米国産牛肉の輸入月齢の制限撤廃で、30ヶ月齢以上の牛肉が入ってくることの本当の意味とは。

2018年11月16日 from 日本の畜産を考える

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世の中が別のニュースで湧いている中、牛肉に関係する業界の人間がひそかに気にしている、とある事態が動きつつある。米国産牛肉の輸入月齢制限が撤廃されようとしているのだ。

2018年11月14日
米産牛 月齢撤廃へ 輸入増の恐れ あす調査会取りまとめ

https://www.agrinews.co.jp/p45780.html

1990年代後半、イギリスから欧州全体にBSE、いわゆる狂牛病が流行した。ニホンでも2001年に発症例が確認され、牛肉消費はどどーんと落ち込んだ。発症例がある国からの牛肉輸入が禁止となり、アメリカは2003年に禁輸措置となった。そのご2007年には20ヶ月齢以下の牛の肉のみ輸入再開。20ヶ月齢以下だと味わいも薄いためかなりの不評となる。この間、BSE清浄国であるオーストラリアはオージービーフの売上をガンガン伸ばし、日本向け輸出国のトップとなった。

2012年、アメリカ産牛肉の月齢制限が30ヶ月齢以下となり、これによって事実上、USビーフのど真ん中といえるクラスの肉を輸入できるようになった。ここ数年、オーストラリアの出荷量の減少の影響もあり、USビーフは輸出量を増やしている。

そして昨日の食品安全委員会のプリオン調査会で、30ヶ月齢以上の牛肉についての安全性が審議され、正式にはまだ発表されていないけれども、OKという方向になるはずである。

先の日本農業新聞の記事には、

米国では20カ月齢前後でと畜されるため、政府関係者は「月齢制限が撤廃されても量的には変わらない」とみる。一方で、と畜場で月齢ごとに分けて管理する必要がなくなるため、「手間やコストの面で売りやすくなる」(同)とみる。舌など内臓は高齢牛のものが多く、輸入が増えることも考えられる。 (日本農業新聞より)

とある。

これを観る限り「影響は軽微だ」と思われるだろう。けれども、僕は大きな懸念というか、日本の牛肉業界にとっては重要な転換点になるなあ、と思っている。

たしかにUSビーフの主流は、これまで書いてきたとおり20ヶ月齢前後のものだ。20ヶ月齢前後というのは若齢だが、成長促進ホルモンを投与することでズドンと身体が大きくなるため、出荷適齢体重に達するのである。

ただし、身体は大きくなっても、味はついてこない。若齢牛の肉は味わいが薄く肉質も締まりが悪く、美味しいものではない。いま、ステーキを売りにするレストランの多くがこの若齢USビーフを「ブラックアンガス牛」と称して売っているけれども、味が無いのでまったく美味しいと思わない。それなのに、料理人が「赤身が美味しいですよね~」と脳天気に言っているのをみると、なにもわかっていないのだなとゲンナリしてしまう。あんなものは赤身の美味しさでもなんでもなく、味が薄いだけなのだ。

ただ、僕からみればそれは逆に、USビーフの限界点として「けっきょく輸入だと美味しくならないから」と言うことができるということだった。日本の牛は25ヶ月齢以上は飼っているぞ、それによって味はUSより断然よいぞ、と。

その月齢制限が撤廃されるという。30ヶ月齢以上の牛の肉も入ってくることになる。日本の牛肉は大丈夫だろうか。さきの農業新聞では「あまり変わらないだろう」という論調で、たしかに量的にはそれほど劇的に変わることはないだろう。

けれども意味的には違う。

成長促進ホルモンを投与せず、十分な肥育期間を飼った美味しい米国産牛の肉が存在することを、僕は識っている。しかも、それは、すばらしく美味しい。ステーキという食べ方に関して言えば、日本の牛肉よりも断然向いているといっていいだろう。

だから、このニュースは大問題を日本の肉牛シーンにつきつけているのである。米国以外の国も、これから徐々に月齢緩和が進むだろう。そうすると、ヨーロッパや南米など、牛肉大国のほんとうに美味しい牛肉の輸入ができるようになる。

そして、いつのまにか「味に関しては国産の牛肉がナンバーワンだよ」という価値観が、大きく揺さぶられていくのではないだろうか。そうならないように、日本の牛肉は「この先、味わいをどのようにデザインするべきか」を真剣に考えるべきだと何度も書いてきたけれども、さてどうなるでしょうね。