やまけんの出張食い倒れ日記

口蹄疫は全く収まっていないよ! 20km圏内の搬出制限区域からの声・尾崎さんのインタビュー後編です。

前回エントリの続きです。土曜日の段階での話なので、時点が古くなっている情報があるのはご容赦ください。すべて尾崎さんの仰ったことをできるだけ手を入れずにかいたつもりですが、文責は私にあります。前回同様、尾崎さんの意図と違うことを書いている可能性もあり、ご本人から指摘が会った場合には速攻で修正しますのでご了承ください。

その前に、宮崎県出身の友人が、google earth上に口蹄疫発生場所をプロットしたものを作成してくれました。

5/30時点でのOIEの口蹄疫発生状況のデータを取り込んで見ました。
グーグルマップの上部メニュー「ファイル>開く」でファイル名として下記のURLを入力します。
http://miyazaki.nagatomo.com/fmd.kml
OIEの発表している221件を全てマッピングしてあります。このデータが宮崎支援、口蹄疫の対策に役に立てれば幸いです。

ただ、OIEへの登録の際の農水側ミスか、2,3変なデータがあります。

変なデータ。
ID 12998
ID 12771

上記の変なデータもOIEでも同じ座標を示しています。

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とのことだ。僕はgoogle earthをつかってないので、試しにブラウザでGoogleMapのほうを開いて、検索欄に上記URLを貼って検索ボタンを押すと、二次元でもちゃんと表示されます。Google earthだとこれが三次元になるらしい。

こんな風に発生しているのだ、ということが視覚的にわかるかと思います。ちなみにえびの市の完成事例は、封じ込めに成功しているようです。関係者の努力に頭が下がります。

上記の@dogenkasentoさんも出身地宮崎のためになにかしないと、と思っていた人です。最初の発症事例の時から僕に連絡くれていました。ありがとうね、Nさん。

では尾崎さんのお話です。

 

■リングワクチネーションでとにかく早期に終結させなければ、さらなる悲劇が起こる

とにかく重要なのは、できるだけここ数週間で封じ込めなければいけないということ。これから夏の暑い時期になって現場の人間がつらいこともあるけど、それ以上に天候が変動するのが怖い。梅雨で雨が降る。それを越すと台風が来る。台風なんかきたら、ウイルスが全国へ飛んでしまうのではないかと非常に怖い。九州だけの問題ではなくなってくるだろう。

現実的な方法としてはリングワクチネーションで感染拡大を停めなければいけない。これまでは国も県も現場も、力の使い方がうまくいってなかった。ようやく特措法が成立したので、これからはとにかく早く対策を進めて欲しい。

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■口蹄疫対策は、各県の単独予算で対応できるような問題じゃない

対策に使う予算があるよという背景が無ければ、どういう対策を実施しますということが言えるわけがない。宮崎のような貧乏県が費用を用意できるはずがないでしょ。一週間前に首相が対策本部長になって1千億用意したと報道ができたが、よみうりテレビが財務省に確認したら100億という。
うーん なんなのよそれ。 右往左往している。全く機能していない。だから特措法が決まって本当によかった。

 

■搬出制限区域の畜産農家たちの悲劇

さて現場はともかく、
残りの20キロ圏内は搬出制限区域。出荷をしたらダメ。新富にでたから、そこから20km圏内に入るので出荷を止めてくれと言われた。

うちの場合は会社の運営に3000万/月かかる。ほとんどがえさ代と人件費。すぐに支払いがあるところとしか付き合わないから、運転資金の枯渇はこれまでなかったけど、牛が売れなければもうどうにも金がまわらない。
銀行に行って月末の人件費・えさ代を貸してくれと言ったら、「今回は貸すけど、企業努力もしてくださいね」と言われた。銀行のいう経営努力は人を切ること。
うちで昔から働いてくれている事務員が4人いるけど、3人の首を泣く泣く切った。牛も財産だが人間も財産。それを手放さざるを得ない。

搬出制限区域の人たちには、感染しなくとも一日一日経費が発生する。それをどうしたらいいんやというのが心情。本当の悲劇はその辺にある。殺処分のケアだけではなく、ちゅうぶらりんになっているところのケアも本当は考えなければならない。だって、彼らは好んでそういう事態になっているわけではない、法に基づいてそうさせられているのだから。

現在すでに貯まっている17000頭の牛を処理するのに、一日60頭のと場で早期出荷できるわけがない。子牛も妊娠牛もいる。本当はお腹にいる子牛や育成中の子牛は商品になるまで持っておきたい。妊娠牛もぜったいに殺したくない。一番つらいんだよ。

 

■補償は「元の経営ができるようにしてくれ」

しかも補償の内容もほとんど決まっていない。僕は15億の借金をしているけど、もれきこえてくる査定額でいうと9億しか出せませんねと言っているわけ。ワクチンして埋めたら3年間は何もしたらいかんと言われている。そうしたらどう生きていけばいいのか。うちでは23人現場でも雇用している。

再起しようといっても、いきなり元の1500頭入れましょうということはできない。月に30頭ずつのローテーション出荷をするのに4年かけた。でも、いまこの状況で社員を2/3は切らないといけない。それが何よりもつらい。

うちのスタッフはみんな優秀だから、全国どこの牧場に紹介してもひけをとらない自信がある。で、うちの経営が元に戻るまでに3年かかる。そうなったときに、彼らは3年後にはそれぞれ再就職した牧場でチームリーダー格になってるはず。それを帰ってこいとは言えないわけです。

牛は、母牛から考えると出荷までに5年かかる。うちの尾崎牛プレミアムというのは、うちの牧場の母牛で産んだものだけなので出荷までに48ヶ月かかる。国は全額補償といってるけど、その「全額」の根拠がない。実体は牛の個体そのものだけの補償に留まっているでしょ。人件費などはまったくない。尾崎牛を送り出すまでに長いことかかっている。原材料だけ全額補償となる。工場の償還とかはどうなるのかというと、それは知りませんということになる。

そういうことになると、怖いのは、感染牛らしい兆候の牛が出たとしても隠蔽しようとする人も出てくる。だって、出たらもう自分は絶対に廃業、もしかすると破産するかもしれない。周りからも非難される。そうなったときに、正直に「うちから出た」って言える自信があなたにはありますか?

だから、補償額の詳細については、細部を早々に詰めるというよりは、100頭飼ってるところにはまた100頭飼えるだけの手当をしてやってください、としか言えない。

 

■現行の家伝法の不備と今後のマニュアル化の重要性。イギリスはウイルスに対テロ組織を投入したのに。

家伝法は諸外国の法律をとりあえずもってきたようなもの。だから、他国のように広大な面積があることが前提になってるんだ。しかし日本には土地がないんだよ。だから現実的でないということになっているわけ。

いまから宮崎版マニュアルみたいなのをを作らないといけない。いままでは日本をとりまく海がウイルスを停めてくれていた。でもいまはアジアから観光客が来てる。その靴の裏の泥までは対応できないでしょ。

ウイルス対人間の戦争なんですよ。イギリスで口蹄疫が発生した場合は、時の首相は対テロ組織を投入したんだよ。だって、イギリスは牛や豚に加えて、綿羊(ウール)とかもあって、もしこれが全滅したら国家予算が成り立たないっていう判断があった。だから、いくらかかっても根絶しないと国が潰れるっていう覚悟でやっている。日本だって、全国に蔓延したらどれだけの国家的損失になるか。

ちなみに
イギリス韓国の場合は殺処分になった農家には、翌日は補償金の半額が仮渡しされた。だから農家も素直に応じたわけ。日本では再生産できない金額しか出ないとなると、さっきも言ったように動かないよ。だから、。口蹄疫が出たらすぐ報告させるような背景となる金額を出すしかありません。

■尾崎牛のこれから

45年やってこれかということになってる。思えばいままで、牛肉自由化、BSEで被った借金がやっと半分になったと思ったら、口蹄疫でまた借金。牛でお金持ちになれん。子供にやれともいえんから、うちは子供に継げと言ってないよ。

でも、僕はもう一回チャレンジしようと思っている。宝物のような社員をなんとかしたい。昔、BSEのときには、取引先からキャンセルの電話がかかってきた。
「やっぱり消費者が嫌がるから」ってね。
けど、今回は違うんだ。「早く送ってくれ」と言う。なんでこんな状況なのに買ってくれるの??といったら「当たり前よ」と言ってくれる。うちは肉の作り手・使い手とちゃんと繋がってきたから売ることができた。
復活するのに今回は最悪、3年かかるかもしれないといったら、いまある在庫ぜんぶちょうだいと言われた。3年間、尾崎牛の味を忘れんように、毎日冷凍庫から一切れずつ切って出すと言ってくれる。

農家はみんな「あんた達の牛・豚が欲しい」といってくれないとやる気が起きない。もうこんな仕事、やりたくないと思っている。だから心の支援をお願いしたい。

口蹄疫はまだまだ現在進行形。その次の話ではない。
偶蹄類ってのはほとんどが家畜です。それがぜんぶやられるということ。その国が滅ぶということ。国産の家畜が全滅したら、外国のものをむこうの言い値で仕入れないといけなくなる。「口蹄疫は国を滅ぼす」というのはそういうことなんです。

宮崎県の半分側に、牛と豚が一頭もいなくなる。これから宮崎県が一番欲しい人材は、この地域で再生産計画を作ることができる人。宮崎のブランド復興をできるだけの人材が欲しいんです。

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■ボランティア募金

最後に、いま僕が所属している宮崎県農業法人経営者協会に宮崎県の弁護士会が協力してくれて、ボランティア支援基金を設立してくれました。弁護士さんたちが積み立ててきた400万円500万円を、出してくれたんです。

いま、県外からボランティアが来てくれているけれども、彼らはどこに泊まるか、どう移動するかということでぜんぶ自費でやることになっちゃう。対策費は現場にしか下りないですからね。そうなったらせっかくボランティアしにきてくれたのに、十分に動けないでしょう。そういう人たちの宿泊とかの基金にするための募金です。

口蹄疫が終わってから配分される募金も重要だけど、いま使える募金がないといけないんです。ご協力をお願いしたいと思います。

■【宮崎県弁護士会緊急ボランティア支援基金】創設のお知らせ
http://www.power-miyazaki.net/hojin/2010/05/post_186.html

(以上)

 

「このあと、また人に会わんといかんから」と、尾崎さんと星野さんはすぐに席を立った。見送った後、なるべくそっとマスクを外してビニール袋に入れ、ギュッと縛って帰宅。家に入ったら速攻で風呂にひっさしぶりに買ったミツカンの雑穀酢をどぼどぼ入れ、100倍希釈と教えてもらったけれども80倍希釈くらいの濃さにして着衣を全て漬け、僕も頭から漬かった。靴底も酢水につけて表面も酢水を含ませて拭く。持参したカメラやICレコーダーはすべて殺菌用アルコール(純度75%)を含ませた脱脂綿で拭いた後、脱脂綿をコンロの火で燃やす。アルコールランプみたいなものだからよく燃えた。

ここまでやってどっと疲れた。こんな、なんちゃって防疫・消毒でこれだけ手間がかかり、神経を使うのに、本格的な防疫業務についている人はどんなに大変だろう、と思う。特にこれから暑くなっていく南国・宮崎での不快指数はすさまじいことになるだろう。現場の方々の心身の健康状態が本当に心配だ。せめて、生活に心配がないだけの措置をしてあげたいと心から思う。

明日(というか今日ですね)から一泊で宮崎に行きます。といっても家畜関係の仕事ではないので、宮崎市内から一歩も出ません。けれども、上記と同じような消毒処理をして、飛行機に乗る前に全身を消毒スプレーかけて乗ろうと思います。

今週後半に出張する他県にも「僕が宮崎から帰ってすぐにそちらに行きますので、畜産関係者さんで気になる方はいらっしゃらない方がいいかもしれません」と予告しておく。もちろん、宮崎に着ていったもの、同じ靴は絶対に履かないつもりだ。

口蹄疫がどんな風に伝播するのかよくわかっていない以上、自分自身に疑ってかかるしかない。

今日もある雑誌社の記者さんが来て、口蹄疫についての取材をされていった。そして途方に暮れていた。和牛のことだけを理解するにも一日以上かかるのに、養豚のことも理解しないといけない。その生産のことだけじゃなく流通のことまで。僕は15年かけて農と食の業界の理解をしてきた。それをどんなにはしょっても、数時間では伝えきれない。数年経ったら他の部署に異動させられてしまう、農と食のバックボーンのない記者さんが、きちんとした記事を書くのは大変だ。

マスコミのおかしな報道は、もしかすると単に「よくわからない」から、起こっていることなのかもしれないな、と思ってしまった。

さて、一ヶ月ぶりの宮崎の空気がどんな風になっているだろうか。そろそろ寝ます。