やまけんの出張食い倒れ日記

あの檀流クッキングを支えた檀晴子さんが福岡県の能古島に移り住んでの暮らしを描いた「檀流スローライフ・クッキング」は、気楽に読めるエッセイかと思いきや!今日の羊肉ブーム、スパイスカレー、魚醤、パクチーなどはすべて檀流が昔々からやっちゃってたってことに気づかされる本であった!

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やっぱり檀さんご一家にはかなわない。そう思う一冊だ。

檀さんご夫婦と仲のよい、食生活ジャーナリストの先輩であるアカツカさんから「晴子さんが、やまけんさんに読んで欲しいんだって!」と連絡があって、そこからなんと能古島の檀晴子さんご本人から、ご著書を送っていただいた。しかもごらんの通り、お手製のジャム二瓶がついてきた!

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えええええええええ、これ、檀流クッキングのジャムだよ、、、恐れ多くて、封を切れない!と思ったが、切ることにする。以前、こんなことを書いたわけだ。

「完本 檀流クッキング」文豪・檀一雄の料理指南を収録、その内容をご子息の壇太郎・晴子夫妻が完全再現したレシピと写真付き!これは料理を愛する男その他にとって完全保存版といえる名著だ!
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2016/05/14014.html

この厚み、当時のテキストに補完情報たっぷり、そして良質な写真と、最高の檀流クッキング本で、素晴らしいレシピ集でもある。正直いってこの本を超えるものはないだろうと思っている。

このような、単なる一ファンの声でしかないのに、先のアカツカさん経由で「あら晴子さんも太郎さんも喜んでるわよ。やまけんに贈り物したいって」と、なんとあのメヒカリ魚醤などを送って下さったのだ!!! 恐れ多くて恐れ多くて、、、すぐに使っちゃった! だってすばらしく美味しいんだもん!

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さて今回のこの「檀流スローライフ・クッキング」。これがまったもって予想と違う面白い本であった!いや、面白くないだろうと予想していたのではない。スローライフのエッセイ本はごまんとある。今回もそんな感じかと思っていたのだが、ぜんぜん違うのだ。

ここには、壇太郎・晴子夫妻が東京の自宅をたたんで、お父様が暮らした福岡県の離島である能古島に移住する顛末が書かれている。そろそろ「次」のことを考えている僕も「えええっ そう決めたのか!」と前のめりにめり込んで読み始めてしまった。

僕は仕事柄、農業や畜産業といった第一次産業との繋がりが深いので、シロートが「老後は農業でもやろうかな」という言葉のむなしさを識っている。そうした言葉を聞く度に「バーカ、『農業でも』なんて言ってるお前らに、こんな過酷な仕事ができるかっつーの」と思う。その点で、晴子さん大丈夫かな、と思ったらとんでもない! 実に軽やかに農との接点を産み出し、軽やかに自分のための食べもの生産をしておられる。上の写真のビワジャムもそうだ。

また、都会人が田舎へ移住して遭遇する、地元民達との異文化コミュニケーションについても、実によい感じで距離を詰めて行くさまが描かれている。

そんな、田舎暮らしを志す人に「まあ私たちはこうしましたよ」という、ライフスタイル教本でもあるのだ。

もちろん料理の話しやレシピもどかどかどかと載っている。ていうか、最初のレシピが「腸詰めにしないサルシッチャ」である。ええっサルシッチャ、それでいいの!? 良いのである。その次は「羊カレー」。これが山のようなパクチーを使うレシピであり、また近年流行のスパイスカレーなんて遅い遅い、昔からこの方々は自家製ガラムマサラでカレーをつくってきたのだという内容なのだ。

カオマンガイ、魚醤、ビーツ、キムチ、台湾料理など、ここんとこで流行った料理のどれも、先に檀流が踏破した世界だったのである。それがわかってちょっと戦慄してしまった。とりあえず次の休みは、ニッシンワールドデリカテッセンで羊肉とパクチーを大量に買って、羊カレーをつくることに決めた俺である。

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さて、晴子さんお手製のブラッドオレンジのジャム。 ジャムって言うより、ブラッドオレンジ煮である。みよこの存在感しかないブラッドオレンジの塊群を!

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ホットビスケットにクリームチーズをイヤと言うほど乗せて、そこにブラッドオレンジジャムをのせて頬張りました。ブラッドオレンジの豪奢で複雑な香り、甘味、ほろ苦み、酸味が炸裂して、最高です。

晴子さんもまた檀流の正当な遣い手であり、マスターであることを再認識する一冊なのでありました。晴子さんご馳走様でした。アカツカさんありがとうございます。私はやっぱり檀流クッキングのファンなのです。