そんなわけで次に向かったのは、役場を見下ろす高台に、大野見中学校と小学校と並んでいる中土佐町立学校給食センター。
ここで出迎えて下さったのが、栄養教諭の久川繭さんだ。
「久川さんは、地域食材を給食に使ってすばらしい料理を作って下さる、高知の学校給食界では有名な方なんですよ!」と松下さん。そう、ここでしまんとターキーも使われているのだ。
久川さん、優しい面立ちの栄養教諭さんである。
「以前は栄養教諭という仕事がなかったので、栄養職員という立ち位置で、栄養士をしてきました。平成17年に学校に栄養教諭を置くという決まりになったのですが、それ以降、ずーっと地産地消の給食ととりくんできました。それというのも、意識していたわけじゃなく、任地ですばらしい生産者さんとの出会いがあったからです。川魚のアマゴや、鳥だとキジとか。キジ丼、キジ飯、キジ汁、キジカレーとか作ってましたね(笑)」
く、食いてえ!!!!!
「ここ中土佐町に赴任して3年です。来た時には、まだここの道の駅ができる前身の状態でしたが、直売所とのやりとりを深めたいと思ったんです。生産者が食材を提案しに来てくれても、いろんな問題から買えないという状態だったのをなんとかしたいということで、教育委員会の担当者さんと私と、水産の関係者、農林の関係者、そして現在の道の駅の関係者と話を始めたのがきっかけで、そこから地場産物を使うことが始まりました。」
いや、でもですね、ちょっと驚くわけですよ。給食って250円くらいの予算ですよね?ターキー、そんなに安くないでしょう!?なんで使えるんですか?
「ふふふ。うちは一食290円なのですけど、それを給食の一食一食で考えるのではなく、何日かのトータル単価という考え方をするんです。そうすると、一食290円で収まっている日も、そうでない日もある。それをバランスさせるのですね。」
あ、なるほど!
「でも、七面鳥の単価はそこまで自分の中では高くないですね。牛肉の方がもっと高いので、学校給食で使う肉としては牛肉が一番、ハードルが高いんです。その点、七面鳥は栄養の点からも、地場産物を子供たちが知るという点からも、たとえ290円をにかけても惜しくないというくらいに思っています。」
うん、たしかに、牛肉に比べればそんなに目が飛び出るほどではないかも!?
そして、久川さんからすばらしい言葉が。
「地場産物は高くてもいいんです。それなりの金額を生産者にお返しすることが大事。うちではそう考えています。また、規格外品になって他で売れないものを引き取ることも大事。地場のトマトの割れたものをスープに使ったりしていますね。」
ああ、、、ほんとうにありがたいことである!
学校給食はいろんな地場産品を昇華できるものと考える人は多いが、現実にはなかなか厳しい。その最たる要因がコストである。学校給食に納品しているけど、ボランティア価格で、ぜんぜん儲からないという生産者をたくさん識っている。生産者も矜恃だけでは食べていけない。
でも、こういう栄養教諭さんがいる学校なら、、、
「あ、これ、今日の給食でだした、しまんとターキーご飯をおにぎりにしたものです。ぜひ食べてみて下さい」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
最高!
いわゆる鶏めしですよ!しかも、しまんとターキーのダシが濃ゆいのか、実にコク深い味わいがする。油揚げ、人参、ゴボウの風味がまたすばらしい。
「本当はね、ターキーコロッケを食べて欲しかったんです。今日はあいにく、その日ではなくて、、、」
じつは2017年に開催された、農林水産省主催の「地産地消給食等メニューコンテスト」で、最高位にあたる文部科学大臣賞を受賞したのが、この「ターキーコロッケ」なのだそうだ!
「松下さんと対話しながら、授業で生徒達に考えさせて、そのあと全国に発信できるメニューを考えたんです。その時、ターキーで使い方に困っていた部位に、手羽先がありました。これをミンチにしてなんかできんかなということで。この時期は5月だったから、じゃがいもと玉ねぎがあった。最初ハンバーグが出たけど、、、う〜ん、絶対高くなるよね、、、って(笑)」
ん?手羽先って、扱いに困ってたんですか?と言うと、組合の松下さんが笑う。
「もうね、しまんとターキーの手羽先は大変なんです(笑)。鶏の手羽とは全く違う。圧力鍋で炊いたりしないと、どんな強靱な歯であっても噛めません。これはアスリート云々の問題ではなくてね。でもね、そのしまんとターキーの手羽を柔らかくなるまで煮て、それをひき肉にしたら甘みがあると感じたんです。それで、本格的に今年からミンチを商品化したんです。」
「(久川)手羽には薄い皮があるので、それが心地よい食感になるんです。鶏だと脂身があってフワフワと美味しいのが、ターキーはグリグリというか(笑)。羽の抜けたあとがしっかりあって、そこに脂肪とタンパク質が絶妙に入っていて。それがミンチになると絶妙に混ざって、コロッケにすると軟骨的なコリコリした食感になるんですね。普通のターキーのモモ肉ミンチで作ったコロッケと、手羽先のミンチで作ったコロッケは、味わいが全然違います。」
うわーーーーなんだよなんだよ食べたいじゃん!
「ごめんなさい、今日はないんですよ、、、」
いやーーーーん それ商品にして販売してっ!
「(久川)もうね、自宅で何度も実験しました。肉を柔らかくする酵素を持つ素材を混ぜたりとか、食材で色々とやってみて、重曹とかソミュール液とかで、ここまで柔なくなったねとか試してみて。タンドリーチキン的なアレだと食べられるかな、、というところまではいったんです。でも手間をかけずに何とか食べられないかなと、発想を変えて。そしてミンチだなと、自宅にミンサーを買いましたね(笑)。」
「(松下)研究者なんですよ、久川さん、、、(笑)」
「(久川)子供達が学校を卒業する時に「給食がおいしかったよ」と言われるのも嬉しいんですけど、「大野見に帰ってくるよ」と言われるのが一番嬉しい。帰って来たときに、あの味は変わらないなと、生まれたところの食材が美味しいねと思ってくれるのが嬉しいですね。
地産地消って、深く言えば、地域の資源を自分のキャリアにどう活かすか、ということに繋がるキャリア教育だと思うんですね。子供達がターキーに興味を持って調べた時に、他にはない価値があって、それを自分たちがどう受け継いでいけるかというのを考えられる子供になってほしいんです。」
なんだよマジかよ、おれ、大野見中学校に入り直したいよ!と本気で思うセンター訪問だった。ちなみにそろそろ公務員には異動の季節、久川さんも3年経つのでもしかしたら、、、ということっだった。
「でも、どこにいっても、わたしは地産地消をやってると思います!」
久川さん、ターキーおにぎり、最高でした。ごちそうさまでした!
さて、その夜。
高知市内にもどり、繁華街の帯屋町の長い長いアーケードの中腹を2分階のぼると(2階ではなくて、3階なんです)、いまや高知の地産食材ならなんでもござれ、の料理人となった山本たくみシェフがいる、「ス・ルラクセ」へ!
じつはこの夜、翌日うかがうことになっている、畑山村の土佐ジロー生産者・小松夫妻も来てくれていたのだ!
わー、小松精一さん久しぶりですねぇ!
そして、小松さんに起きた最大の奇跡!と関係者が勝手に言っているのが、この圭子ちゃんが嫁さんになって畑山に来てくれたこと(笑)
じつはこれまで何度もやりとりをしているのだけれども、顔を合わせるのは初めてだったりするのだ。結婚する前から知人を介してしっていたんだけどね。
さて、今日はえらい贅沢なメニュー。小松さんとこの土佐ジローと、しまんとターキーの双方を使ったフルコースなのだ!なんじゃこの料理数!?
あ、そうそう、ス・ルラクセではいつも美味しい料理がでるけれども、このブログに出てくるような料理は、かなりインサイダー的な会ばかりなので、こういうの食べたいときはかならず事前に十分な時間をとって予約をして下さいね。
まずは土佐ジローのレバーペーストとバゲット。
土佐ジローはしまんとターキーの正反対にいる地鶏だ。しまんとターキーは鳥肉のなかでもとにかくデカいわけだが、土佐ジローは120日以上飼っても2キロ弱にしかならない、とても小さな地鶏品種なのだ。
だからなのかわからないが、その味わいはとても繊細で、ギュッと密度の濃い味わい。このレバーペーストも、実にコクがありながら上品!美味しいぜ~。
そして、土佐ジロー胸肉の塩タタキ。
これまた、とても小さい! ちなみに、肉にする土佐ジローはオスです。土佐ジローは肉として利用する地鶏ではなく、卵が珍重される地鶏なのですね。だからメスはもれなく卵用に。オスはそのまま廃鶏扱いになってしまうのをもったいないと思った小松精一さんが肥育を始めたのが、この取り組みのきっかけだ。
みてくださいこの美しい筋繊維!シコッと歯に心地よく繊維が切れていく!
さあそこに、しまんとターキーのドデーーーンとでっかいレバーが低温調理されて出てきました。
あ、なにかスケールのわかるものを置いておけばよかったか!一片が200gあるという存在感ありまくりな、豚かと思うレバー塊!
味は見た目通り、濃厚!パンチがある。しまんとターキーの味わいは、内臓肉もそうなのだが、ハッキリクッキリしている。なんか、七面鳥って淡泊な味、、、と思っていた自分のこれまでの食体験の貧相さを恥じてしまう味わいだ。
その、食べ応え満載なしまんとターキーの胸肉ハムのサラダ仕立て!
このあたりからしまんとターキーの本領発揮!タンパク質です!
「(松下)ちなみに僕、さっきの大野見小学校と中学校でターキーの授業をするんですけど、「タンパク質」って言いすぎたせいか、生徒達から「おーいタンパク質!」って呼ばれるんです(笑)」
タンパク質!
しかし、そのタンパク質はとてもしっとりして、ぜんぜんバサバサしていない!なんだったんだ俺の七面鳥観は、、、
そして、これにビックリしましたね、砂肝のピンチョス。
でっけえ! これだけでかい砂肝、カツにしてもいいんじゃないのってくらいだ。しかも、ソミュールしてからコンフィにしていることもあって、すばらしい絶妙な食感!
なんだかね、すっげーほぐれる柔らかさなんですよ!シクーッと歯が通っていくんですよ!
「これ、すごく美味しい!」と全員が唸る! しまんとターキーを買うなら、内臓肉も買って試してみた方がいい!デカいだけではなく、いろんな次元が違うよ。
対して、土佐ジローの砂肝、白子、ハツと高知産キノコ・トマトのアヒージョ。
いやもう、こちらはクキッと小体に引き締まった内臓です。白子(精巣)のクリーミーさ、砂肝の心地よい歯触り、いいですねぇ!
と、すっげーのがキタ。
しまんとターキーの白レバーのポワレ。もうさ、これフォアグラじゃん!
「たまにでるんですよ、白レバー。これだけ買いたいと言われてもキツいんですけど、食べた方は忘れられないらしくて、、、」
はい、これは忘れられないでしょう!200g級のでかいレバー全体にニラなどの地場食材で培った良質な脂が回って、、、トゥルントゥルンと溶ける! 繰り返しになるけど、しまんとターキーは内臓もお薦めだ!
さあ、メインはモモ肉の饗宴だ。土佐ジローのモモ肉と野菜のスキレット焼き!
これぞ地鶏という引き締まったモモ肉の食感、これぞ粋な地鶏肉という味わいだ。
そしてしまんとターキーは、、、
モモ肉のロースト 高知産ナスとトマトのミルフィーユ!
しまんとターキーのモモ肉、ブリンブリンの弾力だが、きもちよくかみ切れる。365日飼育していると思えない歯切れの良さだ!
ナスとトマトとの相性抜群。しまんとターキーの胸肉やササミはタンパク質のよさだが、モモ肉は適度にのった脂のおかげで、リッチな印象である。あの、ターキー串の脂ジュバジュバを思い出す!
さて、〆はジロー卵の温玉カルボナーラ!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
最高だっ!
山本シェフ、腕を継続的に上げてるね!すばらしかったですよ。ちなみに集まったのは全員、畜産関係者。
高知の畜産関係者はなぜか僕と同年代が多く、移動中はガンダム話に終始することも多いのだが、この夜は、ガンダムネタは封印です(笑)
いやー、しまんとターキーの生産現場を観て、素材の良さを感じた後、全部位をすばらしい技術で料理したものを味わうことができた。
しかも、まったく正反対の特質をもつ土佐ジローと食べ比べることで、両者の良さがひきたった。実に最高である。
大野見のしまんとターキー、関心を持ってくれた料理人も多いようだ。オンラインショップで冷凍を飼うことができる。料理関係者には、いまはまだ出荷時期なので、チルドでも送ってくれるかもしれない。まあまずは食べてみて欲しいですね。
ところで、料理関係者は「サンプルください」とかケチなこと言わずに、買って食べてくださいね。一般品ならともかく、地域食材はカツカツなところが多いんです。「やまけんのブログを見て」と言うなら、俺のそういう思想も引き継いで関わって下さいね。よろしく。
■大野見七面鳥生産組合