やまけんの出張食い倒れ日記

月刊「専門料理」恒例の肉特集、なんと今年は『肉のサステナブルな使い方』! 第一特集の巻頭10Pを担当しました。「お肉って使わない方がいいんでしょ?」と思考停止にならないために!


毎年、肉特集はよく売れるという今月の月刊専門料理だが、なんと今回の肉特集は「肉のサステナブルな使い方」。巻頭特集の10Pを担当しています。

「規格外野菜を使ってます」「ふつうなら捨てられる●●を再利用してます」といった、とてもわかりやすいテーマ設定を掲げて「サステナブルに取り組んでます」という事例が散見されるけれども、こんなこと言って申し訳ないけどそれは基本的には「最低限やるべきこと」であって、本当はもっと優先度の高いことがある。と言うところから始まって、段々と肉の話に入っていきます。

「お肉を使うこと時代が持続可能じゃないんでしょ!」という人もいるだろうが、僕はそうは考えない。さまざまな肉が存在しているのに、十把一絡げにして「肉はよくない」という二元論に落とし込むのはおかしい。畜産におけるサステナビリティで重要なポイントを挙げた上で「その肉がどう生産されているのか」に着目して、「この肉はちょっと、、、こちらの肉は良さそうだ」と吟味することが必要なはずだ。


そうした観点から、現在の畜肉を巡る議論の中で重要な温室効果ガス(GHG)、アニマルウェルフェア(AW)、そしてオーガニック&ナチュラルという3つの観点から、畜肉に求められる持続可能性の論点と、「こういう肉を使ったら?」というガイドを盛り込んだ。


国連が2006年に発表した「Livestock's Long Shadow(家畜の長い影)」という報告書に、世界の畜産から排出される温室効果ガスはCO2換算で総排出の18%を占めており、この数字は世界中の輸送よりも大きいとしている。その後、2013年にFAO自身によって、畜産からの総排出量の数字は14.5%に下方修正された。現在もこの数字を引用しているケースが多くみられる。

で、問題はこの畜産からのGHG排出の大きさを示すために「世界中の輸送(交通・運輸)から排出されるGHGより大きい」という付加情報がつくことが多いこと。僕もしばらく前に、環境活動家の方とディスカッションした際に「畜産は車や飛行機のGHG排出より大きいですからね」と言われて「えっこの人もか!?」と思ったことがある。

じつはこの比較は正しくない。畜産の14.5%という数字は、畜産に関わる飼料生産や土地利用、処理や輸送といったライフサイクル全体(LCA)を加味しての数字なのだが、比較対照の輸送部門の14%という数字は、その輸送に関わる前後の間接的部門の数字が考慮されていない「直接排出」の数字なのだ。比べる対象が違っている。輸送に関わるライフサイクル全体のGHG排出は「計算不能」ということらしいのだが、それをすべてひっくるめたら、畜産全体など比べものにならないほどスキャンダラスな数字になるに決まっているではないか。畜産関係者のなかには「エネルギー・運輸業界が、自分のセクターからの膨大なGHG排出から目を逸らさせるために、畜産部門を犠牲にするためにわざとミスリードしたのだ」と疑っている人もいる。

まあただ、実際に「食品産業のなかでは、家畜生産特に酪農と肉牛から排出されるGHGは大きい」ので、全世界でGHG排出削減の取り組みは全速力で進んでいるところだ。

ということで、畜産におけるGHG排出の特徴的な部分をわかりやすく図解。


アニマルウェルフェアについて、畜種別にどんなことがイシューとなっているのか、日本の状況(かなり遅れています)を解説。


そしてこれ「オーガニック」がなんで議論されるわけ!?と思われるかもしれないが、ここ数年で日本のオーガニックを巡る状況は大きく変わり、これまでの「農薬を使っていないから、健康にいいんでしょ?」という論点とはまったく違う価値が提起されている。そして、畜産分野におけるオーガニックはこれからかなり注目されると僕は予想している。

そうして、これらの観点から実際に「このお肉はいいかもよ」というお肉を、牛・豚・鶏に関して紹介している。


もはや日本のお肉の世界も問題山積で、「おいしい~!」と脳天気に喜んでいればいいだけではなくなってしまった。そんな中、畜産のサステナビリティ入門編ではありますが、ぜひ手に取っていただければ。