やまけんの出張食い倒れ日記

良い素材と美味しい料理を楽しめる店はどこだ? 広尾「山藤」では旨い短角牛が食べられるゾ!

野菜の仕事をしていると、良く訊かれる質問がある。

「美味しくて安全な野菜が食べられる店を教えて!」

というものだ。そしてこの質問ほど僕を困らせるものはない。美味しい野菜、そして安全な野菜を入手する方法を教えるのは難しいことではない。しかし、それらを使用していて、かつ料理が美味しいといえる店は、東京にもそうそうは無いのだ。これは非常に悲しいことで、プロとしては恥ずかしいことなのだが、無いものは無いので「う~ん」と唸って沈黙するしかなかった。

で、一つみつけたのである。

まず「大地を守る会」という組織をご存じだろうか。7万人以上の消費者会員を擁する専門流通業者だ。そして、大方の宅配業者とは違い、その取り扱う商品はすべて厳密な基準に従って生産されたものである。有機農産物を規定する有機JAS法という法律があるのだが、その成立する遥か昔から活動を続けてきた、この世界のトップランナーである。あ、そういうこと以外にも、例えば昨年話題を呼んだ、電気を消してろうそくに灯を灯すという「100万人のキャンドルナイト」というイベントがあったが、あの事務局をつとめたのが大地なのだ。キョンキョンとかが出たんだよな、みたかったなぁ。

■大地を守る会
http://www.daichi.or.jp/

彼らの素晴らしいところは、消費者も会員だが、生産者も同じ会員である、ということだ。どういうことかというと、大地を守る会とは生産者・流通業者・消費者が同じ高さにいる、とする組織なのだ。会員相互にあるべき食の在り方を考え、そして流通を実現していくというスタイルを確率したパイオニアなのである。

大地が生産者や加工業者に課している基準はこの国の有機・特栽(特別栽培)農産物のスタンダードと言ってよいものだ。長年の取組によって研ぎ澄まされてきた各基準を読むと、その合理性や知恵に感心してしまう。そしてスバラシイのは、この大地では第一次産品だけではなく、数多くの加工食品も産み出しているのだ。大地は卸売も大きく展開しいて、一時期は多くの自然食品屋さんや、中小規模の有機野菜宅配業者などが大地からの供給を受けていたものだ。現在も大手百貨店や有名な自然食品店チェーンに卸を続けている。そう、大地とは、生産・流通・消費のすべての立場をもった運動体なのだ。

ちなみに消費者が生産者と直接結びつく、という発想は美しいが、すべての食をそうした点と点で結ぶことは難しい。だから流通という機能が介在している。その流通の在り方は多様で、形や見た目を気にする流通もあれば、味を追求している流通もあり、そして安全であることを第一義にしている流通もあるわけだ。実は、「何を食べるか」という問いかけの底には「どんな流通を選ぶか」という問いが隠れている。それは通常はみえてこないのだが、、、

で、なんでこんなに大地を守る会のことを書くかというと、僕にとって一番信頼が置け、そして関係が深いのは此処を置いてないからだ。

学生時代、僕は情報系のキャンパスの一角を耕し、畑を創るサークルを興していた。学校に1期生、2期生しかいなかった牧歌的な時代だった。毎日休み時間と放課後に農作業をしていたので体重は今より5キロ少なかった(笑)。3期生が入ってきてようやく後輩ができた。その中で一人、藤田 葉(よう)という、綺麗な名前の女の子が僕のところにやってきて、「やまけんさん、そんなに農業が好きなら、私のお父さんを紹介してあげるよ」と言う。ああ、お父さんが農家なのかと思い、訊いてビックリした。

「私のお父さん、大地を守る会の会長なんです。」

ふおおおおおおおおおおおおおお これにはビックリした!
僕の人生、素晴らしい人たちとの出会いに恵まれ続けているのだが、この時もビックリした。有機農業を志すもの達でその名を知らぬ者はない、大地を守る会だ。もちろん紹介してくれ!と拝み倒し、塩浜にある事務所を訪ねた。

長身でスーツの似合う、温厚そうな人がそこにいた。大地を守る会の会長、藤田和芳さんだ。有機農業の世界は昔、かなり破天荒な人が多いときいていたのでちょっとビックリした。彼は一介の学生である僕を歓迎してくれ、なんと2時間も時間を割いて、色んなことを話してくれた。以来、非常に目をかけてくれ、「はやく大地に入れよ」といって頂きながら僕は勝手なことばかりしている。

で、色々とお付き合いしているからよく分かるのだが、この国で良い食材を入手するということを考えた時、大地を守る会はお奨めできる選択肢の一つである。友人から「どこで買えば安心できるの?」と訊かれた場合には、僕は基本的には大地の名前を出している。「でも、高いからなぁ~」という答えが返ってくる場合には「じゃあ、安い野菜をスーパーで買えば?」と返す。そういうことだ。世の中の主流とは違う流通を実現しているのだから、価格が割高になってしまうのは仕方がない。その代わりに違う価値を提供しているのだから、、、

で、前置きが長くなったが、この大地、あまり知られていないが実は、レストランも経営しているのだ!有名なところでいうと、六本木の芋洗坂を下りたところにある「御膳房」という雲南料理の店だ。本格的な雲南料理が楽しめる店は日本にそうないが、ここは超お奨め。科挙米線(かきょめいせん)という名物料理を食べたら、絶対に忘れられないこと請け合いだ。

もう一つ最近、中国で国賓クラスの客をもてなす時に使われる北京ダックの名店が新宿に開店した。ここのことは後ほどエントリに書こう。

そしてもう一つが、おそらく唯一の和食。今回紹介する広尾の「山藤(やまふじ)」だ。

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■山藤
東京都港区西麻布4-5-8La西麻布3・4F
東京メトロ日比谷線・広尾駅より徒歩7分
営業時間 17:00~23:30(ラストオーダー22:30)
日・祭日休み
TEL.03-5467-5622
http://www.daichi.or.jp/pc/yamafuji/tennai.html

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僕はここ数年、藤田会長に年に数回、飯をご馳走になっている。たまには顔を出せということで、いつも旨いものを食べさせて頂いているのだ。

「やまけん、今度は和食の美味しい店を出したから食べにおいで。」

地図をみると、なんとなんと!広尾にある大学同期の友人の寺田の店、CICADAのすぐ近くではないか!

広尾駅から日赤病院下の信号を渡り、小さな通りを歩いてすぐに山藤の看板がみつかった。

藤田さんがいつもの温厚な顔で笑う。男は笑顔で語るもんだ、と本当に思う。有機農業や食の在り方、社会問題にガツンと四つ相撲で取り組んでいる人なのに、そのアタリはとても柔らかい。そう言うのがホンモノなんだよな、と思い、我が身を振り返ってしまうのであった!

「まあ今日は、いつも通りやまけんをつまみにしながら飲もう!」

そう言って会長、グイグイとビールを空ける。希代のビール好きなのだ、この人は、、、

「やまけん、この店は本当にこだわり抜いてるんだゾ!その箸の木材も、テーブルの木も、全部岩手県の山形村っていうところのを使ってるんだ。」

そういえば出てきた箸は割り箸ではなく、しっかりとした木材を削りだしたものだ。テーブルも、綺麗で剛健な一枚板を使ったものではないか!

ちなみに岩手県山形村というのは、実は日本の食を語る上ではずせない土地である。短角牛という牛を村ぐるみで生産している希有な存在なのだ。
短角牛は、放牧で飼うことができる牛だ。放牧で、ということは、つまり主に草を食べて育つということでもある。日本の牛肉生産の主流となっている黒毛和牛やそれに準ずる牛は、ほぼケージの中で、濃厚飼料とよばれるコーンなどを食べて育っている。人間でいえば毎日ステーキを食べて育っているようなものだ。そのため、脂肪が筋繊維にまで入り、いわゆる「サシ」の濃い状態になるのだ。対して短角牛は、乳用牛と同じように粗飼料(牧草など)を中心に食べさせている。だからサシの入り具合はそれほどではない。しかしその赤身中心の肉には旨味がグワッと凝縮されていて、霜降り和牛とは全く違う旨さを持っているのだ。噛み応えもあり、和牛の「わぁ~箸で切れちゃう!」なんていうようなことはあり得ない。柔らかい肉も旨いが、顎を使ってダイナミックに噛み応えを感じられる短角牛の肉は、ヒトに野生を思い出させる肉なのだ!

ちなみに大地の社員食堂では、たまにこの短角牛の焼き肉がメニューに上ることがある。僕は仕事でお付き合いしていた時、担当のOちゃんに食堂の週間メニューを訊いて、焼き肉が出る時は絶対に打ち合わせを入れるゾ!という姑息な手段を用いていた!

で山形村は、その短角牛を日本で唯一と言っていいほど本格的に村ぐるみで生産している土地なのである。その山形村の特産品を盛り込み、山形村の木などを調度に使い、そして大地を守る会の生産者の食材を使った(←これが一番重要)和食やさん、それが「山藤」なのである!

「実はしばらく板前を山形村に送り込んで修行させました。」

と仰るのは大地からこの山藤担当者として送り込まれている前田さんである。

「とにかく和の味をキーに、食材は調味料の一つ一つにまでこだわっています。ただ、それを前面に出すといやらしいので、お客さんに訊かれるまでは言いませんが、、、」

と、大地らしく奥ゆかしいのであった。

さてさて能書きはいいから飯だ!腹が減ってるんだョ!
とここから、実に滋味深い、素晴らしい食卓の彩りが心を弾ませてくれることになったのである、、、

(続く)