やまけんの出張食い倒れ日記

関西の鍋と言えばハリハリ鍋にとどめを刺す! 大阪「徳屋」

jpg 大阪出張である。またもや講演なのだ。でもそれだけではない。関西で同世代の市場関係者、流通関係者に友人が数人居る。僕が大阪に行く時はほぼ必ず会って飲み、意見を交わすのだ。この友人達に言えるのは、キャラや強みがまったくかぶらないということだ。だから、非常に仲が佳い。その仲間が「やまけん、ハリハリ鍋食ったことがないならぜひ行こうや」と言ってくれた。そんな言葉に乗らぬ僕ではないのであった。

 ハリハリ鍋といえば鯨肉と京菜(水菜)を出汁で煮て食べる、関西圏を代表する鍋の一つだ。現在大ブレイク中の水菜にさっと火が通るか通らないかくらいで引き上げ、鯨肉と共に噛み締めると、「ハリハリ」という歯触りが楽しめるというこから名前が付いたと言うが、本当だろうか。ま、それはともかく僕はどこかの料理屋で、小鍋仕立てのハリハリを食べた記憶はあるが、全くその味については印象がないほどにインパクトがなかった。

 ところで鯨といえば相変わらず「食べちゃダメ」というワガママを押しつけてくる国際的なインチキ団体が多いが、全くもって腹立たしい。今や鯨は増えすぎており、イワシの漁獲量の低下などは実は鯨によるものではないかという推論もある。詳しくはこの本をご参照。保護しすぎてある個体が増えれば、そのしわ寄せがどこかに来るのは当たり前だ。しかもそれが食物連鎖の上の方に位置する動物なのだから、水産資源の圧迫は深刻だ。食い倒ラーとしては捕鯨反対には断固反対である。 ま、その理由の最たるものは「くじら食いたい」なんだけど。小中学生の頃に給食に出たくじらの大和煮が忘れられないのだ。あれは旨かった、、、

 さて今回友人が連れて行ってくれるのは、「大阪では知らぬ者がいない」という老舗の名店だそうだ。その名を「徳屋」という。場所は千日前だそうで、これは東京で言う歌舞伎町のようなところだそうだ。たしかに商店街に足を踏み入れると、風俗店と通常の小売店と飲食店がワイワイがやがやと軒を連ねる猥雑な空間が拡がっている。こういうところには旨い店が多いこともまた事実。非常に楽しみなのである。

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■徳屋
住所:大阪市中央区千日前1-7-11 上方ビル2F
電話:06-6211-4448
ハリハリ鍋 単品だと一人前2000円程度だったと思う
各種鯨肉刺身、ベーコン、竜田揚げ
コロおでん、さえずりおでん等
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 老舗と言うことで、喧噪の中に佇むあばら家を予想していたのだが、店はきれいなビルにあった。それも2階と3階にまたがっているらしく、相当に景気がいいようだ。店にはいると、テーブルや座席で客がつつく鍋の熱で、ムワッと熱い気がする。
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友人が言う。

「俺ここを予約の電話かけた時、おばちゃんが『ああ、はいはい予約ですね、、、あ、チョット待って下さいネ』って言われて それから5分くらい戻ってこんかったわ。もうこんな店いくの辞めよて思ったけどなぁ。」

 どうやらそれほどぞんざいに客を扱っても大丈夫なくらいに流行っているようだ。程なくもう一人の友人も来て、座敷に上がる。

 品書きには鯨の各種料理と鍋料理が並ぶ。まあとりあえずハリハリ鍋を2人前と、鯨肉の刺身とおでんなどを頼む。

 で、結論から言うと、この鯨肉料理がすこぶる旨かった

■さえずりとコロのおでん
 さえずりは鯨の舌。クニュクニュトロリとした食感がじつにかわいらしい。これがトロトロに煮込まれ串に打たれて出てくる。芥子をちょいと塗って食べると実に最高。
 コロは脂身である。皮目もついていて、そこの若干固い食感と柔らかくとろける脂味との食感ギャップが楽しい。
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■百尋(ひゃくひろ)の煮物
 百尋とは鯨の小腸である。ソーセージの輪切りのような見た目だが、食感はまさにソーセージ系。ま、鯨はほ乳類なので当たり前か。歯触りが強く弾力に富み、味も非常に濃い。焼き目を漬けてポン酢に浸して供してくれる。

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■くじらの刺身
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 最上と言われる尾の身と、赤身と脂身を交互に重ねたものを注文。しかしこれは感心しなかった。せっかくの尾の身はまだ十分に解凍しきっていない。刺身は切り身にする前に解凍しておかないと、旨味がドリップと共に流れ出て無惨なことになる。果たしてこの尾の身も、安酒場で頼むマグロの赤身のようなべったりとしたモノに化してしまった。赤身と脂の刺身は、まあ食えた。

■ハリハリ鍋
 刺身のまずさにかなり気分的に冷えてしまったのを温め返してくれたのが、やはり真打ちのハリハリ鍋であった。鯨肉と水菜がてんこ盛りになって運ばれてくる。
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 これを一見すると量が多そうにみえるが、、、水菜なんてのは加熱してしまうととたんに分量が減ってしまう。鯨肉は数片あるのみだから、案外にこの店の利益率は高いのではないかと見た。綺麗なビルにはいることはある。
 ただし味付けはまったくもって見事であった。しっかりした味の出汁には激辛唐辛子のハバネロが入っていて、これが全体の味を締めている。
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そこに鯨肉を入れるのだが、一口大の鯨肉にはあらかじめ片栗粉をまぶし下味を付けて茹でてある。この片栗粉の衣が出汁に溶けてプルプルとろとろの絶妙な加減になるのだ。鯨肉が煮上がってくると鍋の表面に浮いてくる。そこに水菜をざっと投入し、しばし火が通るのを待つ。そしてグラグラと煮立ってくるところに箸を入れて、水菜とくじらをザクリと食べるのである。
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「うーーー 旨い!」

 鯨の癖のある香りと衣のトロ味、そして一緒に食べる水菜の食感が際だち、あっさりとしてはいるが強い味の出汁が実に旨い。ハリハリというのがこんなに風流で旨い鍋だとは思わなかった。しかし、あっという間に水菜が無くなってしまう。

「もう一人前ね!」

 と頼むと、すぐに運ばれてくる。それをよーく見ると、、、???
なんだ?さっき二人前って頼んだのと、大差ない量が盛られている。鯨肉は若干量が少ないが、水菜の分量はさっきと同じくらいだ。水菜、皿に山盛りにすると崩れそうになるから、限界量があるのだろう。てことはつまり、ここでは一人前ずつ頼んで、追加しながら食べていくのが正解ってことだ!と三人ともに得心するのであった。

 3人とも農産物の流通に携わっている人間だけあって、

「この水菜は土耕か水耕か?」

「いや絶対に土耕でしょ。味が濃ゆいし」

 等々のつっこみが入る。そう、水菜は最近水耕栽培品が多いが、風味も食感も、土耕品とは別物。安い水菜はそれなりの味しかしない。だけどもキューピーなどのCMで採り上げられているせいか、流通の世界でも大ブレイク中である。

 ハリハリを3人前食べて、濁り酒を飲み、議論を交わし、いい気分になった。

「やまけん、旨いうどんを食べに行こう!」

と、大阪の町をさらに探索することになったのであった。