やまけんの出張食い倒れ日記

本当に大変なことになってしまった。台風害で岩手県の岩泉町の短角牛牧野は、これから維持ができるのかどうかの瀬戸際になるかも知れない。

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※9月6日、一部生産者さんとの連絡がとれました。久慈市山形町の牧野は無事、大規模な土砂崩れなどはなく、なんとか大丈夫だそう。岩泉町の釜津田(かまつた)などの代表的な牧野もいまのところはなんとか大丈夫とのことでした。ただし、農家さん自身はやはり被災しているところがあるかもしれません。引き続き注視していきます。

東日本大震災の復興がまだ半ばだというのに、また岩手県は大きな損害を被ってしまった。岩泉では、人が住む町が水に呑まれ、インフラがことごとく破壊されてしまった地域も多い。そして、気になる短角和牛の牧野は、「そもそも牧野に上がる道が寸断されているようで、確認できません」ということだった。

岩泉町は日本のチベットともよばれる、とても大きな範囲の中山間地だ。でも山間部が多いゆえ、そこには山の恵みがある。短角和牛の産地としては最大規模で、子牛の繁殖農家と6軒の肥育農家が頑張って産地を維持してきていた。

短角牛の生産で重要なのは牧野(ぼくや)の存在だ。牧野は人が山を切り拓き、牧草の種を蒔いて牛を入れ、維持してきた草地である。草地は放っておくと自然に林となり森となってしまうが、草地を維持することで人と山の境界で家畜を育てる素晴らしい環境となる。

岩泉町内には十数カ所の牧野がある。牧草が生える春から草が枯れる秋までの間、その年に生まれた子牛と母牛をこの牧野に放つ。そうすると、母牛は草を食み、子牛は乳を飲み、成長すれば草も食べ、ライフサイクルの1/3程度を放牧で過ごすことになる。

 

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この間、地上の農家は牛の餌を、牧野の面倒をみる看守さんに任せて、他の農作業をすることができる。むかし短角牛の生産農家には、タバコの葉を生産して現金収入を得ていた人も多い。また、この間に冬を越すためのデントコーンなどを栽培し、ロールで包んで発酵させておくのも重要なことだ。

岩手県のために短角牛の写真を撮るため、数日間の間、早朝に牧野に登った。朝靄の中、かならず牛たちは僕らより早く起き出して、コンディションのよい草を求め移動していた。

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いま、この牛たちはどうしているだろう。人が上がれないのは仕方がないとして、水をきちんと飲めているか心配だ。広大な放牧地だが数キロにわたってバラ線で囲っているので、小川がない牧区の場合は、水飲み場用のパイプが詰まったりすると牛が飲めなくなってしまう。うまく脱柵して水を飲みにいけていればいいのだが。

それにしても、岩泉町の今回の被害は胸が痛い。この町の産業を引っ張る岩泉産業開発という会社もそうとうな被害を被ってしまった。運営する道の駅も濁流に洗われ、いまのところ復旧の目処建たずだ。そして、有名な、大人気の岩泉飲むヨーグルト(あの、アルミパックに入ったやつだ)の生産工場はなんと復旧の見通し建たず。新工場を建てるしかないかもしれず、そうなると半年以上はかかってしまうだろう。

とうとう、異常気象が人の営みを壊していく時代になってしまった。気象条件に全てをゆだねる第一次産業はその身を守る術もない。今年は別の理由で農家の離農が進むと思っていたのだが、これで拍車がかかるに違いない。

でも、岩泉の短角牛生産者さんたちには、なんとしても踏ん張って欲しいと心から思う。人の暮らしと牛とが表裏一体だった頃の面影を残す、ルーツともいえる産地なのだから。

ひきつづき、なにができるのか考えてみます。