やまけんの出張食い倒れ日記

蓼科・板橋家の宴で「やっと旨い馬肉を見つけたんだよぉ」の桜鍋を堪能した

 板橋夫妻といえば、このblogにも数回登場しておられるが、夫・イタバシマサヒロ氏は名高い漫画原作者(あの「BOYS BE…」の原作者なのだ)、妻・神澤柚実子氏は居酒屋紀行家であり、酒肴研究家(つまり呑み助ということダ!)である。しばらく前にこのお二方の会社であるSHUWATCH(シュワッチと読む)へのリンクを「友人達へのリンク」に足してある。

■SHUWATCH
http://www33.ocn.ne.jp/~boysbe/index.html

イタバシ師匠はビッグコミック増刊の連載「ニッポン元気者列伝」を書いているが、これはプロジェクトX的な、元気に生きてる、身の丈サイズの偉人伝という感じで面白いので、みかけたら立ち読みしないで買うこと!

 さてこのご夫妻とは、一緒に蔵本を廻ったり、ハム作りをしたりしているが、なんといっても信州・蓼科にある彼らの家が最高なのだ。どこからみてもデザイナーハウスで、テレビの「渡辺篤志の建もの探訪」で「ほぉ~広々とした空間。いいですねぇええ~」 とかなんとか言われてしまいそうなシンプル・ゴージャスな家なのだ。

「蓼科はもう寒くなってきたよ。避暑しに行こうよ」

とお誘いを受けたのは実は数ヶ月前なので時間差になるが報告しておこう。

メンツはいつもながら僕の兄弟分の工藤ちゃんとその側近・浅見君。それに今回はスペシャルゲストとして、島根県にある桑原酒造の専務である大畑さんが参加されるのだ!桑原酒造は純米酒「扶桑鶴」を醸す蔵である。純米酒マニアなら知っている、島根の素晴らしいお酒なのである。大畑さんは竹鶴の敏夫専務や石川杜氏とも昵懇にしているので、蔵にもお邪魔し、仲良くさせて頂いている。

板橋家に着く頃にはすでに陽がかげり、いいかんじに黄昏れてきた。

「この辺の地ビール、高いんだけど旨いんだよな」

とイタバシ師匠が注いでくれる。

まずは板橋家の誇る酒肴研究家であるカンちゃんのお手製酒肴が、一斉に立ち並ぶ。この人は、一定以上の酒を呑むと鼻が「ぶひっ」と鳴るという奇癖を持つ女性で、美人であり料理が激ウマ!

特に彼女の作る煮豚のみそ漬けは最高なのである。煮豚を特製の合わせ味噌に漬けておくだけと書いてあるが、この塩梅が最高で、味噌と豚だけで何倍も酒を飲めてしまうスーパーおつまみなのである。

この煮豚味噌のレシピは、先にあるShuwatchのWebの中にある「うちごはんレシピ集」(http://www33.ocn.ne.jp/~boysbe/kondate/kondate.htm)にその内掲載されるであろうと思われる。

さてこの日は料理もスゴイのが控えているのだが、酒もすごい。大畑専務の扶桑鶴はもちろん、酒マニアには垂涎といわれている「大七」の幻の酒ならなにやら。それを、純米居酒屋「五穀家日本橋店」をスターダムにのし上げた張本人である工藤ちゃんが、お燗番として燗をつけてくれるのだ!うーん素晴らしい!

日本酒の燗をつけるということについては、僕のような門外漢が書くようなことではないと思うが、とにかく純米酒は燗をして飲むのが最高に旨い酒だ。少なくともキンキンに冷やして旨い酒というのは、逆に言えば常温では呑みにくい酒とも言える。フルーティな吟醸香ばかりが立ち上る酒は食中にはとても飲めたもんじゃない。米の香りと旨味が立つ、純米ならではの酒が最高だ。その力を最大限に引き出すのが「お燗」という技術である。

工藤ちゃんは徳利(とくり)や金属製の「ちろり」を使いながら、酒質によって最適な温度を計りながら燗をつけていく。

「この酒は強いので、温度高めの熱燗にして、それを少し燗冷ましにして呑むのが旨いですよ」

というように温度を使い分けているのだ。このような提案ができる居酒屋が日本にどれくらいあることか。早く工藤ちゃんには次ぎなる居酒屋を出店して欲しいものだと思う。

まずはその幻の大七の燗でスタート。

たしか20年近く経つ古酒だ。ただしこれは今ひとつ僕の好みには合わなかった。保存方法の問題かも知れないが、古酒然とし過ぎた熟しすぎの感がある。

そして待ってましたの扶桑鶴である!

本日のこの特別純米酒、酒米は佐香錦(さかにしき)という、地域の酒米を復活させたものを使っている。

この酒米を使った酒は、静かに華やかな味と香りになる。山陰・島根のどんよりとした天候の中でも、この扶桑鶴の燗酒を呑めば、へその奥にポッと暖かな灯が灯る、そんな穏やかな酒だ。

これを、イタバシ師匠が「たけーんだぞ、この酒杯!」

というお猪口でいただく。なんでもこれ一客で3万円するそうだ(!)

やはりこの日は扶桑鶴。大畑専務も、最初から最後まで変わらぬピッチで呑みまくる。

大畑さんは島根の男、という感じで、本当に腰が低く控えめな方だが、生み出されるものは本当にスゴイ。桑原酒造にうかがった時、大畑さんの父君(つまり社長)のお話しで、

「まあ、地元向けに醸造アルコールの入った本醸造も造りはしますけどね、やっぱり純米酒が一番旨いですよ!」

と力強く仰っていたのが強く印象に残っている。その系譜がこれからも受け継がれていくだろう。

さてこの日の酒肴は本当にものすごい種類が並んだのだ。山芋ざく切りのイクラのせ、餃子、鯛の酒盗和え、工藤ちゃんの自家製コンビーフ、浅見君のスペアリブ、、、

これでもかとばかりに皿が並んだその後に、メインイベントである。

「いやぁ、、、やっと見つけたんだよ、旨い馬肉を! 信州っていや馬肉がどこにでもあるから、旨いのが買えると思ったんだけど、大して旨い肉はないんだよ。で、ある時、ある場所を通りがかって小さな看板を観て『ん?これは、、、』ってピンと来たんだな。それが正解。無茶苦茶高いんだけど、無茶苦茶旨いんだよ!」

そう、桜肉である!みよこの芸術的な桜肉の肉塊を!こちらが馬刺用。

こちらは桜鍋用だ。

おそらくこれだけで1万円以上しているはずだ!うーんイタバシ師匠、ゴチです!

まずは馬刺を堪能。この霜降り、見事だ。乗馬やってる人で馬肉食べない人が居るが、こんなに旨い肉を食べないなんて勿体ないな。

醤油に浸し口に運ぶと、トロリと溶けていくような感触。しかし肉としての旨味は濃い。牛肉にある独特のクセもなく、実に滋味深い味わいだ。

「でもさ、こんなに料理食った後にホントに鍋やるの?おまえらオカシイよ、、、」

いや、やるのである。桜鍋に向けて、僕の目はギンギンなのであった、、、

神澤さんの桜鍋は実にタレの吟味がされていた。詳細はまた彼女がWebに書かれると思うが、味噌と割り下を配合して、絶妙な甘辛味噌ダレで味を付けるのだ。鍋に馬肉の脂をひいてネギを炒め、肉をじゅっと焼き、すぐにこの味噌ダレを回しがける。

たちまち周囲は鼻孔をくすぐる味噌しょうゆの香りで充満。

「もう食ってイイ?食ってイイかな?」

と逆上気味の僕が真っ先に肉をいただく。溶いた卵にざぶんとくぐらせ、一口にほうりこむと、これはもう悦楽以外の何者でもなかった!

やはりどう感じても牛肉より旨いぞ!肉の味わいや濃さ、そしてくどさのない後味は、いくらでも食べられてしまう。味噌と醤油の甘辛ダレという濃厚な味付けなのにいくらでもいけるというのは、それだけ肉がくどくないということだ。

「ご飯ご飯、ご飯お代わり!」

この日おれはご飯3杯食べた、、、

この後さらに、工藤ちゃん持参のビビン冷麺を食べ、さすがにもう食えん。

しかしマジで旨かった桜肉。あの秘伝の味噌ダレははやくカンちゃんのWebにも公開して欲しいものである。

これから冷え込みがきつくなりそうな蓼科。でもそれに比例して、旨いものに満ちてくるはずだ。次ぎの蓼科行きが、待たれる秋口なのであった、、、