鹿児島一日目、福山の黒酢生産の現場を見せていただいてから、ブリの養殖現場へ。と書くと「養殖ブリかあ」と言う人もいるかもしれない。しかし今後、持続可能性の観点からも養殖は避けて通れぬ道である。また、味の面で養殖魚で嫌われる要素はコッテリした脂と餌由来の臭みだと思うが、それがほぼない、脂の旨みはそのままに、魚粕臭くなく、スッキリした味わいの養殖ブリもある。
しかもそこには先にみた黒酢が大いに関わっているのだ。
「今日は雨の予報だったのに、やまけんさんホントに晴れ男ですね!」
と迎えてくれたのは福山養殖の小林松三郎さん。関西から養殖の天国を求めてこの地に移住してきた三代目の漁家である。小松さんとは初めてではない。以前、うちがお手伝いをしていたサステナブルシーフード研究会で2011年に養殖魚をテーマとした際、産地からゲストスピーカーとして来ていただき、また集まったシェフたちに試食もしてもらったことがある。もちろんシェフ達には大好評で、「これが養殖だとは!」という声が続出した。
「まずは天気のよいうちに海に出ましょう。」と小舟の係留所へ。
ご覧の通り快晴、海はべた凪である。
「なんかすごく穏やかな海ですね~」というと、「ここは内湾なので、めったに大波で困ることはありません。それが、鹿児島県の錦江湾のよいところですね」と。
そう、ここ福山地区は鹿児島の象徴的な存在である桜島を向こうに望む錦江湾に面している。外海から桜島が絶妙に防波堤の役割をしていることで、大しけになることがほぼないのだという。
ちなみにどの辺?てことなんだけど、下の地図の「現在地」と書かれているところの、もうすこし右側に行ったところが福山地区だ。これをみると、二つの半島の付け根の湾を、桜島が蓋をしているような地形であることがわかるだろう。
地形について、くわしくはこちらをどーぞ。
■桜島・錦江湾ジオパーク
http://www.sakurajima-kinkowan-geo.jp/sakurajima-kinkowan/landscape-geology/
それにしても、一日雨という予報はどこいったんだよ!という状況(笑)桜島のシルエットを見ながら、心地よく生け簀まで移動です。
まだ岸の風景もすぐちかくで、目測だと200メートル程度かな?と思うけれども、「いえいえ、もう700メートルほどありますね」と。
ちなみに錦江湾はさきのジオパークのページに解説されているとおりカルデラでできた地形のため、岸からすぐ一気に深くなっているそうだ。
「この辺で水深180メートル以上はあると思います」
といわれて、うおっ こわっ となってしまうのであった。
さて、穏やかに凪いだ海の上、養殖ブリの生け簀が近づいてきました。
10m×10mのサイズに、水深もたしか10メートルの生け簀。この中に700匹のブリが居る。
網の下に、ブリが泳いでいるのが見える!
ブリが同じ方向に泳ぐことで、水面に渦ができている!
さて黒酢ブリはその名のごとく、福山地域で産出される壺造りの黒酢もろみを餌に入れている。そのペレット状の餌がこちら。
この餌がポイントなのだ。抗酸化力が強い黒酢もろみを入れることで、腸の働きがよくなり、また蓄積される脂質が一般的な餌によるものと変わるのだろう。
また、小林さんによれば「今後、養殖魚の餌は脱・魚粉になっていかざるを得ない」という。いま養殖で与える餌はイワシを中心とした青魚の魚粉が中心なのだが、養殖が増えると餌になる天然魚を獲り尽くしてしまう恐れが出ている。
持続的な養殖が叫ばれる中、養殖向けの餌も持続性の担保が必要になっているのだ。その点、この黒酢ブリの餌も、植物性原料をやや多めに配合している。
「じゃあ、餌をやっていきましょう。やまけんさん大丈夫ですか、そうとう水がバチャバチャきますよ!?」
うん、大丈夫、といって後悔した(笑)!!!!!!!
そーれっ
ずおおおおおおお
ジャバジャバジャバジャバジャババババッ
ズジャジャジャジャジャジャッ
もうね、餌にむらがるブリ達が大狂乱状態ですよ!
海水が身体にかかりまくる! うおっ 塩水はカメラに大敵!
無事、100kgもの餌を投入終了。これは一苦労だ、小林さんお疲れ様でした!
ちなみに,目配りをし工夫をしているのは餌だけではない。生け簀の網につく海藻類や貝類をほうっておくと、いずれ生け簀は目詰まりを起こしてしまい、魚にも悪影響が出てしまう。このため、薬剤などで海藻類をとってしまう漁師さんもいるようだが、福山養殖ではイシガキダイという魚を入れておく。この魚が、網に就いた藻類を食べて掃除してくれるのだという。
もうひとつ大事なのが、生け簀と生け簀の間隔だ。ふつう、生け簀は等間隔に整然といくつも並んでいる光景を見るのが普通だが、福山養殖の場合、じつにまばらだ。
それもそのはずで、生け簀間の距離が最大で100メートルも離れているそうだ。密度が濃ければ、移動に費やす時間も燃料も節約できるが、当然ながら過密養殖になるので、水質の悪化が懸念される。
福山養殖の生け簀は、投入するブリも通常より少なくしており、また生け簀間の距離もかなり余裕を持っているので、水質悪化を防ぎ、それによって赤潮など、魚を全滅させるような状況をつくらないようにしているそうだ。
ちなみにこの湾内で養殖業者は小林さんのところが唯一!なので、こうした管理ができるのだろう。
一路、帰還!
改めて事務所でお話を伺う。ブリは世界中みてもほぼ日本でしか養殖されていない魚種。油脂感が強いこともあって欧州でも好まれているらしく、近年、輸出品目としても注目されているそうだ。
写真は、なかなかみることのない生け簀の地上でのすがた。でかい!
ちなみに生け簀に使われる網は、学校の校舎を囲っているような金網にみえるのだが、「おそらく世界で最も耐久性の高い素材で造られた網」だそうだ。そうじゃないと、塩類と水圧、波の圧力などで過酷な海水環境ですぐにダメになってしまうからだ。
網にびっしりついてしまう海藻類。こんなにつくと目詰まりしちゃう!そこで活躍してくれるのがイシガキダイ。
これによって、薬剤などを使わずに網のメンテナンスをできるのだという。
そういった説明を聞きながらふと目を上にやると、、、
ほうほう、なんかいろいろな認定書が、、、んん!?
あれれれっ!?
ASCの認定書じゃないの!?
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
「そうなんですよ、じつはブリ養殖ではASCの国内二例目になりました。」
すげえっ!
ASCとは、僕のブログ読者ならご存じだろうけど、持続性の高い養殖魚業を認定する認証システムだ。欧州や北米では認証取得例がどんどん増えているが、日本ではぜーんぜん取得できる漁業主体がいないため、持続可能性が求められる東京オリパラ食材で日本の水産物、だせるの?という話になっている。
黒酢ブリ、ASC採ってたかぁ、、、これは本当にスゴイ事。
「それじゃあ、、、一匹分、やまけんさんに食べていただこうと思ってとってありますんで」と。
やったぁあああああああ!
ふつうだったら「くどいっ」と感じてしまいそうな腹側の脂がのった部位が、、、
ぜんっぜんクドくありません! スッキリシャッキリ、ブリット引き締まった身質に、バターのようにとける油脂感。美味しい!
そして、血合いの部分も含む背側の身肉。魚粉臭さが一切ない!スッキリとしていて、いくらでも食べられてしまうっ!
事実、おそらく僕一人で3分の2くらい食べてしまった、、、
あまった部位は後日、ブリしゃぶにして美味しくいただきました!
この黒酢ブリを食べてみたい!という人もいるだろう。そういう人はぜひ通販を試してみて欲しい。シーズンが3月末までなので、それまでなら取り寄せ可能だ。とくに今時期がいちばん美味しいというので、ぜひすぐに。
■福山養殖の通販ページ
https://www.fukuyama-fish.com/order/index.html
ただし、養殖家から直接販売となることと、ブリという大型魚であることから、サイズがでかいです。5kgサイズか6kgサイズの一匹まるごとか、もしくは三枚におろして身肉部分のフィレ2枚かでのオーダーしかできません。価格も8000~9000円と、三人家族が気軽に刺身を愉しもうと頼める感じではないかもしれない。ただね、いいブランドの黒毛和牛ステーキ肉を買うことを考えたら、安いものです(笑)キロ1200円くらいしちゃうんだから。
フィレ1枚で4~5人家族が刺身とブリしゃぶを腹一杯食べられるくらいは余裕にあるので、友人とワリカンで買うとかいかがでしょうか?
そんで、スーパーに並んでいる他産地のブリ刺身を買ってきて、食べ比べをしてみると良いと思う。きっと、黒酢ぶりの味わいの違いがよくわかるはずだ!
いやそれにしても小林さん、ASC認証取得おめでとうございます!実に価値ある認証だと思いますよ。ごちそうさまでした!