京都府福知山市の仕事で、福知山訪問。となれば、少し足を伸ばして丹後の宮津へ行き、飯尾醸造が営むレストラン「アチェート」で食事をするコースがある。が、そこにもう一つ彗星のごとく登場したのが、福知山市で丹後&丹波の食材を駆使したナポリ料理を提供する「イル・プルチネッラ」だ。
駅前のアールインというビジネスホテルの一階、どうみてもたいした店にはみえないというくせ者。でも、朝食を食べた店内で僕も溝口さんも「なんかこの店、本格的な料理が出そうだよね、、、」と気になったのだ。それで足を運び、その美味しさにビックリしたのが前回。
なんかスゴく気になって訪店したら福知山市の超穴場的旨い店、みつけた!ビジネスホテルの一階でコソッと営業する丹波&丹後イタリアン「イル・プルチネッラ」は大当たりだ!
- やまけんの出張食い倒れ日記 http://bit.ly/2NBimWv
実はその後も「プルチネッラに行こう!」と言ってたのだが、「ああ~すみません、前日まで連休なのでその日は休みなんですよ~」と。そして今回は最初から定休日。「こらしょうがない」とあきらめていたら、福知山市の方が「やまけんさん楽しみにしてるのでなんとかなりませんか」と交渉してくれたらしい。そうしたらシェフの栗林さん「二回も断ったらいけないな!」と思ったらしく、「貸切で開けますよ!」と言ってくれたのでした。シェフ、ありがとう!
せっかく休みを開けてくれるのだから、これはまとまった人数でいかねばと市の人たちも考えてくださったのだろう、8名での参戦!
「なにかとくに食べたいものはありますか?」と事前にきいていてくれたのに、溝口さんが「小魚食べたいです!」と返していたので、宮津港あたりからの魚が入るだろうと期待!
アミューズはもちろん、栗林シェフが地元の豚肉の後腿を自分で仕込んだ生ハムに、地元の桃!
いや、おいしいですねぇ。サクリとした桃とのマッチング、食欲がバシンと喚起される!
さあそしていきなり来ました、このブログを古くからご存じの方なら、無二路時代、またはアルキメーデ時代の重が多用していた、ドカ盛り前菜!
おおおおおおおお~っ と声が挙がる!
卵にジャガイモ、インゲンなどの野菜を仕込んだ、卵のスフォルマート。スパニッシュオムレツか、と思いきや、鶏の白レバーが隠れていて、思い切り濃厚なパンチが炸裂する!
ナスとトマトのパルミジャーナ。ナポリの味なんですよね?(ナポリ行ったことない)ホッとする味です。実はこの店、あまりこういうトマト煮詰めたのが出てこないのですよね。安易にトマトソースに逃げないと言うことでしょうか。
揚げ物はナポリのひよこ豆のコロッケだったかな?うまい! その隣はモロッコインゲンとトマトの煮物。
イカとジャガイモの「イカジャガ」。これ、ナポリ料理といわんでも日本のお母ちゃんが作りそうな味わい、でもしっかりうまい!
丹後の牧場の生乳でつくられたモッツァレッラ、おいしいです。単純に純粋に地物は嬉しい!横はタコの煮たやつ。
カタクチイワシのエスカベージェとオリーブ。宮津港を感じる!
白いのはスズキの身肉をパン上に。これがまた素晴らしく繊細。
これが全景!
やっぱり、イタリア料理はこれだよな!前菜がうまくなきゃ、イタリアンじゃない!
一人前に盛ってもこの量ですよ!
しかも、どいつもこいつも素晴らしく旨いっ 豪快に盛り込んでいるけれども、ひとつひとつの料理は実に丁寧に作られている。
テーブルにこんなリモーネの陶板が埋め込んであるので、さわやかにレモンビールで行きます。
前菜を楽しんでたらすっげー速攻で次の皿が来たっ!
うおおおおおおおおおお イカだ!
「宮津のカタクチイワシと白イカのまだ若いものをフリットにしました。白いものはゼッポリーニです。」
ゼッポリーニはピッツァ生地に海藻(アオサ海苔など)を入れて揚げた塩っぽいパン。腹一杯になっちゃうよ!
小魚が食べたいという溝口さんの希望、叶いまくり。
今回、ワケあって持ち込みでこちらの日本酒を。
福知山市大江町の酒米を宮津の蔵で仕込んでもらった純米吟醸「大鬼」。じつは福知山市は鬼、正確には酒呑童子の伝説があるのですよね。
この酒、実に旨みが効いていて、ザ・食中酒!次は燗で飲みたいです。福知山には東和酒造という蔵もあって、女性杜氏の醸す酒の中で「六歓(ろっかん)はな」という酒がある。これも燗にして飲むべき素晴らしい食中酒。福知山は酒もうまい土地なのだ。
「次は野菜です!」
万願寺トウガラシ、モロッコインゲン、カボチャ、シイタケ、ズッキーニくたくた煮、ニンジン、そしてナスのカポナータ!
ちなみに言い忘れてましたが、皿はすべて2人用です。つまりこれが4皿でてきてます(笑)
うまいうまいとわしわし食べてたら、ふと隣を観ると皿が空いていない。ベテラン勢はとにかく、若手勢もぜんぜん箸が進んでいないではないか。
「おいおい、まだ前菜なんだぞ」
「えっ、、、、、、、、、、、、、、、まだ出てくるんですか!?」
「出てきますよ!はい、パスタでーす! 丹波牛のジェノベーゼ風です!」(これは一皿で4人前)
タマネギをクッタクタになるまで茶色に炒め、丹波牛をササッと短時間で煮込んだスーゴをマカロニに吸わせたこの逸品、バジルペーストのジェノベーゼではなく、ナポリのジェノベーゼはこんなタイプなのだそうだ!
これがまたうまい!
牛肉と玉葱の旨みを吸って、なおかつチーズで香りも与えられたマカロニが、なんとも欲望に忠実すぎる!
ここで魚介のペスカトーレとか出してこないのが栗林シェフっぽいところだな!アチェートにいくなら「ペスカ食わせろよ~」と言うところだけれども、福知山では山っぽいパスタがいい!
そして、、、
「本日のセコンドです。白バイ貝を蒸し煮したものをトマトの風味で軽く煮て、パンに乗せました」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
お皿が汚くてスミマセン。白バイ貝ってこんなすっげー存在感のある貝だったの!?ブリッとした身肉、そして前菜に入っていた鶏の白レバーより濃いうま味なのにスッキリ消えていく肝の旨さ!下のパンがトマト汁とバイ貝のジュースをシットリ吸って、超絶うまい!うまい!うまい!
感動しました、、、
「あ、じつはシェフが、鯛をアクアパッツァにしようと準備してはいるんですが、どうしましょう、、、」
という声に、一同大きなダメージを受けたのだが、それをお断りするわけにはいきません。
出ました!ミニマムな要素で仕上げたアクアパッツァ! オリーブ、ケイパー、余計な貝類、一切入ってません!
それなのに、このアクアパッツァ、見事に美味なのですよ! 鯛の上品で骨太な出汁がオリーブオイルと水によって、素晴らしいソースに昇華している。イヤうまい!
と言うところまで来て、栗林シェフ登場!
「いやー すみません、出し過ぎちゃいましたか? やまけんさんが来るんで、気合い入れ過ぎちゃいました!」
いやいやいやいや 最高だったよ! しかしこうやって、料理を出しているうちは客席に顔を出さないところも、イタリア人の料理人ぽい。重もそうだしね。
他にお客もいないし、ここからは無礼講。
飲みながら、ひとつひとつの料理のことを聞いた。
「やっぱり、僕も料理をやろうと志して、福知山に帰ってきて、いろいろやったんですけど、最終的にあんまり余計な味付けはしない。香りも余計なものはいれない、ていうことに落ち着いてきています。ありがたいことに、この辺の素材には味と香りがあるんですよ。だから、イタリアンパセリもイカのフリットにちょっとかけてるだけですしね。」
「パスタのジェノベーゼはナポリ風です。『なんで緑色じゃないの?』ってよく言われます(笑)でも、この白いジェノベーゼもうまいでしょ?」
「アクアパッツァも、ムール貝とかアサリとか入れたら豪華にみえますけど、要らないんですよ。ナポリで僕が食べた、本当にシンプルだけどうまいやつを食べて欲しくて。」
いやいや、実に素晴らしい。 レモンのシャーベットにタップリとレモンチェッロをかけまわしたのをドルチェにいただいて、市役所のみなさんとは解散。でも、僕と溝口さんは泊まりをアールインにしていたので、そのまま軽く一杯をシェフに誘われる。
「いや、ほんとうにしんどいときもありましたけど、最近ようやく安定してきたっていうか、僕のスタイルを気に入って来て下さるお客さんに恵まれるようになりました。結果的にここに店を出してよかったと思うんですよ。」
実は彼、当初はもっと駅から離れた山っぽいところで一軒家をリノベし、そこで店を始めようと思っていたそうだ。そんな中、このアールワンホテルのオーナーさんと知り合い、気に入られて「一階で店をやれよ」と声をかけてもらったのだそうだ。
「どうしようかなあって思いましたね!50席くらい並べられますからね。大きいし、でもビジネスホテルの一階って、どう考えてもうまい店ではなさそうでしょ?うーんって思いましたけど、でもやってみようと。昔はこのバーカウンターもなくて、テーブル並べてました。」
「最初はね、ナポリそのものの料理を出すと『あの~、この料理、何なんですか?』って、すっごく怪訝な顔されてました。みなさん、普通のイタリアンをお求めになってたからですね。それこそ今日のナポリ風ジェノベーゼとか出したら、「これじゃないっ!」って怒られましたね。」
でも、だんだんとこの店の味を気に入ってくれる常連さんもでてきた。それに、僕らのようにこの店のスゴさを気づく、おそらくは都市部で暮らして、レストランを楽しんだこともあるようなお客さんが、イル・プルチネッラのすごさに気付きはじめた。
「最近では、かなりお歳のビジネスマンなんですけど、お一人でよくいらっしゃる方もいます。だいぶ、理解していただけるようになってきました。だから、僕がうまいと思う、出したい料理を出すことができています。」
バーカウンターの横にディスプレイされていたベスパ。
「あっ やまけんさん、じつをいいますとね、俺をイタリア料理に誘ったのはこのベスパなんですよ!」
知り合いがペスパで走っているのをみて、なんてかっこいいんだとときめいて、そこからイタリアに関心が沸いたのだそうだ。イタリアに足を運ぶ中、現地でラフに、それこそ日本におけるホンダのスーパーカブのように、買い出しにガンガン使われている姿を見て「やっぱりこれだ!」と確信したのだという。
だから、栗林シェフも週に数回、野菜の買い出しに行く時にはこのベスパで行っているのだ。
「えっ 現役なのこのベスパ!?」 「はい、現役なんです(笑) 今日は、俺をイタリアに誘ったベスパを観ていただこうと思ってここに飾りました。」
何というか本当に、ブワッと熱風を感じるような栗林シェフなのである。
ちなみにバーカウンター横のアイスケースにはドルチェが並んでいる。
前回きたとき、クラシックスタイルのパンナコッタがうまかったのが忘れられない。
ということで、パンナコッタとティラミス、コーヒーのトルタをちょっとずついただいて、〆に部屋で食べたのでありました。
いやー、最高の夜だった!
丹後&丹波の食材を愛し、ナポリの郷土料理の文脈で料理する栗林シェフの熱い想いは、浴びていて心地よい熱風である。
福知山近くに来られる人は、ぜひイル・プルチネッラに来ることをお薦めする。泊まりはホテルアールインでどうぞ(笑)