やまけんの出張食い倒れ日記

あらためてじっくり短角牛・新生くんのお肉をいただいて、その美味しさと未来に向けての味の設計とあれこれを考える。

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先週の水曜日に博士論文のプレオーラルだったので、先々週の土曜日から札幌に入り、濃密な日々を送っていた。ということもあってあまりブログの更新ができなかったのだけれども、ここから論文提出と最終発表に向けて怒濤の日々がやって来ます。それも、業務をしながら、、、うーむ

で、この週末は死んだようにビローンと伸びていたのだけれども、ようやく短角牛新生くんのお肉をじっくりいただいた。11月後半にThe Burnで食べる会をやったわけだけど、僕がホストなので全テーブルを廻っていろいろおしゃべりして、という感じだったので、正直いって味をよく覚えてない。

ドライエイジングしたロースとモモも売り切って、あとは自家用です。もう売りません。8キロほどは自分用にいい部分をアイスストッカーに入れて残してちょびちょび食べます。

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ということで、ドライエイジドしたシンシンを自宅で焼いた。自分の牛の肉を焼くというのは本当に格別なことだ。競馬で自分が馬主になってる馬が出走するときはこんな感じなんだろうね。

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今回の新生くんのお肉、素晴らしく美味しい。透明感があって、ほのかな熟成香、保水率高くジューシーで、上品な旨みもよい。ご覧のようにほどよくサシも入っているので、食感は黒毛のようなトロトロではなく、ギュッと噛みしめる赤身感と、ほどよくサシも味わえるいいところを突いている。

最近、「どうみてもそれ、赤身じゃないじゃん」という肉を「赤身が美味し~い♥」なんて書いてる人が多いけどね、コレがホントの赤身でごんす。

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岩手県の短角牛の味わいもだいぶ変容しつつここまできているよなぁ、と実感する。

ただし、ぜんっぜんゴールではない。最近の二戸の短角牛の傾向として、上品に洗練されてきているのだけれども、その分、旨みのパンチが効いてないものが多くなっている傾向を感じる。洗練されたがパンチがない。もちろんそれは餌の設計によるものだと思う。そこの改良については漆原さんとも相談し、ご本人も修正の方向で進み始めている。

ちなみに岩手の短角主要三産地はすべてここ数年で餌の設計を修正しつつある。それは全体的によい方向にいきつつあると思うのだけれども、まだパズルのピースが完全に揃っていない。今年の春に生まれた大嵐(おおあらし)くんには、その辺を検証するための飼い方をすべく、山形町にいってもらった。ここから20ヶ月ほどでどうなってくるか、楽しみだ。

さて、全体的なところでいえば、中国への牛肉輸出の扉が開いた。

中国、日本産牛肉の輸入解禁 18年ぶり(時事通信) - Yahoo!ニュース http://bit.ly/2PN98sN

もちろん表向きは中国は禁輸措置だったけれども、これまでもカン●●アを経由して迂回輸出していたのは既成事実。相当量のA5を中心とする肉が輸出されていたのだけれども、正面切って運べるのはよいニュースだ。

とはいえ、中国国内ではもう和牛の血統を利用した肉牛生産がかなりの勢いで始まっているという。いずれの国も、日本の和牛をありがたがって食べるだけではなく、自国の文化に根付いた肉牛に和牛を掛け合わせることで、より自国の食文化的に合う肉を作って行くのがトレンドになるだろう。アメリカで食べた、アンガスやシャロレーに黒毛和牛を掛け合わせた牛の肉は、ステーキには素晴らしく合う肉質で、日本の和牛とはまったく違う価値観を呈していた。この流れはもう止められない。

一方で、日本では和牛増産に向けた農林水産予算がセットされた。日本における肉牛生産は、土佐あかうしを除きすべての品種で減少しているが、これに歯止めをかけるつもりだろう。ただし、そこでは「どんな肉を増産するのか」も、もう一度問われるべきではないかな。

先日の全日本食学会の取り組みもそうだが、多様化した日本の食文化のなかで、どんな肉をどの程度生産し分けていくか、というグランドデザインを組み直した方がいいんじゃないかと思うこの頃だ。頂点だけを提示する格付方式だけだと、行き詰まってしまう。最近、黒毛の生産者自身がそう吐露しているのをよくみかける。

これに対して過去僕も赤身肉の格付を新たに作ろう、と言ってきたけれども、格付を新たに作る意義はもしかしたらないかもしれない。重要なのは、広い意味での市場において、肉牛品種またはカテゴリーそれぞれの価値判断がもっと柔軟に行われる(抽象的ですまんけど)ことだと思うのだけれども。それが実現するには相当時間がかかりそうだ。

諸悪の根源はみんな安く買いたいって言っちゃうところだ。その貧乏根性が買手側に蔓延する状況では、例え生産振興をしても意味がないように思う。だって性悪な買い手は「いま、補助金出てるんでしょ?その分安くしてよ」っていうんだもん。ホント、吐き気がする。

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そんなことを考えながらギュッギュッと赤身肉を噛みしめる週末だった。さて、今週になった。頑張って駆け抜けるぞ!