やまけんの出張食い倒れ日記

食材塾に先駈けて、大根十数種類を食べ比べ、そして死にそうになった、、、

すでに告知している通り、食材塾というのをやる。大根10品種程度を食べ比べるわけだが、これを知った友人の農家が気を利かしてくれて、十数種もの大根品種を送ってきてくれた。

ただ、それは今度の食材塾で採りあげるような多種多様な品種群ではない。青首大根といわれている、現在市場流通のメインとなっている大根品種ばかりを集めたものだ。葉の付け根の大根部分が青くなることで「青首」と呼ばれる品種群。かなり以前から、この青首が日本を代表する品種となった。中でも「耐病総太り」という品種があまりにも有名な代表品種で、収穫時に引き抜き易いように、緩やかに先すぼまりの形をもち、大きくなりすぎず、味は辛味が弱く甘みが乗りやすい特性を持つ。農家が扱いやすく、そして中庸な性質であるためどの料理でも合わせることが出来るため、今日大根といえばこれしかないという状態になっている。

しかしそもそもは、郷土の村々に地大根とよばれるものがたくさん存在した。それが昭和の高度経済成長とともに淘汰されてここに至っているのだ。青首の味はどの料理にも合わせやすいが、それはつまり個性のなさともとれる。おそらくクセの強い地大根と青首を食べ比べてみれば、驚く人はたくさん居ると思う。でも驚くには値しない。そもそも品種は多様であり、味の差はとても大きいのだ。

さて
青首ばかり十数品種が集まったのは偶然ではない。産地の農家が集まって品種を品評しあう会がある。これは種を育種し販売している種苗会社がたくさんある中で、来年の作付けにどの品種を選定するかというプロ農家の集まりだ。これに出品されていた大根を、少し分けてくれたと言うことなのである。だから、多種多様な大根ということではなく、青首という品種を作っているメーカ十数社のものを食べ比べるという指向性なのだ。

「ヤマちゃん、今年は寒害がひどくてね。大根が凍っちゃうくらいの寒害がかなり多発してる。しかも凍っちゃう大根ってのは、糖度が不足してることが多いから、ホントにまずいよぉ!痺れちゃったよぉ。」

と笑いながら送ってきてくれたDさんありがとう!

大型段ボールを開けると、ギッシリと大根が詰まっている。しかしそれらはメーカの違う大根なのに、首が青く、形質も似たり寄ったりである。

同封されていたスペックシートをみると、栽培方法や寒害の被害率などが記載されていた。
以前から使っている食味監査票を使って、この十数種を食べ比べてみようと、刻み始めた。通常、生デカ汁との、煮て食べて監査するのだが、、、

はっきり言ってあまりの不味さに辟易してしまった。全品種、生で囓ってみはしたが、もうこれ以上は先に進めない。

僕の監査票は味覚や食感のいくつかの指標を5ポイント制で評価するのだが、どの指標も3以上につけられるものがない!中でもマシな2品種は手元に残して茹で評価することにしたが、それ以外は飲食店をやっている友人に引き取ってもらうことにした。

いやしかし本当に参った。
驚いたのはさすが青首だけあって、種苗メーカが違っても特性は一緒だということだ。辛味が弱く、甘さが強め。食感は堅くもなく柔らかくもない。この傾向が少しずつパラメータを変えて10数回僕の下を、緩やかに犯していった。

Dさんは言う。

「結局、市場出荷をメインにするプロの生産農家にとっては、突出した旨さはあまり選定基準にならないんだよ。大口の小売に対応している市場では、形が揃っていることが優先されるんだからさ。そうすると、生産で重要なのは、いかに同じ形に揃うか、味にばらつきが出ないか、ということなんだよね。」

そう言うことなのである。
産地ではこうした会を重ね、その産地の主力品種を決めていく。
形が揃っていなければ小売では売れないという神話が続く限り、この傾向は終わらない。
神話の世界を終焉させるためには現実が変わらなければならない。
でも果たして現在、青首とそれ以外の大根の味を想起出来る人がどれくらい居るのだろうか、、、
と暗澹たる気持ちになった。

ということで
食材塾、頑張ってやらないといけないなぁ、と改めて思ったのであった。当日は青首も出るので、食べ比べをすることができる。一目瞭然の結果になると、思う、、、