やまけんの出張食い倒れ日記

大吹雪の中、唯一無二の食肉料理人集団が拓いた「エレゾエスプリ」に泊まる! 遊牧舎の秦先生と満寿屋パンの杉山社長ご夫妻と一緒に圧倒された夜と朝! その4 エレゾエスプリでいただくディナーとブレックファスト、エレゾファミリーの団結感に圧倒された!



さて、エレゾエスプリの扉が開く。というのはオーバーな表現ではなくて、本当に「開く」のだ。その模様はぜひ宿泊または食事で訪れたときに味わって下さい。


ちなみにこの美しい館のデザインや空間設計も佐々木章太が原案を作ったそうだ。そういうセンスのある男なのですよ。

雪を避けて入ったエントランスからの空間は、これから食べることができる食材を美しく映した写真ギャラリーとなっている。写真を撮っているのは、佐々木章太が「この人の写真が大好きで大好きで、いつか撮って欲しいと思っていたら、出会うことができた」という写真家さんによるものなのだ。


エントランスを抜けると、そこはミニシアターのような空間。「んん?なぜ!?」と思ったら、、、


来客はここで、あるものを「観る」のである。それが何かは実際に足を運んで確認されたい。


ここで映される内容が、エレゾの活動、そしてエレゾが目指すところの視覚表現となっている、とだけ言っておこう。そこには美しさと命の尊厳への敬意、そして、、、ちょっと楽しめる趣向が盛り込まれている!

そして、ここを抜けると、そこにエレゾエスプリのダイニングが拡がっているのだ!


あえてダイニングの全貌はここには映さないので、デザイン的にも佐々木章太イズムが全面的に反映された空間を、現地で味わって欲しい。


さあ、ここからはエレゾ総掛かり戦である。


コース一本勝負しかありません。ペアリングは先に書いたオーストラリアの専用ワイナリーの提携ワインとのペアリングか、ノンアルコール飲料のみ。この日、申し訳ないことに、僕以外の人はみな車で雪道を帰らねばならなかったりするため、僕だけがワインを味わいました。秦先生、杉山さん、モウシワケナシ!


最初に言っておきますと、ワインはどれも素晴らしい! ここ数年でめっきり酒を呑まなくなって、ワインを呑むと気持ち悪くなって翌日頭がガンガンするようになっているのだが、ここのワインはそんなことがまったくなかった。ていうか、実に上質でおいしく、鹿肉の味わいのダイナミックさ、繊細さを損なわず美味しさに昇華してくれるものだった。

下の一枚を観て、佐々木章太の後ろの厨房がシンメトリーに配されているのがわかるだろう。こうしたデザイン上の整合性をとるのが、佐々木章太のセンスなのだということを、僕は識っている、、、


一品目はこれ、松濤のエレゾハウスに足を運んだ人なら懐かしいでしょう、エゾジカのコンソメ。


「エゾジカの命をすべて無駄にせず、このコンソメに凝縮しました。」

というが、本当に素晴らしいものだ。塩は最低限しかしていないはずで、シカが細胞内に内包する塩味のみでは無いかと思うくらい。そして、まったくくさみやアクの感じられない、香りも味も澄み切った上質なコンソメだ。器も美しく、この辺も佐々木章太イズムを感じる。

そして、もうこれだけでいいんじゃないか?と思ってしまう充実の八寸(?)いや前菜。


まさにエレゾのいま、というのをすべて知ることができるシャルキュトリ群。


自分達で心ゆくまで放牧で飼った豚の生ハムに、在来のロックフォールカビで風味がついた白カビサラミ。


そのネットリ深い味わいを、多くの人に感じてもらいたいものだ、、、しばらく前から、イタリアやドイツでアフリカ豚熱が発生したことで、生ハムの輸入には黄色信号が灯っている。そんな中、国産生ハムの引き合いが高くなっているが、品質が高いと言えないものも散見される。そりゃ、テーブルミート用に170日程度で出荷された白豚の後腿を漬けても、そこまでの高みには登ることができないだろう。エレゾは開業当時から、「生ハムにするため」の豚を飼っているのだ。その辺のものと比べられるものではない。

パテカンでフィーチャーされているのは、これまたエレゾで飼っている軍鶏の肉だ。一つ前の加工場の状況でお見せしなかったが、彼らは食鳥処理の設備も持っており、自分達で使う鶏肉を自家生産している。そんなシャルキュトリエ、聞いたことが無い!


シャモも180日程度の長い期間飼ったもので、その肉体は熟成されているものの、食鳥処理後すみやかにフレッシュな状態で加工されているのだろう、とても清らかな味わいのパテカンだ。「パテってあまり好きじゃない」という女性が結構いるが、きっとエレゾのパテカンはおいしく食べられると思う。

そして、僕はなんと言ってもこれが彼らの持つキラーコンテンツだと思う。シカの血のブーダンノワールだ。


現在、本来のブーダンの原料である豚の血液はそう簡単に屠畜施設から取引ができない状況だ。だから輸入血液などを使うところが多い(それしかない)のだが、このエレゾでは、エゾジカのフレッシュな血液を採ることができるのだ。

まだブーダンノワールを食べたことがない人は「血を食べるなんて、生臭そう!」と思うかもしれないが、とんでもない話しだ。これほどデリケートな美味しさをもつ食材もない、、、まったく、血ってやつは特別な食材なのである。新鮮なうちに丁寧に採取されたエゾジカの血液は、澄み切った香りと濃厚なコクが味わえるものなのである。


トーストの上に分厚くバター、そしてメルゲーズっぽいサラミがまたおいしい。っていうか、エレゾのパンものはすべて旨い。願わくばいつか、満寿屋商店の特別なパンでエレゾのシャルキュトリに合わせたものが食べてみたい! 杉山さん、頼んます。

「次は、ここ大津の海の幸と山の幸を合わせます。」


出てきたのは、シカのコンソメジュレとキャビアをまとったサケである。


サケの絶妙な食感と香りが、シカのコンソメとマッチすることに驚く。コンソメに僅かに酸が感じられるからだろうか、サケとの相性が抜群なのだ。ただただ旨い、、、

「次は、180日育てたシャモの胸肉を味わっていただきます。」


いや、美しいねこの胸肉!


筋繊維のミシッと詰まった感をご覧下さい。「モモ肉はどこへ行った!?」という声が聞こえてきうだが、おそらくフランスに行ったとしても、この部位が出てくるはずです。


180日の放牧シャモの身肉は実にしっかりと歯に筋繊維が存在感を訴えかけてくる。だがそれは「硬さ」ではない。歯触りと言うべきものだ。50日前後で仕上がるブロイラーとはまったくの別物となっている。

同じように、放牧で育てた豚のローストは、やはり十勝で栽培された豆とベーコンの炒めたものと合わせて。


通常、豚を売るときは、ロース以外の部位をどう売るかが問題となるのだが、ここの放牧豚については最も重要なのはハムにする後腿。その副産物として出てくるロース肉というのも面白いものだ。もちろん副産物といった風情ではありません。野趣あふれるその味わいは、牛肉と同じくらいの満足感を得られるものだ。

でもね、このエレゾにおいてメイン料理は、やっぱりこれなんです。


三歳の雌エゾジカのヒレ肉とハツである。


エゾジカのヒレの、上品にして味の濃いこと、素晴らしい。エゾジカのジュとコンソメにワインなどアルコールを合わせたソースがまた、エゾジカの全部位のエッセンスとなっている。

そして、感動したのがハツだ、、、


いろんなところでエゾジカを食べて来たが、正直言って味わいが単調で「退屈な食材だよな」と思うことが多かった。しかし、それは処理や鮮度によるものだったのかもしれない。エレゾエスプリで味わうエゾジカ、最強である。

以上、料理についてはあえて最低限の評としたい。なんつっても現地で味わうのが吉ですよ。なお、料理の内容は細かく日々変わっていくそうなので、このブログに乗ったものと違うものが出てくるのが普通だと踏まえていただきたい。

「その日その日、LABORATORYで状態の良い食材や製品を提供します。」とのことだ。


食後、スタッフのみんなと談笑。金子君も合流してくれた。真ん中の彼は、もともと水産市場の仲買をしていた、魚の目利きである。それが、エレゾに合流し、食材のスペシャリストとして働いている。


と、男性スタッフ集結。この日は僕らのために貸切にしてくれた。通常期は、複数のお客さんがこのダイニングで顔を合わせて一緒に食事をとるそうだが、まだオープンして間もないため、宿泊人数は少なめになるように配慮しているのだ。


それにしてもエレゾという集団は、すごい。なにがすごいかって、ファミリーというか、いわゆる「組」なのだ。否応なしに共同生活(社員寮がしつらえてあります)だし、スタッフの子供達もみんな相互に育てている。と思っていたら、、、

 

スタッフの家族集結! うわーーーー この子達は、佐々木家、金子家、そしてエレゾのスタッフの子供である。70年代に共同体、コミューンというものが流行っていたが、エレゾはまったく違う形の組織体、いや佐々木章太いうところの「食肉加工集団」なのである。


しかも、感じ入るのは、この集団の定着率のよさである。2016年に来たときからメンバーが増えているものの、辞めた人が極めて少ないように思う。佐々木章太や金子君といったトップの人柄や指導力が悪ければ、そうはならならいだろう。章太は素晴らしいリーダーシップを発揮しているように思える。尊敬しちゃうね。

楽しき夜の宴のあと、秦先生と杉山夫妻は雪道をゆっくりと帰って行った。杉山夫妻から「自宅に着きました」とメッセージがあったのは、深夜2時あたりだった。


そんな大変な三人に申し訳ないことに、僕と妻は暖かな室内で快適に寝てしまった。


朝、エレゾ社自前の除雪車の運転音で目が覚める。


さて朝ご飯の時間だ。あれだけ肉を食べても、いや食べたからか、腹が減る!


食肉加工集団のトップにして、自身がフレンチのシェフである佐々木章太が朝食をしつらえてくれる。


「あれだけ山の幸を味わっていただきましたので、朝の一品目は海の幸を凝縮したスープです。」


ブイヤベースか!と思いきや、このスープ、とある北海道の魚を凝縮したものなのだ、、、詳しくは現地でお楽しみに。


命の濃さに、一気に身体が温かくなる。


そして、シャルキュトリーな朝餉。


 




放牧豚のジャンボンブランの薄切りをたっぷりのせたトーストがヤバイ!



食べながら、若手スタッフの彼と話をしていた。

どうしてエレゾに参加したの?

「実家が畜産の仕事をしていたので、やはり畜産に興味がありまして、、、」

へえ、ご実家はどちら?

「茨城県で酪農をしているんです。」

酪農はいま、大変だねぇ、穀物飼料が高騰しているからね、、、

「はい、でもうちは放牧や、粗飼料をメインに食べさせる酪農をしているので、意外とその辺は大丈夫かと思います」

茨城で放牧? そんな酪農経営、すくないはずだけどな、、、新利根牧場っていうところの上野さんって人がそういうことやってるの、知ってるかな?

「、、、やまけんさん、僕はその、上野裕の次男なんです!」

ええええええっ


いや、想像だにしない展開。 上野さん、息子さんは元気に頑張ってますよ!

それにしても、佐々木章太の周りには、人が集まる。


章太に魅力があって、実力もあるから、こうした人達が寄ってくるし、居着くのだろう。


本当に素晴らしいと思うのは、2010年あたりの段階で、章太はこのエレゾエスプリまでを構想していたということだ。そんな若造がここまでの構想を持っていたとしても、普通ここまで実現できないよ、、、






この記事を書き始めて、僕に直接メッセージをくれる人が多い。「なんてすごい取組なんだ!」「衝撃を受けた、ぜひ視察したい」といった反応だが、それがほぼ、食の担い手、生産者側の人達だ。そうだろうな、そういう人達から観て「やられた~!」という内容だよな。それを章太が実現しているのだ。

僕は心から佐々木章太を尊敬する。

そんな食の生産者の人達だけ集めて、エレゾツアーをしても面白いな、なんて思っているところだ。章太が許せば、だけれどね。

あー すばらしき十勝詣ででした。エレゾエスプリの宿泊は安いものではありません。が、その金額に見合った体験をできるのではないかと思います。豊かな十勝の食の、一つの極ともいえる存在、エレゾという集団を観るだけでも、価値はある。

ぜひ足を運んでいただきたい。

■ELEZO - ELEZO Resort Auberge Restaurant
http://esprit.elezo.com/