坦々麺の美味さは特筆に値する。ちまたの日本風坦々麺は、チーマージャン(ごまのペースト)がやたらと使われて味のりんかくがボヤケタ坦々麺で、あまり美味いと思うものに出会ったことが無い。しかし、この店の坦々はスープの味ベースがしっかりしている上にチーマーと肉味噌が乗っている。肉味噌を崩し溶かしこみながら麺をすすると、きっちりと味の輪郭が浮き上がりながらゴマの香りがするのである。美味いのだ。これが550円はないだろう。そして鶏のカシューナッツ炒めを食べて、その技術の確かさと食材への妥協のなさ、そして価格との落差を実感し、気が遠くなるのである。
 この店で私は毎回確実に2人前は食べる、、、麺とご飯ものと単品。本日は夜もあるしとんかつもあるし軽めにしよう!と思ったのだが、結果的にレバニラ炒めと上海焼きそばを頼んでしまった。カシューナッツ炒めはみんなで頼んだがみなおなかいっぱいと言って残しているので食べてしまった。産地の人手、私より1つ年下の石原さんがご飯を大量に残しているので、ご飯食べ残しを許せないやまけんとしてはつい引き受けてしまった。都合3人分だろうか、、、夜が思いやられるのである。

 そして最終報告会はバンバンに終わり、夜の打ち上げに進むのであった。とんかつはさすがに本日はムリだろう。まずは産地の方がいきつけの活け魚料理の店へ。

■克巳(かつみ) 静岡市羽鳥
石鯛お造り・ぼたんえび・ホタルイカ刺身・しめさば・かつお
黒はんぺんのフライ
黒はんぺん焼き
フライ盛り合わせ
すき焼き
鯖のバッテラ

 多くは言うまい。私は本気で静岡への移住を考えてしまった。なんで街中の家族経営のこんな小さな店で素晴らしい料理が出てくるのだろうか、、、
 活け魚料理は美味くない(いけすの中で身が細った魚が出てくることが多い)といわれるが、この店はなんとオヤジが船を持っており、底引き網で漁をしているのである。料亭にも魚を売っているらしいが、このオヤジ(ひょうひょうとした、ごくふつーのめがねオヤジである)はめっぽう魚好きらしく、いいネタは自分の店の水槽に持ってきてしまうのである。石鯛、おいしゅうございました。ホタルイカ、新鮮で目が飛び出そうになりました。そしてお酒は、静岡が誇る磯自
慢。端麗すぎて食中酒っぽくはないんですが、好き。
 そして私の大好きな黒はんぺんのフライ。静岡といえば黒はんぺんである!これは声を大にして言いたい!黒はんぺんとは、江戸前の白いはんぺんとはまったく異なる。いわしなどの小魚をすり身がベースとなったはんぺんで、どちらかといえば愛媛の名産であるじゃこ天に近いものがある。これの食べ方で私が一番すきなのが、フライである!パン粉をはたいて揚げた、湯気の上がる黒はんぺんフライにソースをどぼどぼとかけて食べるのである。底力のある黒はんぺんだからこそ、こんなタフな食い方ができるのだ!ちなみに私はこのフライにかけるには中濃ソースがよいと思うのだが、地元の人たちは「ウスターが定番じゃ!」とのことであった、、、
 そしてその後になんとすき焼きが出てくると言う、??という料理の展開。しかしこれがまた、素晴らしい肉が出てくるのです。私も肉牛農家にたくさん友人がいるので、牛肉のグレードは判別つきます。最上クラスのA5というグレードの肉がきっちりと出ていました。この時点で私は、本日はこの店で打ち止めでいいや、、、と思い、食いまくりました。
 そして最後に出てきたバッテラ。鯖の切り身がちょこんと寿司飯にのっかっているような物とは違います!大型の鯖の半身がご飯を抱きこむような形の変則バッテラ!つまり、外からご飯が見えないのです!切り分けるとご飯が身に抱き込まれているという、贅沢なシロモノ。しかも酢で締めすぎていないから新鮮な鯖の切り身感を存分に味わえるのである!ヤラレタ、、、

 さすがに私も満腹。次にもう一軒、県職員の知人の方々が集まっている二次会の店ではおとなしくしていました。海老しんじょを種に酒を飲む飲む、、、
 しかしそこを出た後に私は米の飯がくいたくて仕方なくなってしまったのです.お茶漬けかなんか、、、といったら県の方がつれていってくれました。隠れ家のような小料理屋(もう場所もわからず、二度といけないと思う)。ここの料理が美味くて、結局どんぶりめしにいわしの酢〆め、じゃがバター、茄子の味噌炒め(絶品!)。穴子の煮物があったのでこれでどんぶりめしおかわり。

これにて打ち止めとなったのでした。超ド級のとんかつは翌日に持ち越し!
(つづく)