やまけんの出張食い倒れ日記

赤肉サミット2010はこんな感じで執り行われたのです。

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※本エントリの写真はすべてプロカメラマン大山裕平氏によるものです。

赤肉サミット2010。赤肉品種の牛の生産者・流通業者と料理人・マスコミの人たちが赤肉のおいしさに関する研究をし、交流する場となるべく産声を上げました。

今回、完全にクローズドイベントとして開催。「専門料理」や「cafe&sweets」などの料理専門誌で有名な柴田書店に協力に入っていただき、「赤身肉に関心を持ち、なおかつ影響力の大きそうな料理人さん」に声掛けをしていただいた。

その結果、お集まりいただいたのはこんな顔ぶれだ。

アクアヴィーノ
アクアパッツァ
イル バンビーノ
インカント
ヴィノテカサクラ
ウェスティンホテル東京「龍天門」
エディション・コウジ・シモムラ
オマージュ
きたやま南山
GINZA ORIKASA
GRILLうかい
さの萬
タヴェルナグスタヴィーノ
ドゥ・アッシュ
ベッカッチャ
ボンシュマン
ラ・バリック
ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ
ラ・ブランシュ
ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション
リストランテ ヒロ チェントロ
リストランテ大澤
ル・ブルギニオン
レストランFEU
ロイヤルホールディングス
牛心
銀座 小十
銀座レカン
御田町 桃の木
神楽坂 石かわ
神楽坂しゅうご
西麻布ダルマット
東京ベイコート倶楽部
日本料理 小伴天
龍吟

恐ろしい、、、わがグッドテーブルズの人脈だけではとてもじゃないがこんな人たちを集めることはかなわなかっただろう。肉を調理してくれたランベリーの岸本シェフがこのリストを手にしてこんな風に言っていた。

「こんな人たちが集まるイベントって、むかしエル・ブリが来日した時以来じゃないかなぁ」

それはまあオーバーだろうけど、しかし本当にシリアスな面々である。しかも当初は、「誘ったって来ないだろう」と思っていたのだ。そうしたら、専門料理副編集長である齋藤君が日々報告するなかで「なんか、ほとんどのシェフが「行きたい」って言ってますよ。」というので驚いた。実は半分以上は声をかけても来ないだろうと思って、多めに声掛けをお願いしていたのだ。実際、あやうく席数オーバーになりそうなところだった。いろんなところから「参加したい」という声があったのだけれども、残念ながら断らざるを得なかったのはそういうわけでした。

このリストを手にしてからというもの、とてつもなく重い重いプレッシャーが僕を包み込んだ。何をしていても不安で、胃が荒れて口の横にできものが吹き出て、そして喉が腫れるようになった。自分が「やりたい」って言い出したことなのにね。まあとにかくすごい方々が赤身肉を味わいに来てくれるということなのだ。じゃあ岸本さんに最大限の力を発揮していただける環境を作ろう!ということに専心したのである。

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シェフ、朝10時半からスタジオプラスGに到着、肉の仕込みに入る。ご覧の通り、赤肉サミットTシャツを着てくれた(笑)

「焼き」で提供するのは、サーロイン7種類だ。どの肉も28ヶ月齢に近いものを用意し、ほぼ同じタイミングでと畜し、ウェットエージングで30日間寝かせてもらった。普通、黒毛以外の品種でそんなことはできない。産地の協力あってのこと。感謝である。

■ホルスタイン(これは普通、国産牛として出ているのはこんな肉だよというベンチマーク用。)

ホルスタイン_003
20.12.24生 21ヶ月齢 10.05と畜

■土佐あかうしの去勢牛

あか牛去勢_005
H20.05.11生 28ヶ月齢 9.24と畜

大ぶりな肉、若干リブロース側の部位が来た。わらをいっぱい食べながら「土佐の大地」という専用設計の配合飼料を与えて育てた、グレインフェッドの肉である。

■土佐あかうしのメス

あか牛メス_007
H 20.5.07生 28ヶ月齢 10.1と畜

入手しにくいメスの土佐あかうし。サシの入り方が細かい。土佐あかうしは黒毛に次いでサシが入るといってよい品種だが、脂の融点がきわめて低くさらりとしているため、舌に脂が残らず赤みの旨みも感じやすいことから、赤肉品種と位置づけた。

■日本短角種 岩泉町のもの

短角岩泉_009
H20.3.9生 31ヶ月齢 10.7と畜

7割をデントコーンサイレージで育て、そのほかは小麦フスマ、配合飼料で育てる。グラスフェッドに近い。

■日本短角種 山形村のもの

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H20.4.7生 30ヶ月齢 10.1と畜

大地を守る会との契約取引基準で、100%国産の穀物飼料中心で育てている。デントコーンサイレージなどの粗飼料も与えるが、全般的にはグレインフェッドに近い。その割には見ての通り健全な赤身だ。

■日本短角種 二戸市のもの

短角二戸_014
H20.6.18生 28ヶ月齢 10.1と畜

僕がもっとも慣れ親しんでいる二戸の短角。雑穀のぬかや麦製品の残渣などを配合飼料とともに与えている。肥育中期以降はグレインフェッドである。

■日本短角種 北海道のもの

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H20.5.19生 28ヵ月齢 9.27と畜

北海道の足寄(あしょろ)町にある北十勝ファームで育てられたもの。99%が国産というか北海道産飼料によって育てられている。グラス中心である。

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これらのサーロインは均一な火入れができるようにほぼ同じ大きさにカットされ、リソレされ、スチームコンベクションオーブンへ投入された。

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スチコンへの投入は試食の2時間ほど前から。

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この状態で、出したり入れたりしながら芯温を55度~58度になるように焼く。といえば簡単だけども、関係者含めると50人以上が試食できる分量となると、一品種で3ブロック×7種=21本! 岸本シェフ率いるランベリーチームが一丸となってあたってくれた。

さてその頃、一階下の講義ブースでは座学が始まっていた。

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お恥ずかしながらワタクシめが「なぜいま赤肉なのか?」と題して思いのたけをぶちまけました。

この国の肉の基準は黒毛和牛のために最適化されたものになっている。だから農家はみな黒毛を作らないと生活ができない状況になり、その結果、赤肉品種はこのままだとなくなってしまうところまで来ている。

赤肉品種が美味しくなくて、みなさんも欲しくない、というなら仕方がない。けど、違うでしょ?本当は皆さんが使いたいのは、赤肉じゃないんですか? だったら、きちんとそれを黒毛とは違うモノサシで評価する必要があるはず。そのモノサシを一緒に作っていきませんか。

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そして「赤身肉のおいしさの基礎知識」について、北海道大学静内キャンパスの秦(はた)先生が講義をしてくださった。

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もし赤身中心の肉と霜降り和牛の強いサシの肉が同じ分量あったとしたら、旨みとなる遊離アミノ酸の量は確実に赤身肉の方が多いです。

また、初期段階で放牧を体験した肉牛は、牛舎の中でずっと飼われた肉牛に比べると、ところどころプラスマイナスはあれども、旨みの点では放牧経験のある牛に軍配が上がる。そういったことを学んだのでした。

さあそして産地のPRタイム。各産地の生産者さんが自分の産地の育て方や餌について説明。

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このイベントではハッキリと、牛肉の味とは下記の方程式で決まると宣言した。

牛の品種×餌×育て方×熟成=牛の肉のおいしさ

だから、「どういう餌を与え、どのように育てたか」をきちんと説明してもらったのだ。これが後々の試食で活きてくることになる。

さて舞台は6Fのキッチンスタジオへ。移動し終わったらすぐに試食用の皿が出るよう、シェフチームが壮絶な速さで肉を切り、盛りつけてくれていた。

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上からホルスタイン、土佐あかうし(去勢)、土佐あかうし(メス)。

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左から短角の岩泉・山形村・二戸・北海道。

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BGMでも流せばよかったんだけど、そこまで気が回らずテイスティングはピーンと張り詰めた緊張感のあふれる雰囲気で進行。すみません参加者のみなさんに余計な気遣いさせました。

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龍吟の山本さんがどう食べたか、あとでじっくり聞いてみたいと思った。

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仕上げに、岸本シェフはオイルチュラーを使い、芯温を完璧な温度に仕上げて最後にガス火で表面をバリッと焼いた、十八番の創作料理・いちぢくの葉包み焼きを出してくれた!

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使用したのは土佐あかうしのメスのウチモモ。完璧な火入れとはこのことか、、、と目を見開いてしまった。

「やまけんさん、俺のキュイッソンはこれですよ、これ。」

と胸を張る岸本シェフ。素晴らしい。本当に彼が居なかったらこのイベントは成立していなかった!

そして試食後、シェフの皆さんに意見を聞く時間を持った。どの料理人も実にきっちりと、素晴らしい示唆に富む話をしてくださった!感謝である!

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試食後、じつは今夜も営業なんですという人たちが席を立ち始める。このとき下の階の机を組み替え、生産者・産地との交流の場を作ってある。しかしきっと忙しい料理人さんはスルーしちゃうんじゃないかと思って、何回も「ぜったいに5Fで産地の人に声をかけてからお帰り下さいネ」とお願いしたのだが、、、杞憂だった。

みなさんが、各産地のブースに訪れ、談笑し、または取引につながりそうな話をしながら帰ってくださった!僕にとって今回もっともうれしいことがそれだった。本当に有り難い。このイベントは料理人のためのものではなくて、料理人と生産者・流通業者のためのものなのだ。今回はとにかく食べてもらうことを重視して、料理人さんの席を作ってお迎えするというやり方をしたけれども、本当は生産者も席を用意して、同じ土俵でディスカッションをしたい。次年度以降は絶対にそうしよう。そう思ったフィナーレだった。

とにもかくにも こんなふうに赤肉サミットが執り行われました。終了後、会場近くの銀座ライオンで裏方をしてくれたスタッフさんたちと一杯飲むも、もうあたまんなかグラグラ。なのに今日はばっちり目がさえて眠れない。だから、一気に速報を書き上げてしまった。

詳しいレポートは、柴田書店「専門料理」にこれから数号にわけて掲載されます。また、いろんな業界紙さんが記事にしてくれるであろうことを期待(すげー期待します)しております。

最後に一言。このエントリの写真は、大山カメラマンにお願いして雑誌掲載用以外にも撮影をしてもらったのを掲載した。 、、、プロの写真はやっぱり違うぜ!切れ味最高。勉強になりました。

さて、数時間寝たら愛媛に行って参ります。なんか、肩の荷物ががさっと降りた感じ。幸せです。