やまけんの出張食い倒れ日記

大船渡の被災地のみなさん、美味しい宮崎のピーマン”ちぐさ”食べてくれたかな。こんな人たちが作ってる絶品ピーマンなんですよ。

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震災関連のエントリを書いて、真っ先に反応してくれた生産者さんが、宮崎県西都市でピーマンを生産する農家・菅原さんだった。

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「ちぐさピーマン」の生産者菅原です。
宮崎は去年から口蹄疫、新燃岳噴火、鳥インフルなどで皆さんに沢山応援していただきました。
今度は私たちが少しでも力になれたらと思います。
そこで、被災地炊き出しに我家のピーマンを使って欲しいのですが。
どうでしょう、使っていただけるでしょうかね?
量はどれくらい必要でしょうか?

その後、SAVE IWATEを窓口にして欲しい旨をアップしたらすぐに連絡が来た。

やまけんさんのホームページからSAVE IWATEの方にメールしてみました。
SAVE IWATEの事務局長加藤さんから送ってくださいというメールを頂きました。
連絡を取って送りたいと思います。
宮崎に沢山の元気をもらってきましたからね。
ほんの少しでも私たちの元気が届けばと思っています。

そして、ポルコロッソ山崎シェフの動きをレポートしたところ、こんなメールが。

今日のブログを見て「あっ、私のピーマンを使ってもらっている方たちなんだ!!」と思いました。
「さんさんの会」へ直接送ってくださいと連絡をいただき先日発送しました。
そしたら、今日さんさんの会の方から電話がありピーマン届きましたとお礼の言葉を頂きました。
「愛情一杯のピーマンでした」と言われ逆に私「がんばらなくちゃ」と元気をもらったように思います。
涙出そうなくらいに暖かいお礼の言葉を頂きました。
またこれからも私のピーマンがお役に立てたらいいなぁと思いました。

うーん

なんでこんなにもこの人達は心優しいんだろう!? 今回の震災で少し忘れられてしまった感があるが、宮崎県は昨年から口蹄疫・鳥インフル・新燃岳噴火という三重苦に見舞われ、地域経済に深刻な影を落とされている。そんな中、やっぱり生産者さんは優しい。僕はこの一家の暖かさをよく識っているだけに、ちょっとホロリとしてしまった。ので、この菅原夫婦が生産している「ちぐさ」というピーマンについて少し書く。

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通常、日本で多く生産されているピーマンは「しし型」と呼ばれる系統だ。シシトウガラシを思い浮かべて、あれを少し太らせた形である。では、大型のパプリカピーマンを思い起こして欲しい。しし型とは違ってぷくんとふくよかな姿形。これを、釣り鐘のような形状から「ベル型」と呼ぶ。だいたいにおいてベル型ピーマンは果肉に厚みがあって大型になるが、その分、生育期間が長くなるし樹になる数も減る。

「ちぐさ」は、日本では珍しいベル型ピーマン品種だ。しかもパプリカピーマンとは違う、緑色系品種である。とはいっても新しい品種ではなく、むしろ相当に古い品種だ。昔の農家でちぐさと聴くと「懐かしいなぁ」という人もいる。けれども、たくさんの果を生らせるのが難しく、高度な栽培管理が必要となるため、こんにちでは営利生産をする人が非常に少ない品種なのだ。

菅原夫妻はこのちぐさピーマン専門の栽培農家だ。つまり他のピーマンはまったく栽培していない。実はこの「ちぐさ専門」には、あろうことか僕も関与してしまっている。2005年のこのエントリを見ると、西都市から菅原さんが上京しスーパー店頭でピーマン販促を行っている。この直後に送られてきたちぐさを試食した僕は、あまりの美味しさにびっくりしてしまったのだ。ピーマンでびっくりするほど美味しいなんてこと、あまりない。けれどもちぐさはとにかく果肉が熱い分、ピーマンの持ち味がしっかりと伝わるのだ。いやな苦みがなくさわやかな香り、そしてほの甘くうま味も乗っている。大ぶりに炒めただけでごちそうになる味だった。

「これ、素晴らしいね!宮崎のピーマンのイメージが変わっちゃったよ!」

その後、西都市に足を運んだときに、このちぐさを試験栽培していた菅原さんのほ場を視察させてもらった際、僕は「この品種の生産、ぜひ増やした方がイイと思います!」と(無責任にも)話したのである。

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そうしたら! なんと菅原夫妻は「あんなに美味しいって言ってくれてる。うちはもうこれ一本でいこう!」と決心してしまったのだ! ひえーーーーーーーーーーーー責任重大!

でも、彼らのちぐさピーマンは固定客が増えてきて、「このピーマンじゃないと」と取引されるようになってきた。それはそうだ、本当に他のピーマンとは全く違うのだ。この肉厚さ加減を見て欲しい。

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通常のしし型ピーマンが着果後に出荷規格に育つのに30日かかるが、ちぐさは40日もかかる。

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「普通のピーマンだと30gくらいでちぎって出荷するけど、ちぐさは70gくらいにならないと味が乗らないんだよ。だからじっと我慢。そうすると完熟に近くなって糖度が上がって硝酸値が下がるんだよ。」

と言うが、それだけ出荷量が限られるから経営的には難しい話だ。ちなみにちぐさは先述のとおり耐病性がそれほど強くない(通常品種の50%程度と思っていい)ので、通常なら農薬をザバザバかけなければならない。けれども妻の順子さんは、食べる人や後を継ぐ娘の綾子ちゃんのことを考えるととても使えないと、天敵となる虫を使ったりしてできる限り回数を減らしている。

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昨年、取材で訪れた際、このちぐさピーマンのフルコースをいただいたときのことは忘れられない。

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ピーマンだけでこんなにいろいろできるのか!と驚いたけれども、よく考えてみればそれは、ちぐさだからピーマン料理として成り立ったということなのだ。

中でも僕がほとんど半分以上ひとりで食べちゃったのがこれ。ちぐさピーマンの素揚げ。

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加熱したちぐさピーマンはなんとも甘くうま味が濃くて美味しい。なにより厚みのある果肉の食感が官能的なのだ。ああ、また食べたいよ。

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ちぐさピーマンを生産する仲間達。といっても経営体としては西都市で二軒だけ!こんな人たちが、あのちぐさピーマンを作っていました。

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美味しいものは人の心を元気にする力がある。食べ物と生産者、料理人ができることは、計り知れない。あー、俺ができることはホントに小さいな。やっぱ生産者になっておけばよかったと後悔している。

ちなみに、このちぐさピーマンに関心がある業者さんは、下記まで問い合わせをしてみて欲しい。農協には珍しく、こんな少量の商品でも熱意を持って販売する担当者がいる。

JA西都:営農経済部販売課
販売開発担当:八代智秀(ヤツシロトモヒデ)