昨年の「専門料理」9月号は料理人が知るべき数字特集、そして岩手の短角牛をTheBurn米澤シェフ、てのしま林シェフと巡る旅の特集記事があったわけだが、、、
もうひとつ僕のレギュラー連載である「やまけんが聞く!」では、日本でも近年関心が高まりつつあるグルテンフリーについて、情報提供やコンサルティングを行うジェムフーディーズの平沢美奈子さんにお話を伺った。
グルテンフリーを要する人には、欧米で一定数存在するセリアック病のようにいのちに関わる重篤な症状から、日本でも潜在的に多数の人が該当すると目されている遅延型アレルギーまで、さまざまなタイプがあるということがわかった。
これは僕の個人的なことにも関わるのだが、じつをいえば家族がグルテンアレルギー体質であることが昨年わかったのだ。ずっと前からアレルギー体質であることはわかっていたけれども、そのアレルギーの根幹がなににあるのか、医療機関で高精度の検査をしたらグルテンがバッチリ該当。
以来、我が家では真剣にグルテンフリー生活をしている状況。ほぼ完全にグルテンを抜く生活をする中で、驚くほど体調が変化している。(あ、僕はグルテン食べてます、念のため)
そんな中、グルテンフリー食品について豊富な知識を持つ平沢さんが教えてくれたのは、いまやほぼ全て(というとオーバーかもしれないが)の食品に小麦由来の物質が含まれていること。ビックリするほどに小麦が偏在化している。
一方で、グルテンフリーを求める人も増えているため、完全にグルテンを抜いた食品も多数出てきていることだ。
えっこんなものまでグルテンフリーでできるのか!と驚くことが多かった。詳しくはさき専門料理のバックナンバーが買えるので、紙面をご覧下さい。
なかでも、米粉を用いた製品は、とってもレベルが高くなっているという。
平沢さんはある米粉メーカーに開発協力をしているのだが、ここ数年で製品レベルが段違いに高くなったという。10年前くらいの、国内のコメ需要を拡大するために米粉の活用が叫ばれたころは、製粉技術がダメダメで、料理人が満足に使えないものが多かった。ところが最近ではその状況が大きく変わっているということだったのだ。
「米粉と他の素材の組み合わせでフルコースだって無理なくできますね」
と教えてくれたのは、そのインタビューに同席してくれたイタリアンの渡邊将史シェフだ。渡邊さんは、平沢さんにシェフの立場からアドバイスをしているという。
「え、それじゃぜひそのグルテンフリーコースを食べたいです!」
ということで某日、作っていただくことにしたのだ。
渡邊シェフの店は、日暮里から舎人(とねり)ライナーにのってすぐの「赤土小学校前」駅から徒歩5分くらいのところにある。
下町の雰囲気のある街並みの中に、、、
一軒家の綺麗なイタリア国旗がみえたら、そこがエノテカ エクウスである。
イタリアンレストラン ENOTECA EQUUS ・ エノテカ エクウス
〒116-0012 東京都荒川区東尾久1-28-8
Tel: 03-6423-2440
■公式ページ https://www.enoteca-equus.com/
現在予約制で営業しているエノテカ エクウス、この日は平沢さんも同席で完全グルテンフリーコースをしていただいた。
グルテンフリーだとイタリアンのお約束のブルスケッタやグリッシーニは出せない。と思っていたら、、、
「イカスミ入りの米粉生地を揚げた生地にアボカドとチーズをのせました。」
サクサクパリパリとした生地感はおせんべいとも少し違い、トッピングと合わせてとても満足感を得られる。
上に乗っているチーズを、ナッツをグラインダーで削ったものに変えればヴィーガン対応も可能だ!
ババロアのようなアンティパスト、こちらは「さいしょから特に小麦粉使う必要ないですね。イタリアンて、パスタとパン以外はとくに小麦粉がなくても作ることができるんです」とのこと!
でも、そのパスタとパンという二つの大要素が問題なんだよね、、、と思っていたら!
「やまけんさんに、インタビューの時に『おいしい米粉パンがなくて困ってる』とうかがったので、試作してみました。小麦の全粒粉を使っているのではないのですが、そういったフレーバーが出るようにあんばいしています」
という、完全グルテンフリーのフォカッチャが!!!
これがとても美味しいフォカッチャ!
ちょっとちょっと、これ本当にグルテンフリーなんですか?
「そうなんですよ、僕もむかし、米粉が普及し始めた頃に使いましたけど、粒子が粗すぎてぜんぜん使えない、小麦と同じようには使えない代物でした。でも、平沢さんから教えてもらった米粉製品はとてもレベルが高い。時代が変わったんだなと思います。それで、僕も料理人の立場から「こうしたらいいよ」とアドバイスをさせてもらってるんです。」
いや、ほんとに、米粉パンという旗を揚げている店はけっこうあるけど、最高レベルに美味しい。家族もほとんど涙目。
そしてお次はでました懸案のパスタ!
カリッと米粉をまとわせて揚げるように火入れされた穴子とボッタルガの米粉パスタだ。
この米粉パスタが秀逸。三重県のメーカーが作っているものだが、日本の米粉麺にありがちな「モチモチしすぎ感」がうすく、きちんと歯切れのよいパスタになってくれる。
ちなみにグルテンフリーパスタで日本製のものはほとんどがパスタには使いづらい。というのも、日本のお米は低アミロースで粘りが強いものがよしとされるため、それで米粉を麺にするとモッチンモッチンとしてしまって、パスタ感ゼロになっちゃうのだ。つまりデュラムセモリナのパスタはプツッと歯切れがよいものなのである。
それに対して、イタリアのメーカーであるアルチェネッロが出しているオーガニックのグルテンフリーパスタはやはり本場が作ったものだけあって、とても美味しい。
■ALCE NERO(アルチェネロ) 有機グルテンフリー・スパゲッティ 250g
これは米粉とトウモロコシ粉で練られたもので、米粉も使われているが、おそらく欧米で栽培された粘り気のほとんどない品種。だから本物のパスタとあまりかわらない食感で、これを出されても小麦ではないと気づく人は少ないだろう、という出来のよさだ。
250gで500円近くする価格だけがネックなのだけれども、いまのところ入手性も含め、これ以外のチョイスがあまりない。もし「こちらもお薦め!」というのがあったら教えて下さい。
そしてもうひと品、パスタが、、、
グルテンフリーのオレキエッティ、ソースはジェノベーゼにみえるけれども、、、
「母が採ってきた若い山椒の葉で作ったジェノベーゼ仕立てです。」
とのこと! いや、これもまた美味しい。米粉を練って白玉っぽくしたのかと思ったら、ちょっと違うと。そこは企業秘密だけど(笑)、心地よい食感で山椒の香りととてもよく合っていた。
「メインは鹿です。メイン料理はとくに小麦の出番はないのですが、さきほどのオレキエッティをここにも違う味で配しました。」
渡邊シェフ、肉の火入れもバッチリである。この日はグルテンフリーというところにばかり眼がいってしまっていたが、この店でふつうに彼が選んだ食材でつくられた料理はむちゃくちゃ旨かろう、と思う。
当然ながらドルチェもグルテンフリー。
大満足!
ちょっと驚いたのだが、彼はむかし、島根県のかつべさんとこの牛をつかっていたそうだ。
なんだよ勝部さんか!紹介するよ~、ということで、先日島根まで行ってきたそうです。今後、かつべ牛がオンメニューされる可能性大!
ということで、美味しいグルテンフリーを味わうことができるお店、エノテカ エクウスをおすすめする。ただし、厨房内に小麦製品を一切入れない、完全グルテンフリーではないので、厳密なものを求める方にはお薦めしません。それと、予約必須なので、さきの公式ウェブから申し込む際にグルテンフリーの要望を出すこと。
渡邊さん、またあのフォカッチャ楽しみにしてます。グルテンフリー必要でない僕でもあれはもう一度食べたい。