やまけんの出張食い倒れ日記

岩手県を巡る旅 盛岡にて短角と日本の畜産の話をしつつ、どぶろく&郷土料理&蕎麦&じゃじゃ麺の夜は更けていくのダ!

さて盛岡到着、原稿を2本やっつけて出撃である。

「今日はたっぷり、南部名物のどぶろくを呑んでいただきましょう!」

というヨシヒコさんに連れて行って貰ったのがここ、「南部どぶろく家」だ。

■南部どぶろく家
http://www.vijp.com/doburokuya/



盛岡一番の繁華街にあるこの店、みるからに観光客の気分をソソル作りである。

「そうなんですよ、でも味はきっちり本物です」

このときも女性二人組が入ろうかなぁ~どうしようかなぁ~と迷っていた。結局入らなかったのが残念。
店内に入ると、なんとも民芸調のいい感じの渋い造りだ。同時に入ってきた男性陣4名が本日同席で呑ませていただく県の畜産関連の課の皆さんであった。

まずは何はともあれ、どぶろくである。

岩手県の石鳥谷の酒造で製造されているというこのどぶろくが非常に旨かった!
手作りどぶろくだと味わえなさそうな品のよさがあって、材料や麹、発酵技術の素性の佳さを感じさせる味だった。

この、「いかにも!」という感じの店のご主人が、取っつきにくそうにみえるが非常に優しくどぶろくや料理の解説をしてくれるのである。初めての人もあまり構えなくてよさそうな、あたりの柔らかな店である。

しかも、料理は非常に美味しかった!


基本的に岩手、それも南部地方の名産品が並ぶ。品書きを見るとそれほど高くも無し、観光客としてふらりと入って、南部の香りを楽しむには非常にいい店だと思った。

こちらの鍋は、粘りの強い山芋とろろをスプーンで一口大にして投入し、煮えて団子になったのを楽しむものだ。実におつなものだった。

そして馬刺しが非常に秀逸!

「南部班では、サラブレッドなんかじゃない、昔ながらの馬が曲がり家に居ましたからね。」

そういえば前日の浄法寺にて、僕はこの南部の馬を見せて貰っていたのだ。
IMG_6482.jpg
おおお
ゴメンな、お前のような可愛らしい馬でも、俺は食べてしまうのです。美味しく食べるから許してね!

ここの馬刺しは、醤油ではなくて味噌で食べるのが基本。でも僕は味噌&たまり醤油でいただいた。あっさりした赤身肉、淡く血のような香りがコクを演出している。文句なしの一品だ!フグ刺し用の皿に敷き詰められたこの馬刺しを独り占めしたい衝動に駆られる!

、、、とまあ、どぶろく家の風情と料理を楽しみつつも、県の皆さんとはダイレクトな短角牛に関する意見交換をすることとなった。

日本全国で短角牛の人気が高まっている、、、
と料理雑誌などは書くけれども、短角牛の主産地であるここ岩手県では、短角牛飼養頭数(飼っている頭数)は現象の一途を辿っている。昨年度実績で、出荷が千数百頭レベルまで落ち込んでいるのだ。広大な岩手県で、一年の出荷頭数が1000頭規模というのは非常に少ないということがわかるだろう。

なぜか?

「黒毛和牛の価格が高騰している一方、短角牛の評価は、一部では高いものの価格的には黒毛に及ばないのです。ですから、農家さんは利益を上げるためにはどうしても黒毛和牛を飼ってしまいがちなんです」

と話してくれたのがK岩さんだ。

そう、短角牛人気が高まってきているとはいえ、この世の中は依然として霜降りのどっぷり入った黒毛和牛を評価する。それは日本における肉の品質評価基準が、肉の歩留まり(どれだけ沢山肉がとれるか)と、どれだけ霜降りになっているかということを優先的に評価する「格付け」に収斂するからである。

「短角牛特有の非常に美味しい肉質を、関係者はみんなわかっています。けれども、放牧で育てられるほど健全な骨格をもった短角牛は、どうしても骨が太く肉の歩留まりが悪いんです。同じ50kgの肉を買っても、骨を抜いたらとれる肉の量が少ない、では業者さんは評価できないわけです。」

そう、日本における牛肉の評価基準がこの格付けというモノサシにあるということは、いろいろな問題をはらんでいる。先日、畜産農家さんの集まりに行った時、熊本の農家の女性が「熊本の赤べこ(赤牛)は、放牧で健全に育てられるのに、格付けのせいできちんとした評価を得ることができない!」と問題を訴えておられた。これも問題の根っこはほぼ同じだ。

「ただ、短角牛のよさをわかってくださる方が増えていることは間違いありません。食べれば霜降り牛とは全く違う美味しさがあることは明らかですから、、、なので、岩手県は口べたと言われますが、私たちは料理人さんたちにいろいろ使っていただこうと、サンプルを提供したりしているんですよ。」

このときK岩さんの口から出たサンプル提供先は、おそらく誰もが知っているような有名高級料亭の板前さんだったりする。やることやってる!(←当たり前か)
K岩さんを始め、お集まりの4氏はそれぞれ、県庁職員という肩書きの向こうに、ビシッとしっかりした「短角愛」を感じられる方々であった。

「そうなんですよやまけんさん、実は今日お集まりの4名のうち3名が獣医さんなんですよ!」

「!!!」


なんで僕が「!」になったか、説明した方がいいだろう。
農林水産関連の県職員の仕事としては、デスクワーク中心のものと、農家さんに直接出向いて支援をしたりする現場系の二つあると思ってよい。数年毎の人事異動でいろんな立場を廻っていく。しかし、獣医という資格を持っている場合、その能力を活かすために現場、それも育種研究をする試験場や家畜衛生保健所などに配属されるケースが多い。

しかし、この県の中央といえる畜産・流通関連部課にそんなにも獣医師免許を持った人たちが結集しているとは!

それだけ本気、なのだろう。短角のことを事務的に支援するのみならず、短角の生理生体をきちんとわかっているプロが生産・流通支援をしていく中枢に据えられているということに、岩手の本気を観た気がした。

「やまけんさん、さっきの試食の件ですけどね、関西方面の料理界では色々使っていただいて居るんですが、東京でいい店があったら是非教えていただきたいんです。こちらから使って欲しい肉を試供できます。ただ、『ロースだけちょうだい』とか『バラを下さい』とか、そういう話は対応できません。逆に、どんな部位でも使ってやるぞ、という気概のある料理人さんとお付き合いしたいんです」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

東京近郊の料理人さん、聴きましたか。
とりあえず僕が仲良くしている店はもちろん声をかけるが、ぜひにという人は僕に連絡をしていただければと思う。

K岩さんがおっしゃった、「部位指定は勘弁してください」というのはこの重要なポイントだ。

そもそも畜肉は、一頭まるごと消費されなければ意味がない。けれども、どの国でも特有の嗜好があり、売れる部位と売れない部位がある。日本では鶏肉はジューシーなもも肉が人気があるが、アメリカでは健康志向もあって胸肉が好まれるのはご存じの通りだ。牛肉も、焼き肉に向くものは優先的に売れるが、それ以外の部位(例えばスネとか)は割安に取引される。

吉野家の牛丼に使われているショートプレートという部位は、アメリカではあまり好まれない部位だったため、日本向け輸出が奨励されているという背景があることもご存じの方が多いだろう。

このように、好まれない部位をいかに売っていくかということは非常に難しい問題だ。極論すると、カルビやロースなどのいい部位だけを高値で買ってくれる取引先よりも、全体をそこそこの値段で買ってくれる取引先のほうがありがたいといえる。そう言う意味では、年末にこのブログで紹介した京都の焼肉店である南山グループはすごかった。6頭もの短角牛を全頭買いして、すべてを贈答用商品にしたり店舗で売ったりしたのだ。

「南山さんは岩泉の短角生産者・流通業者と一緒にやってくださいました。本当にありがたい取組です。ああした、きちんと理解をしてくれて、今後も短角の生産が続けられるような取組をもっと広げていきたい」

そのためには、まず格付協会の評価基準とは違うモノサシで取引をするということを是とする考え方を持つことが必要だ。結局「黒毛に比べてどうこうだよね」という言い方で金額を決める業者が多いのだ。現状の短角を欲しいと思うなら、その考え方を捨てるべきだ。

「岩手の短角生産では、可能な限り国産飼料の使用率向上を進めていきます。山形村では完全に岩手県内の飼料を食べさせている短角もあります。岩泉も粗飼料の生産を拡大しています。岩手県の畜産はこれからが面白いんですよ!」

おお!
県内生産した飼料100%で育てた短角というのは、ものすごい価値だ!

ご存じない方が多いだろうが、牛や豚、鶏の餌はほとんどが輸入穀物だ。現在執筆中の本に詳細に書いているところだけど、この輸入穀物価格が高騰しつづけている。このままいくと日本の畜産はとてつもない高コスト産業になり、精肉価格は暴騰するだろう。

でも、そもそもおかしいではないか。日本の畜産は日本で獲ることが出来る餌で育てるべきであり、海外依存度を下げる努力をすべきである。というよりいっそ、穀物価格の高騰で、牛肉消費がもっと減ってもいいとさえ僕は思っている(肉牛農家さんゴメンナサイ)。そうでもしないと日本の消費者はワカラナイのではないだろうか、と思うのだ。

岩手県の畜産が取り組んでいる地平は非常に拡がりのあるものだ。K岩さんやアホのS田さんらが、にこやかながらも強い前進する視線を持っていたのが強kじゅ印象に残った!

「じゃあ、最終電車がありますので、これで失礼します! 牛肉提供先のリスト、お願いしますね!」

とK岩さん達は帰って行った。後に残るY市さんとヨシヒコさん、そして盛岡案内人であるI坂さんと「〆は何を食いますかねぇ」と相談。

「やっぱりじゃじゃ麺でしょう。白龍(パイロン)はもう閉まってますが、深夜まで営業している店があるんですよ。もちろん白龍とは味が違うので、面白いですよ」

おおおおおおおおおおおおおお
盛岡といえばじゃじゃ麺である!

「いやでも 岩手では〆は蕎麦ですよね、、、美味しい店、ありますよ」

んんんんんんんんんんんんんn
マジですか?

「じゃあ、両方行きましょう」

ということで、どぶろく家→蕎麦→じゃじゃ麺コースなのである!

まず蕎麦は、繁華街にある「かしわや」だ。

引き戸を開けると、店内は呑み帰りの客で賑わっている。

ちなみに岩手県の蕎麦というとそれほど東京では知られていない印象が強いが、非常に美味しい、レベルの高い蕎麦が多い。

岩手県も広いので、地域によって蕎麦のつなぎに豆腐を使ったり、卵を入れたり、大豆の粉を使ったりといろんなバリエーションがあるのだ。この店はオーソドックスな蕎麦だと思うが、そうした違いを味わうことができるのが面白い。

「ちなみにやまけんさん、岩手では薬味にわさびはあまり使いません」

で、じゃ何を使うの?

「もみじおろしですね」

おお!実に唐辛子の粒状感たっぷりの紅葉おろしである!
世間一般では岩手県の食というと、けっこうひなびたものを思い起こす人が多いようだ。でも、現地にいってみておどろくのは、なんとダイナミックな味が多いんだろう、ということだ。辛いもの、ニンニクぷんぷん薫るものなど、極めて振幅の大きい味が多いのだ!

さて運ばれてきたのはキリッと適度にカドの立った蕎麦だ。

これを唐辛子をぶち込んだつゆにどぷっとつけて啜り混む。
じゃっかん甘めの汁と辛みが合わさって、蕎麦の心地よい冷たさとのどごしが食道に快楽をもたらす!

ちなみにこれが、I坂さんが頼んだ「めかぶ」をたっぷり乗せた暖かい蕎麦だ。優しくて旨し。

いや、旨かった!

「じゃあ、このあとのじゃじゃ麺はちょっと入らなさそうなので、失礼します、、、」

とヨシヒコさんと○市さんが去り、僕とI坂さんでじゃじゃ麺店へ赴く。どの店もこの繁華街の中で5分程度で移動できる。便利だ!
深夜まで空いているという「香醤」。カウンターとテーブル二つくらいの小さな店だ。

「ここのじゃじゃ麺は肉味噌がすこしコッテリしてるんですよ」


中盛りを頼んでしばし待つ。若い人が鍋前で麺をゆでている。
でてきたじゃじゃ麺は、正統派盛岡じゃじゃめんそのもののプレゼンテーションであった!

肉味噌をぐちゃぐちゃにかき混ぜていただきます。いちおうニンニクはよしといた。

いや実に美味しい!
白龍の肉味噌と並べて味わっているわけではないのできっちりとその差異はわからないが、たしかにこちらのほうがコッテリ感があるかも。

盛岡のじゃじゃ麺文化も正統に受け継がれているのだなぁ、、、と感動。一気呵成に啜りこむ。
仕上げはもちろんチータンである。何言ってるかワカラナイ人は、右上の検索窓で「白龍」と打ち込んで、過去エントリとお読み下さいませ。盛岡じゃじゃ麺は素晴らしき文化なのです。

いやー さすがに腹一杯。
本当に濃密な日が続く岩手探訪なのである。明日はいっきに陸前高田に移動、山の文化から海の幸へとシフトである!