やまけんの出張食い倒れ日記

ふ、深い! これが青ネギの世界か!! 絶品本物の九条葱を堪能した関西行であったのダ! その2

(九条葱のエントリから続く)


伏見から祇園までは40分ほどかかっただろうか。京都の地理をよくわかっていない僕としては、ぐねぐねと長い道のりだった。だいたい、京都ほど外の人間がわかりにくい場所もない。観光地としての位置づけと、生活する人がいる街としての位置づけが、どこで切り替わるのかがわからないのである。

「この辺が祇園の裏側です」

えっ 裏側?
もの凄い風流な街並みだけど、、、
異邦人としては異様に緊張する京都の街並みに入り、駐車場に車を停める。

「表通りのにぎやかで綺麗な街並みから入るのもいいんですが、私たちはいつも裏から入ります」

と、塀の先に見えてきたのが、「萬屋(よろずや)」の看板だ。

祇をん 萬屋
京都市東山区花見小路四条下ル二筋目西入ル小松町555-1
075-551-3409

引き戸をガラッと開けると、女将さんが出迎えてくださる。一階が昼営業のテーブル席だが、二階に通される。

「二階は常連さんが食べさせて貰える席なんですよ。実はこの萬屋さんの名物が、九条葱をたっぷりチラした「葱うどん」なんです。さっきお邪魔した石田さんの葱が使われているんですよ!」

おおお!そうか、そういうことだったのね!
石田さんのところでも「これからうどん、行くんでしょ?」と言われて、なんのこっちゃと思っていたのだが、ここで葱うどんを食べるという趣向だったのか。

「いえ、葱うどんだけではなんですから、今日は萬屋さんにお願いして、葱づくし食べ比べをしていただきます。」

そういえば舟橋さん、車のトランクからガサッと段ボールを出して女将さんに渡していたが、アレは食べ比べようの葱だったのか!

「じゃあまずは先付けに、、、」

と出していただいたのが、しょっぱなから葱のぬたである。

「左側が石田さんの九条葱、右側が岡山産の葱です。」

おっと
最初から食べ比べだ!
上品なぬた味噌と、アクセントの金時ニンジンの食感が楽しいぬただが、ここは葱の違いを楽しむべきだ。テクスチャはほぼ同じだが、石田さんの葱は表皮が柔らかく、噛んだときのヌチャッと感が強い。岡山県産は表皮の歯触りが強めだ。食味は微細な違いだが、トロリとした粘液は石田さんの葱に、より多量にふくまれていると感じた。

「さあ、ここから葱の食べ比べですよ!」

え、今のは違ったの?と思ったら、怒濤の葱責めである。

芽葱。

万能葱


こちらが萬屋の大将。
知る人ぞ知る、祇園の顔だそうである。

万能葱は博多のJAグループのブランド葱だが、なんとここで舟橋さんの品種が採用されたのだと言う!



この辺の葱食べ比べがどうだったかということは、詳細に書くと長くなるので割愛するけど、大きな確信を持てた!それは、やはり葱でも品種、産地、栽培方法で味が大きく変わるということだ。

今回舟橋さんにお会いしたのは、第四回目を迎える「料理人のための食材研究会」への協力をお願いするためなのだが、ここでも会に出品したい葱が多々あった!

「そうですね、、、九条葱はぜひ食べ比べていただきたいですね!」

やりましょう、やりましょう!

「じゃあ、葱ばっかりだとなんですから、鍋をお出ししますね」

と、生の葱をぽりぽり食べていたモノクロームの世界から、一気にカラフル世界へと突入するのだ!

どどーん!

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
これは、これはもしや、、、?

「はい、丹波の松茸です」

来たああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

しかも、松茸だけではない!

「やっぱり葱には鴨肉があいますんで」


ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

こいつぁ 久しぶりにプレゼンテーションだけでヤラレタ!
怒濤の旨いもん冬バージョン攻撃である!

仕事を終えて駆けつけてくださった、九条葱農家・石田さんも臨席。いよいよ宴の始まりだ。

大将による葱投入。ここから最後まで、具材の投入と火加減調整、煮え加減のお知らせはすべて大将により気持ちよく仕切られた。実は石田さんの葱をいただいて家に帰り、同様に鍋をしたのだけど、全然あの萬屋で食べた味にならない。実は葱の素性だけではなく、火の加減など全てがコントロールされているのだな、と痛感した次第だ。

ご覧の通り鍋には出汁と肉の丸が仕込まれている。

「鴨肉だけだと硬くなってしまいますので、鶏肉もいい塩梅に混ぜてます」

とのこと。この出汁が実に最高!京都だからといってアタリが薄いわけではない。実にしっかりコクのある出汁加減である。このフツフツとした火加減で、九条葱に火が通される。

「はい、もういいようですよ」

という号令の元、箸が伸びる!ていうか俺の箸が伸びた。
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関東ではあまり食べられない、葱の青い葉の部分。
いや、葱品種自体が違うから全く比べることは出来ない。
贅沢に箸でつかんで口に放り込んで、ザクリと噛むと、歯が表皮をザリッと引き裂く感覚、そして内側のヌトヌトした粘液が甘~く染みだしてくる瞬間。

青ネギは、快楽だ!

こうして葱を主役にして食べるとよくわかる。出汁の旨みと葱の風味、甘さが絡んだものは、無敵の旨さなのである。

「さてじゃあ葱以外のものも、、、」

と言って、とうとう松茸と鴨肉の投入!


ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
昂奮せずには居られない、地のたぎる鍋風景である!

正真正銘の丹波の松茸、特有の香りが微細な湯気の粒子にのって運ばれ、鼻孔をくすぐりまくる!
いつもはいとおしみつつ、ゆっくり食べるけど、「たっぷりありますから」という声に、バクついてしまう!
ジャクリという菌茸特有の繊維感ある歯触り、そして暴力的な香りが顔の細胞中に充ち満ちた!

うめええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

「鴨肉もたっぷり食べていってくださいネ」


PB061695.jpg
葱の甘さと松茸の香りが溶け出した出汁で柔らかく火を通した鴨肉、至上の幸福である。
そして鴨肉と鶏肉の丸もまた、出汁をだしきっていない絶品な美味しさ。
これで鴨肉の旨さがまた出汁に溶け出す。

「その出汁でこの辺の野菜をたべていただきましょう」

と出てきたのが、京野菜の本道、聖護院大根と水菜、そして葱と松茸の怒濤の攻めである!

聖護院大根は予め軽く茹でられたものを投入。しばし出汁の中に置いて味を煮含ませる。

何度も食べているけど、聖護院大根ほど煮物に合う大根もないだろう。煮くずれずとろけきらないのに、柔らかくたおやかな食感がする。味も淡麗で柔らかな風味。それが葱と鴨と松茸の出汁に絡まって、最上級の食材に変化するのである。

〆は、この鍋の中に蕎麦を投入。うどんではなく蕎麦というところがイイ!


これが旨いんだよなぁ!とすすり込む石田さん。
出汁が蕎麦の香りに絡んで、これは江戸前蕎麦とは全く違う楽しみになっている。

でも、、、
僕はやっぱり、ここの看板商品である葱うどんも食べたいな、、、

「もちろん!それじゃ一つお作りします!」


これが、萬屋の葱うどんだ!
贅沢に、ふんだんに九条葱を盛り込んだうどん。
葱のしたに隠れているうどんは、関西で主流のふくよかで柔らかい麺だ。これが、鍋の出汁とはまたちがう、柔らかめの出汁と葱に絡んで、ホッとする味になっている。

美味しい、、、

「こんど、このうどん食べに昼来ます!」

「ぜひおいでください!」

〆は鍋の出汁で雑炊。

最後まで、米の一粒にまで松茸の香りが絡んだままだった!
なんともゴージャスな一夜である。
気がついてみたらもう0時を廻ろうとしている!4時間にわたる食事をしてしまったのであった。


萬屋の若大将、今は彼が料理を担当しているのである。

もの凄い一日だった、、、

葱について2時間くらい話を聴いて、その後一杯飲めればいいやくらいに考えていたのに、凄まじい美食快食の夜となってしまったのである。

次回、エコール辻&柴田書店&僕で開催する「料理人のための食材研究会 葱編」では、九条葱、絶対に食べ比べることにしようと思う。石田さんの九条葱を味わってみた囲皮とは、1月19日を空けておいていただきたい!