やまけんの出張食い倒れ日記

満を持して、フランスでいま肉を食べるなら足を運ぶべき店、パリの隣町ブーローニュの新星「ベルチュ」」柳瀬シェフに逢いに行く! 欧州中から彼が吟味した牛の肉を自家熟成し、焼き上げる。シンメンタールがこんなにおいしかったとは驚いた! 続き

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じつを言うと、この翌日もベルチェで食べることになっている。というのは、本当はこの日は夜の予定が無かったのだけれども、柳瀬くんから「予定がないなら、今晩もうちにきませんか?三種のヨーロピアン牛の食べ比べをできますよ。明日はまた違う肉を出します」と。そう言われたら行くしかないでしょう!ということで今日はまだ前哨戦なのです(笑)

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はい、とても前哨戦と思えないノルマンディ牛参りました!

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ノルマンディ種、またはノルマン種は乳肉両用種の品種だ。少ない頭数だが日本でも乳用で飼われているガーンジー種の祖であるらしい。

「乳肉両用」というのは、つまり乳用と肉用どちらでも行けるよ!という趣旨の品種なのだけれども、日本ではこういう位置づけの品種はあまり受けず、乳用は泌乳量の多いホルスタイン中心だし、肉用は肉専用種のほうが圧倒的に高価である。

何でかというと、乳を多く出してもらうことと肉をたくさんつけてもらうことは、いまのところ残念ながら反比例の関係にあり、どっちかが犠牲になる。じっさい、乳用に向いた牛は通常は骨格がしっかりガッシリしているため、肉の歩留まりが悪いものだ。

というわけで「ノルマンか、、、」と思っていたのだが!

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実に深い色合い、適度な水分量のコントロール。ドリップが出ていないことからわかるように、自由水はかなり抜けているのだが、表面は瑞々しい。

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いやーーーー味わい深い肉だね! これで50日熟成をしているというのが信じられないくらいに瑞々しいが、おそらくリモージュでリムーザン牛を食べた時に感じた「水分の多いマグロだな」という感想も、同じように熟成を経ることでこのようなネットリした肉質に変化するのではないだろうか。

つまり、やっぱりヨーロッパでも適切な手当て、熟成をすることでおいしいビーフができるということなのだと思う。

今回、何店もスーパーに足を運んだ。ちょっと高級なところから庶民的な、日本で言えばイオン的な店まで。ただし、パックに入ったステーキ用の肉はどれも発色が鮮やかな、新鮮そのもののビーフという感じ。おそらく加工場で部位カットされたあとすみやかに真空パックしたのを仕入れて、スライスしているだけだろう。これを買って焼いて食べても、リモージュで感じたのと同じような「うーん」となっちゃうものだろうと思う。

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ただし、精肉コーナーがあるところ、また独立した精肉店では、どうやら独自に枝肉で購入して、自分の冷蔵庫でねかせて出すところが多いようだ。スーパーと精肉店はちゃんと棲み分けをしているのだ。日本の精肉店は残念なことに、ごく一部を除いてスーパーの精肉コーナーとあまり変わらない仕入と売り方しかできない店が多くなってしまった。フランスはまだまだ精肉店は頑張っているな、という印象を受けた。もちろんよいところしか廻っていないから言えることかもしれないけど。

それはともかく、ノルマンすばらしく美味しい。フランスの赤身肉は熟成に時間をかけて水分を飛ばして、またタンパク質の分解プロセスを十分に経ることで、明らかにおいしくなるのだな、と実感した。

さあ、お次はこれもなかなか食べることができないだろう、ガリシア牛のヒレだ。

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スペインのガリシア地方の牛で、ガリスとも呼ばれる、ルビア・ガジェガである。ヒレ肉は不定形であり、また先細なので熟成をかけるとロスも多い。ただ、僕からすると熟成をかけていないヒレは本当に退屈極まりない味わいなので、普通は好んで食べたりはしない。

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このガリス、ロインの味わいもかなり深いのだろうな、と期待させるものだった。ヒレなのに味がある。またヒレの味というのは、どちらかというと内臓よりのニュアンスがあるのだが、熟成によってのものか、そう感じなかった。ただただ柔らかくジューシーで深みのある味わい。強烈な熟成香はないが、日本から来た和牛好きなご老人であったとしても、「おいしい肉だね」といって喜んでもらえる味わいだと思う。

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ところで、、、

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なんかですね、べらっぼうにガルニチュールがおいしいんですよ!

このマッシュポテトがですね、すんばらしく滑らかですんばらしくイモの香りがして、そしてバター最高なのですよ。隣でオリヴィエが「オウッ ムーーーーン」と唸っていた。

「このポテトはとてもおいしい、、、ロブションのポテトもおいしいが、彼の腕はすごい、それに肉薄する」と言っていた。

もうひとつのガルニチュールとして出てきたのが、小さなココットに入れられた野菜のグラッセ。

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いやもうこれが、、、最高に美味しい!

じつはおかわりしてしまいました。そのおかわり分のココット一つは僕が全部食べてしまいました。ニンジンとルタバガ、そしてゴボウ(現地で生産しているらしい)。シンプルな作り方のはずなのだけれども、こんなにおいしいとは、、、

この店、肉のお店と考えていたらちょっと驚くかもしれない。総合力として素晴らしい店である!

と驚いている間に、真打ち登場。

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シンメンタール種の経産牛である。ノルマンと同じ50日熟成と思えないほどに暗褐色に染まり、外側のガビ度も高い。ドライエイジングで顕著になるいわゆる熟成香が、生の状態でブンとする肉だ。

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いや、すごい、、、 ドライエイジングとは、塩を用いない生ハムのようなものだと言えるのだが、このガリスはまさにその一歩手前。赤身からブンブンと香りがたちこめ、噛みしめるとうっすら水分があり旨みが唾液に溶け出し、スジは柔らかくゼラチン化して噛みきることができる。

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熟成の端っこを口に入れると、カビに頼らないヨーロッパ特有の熟成でも、やはりあのねばっこい熟成香が濃く感じられる。

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ああ、この肉を食べることができてよかった!

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客も僕らだけとなり、柳瀬くんとじっくりはなす。ガルニが旨かったというと、

「まあ、料理の技術というよりバターです。他のレストランがつかっていないバターを仕入れてるんです。」と。

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切り分けてくれたバターを口に含むと、本当だ、こんなの食べたことない!サラッと溶けるのに発酵した香り、旨みがダバーッと舌を流れていく。

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生産量がすくないこのバター、ボンマルシェにも売っていなかった。素晴らしかったね!

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「明日もまったく違う肉でお待ちしてます」

明日もここで食べるのに、なんだかすごいワクワクする。

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僕はパリ食べ歩きをしているわけではないけれども、、、フランスでいま行くべき一店として、ベルチェを挙げていいのではないだろうか。すくなくとも日本で肉好きを称するなら、足を運んで損はないと思う。