やまけんの出張食い倒れ日記

技術と魂の入った和食と、気が遠くなる古酒 古川先生と呑んだ夜! 小滝橋「岸由」と「真菜板」で痛飲痛食!

「新進気鋭の割烹で、至福の宴会をしませんか。芳醇な酒と力のある魚料理の極上のマリアージュを堪能します。」

とお誘いをいただいたのは、芝浦工業大学(←間違えてしまって申し訳ございませんでした!)の先生であり、日本酒、特に熟成酒の熱烈な信奉者として著名な古川修さんだ。

何で古川先生と知り合ったかというと、いつものごとくバードコートの野島さんである。今年の初夏、昨年一緒に仕立てた浴衣(ゆかた)を着てどこかに飲みに行こうよ、ということになり、野島さんが大好きな新橋の「ビアライゼ’98」という店にいくことになったのだ。ちなみにビアライゼは、旨いビールが飲めることで有名な店。

そのみちすがら、新橋駅で待ち合わせをして、浴衣の男女3人でじろじろ観られながら新橋のちょっといかがわしい通りを歩きながら、野島さんが袂(たもと)から新書を取り出した。

「今、これを読んでるんですよぉ。竹鶴の石川杜氏とかが出てくるんですけどね。常温熟成酒の話が出てくる面白い本なんです」

世界一旨い日本酒 熟成と燗で飲る本物の酒
古川 修

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光文社 2005-06-17
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へええ
新書で常温熟成のことが書かれるようになったんだ、と思いながらビアライゼに入店。極上のビールを堪能していると、店主の松尾さんが野島さんに挨拶にきた。その雑談の中で野島さんが「今、これ読んでるんですよ」というと、その著者名をみて松尾さんがフフッと笑った。

「古川さん、今日いらっしゃいますよ」

ええええええええええええ
なんたる奇遇だ。
しばしビールを飲んでいると、ご本人が到着。面識は全くなかったのだがご挨拶をさせていただく。ところがここで僥倖があったのだ。古川先生のご同行者が、僕のブログを読んでいる人だった!

「山本さんのブログ面白いんですってね。今度読んでみますね」

その後、古川先生じきじきに「共感するところあります。今度飲みましょう」というメールをいただいたのだ。
本日はその流れで初めてご一緒させていただいたのである。

■岸由(きしよし)
中野区東中野5-25-6-105 電話03-3360-5736
最寄り駅 東西線「落合」より徒歩5分
「高田馬場」よりタクシー 早稲田通り沿い、小滝橋交差点から
環六へ向かい50m左側、セブンイレブンの隣
(↑古川先生のメールより転載)

古川先生と、その酒仲間のお二人とでご一緒させていただいた。このお二人がまた酒と食べ物の通!お一方は有名な日本酒店「甲州屋」で働いていた方だ。

「その頃一番ヘンなお客さんが、古川先生だった」

という話にみんなで大笑い。

「この店の板長は天才です。」

ということでかなり期待していたのだが、、、
予想以上にさえ渡ったセンスと技術だった!

突き出しはくわい、銀杏、むかご、栗のチップス、そして自家製カラスミだ。レンガ色の器がマットなテクスチャで素晴らしい。ホワイトバランスを巧く調整して撮影できなかったのが残念(本日はコンパクトカメラで撮影。いつも一眼レフ持っていけないのよね)。

カラスミは中が程よくナマっぽく熟れている、程よい塩梅のものだ。そう言うと古川先生、「ふふっそうですか」と含みのある笑いを、、、

続くお椀が実に絶品だった!

蓋の裏の紅葉柄がまぶしい綺麗な椀の種は、なんと蟹を寄せた胡麻豆腐。この胡麻豆腐が、温かい吸い出汁の中に溶け出しそうな加減でポンニャリと浮かんでいる。柔らかいその物体を箸でつまむと官能的な弾力。椀に胡麻豆腐?どうなっているんだろう?口に運ぶと、ポニョリンと表面張力が保たれていたのが一気にとろけ、温まった胡麻豆腐が流出してきた!

「ぬおおおおおっ  これは秀逸!」

これは素晴らしい!
最近こんな凄みのある椀は初めてだ。もう少し吸い出汁の温度が高めでもよかったが、そうなると胡麻豆腐の表面とのバランスがとれないのかもしれない。どちらにせよ、素晴らしいお椀だった!


お造りは氷見のブリと赤貝、そして徳島のさよりだ。このさよりが実に絶品中の絶品!

醤油につけた瞬間、ブワッと醤油の表面に散るほどに脂が乗っているのだ!
身も分厚く、こんなに濃厚なさよりは食べたことがない! ちょっと驚きである。古川先生は「ああ、あそこのね」と漁師の顔まで知っておられるような得心のいった顔だった。

「じゃあ徳島の酒を合わせましょう」

といって古川先生が「旭若松」を頼んで下さる。この調子で全ての料理に古川先生が酒を合わせてくれるのを、我々は楽しむばかりのスゴイ会であった。

「旭若松は小さな蔵だけど、佳い酒を造る蔵ですよ。あんまり知られたくない酒ですね(笑)」

という旭若松は、四国の酒らしい程よい甘みに一本骨の通ったような佳い酒だった。もちろん適度なお燗がしてあるので、旨味と香りが花開いた最高のコンディションである。

ちなみに本日いただいたのはこんなラインナップ。

中でも「宗玄」を呑むことが出来たのは大収穫だった。
実はまだ書いてないけど、素晴らしい「富山編」を先日体験してきた。その富山食い倒れを案内して下さったのが、さるシステム企業にお勤めで、ご生家が宗玄の酒造である、その名も宗玄さんだったのだ。

「ウチの酒は甘めだけど美味しいですよ。」

とおっしゃっていたのだが、甘いというより豊潤な、しかしキレのある綺麗な酒だった! 古川さんやご同行のお二人も「いいよね宗玄」と絶賛。宗玄さん、素晴らしかったですよ。


聖護院かぶらの煮物は、出汁がかぶらの中に絶妙に浸透して、ゴリゴリした舌触りのない上品な仕立てになっていた。

こってりした伊賀牛は、サシがそれほど入ってない部位だったため、肉本来の旨さが感じ取れる。

これに合わせた「奥播磨」(だったと思う)はまた骨格の太い酒で、肉の油分を洗い、なおかつ風味を倍加してくれる酒だった。


フグの湯引きをポン酢和えにしたのが出てきたが、これは古川先生へのサービスじゃないかなぁ、得した!皮、内臓、正肉全てがプルンプルン。酸味の強いポン酢にマッチして実に最高!

〆は牡蠣ご飯。

小ぶりの牡蠣の出汁を吸ったご飯が実に旨い!
粒の大きい、なんとも絶品な炊き具合で、3杯お代わりをし、なおかつ嫁が残した茶碗半分を食べて、まだあと丼一杯食べたかった!

「いやぁ~ 先生、最高に旨かったですよ!」

なんとこれで料理6000円のコースである。酒を合わせて1万円弱。素材の素晴らしさ、これ以上ない技術、そして素晴らしい酒のラインナップを考えると、お釣りの来る内容だ。是非また来よう。

板さんとおかみさんに送られて店を出る。

「もう一軒飲みに行きましょう! ここから歩いてすぐの処にいい店があるんです。」

と歩き出す古川先生。先生も相当ご気分よくなっておられるようだ。

「私のお付き合いのある生産者さんとかが本当に高齢化していっています。今後、日本の食は危機にさらされるでしょうね。何かそう言う人達を応援するようなことを、一緒にやりませんか」

ぜひやりましょう!

「さあここです。まないたって読むんですよ」

「真菜板」(まないた)
新宿区高田馬場3-33


これが有名な真菜板か!
店にはいると、店の大将とおかみさんがにまーっと笑って古川さんを迎える。

さっそく、銘柄は忘れてしまったが、華やかな香りと酸味が舌に心地よい発泡にごり酒で乾杯。

「やまけんさん、これを食べて下さいね」

と古川さんがとってくれたのがカラスミだ。先ほどの岸由で出たものより色が淡く、かつ形状が素朴である。

「これ、僕が作ったカラスミです。通常よりも塩分濃度を薄くして自然な味を出しました。あと、売り物は硝子板で挟んで押しながら熟成させるのですが、僕はそれをやりません。だから食感も自然ですよ。毎年仕込むんですが、その内の少しをこの店に卸しているんです」

うおおおおおおおお なんと!
古川先生、工学の先生なのに職業がよく分からなくなってきたんである!

しかし見事だ。このカラスミ、先生がおっしゃるように塩分濃度が薄めで食べやすく、舌に残る魚卵臭さがほとんど無い。圧延していないせいか程よく柔らかく、口の中で崩れてくれる。最高のアテじゃないか!

またこの店、料理がものすごくイケル。

千寿葱(安藤君のところだろうか?)の天麩羅はシャキッとしたテクスチャに、中はトロッと絶妙な揚がり加減。

聖護院かぶらのかぶら蒸しも、とろけるような蕪の甘い風味がたまらない。

「これも旨いですよ!」と同行のKさんがお薦めしてくれたのが八丁味噌のビーフシチュー。マジで旨い!

ちなみに、カウンターには「るみ子の酒」の30年もののビンが置いてあった。一杯飲ませていただいたが、古酒はやはりスゴイですな。30年になると醤油のような濃い香りになってくる。

「ここの焼き〆鯖が旨いですよ!」

と古川先生がおっしゃるので頼んでみると、分厚く切り分けられた〆鯖がこんがり焼かれて、最高に酒が進むアテになっている!

酢の加減はそれほど強くないが、生の鯖のみよりも明らかに締まりのよい、上品な味になっているのだ。さすが日本酒の梁山泊。むちゃくちゃに気の利いた肴が揃っていると感動してしまった。

ちなみにこの店も宗玄が置いてあった。それと、僕がこの店で呑んで美味しいと思ったのが、島根の十字旭日だ。

「1BYと4BYと、今年度の新酒を比べてみなよ」

と店の大将が猪口に一杯ずつ出してくれる。どれも年代相応に熟れているが、4BYがほどよく旨かった!

「どうですか、いい店ばかりでしょう?」

いや、落合~高田馬場って素晴らしいッス!
古川先生、ご案内いただきましてありがとうございました!