やまけんの出張食い倒れ日記

列島縦断・宝メシグランプリ2019の私的な審査結果について

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きのうの生放送、観て下さった方も多いことと思う。審査員として2回目の参加、デヴィ夫人や神田川さんの映像が出るたびに名札だけ出ていたと思います(笑) この番組も第1回目といろいろ変わりつつも、これはNHKにしかできない番組だなぁ、と思うところが多かった。

日本を8ブロックに分けて、幻になりつつある郷土料理を発掘してくるという企画。それを食に携わる専門家80人と芸能人、視聴者が審査するというもの。審査員には「きょうの料理」で登場する料理研究家の先生方が多く、大部屋の控え室は同窓会のような感じだった。

個別の結果をどうこう言うつもりはないが、一位となった干し柿の天ぷらはとてもよいものだった。紹介映像はスタジオでもリアルタイムで流れていたのだが、柿となった瞬間に「柿なますか天ぷらかな?」と思った。まあ、干し柿の天ぷら、旨いからな、と思ったのだが、、、目の前に現れたドンと大きく膨らんだ天ぷらを観て「んん?」となった。そして、その秘密が明かされる前にかぶりついてビックリ。なんとゆで卵!

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視聴者のみなさんには想像もつかないだろうけど、これが絶妙な味わい。塩気がとくに効いている感じでもないのだけれども、おかずとして成立する味わいなのですよ。干し柿がなぜかゆで卵の黄身とあわさると、甘みだけではない味わいに変性するのですよ、、、これは本当に驚きの味でしたな。衝撃度ナンバーワン。

二位のいもきりけんちゃんも、おそらく映像でみるのよりもだんぜん、食べて美味しい料理だった。

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おそらく冷めると美味しさが薄れるだろうが、ちゃんと温かい状態で出てきたので、麺も柔らかく、噛みしめていくとほのかにサツマイモの風味が喉奥に生じる。しかもつゆや、具材の大豆を挽き割って団子にしたものなどが実に美味しい。そうした地味なディティールについては語られる時間がないのが残念であったが、現代的感覚からいっても美味しい料理だと多くの人が感じるであろう味だったことを書いておく。

三位につけた、東海・北陸ブロックのがらがらおろしも至極美味であった!

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各家庭でつくった鬼おろし器で大根を粗くおろしたものをベースに、さまざまな具材を混ぜ込んで酢味噌ベースで味をつけたもの。その説明だけだと、大根おろしかよ、と思ってしまうかもしれない。しかし、これが実にすばらしく美味しい、大根おろしと言って想像する味わいをはるかに超えた料理になっているのだ。煮干しの酢漬けを細かく切ったものが混ざっているので、旨みが濃い。油揚げがたんぱく質補給となっていて、ボリュームも感じる。ユズやミカンの皮が細かく刻まれて入っているのが、柑橘のさわやかな香りとなって実にフレッシュな風味を呈している。これ、自宅でも再現したいと思う味だった。

この上位三品については、どれが1位になってもいいんじゃないか、と思わせるものだった。しかしそれ以降の順位のものにも素晴らしいものがあった。

個人的に感動したのは四国の花粉(はなこ)ねり汁である。

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地トウモロコシを乾燥させて挽き割った粉を花粉(はなこ)と呼ぶわけだが、ここは解説が必要だ。ここでいうトウモロコシは、いまみなさんが食べているスイートコーンではない。突然変異で甘いトウモロコシが発見され、普及する前は、トウモロコシは野菜的存在ではなく乾燥させて粉にして食べる穀物としての性格が強かった。そうした用途で生産されていたのが、札幌八列とうもろこしに代表されるフリント種か、四国で生産されていたワキシー種の地トウモロコシだったわけだ。

映像の中で、この乾燥したトウモロコシから実を外す脱穀機を使っているところが流れたが、あの過程をもっとよくみたかった。実に貴重なものだと思う。愛媛県の山間部から高知県にかけて、まだ栽培する農家が残ってはいるものの、販売用に生産している人は本当に少ない。そういうものに光を当てていくことはやはりNHKの仕事だろうと思う。

もひとつ、審査員の得票としてはいまひとつ伸びなかったが、僕的に「これはいい!」と思ったがのが、青森県の「ヤマブドウのすしこ」だ。

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いや、これは見目麗しく、かつ味わいも美麗な料理だった! 実は僕はこの料理のバリエーションと、津軽で食べられている「あかめし」としては食べていた。ただその時は赤じその赤だったように記憶している。しかもこれ、炊いた米に塩をして乳酸発酵させた、いわゆる「いずし」「なれずし」的なものである。

だが、ヤマブドウを主たる具材にしたものがあったとは驚いたなあ。本当にヤマブドウの香りがたち、乳酸の酸味と塩気、そしてヤマブドウの種がカリッとクランチに感じる、乙な味わいであった。審査時には茶碗いっぱいの白ごはんがそえられたが、僕はこのヤマブドウのすしこをおかずにすべてたいらげてしまった。感動した。

今回の郷土料理、審査員の多くが「はじめて食べた、、、」と言うものが多かった。実によい趣向だったと思う。ただ、これ、生放送の限られた時間でやる意味あるのかなあ。僕は、もっと一つ一つの郷土食の映像をもっと掘り下げるべきだと思う。そうすれば、花粉料理のトウモロコシのことや、すしこの話しなどは盛り上がったんじゃないだろうか。あれだけの審査員を毎回集めるのは大変だから、今回同様に審査風景は収録しておく。で、取材映像を長めにかぶせて、1地域45分程度の番組にしたっていいんじゃないかな。

あと、関東甲信越ブロックの扱いがいつも「現地からスタジオに運びまーす」的なお笑い要素になっちゃってるのはどうなんだろうね。甲信越でいえば長野県は保存食文化の宝庫なのだから、もっとスゴいのあるはずなのに。

もうひとつ、せっかくちゃんとしたバックグラウンドを持つ審査員さんが多いのだから、解説的コメントを求めた方がいい。これは前回も感じたこと。どーでもいい感想きいたってなあ、、、

そうそう、今回はタイミング的に、不運にも台風被害の影響で観られなかった方もいるだろう。番組のツイートに対して、このタイミングでこんな大がかりなイベント的番組をやるのはどうか、まだ食事がとれない被災者もいるのに、という声が出ているのをみた。これ、難しい問題だとは思うけど、食材を何日も前から用意しているわけだから、自粛して番組放映を辞めたらもっと無駄が出てしまう。また、審査員に配られる料理のポーションも今回は適量で、食べ残しは全体的に前回より少なかっただろう。というふうに、番組も進化している。

番組関係者のみなさんもお疲れ様でした。また次回があればいいと思うし、できたらまた、まだみぬ郷土料理を食べに行きたいと思うので、よろしくお願いします。