やまけんの出張食い倒れ日記

30ヶ月齢規制のはずれたアイルランドが、本格的に日本への輸出に攻勢をかけている。良質な牧草で育つグラスフェッドビーフの味わいはどうなったか!?

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数日前、アイルランド大使館の大使公邸で開催された、ヨーロピアンビーフのテイスティングセミナーに出席した。

今年2月に発行された日本とEUの経済連携協定によって、牛肉の関税は今後16年かけて関税を9%まで段階的に下げることとなった。その他品目の輸入規制も緩和されたことで、アイルランドは日本を輸出先として有望視していることは、昨日6月11日には正式にアイルランド政府食糧庁の東京事務所が開設されたことからも明らかだ。

じつを言うとこの手のイベントは一昨年から数回開催されていて、2017年の冬にもこうしたイベントに参加した。アイルランド農業の説明のあと、パーティー形式でビーフを中心とする料理が振る舞われたのだが、その時の肉を食べて

「いやこれは日本市場ではぜんぜん評価されないな」

と感じ、アンケートにもハッキリそう書いた。というのも、その時の肉は貧相なグラスフェッドビーフに特有の臭みがあり、熟成も中途半端なのかよい味がしなかったからだ。

そこからしばらくたち、一部業務向けでアイルランドビーフを導入した話しも聞いて、もしかしたらだいぶ変わったかもしれないと思い、出席したのだ。

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今回はなかなかすごい顔ぶれで、駐日大使、アイルランド農業・食料・水産庁の副主席獣医官、そしてアイルランド政府食糧庁長官が挨拶とプレゼンテーション。

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彼ら・彼女らがなんども強調していたのが、アイルランドはとにかく世界に誇ることができる環境で牛を育てているということ。温帯に位置し、牧草の生産条件は大変に恵まれている。人口476万人と少ないながら、牛肉の輸出量は世界で8位、バターは3位と、輸出産業に力を入れる国である。

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プレゼンの中ではなんどもその恵まれた自然環境、とくに清浄な大気と水資源の豊富さについて説明があった。

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面白かったのは、アイルランドにおける牛の総飼養頭数は600万頭(乳牛含むそうで、肉牛のみはわからない)と人口をはるかに超えているのだが、一軒の生産者が飼う平均頭数は30頭にすぎないのだそうだ。マジ!? 少なくないか?

そしてその30頭を東京ドーム6~8個分の面積で飼うという。ドームが4.7haだから33haくらいか、牛一頭に1haは放牧で育てる際に必要な最低限の面積と言われるので、おかしくはないね。この辺は後日、しっかり質問してみたいと思う。

ちなみに面白かったのは、関西で精肉卸小売、飲食業、スーパー等を展開する(株)銀閣寺大西の大西英殻さんが登壇したことだ。

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彼はアイルランドビーフの現地ツアーに参加したそうで、牧場を訪れ、ビーフを各所で食べて来た。

「みなさん味に関心があると思います。お世辞抜きでおいしいです。グラスフェッドといって日本人が想像する味とはかなり違います」

と言っていた。黒毛和牛を販売する会社の方がそういうのだ、本当においしかったのだろうと思う。

プレゼンが終わって、隣室にて乾杯。

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お目当てはもちろん、その場で骨を外してカットされるローストビーフだ。

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まあじつを言えば、先に「おいしいと思えなかった」と書いた2017年のイベントの時もこんな感じで肉を出されたのだが、さて今回はどうだろうか。

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あ、、、 これは大変においしい。栄養価の高い牧草で仕上げされた牛特有の、脂がないのにリッチで、すっきりした香りがし、ほどよくジューシーであり、赤身部分の柔らかさが好ましい。

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もちろん、数年で一国の牛肉の品質がそうそう変わるわけもない。そうか、2017年のイベントでは、日本人の好みを理解して肉を持って来ていなかったんだな、と思う。

ちなみに、先日書いたようにアイルランドビーフは、米国・カナダと共に30ヶ月齢以上の肉を輸入してもよいことになった。今回、30ヶ月齢以上の肉を食べられるのかな、と思ったが、残念ながらまだ輸入されてはいないそうだ。

お金払ってでも食べてみたいものである。

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とても魅力的な、食糧庁長官のタラ・マッカーシーさんがいたので捕まえて質問。

アイルランドで飼われている牛品種の内訳は?

「アンガスにヘレフォードに、、、ヨーロッパ系の品種がいろいろいて、またそれらを交雑種(F1)としても生産しているので一概には言えないけど、必要なら数字を調べるわ。」

30ヶ月齢の規制が撤廃されましたが、いまアイルランドで30ヶ月齢の牛はどの程度生産されていますか?

「アイルランドの肉牛生産は輸出産業なので、相手国のニーズに合ったものを出すというスタイルです。いま、じっさいには26ヶ月齢くらいの牛が中心だと思います。ただ、30ヶ月齢以上が求められるなら、それに合わせて生産をする準備はありますよ。」

ということで、すぐさま30ヶ月齢以上の牛が入ってくる、というわけではなく、日本のマーケットから求められるものを出すというスタンスであることがわかった。

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ただ、おそらくいま多くの日本の外食産業は、こと輸入肉にはとにかく価格が安いことを重要視しているはずだ。国産信仰の強い日本人には、高価格帯で和牛、ミドルレンジで乳用種、交雑種をあて、価格重視の層はUSまたはオージー。アイルランドビーフはオージーやニュージーとぶつかる肉質であり、ならばやはり価格で判断されてしまうように思う。

いま相対的にUS、オージーが高くなりつつある中で、アイルランド産ビーフはそれに変わる安値ラインとしてみられてしまう可能性がある。それはあまりいいことではないように感じる。

ただ、アイルランドは英国のブレグジット問題によって、経済的に被害を被るとみられている。そこで、輸出に活路を見いだしたいという姿勢を強めているのだろう。

さて、十分においしいアイルランドビーフは今後、日本でどのように受け入れられていくだろうか。僕はとにかくアイルランドの30ヶ月齢以上の牛を食べてみたいなあ、と思う。