何をかくそう、慶應義塾大学SFCの修士課程でのテーマはインターネットの卸売市場での活用についてのものである。その研究の中ではいろんなキーパーソンに会いに行ってお話をきいたのだが、日本最大の花き卸売市場である大田市場に入場する大手卸FAJの長岡求さんにも時間をとっていただいた。長岡さんは、NHKの趣味の園芸でも活躍しておられるあの方だ。ご自宅で、「10年前のが出てきたんだよ」と栓を抜いてくれたシーバスリーガルをストレートでいただきながらのインタビューだった。あの深みあるシーバスの味は忘れられない。その中で繰りかえし、「フランスのランジスではね」と、ランジス市場のことを話されていた。
卸売市場の重要な機能として、物流機能だけではなく価格決定というものがある。商品の価値がいくらくらいかということを世に問うわけだ。日本では公開の場でセリを行うことで決定するというのが伝統的な方法だったが、時代は変わり、集まって行うセリではなく相対取引主体になりつつある。それでも全国的に「ホウレンソウはこれくらいの値段」という建値(たてね)を示すため、大阪と東京の代表的な市場のセリ値が速報され、全国の卸売市場や市場外の業者もこれをみて価格を決定している現状がある。
だけど、ランジスではこうしたセリは行われない。まず出荷者から参考価格が提示され、仲買はその条件に沿って販売する。それだと、出荷側が非現実的な価格(一般よりはるかに高い価格など)をつけた場合どうするのか?それは簡単、誰も買わないから出荷側が損をする。豊作か凶作かといった情報がまったく伝わらないならともかく、いまや情報化時代なので、だいたいいくら位であるべきかということは、みんなわかる状況。ランジスではセリを行わなくとも、市場原理で荷物が捌かれていく。
あ、もちろん日本の卸売市場が非効率だとかいうつもりではありませんよ。日本は日本の歴史的な流れがあり、現状があって、未来どうしようかということをいまさんざんっぱら議論しているところなのです。とにかくなんでも自由化すればいいってもんではない。
ただ、そうしたランジス市場をみてみたいなぁと思っていて、学生時代から27年経ってやっと足を踏み入れることができたのである。
ただし、肉売場主体ですが(笑)
朝の3時に出立!
白衣マスク帽子等を装着の上、入場であります。まずは家禽類の売場から。
フランスで驚くのは、街中にあるコンビニくらいの小さなスーパーでも丸鳥を売っていること。
ブレス鶏です!その他、ブランド鶏肉がいっぱい。
そういえば丸鳥だけではなく部分肉加工された鶏肉もだが、「あれっ 日本の鶏と何か違う?」と思うはずだ。それは、水で濡れていないこと。じつは食鳥処理の方式が日本とヨーロッパでは違う。鶏を捌く際には、生きていた鶏の身体を冷却する工程があるが、日本では水に漬けるのに対し、EU諸国ではエアチルといって、冷気をあてて冷却する。日本の鶏は水に漬けることで2~10%の水を含んでしまう。逆にEU方式では2~3%の水分が飛ぶ。
だから、スーパーで並んでいるモモ肉や胸肉のパックをみると、日本とは違い、表面が乾いているのだ。どちらもそれぞれの国における衛生上の問題やコストの問題から決まっているので是非はないが、正直に言うと味としては風乾のほうがだんぜん味が凝縮していておいしい。日本の鶏がブヨッとしまりが無いのはこの辺に起因しているのでは無いかと思うし、EUが羨ましい。
さて、巨大なランジス市場内を移動して、牛肉の棟へ。
Viandeというのが牛肉のことであります。
ここでの注目は、フランスのみならずEU諸国から入ってきているブランド牛の箱。日本では観られないものばかりである。
おっと、僕も足を運んだパルトネーゼ牛が!
もちろんWagyuも流通していた!
しかもアルゼンチン産である。ひええええええ
ところで、牛肉棟のすべてを廻ったわけでないのでわからないが、日本の黒毛和牛はあるか?と思ったのだが、みかけなかった。和牛の発見はこのエントリもうちょっとあとになる。
真っ暗な空がすこしだけ明るくなってきた頃、市場内のカフェでお茶の時間。
そのカフェの横に、ユーゴ・デノワイエの車が停まっていた(笑)!
なんで笑うかというと、この後ぼくらは昼食をユーゴの店でとることになっているからだ!
巨大な市場内の、こんどは加工食品などの売り場へ。
ここではありとあらゆるシャルキュトリーが揃う。
町場の精肉店でもシャルキュトリが20種くらい並んでいるので、これどうやって仕入れてるんだろうと思っていたのだが、なんだ市場で全部揃うのね。
そうこうしているうちにとうとう本家である日本の和牛を発見!
伊藤ハム系のサンキョーミートから輸出された黒毛和牛だ。
売れますように、、、国益、国益。
この売場、バラエティに富んだ製品が多い。こちらはブランド豚肉だが、芯が小さくて筋間の脂がすげー。
と、こんな感じでありました。このブログでは端折ってるけど、3時半に到着して6時半くらい。もうヘロヘロです。軽く野菜売場をみて、ホテルに帰着。そして昼はいよいよユーゴ・デノワイエである。