さて、住吉酒販で舌を潤したのち、3Fに上がる。なかなかに気になる飲食店が出店するこのフロアの奥手、イタリアンのサローネの手前にその店がある。南禅寺 瓢亭 東京店!とうとう出てこられました。
思えば現・瓢亭主人の高橋義弘君との出会いは、2010年に実施した土佐あかうしセミナー。
ここであかうしを食べた義弘君、さっそく取り寄せてくれるようになり、いつも瓢亭に顔を出す常連さんなどに出すようになったという。そして同年5月、ダメもとで義弘君に「高知にあかうし観に行かん?」と誘ったところ「いいですね~!」と一泊二日を空けてくれ、いっしょに足摺岬の放牧風景を観に行ったのだ。
僕の識る限り、京都と東京の和食店で、土佐あかうしをもっとも早く提供するようになったのは、この瓢亭であると思う。感謝感謝、こころから感謝をこめて、高知県庁の”泣く男”公文ちゃんたちと訪店である。
内装の美しさは、南禅寺の本店や別館ともまた違うしつらえで、これまた趣がある!
よーくみると、カウンターは白木ではなく畳なのである。これがまた、京都の瓢亭のお茶室でいただいている風情を感じさせてくれる。
カウンターにはもちろんご主人・高橋義弘!
「東京はやっぱり京都といろんなことが違いますので、慣れるまでけっこう大変ですね。若い子達もはやく帰してやりたいのですが、なかなかそうも行きません」といいながら、充実した表情。
日本酒やワインの品揃えはすべて義弘君が選んだものだという。
住吉酒販では日本酒をのまないでとっておいたので、ここは瓢亭との縁を感謝するため、義侠のえにしをお燗で。
まあ、なんといっても、築地でも手に入らない、瓢亭の鯛、いや「お鯛さん」をいただくことができるというのが、東京店ができて一番うれしいことだ。
最初に瓢亭に伺った際、女将さんがでていらして、その静かな迫力に緊張してカチンコチンに固まった僕と妻。でも鯛があまりにも美味しくて「鯛が美味しいですね」と言うと、「お鯛さんはねぇ、」と鯛に「お」をつけ、「さん」まで。それほどまでに鯛の位置づけが大事なのだ。
しかも瓢亭の鯛は漁師さんも特別。注文事項がいろいろあって、それに合ったものだけを仕入れるという。漁法から輸送時の鯛の姿勢からなにから、ふつうの鯛とは違うという。だからだろうか、この鯛の身。
東京の他の店でいただくどの鯛とも違う。いかっているのでもない、熟成が進んでいるのでもない、その中間だろうか。そしてとても清々しい香り。多くの常連さんがこれを味わいに来ているのだろう。
ちなみにお鯛さんを食べるあじつけは二種。ひとつは上の写真で、瓢亭名物の「ゆず油」に塩をまぜたものだ。ゆず油はある特殊な技法でゆずの香り成分をまるっと太白胡麻油にうつしこんだもの。油脂なのに豊かなゆずの香りで、何度いただいても本当におどろく。
そして醤油にびっくり。愛媛県大洲市の梶田商店がはなつ、「巽」のうすくちである。そうか、香りやうまみが存在感ありすぎて、和食店では「美味しすぎて使えない」といわれる梶田商店の醤油だが、うすくちはイケるのか!
お鯛さんのこの表面。研ぎ澄まされた包丁によって引かれているから、醤油もはじくような滑らかな断面だ。しかも瓢亭はお鯛さんをケチらない。わりと、おつくりを2、3枚で上品につける店が多い中、「まだあるの!」と感心する枚数をつけてくれるので、大満足なのである。
あいなめとヨモギ生麩の椀。
「ワカメは三陸ですよ。あと、ダシも本店とちょっとかえてます」というが、俺にはそこまでわからんかった。今度行った時にシレッと「む、これ、本店と変えただろ!?」とか言ってみよう。(そしたら「いえ、本店と同じに戻しました」とか言われたりして(笑))
ちなみに、、、ここに盛り込まれている瓢亭卵。
なんと高知県の土佐ジローのたまごが使われていることをご存じだろうか?といっても100%そう、というわけではない。瓢亭の本館と東京店で、仕入ができる時は土佐ジローの卵に出会える可能性がある、ということだ。義弘君は食材探しの求道者。つねによい食材にアンテナを張っているので、いつもジロー卵とは限りません。けれどもこの日は土佐ジロー。公文ちゃんと入交さんが泣きそうになっていました(笑)
もうしばらくすると終わりになるタケノコ。本店ではどかーーんとでっかいのが出るけど、東京店はやはりすこし上品に(笑)
貝とトマト、そして飯尾醸造の紅芋酢ジュレを堪能したら、でてきましたよ土佐あかうし!
これが、あかうしの力を和食的に引き出す一品。緑色のソースはうすい豆(この日はまだウスイエンドウがでてきていないので、グリーンピース)を裏ごしし、丹念にねられたものだ。
まだ食べたことがない人はぜひ一度、リクエストしてみて欲しい。和食的な牛肉の食べ方を追求する義弘君のスペシャリテである。
仕上げはタケノコごはん。
「たくさん炊いちゃいましたので、いっぱいおかわりして下さい」サンクス!
しかし、「専門料理」に連載を書かせてもらってなかったら、義弘君との出会いはなかったな。ほんとうにこの世は、縁(えにし)が大切である。
僕らが遅く入ったので、もう閉店間際。他のお客さんもお帰りになって、ゆったり店内をみせていただく。
とにかく忙しすぎるため、席はあっても予約を制限せざるをえないらしい。しばらくは狭き門かな!
イチゴはもちろん、茨城の村田農園!
「東京店のために新しく、作家さんにつくってもらった器がけっこうあるんですよ」
これ、手にもつとなんともいえぬ気持ちよい手触り!
もう、腹一杯胸いっぱいです。
え、なにこれ?と昨今はやりのビックリするようなものがでてくるわけではない。けれども、400年の歴史のなかで磨かれてきた一皿一皿が、時代の変化でより研ぎ澄まされて、供される。その背景には、誰よりも早く新しい食材の研究を始めた義弘君の努力があるのだ。
ほんとうに美味しかった。 瓢亭 東京店に幸あれ! 心の底からそう思う。
帰り道で一枚。ゴジラのいいアングル!