「丹後半島を日本のサン・セバスチャンに!」という情熱と行動を興した飯尾醸造のレストラン「アチェート」は静かに、しかし着実に進化を続けていた!重シェフのあの最高なパスタをまた食べることができる日が来た!

2018年1月11日 from 出張

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そういえば以前この店を前に紹介したとき、忙しくて画像だけババッと掲載してそのままになっていたのであった。このムーブメントについてすこし語ろう。

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飯尾醸造の若き社長である彰浩君が「2025年には、丹後半島を、そして宮津を日本のサン・セバスチャンにする!」と宣言しているのを聞いて、それは面白いと思ったのだ。

飯尾醸造

飯尾醸造は、京都の宮津市で江戸時代から続く老舗のお酢屋さんだ。日本では大変に数少なくなった、米をお酒にするところから自社で行い、また静置発酵という昔ながらの発酵方法で1年以上の時間をかけて米酢を造る。

米を作る、というのは、もちろんお酢を仕込む全量ではないけれども、醸造を行わない春から秋にかけては蔵人が田んぼに出て、原料米を農薬を使用せずに栽培しているのだ。

飯尾醸造の田圃 (2)

もちろん自分達で栽培するだけではまったく足りないので、契約栽培を周囲の農家さんにお願いをしている。「農薬を使用しないで栽培していただくので」と、とても高い金額で買取をしていて、ちょっとその価格を聞いて驚いてしまった。国内トップクラスの米の買取価格だ。

飯尾醸造の田圃

それでも高齢化している農家さんになんとか栽培を続けてもらうため、農家さんの気持を識るためという意味合いもあって、彼らは栽培を自分達でやっている。

原料となる無農薬米

穫れたお米(コシヒカリだ)を食味系で測ると、特Aクラスの食味に判別される。飯尾醸造のお酢のヘビーユーザーには、毎年限定販売の連絡が届くのだが、すぐに販売上限に達してしまうほどの人気だ。

JAS規格で米酢と標記してよい最低量(左端)、4番目が富士酢プレミアムに使用するコメの量。

お酢の美味しさはなにで決まるかというと、原料の投入量で味の厚みや骨格がきまってしまうと言う。JAS規格では、お酢1リットルに40gの米を使えば米酢と名乗ってよい。だから大手メーカーの安い米酢は最低限度の米しか使わないのだが、その量は上の写真の左端の瓶を観ればわかるとおり、本当にわずかだ。これではお酢は作れないので、他の穀物原料などから安く作ったアルコールを足して、なんとかお酢にする。

飯尾醸造はそれをよしとせず、レギュラー商品で200g/ℓの米を使い、フラッグシップ商品である富士酢プレミアムではなんと安い米酢の8倍となる320gもの米を使う。味が違うのは当然なのだ。

蔵人全員で麹の切り返し。まるで日本酒蔵だ。

お酢はアルコールから製造される。お米を使ってできるアルコールといえば、そう日本酒だ。写真のように杜氏さんがおり、しっかり麹から酒を仕込んでいる。

お酢はアルコールから造る。だから、お酢蔵にも杜氏がいる。

できたお酢もろみに酢酸菌を植えて寝かせる

お酒、、、ではなく「お酢もろみ」ができると、それをタンクに移して、表面に酢酸菌の膜をのせる。そうすると、酢酸菌がタンクの上面にぶわーっと繁殖していく。

酢酸菌の膜

この、酸素と触れあっている表面が発酵をしていく。大手メーカーでは、発酵を促進するためにエアーをぶくぶくさせながら撹拌し、全面発酵を促し、速ければ一日でお酢ができてしまう。それに対して飯尾醸造は撹拌をせず、発酵熱によっておこる自然な対流にまかせて置いておく。静かに置いておくので「静置(せいち)発酵」という。置いておくといっても、一~二年もかかる。

紅芋酢の製造風景 舟でお酢もろみを絞る
※いきなり真っ赤なお酢で驚いたかも知れないが、これは飯尾醸造の人気商品である紅芋酢。紅芋の色素が溶け込んで美しいお酢となっているのだ。

そのお酢は、大メーカーが一日で造ってしまうお酢とはまったく違い、うま味と香りの濃い味わいを持っている。それが評判を呼び、いまではアメリカやヨーロッパなど、海外でも「お酢は富士酢」と喜ばれ、使われるようになっているのだ。

さて

その飯尾醸造が、宮津市にイタリア料理店とお寿司屋さんを開くのだという。それも、東京から選りすぐりの一流料理人を引き抜いてだ。宮津は、日本三景の一つである「天橋立」を有する観光地だ。だから経営は成り立つかも知れないが、それにしてもこんな地方の小さな街に、ハイクラスの飲食店が成立するものだろうか。

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「やまけんさん、日本の田舎って、このままいくと消滅すると言われています。でもこの丹後地域には、うちの原料米を生産して下さっている農家さんがいますし、支えて下さる方々が地域にいらっしゃいます。この地域にプラスになることをうちがしたいと思った時に、レストランがいいと思ったんです。一軒の美味しいレストランがあれば、世界中から人が集まる世の中です。高速道路を整備するコストに比べたら、飲食店を一軒、二軒出すコストなんて少ないものです。飯尾醸造としてそこにチャレンジすることにしました。」

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スペインのサン・セバスチャンという街は、世界中の美食家が集まる地だ。そこでは20年ほど前、天才料理人が自分の店を閉めて料理学校をつくった。そこで若い子に技術を伝えて、店を出させ、切磋琢磨させた。そうしてレベルの高い飲食店が増え、世界一の美食の町と評価され、様々な国から人が集まるようになったという。それを飯尾醸造は、丹後の宮津市でやろうとしているのだ。なんというビジョンだろう!

その舞台が、宮津市の中心部にあるこの古式豊かな屋敷だ。

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ここが夜になると、こうなる。

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宮津市でかつて花街として賑わっていた通りにある古民家をリノベーションし、なんとも味わいのある町屋作りの建物が、そのレストランとなっているのだ。

店の名前はイタリア語でお酢を表すaceto(アチェート)。

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実はこの店のシェフ捜しを、すこしだけ僕も手伝っている。飯尾君は、宮津の漁港で揚がる新鮮な魚を活かすにはイタリア料理、それも魚介の使い方が上手な南部のシチリア料理がよいと考えていた。

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そして白羽の矢を立てたのが、僕の親友にしてシチリア料理の達人である重康彦シェフだ。

「やまけんさん、こっちで店をやる気が無いか、きいて下さいますか」

と飯尾君に頼まれて重シェフに声をかけたのだが、話しはトントン拍子に進み、昨年7月にオープンとなった。もちろん僕はグランドオープンしてすぐ、宮津に足を運んだのである。

東京で店をしていたときの重の料理は、シチリア以上にシチリアっぽい、豪快で大盛りで味も香りもバシッと強く決まっていて、皿数が多く、とにかく腹一杯にねじ伏せるスタイルだった。

「でも、それじゃ宮津では受け入れられないと思うんだよ。こっちの人が日常的に食べている味、そして宮津や丹後半島の食材がもつ、やわらかな味わいに寄り添う味付けをしなければ、難しそうなんだよね」

というように、重はオープン当初、かなりの試行錯誤をしていた。

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前菜に出てくる料理を観ると、以前のシチリアの風をブンブンと感じさせるスタイルそのままというようにも見える。

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でも、そのあじわいは確実に宮津向きにローカライズされていた。例えばシチリア料理の定番であるカポナータは、食感の強いナスをしっかり油で揚げ、酸味の強いワインビネガーと砂糖を溶かした甘酢で絡めるようにしたものだ。

ところが宮津近辺で穫れるナスをそうやって料理すると、ナスのデリケートさが強い味付けに合わないのだという。また、そこに合わせるのはイタリアのワインビネガーではなく、当然ながら飯尾醸造のお酢だ。

ここも一つのポイントで、酸っぱいがあっさり後味を残さないワインビネガーに対して、飯尾醸造の米酢はまったく性格が違い、甘みやうま味が濃く、後味がドーンと続く。味の設計図がまるで変わってしまうのだ。

そこで、油で揚げる行程をやめ、スチコンで蒸して下処理をし、飯尾醸造のお酢と糖を割合を工夫して合わせ、カポナータにしているのだ。

結論からいうと、このカポナータはとてもおいしかった! 硬さのある米なすとワインビネガーで作るシチリア風が男性的とすれば、あきらかにデリケートな女性的といえる味わいのカポナータだ。ああ、これはシチリア料理じゃない、宮津料理なるジャンルを作り出そうとしている、その過程を僕は味わっているのだ。

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もちろん、宮津でなければ発想し得ない料理というものも生まれていた。その一つがこのリゾットだ。

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これ、お米はイタリア米ではなく、飯尾醸造の米酢原料になっているコシヒカリの玄米だ。

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それをブロードであらかじめ炊いておいて、パラリとさせた状態にしておく。玄米にしているのは特に健康云々ではなく、その方が食感がパリッとアルデンテが残るような感じでアクセントがつくからだ。

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では茶色い濃いソース様のものはなにか。

「宮津ってさ、漁港があって、新鮮なアジとか雑魚がものすごく安いわけ。小さいやつは二束三文。そういうのを買い込んで、とにかく煮詰めるんだ。そうすると、ビックリするような濃いブロード、いやソースになるんだよ。」

これは漁港町である宮津でしかできない、普通なら捨ててしまう雑魚の利活用方法といえるだろう。

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あっさりしたダシのブロードで炊いた玄米リゾットに、魚のうまみが強烈に凝縮されたソースを絡めて食べる。食感が残った玄米のサクッとした歯触りと甘みに、しばらく置いておくと膜が張るくらいに濃縮された魚ソースのうまみが強烈に溶け込んでいく。清い風味ながら、とてつもなく強い味わい!玄米の風味がその魚の強い味を受け止めている。

このリゾットは、わざわざ食べに行く価値がある一皿だと思う。

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もうひとつ、これを食べるためにまた再訪してもいいなと思ったのがこのパスタだ。よくありそうなシンプルな冷製パスタ。でも、麺を一巻き口にすると、あまりの味と香りの強さに驚倒してしまう。ソースではなく、パスタ自体が強いインパクトのある味わいを放っているのだ。

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「これもね、宮津の野菜ならではなんだよ。夏場はトマトがドドドッとできて、出荷しないB級品とかが大量に余るわけ。それをミキサーにかけて越して、大量にトマト水をつくるんだよ。そうしてね、大量にできたトマト水で、パスタを茹でちゃうっていう暴挙にでてるわけ。味が濃いでしょ~。」

なんと、トマトウォーターで麺を茹でていると!そんな贅沢なパスタの茹で方、効いたことが無い。麺を茹でるためにいったい何玉の大玉トマトが使われているのだろうか、気が遠くなる。でも、それも食品ロスと対極にある、使いにくいものを活かす道になっているのだ。

しかも最高に旨い! 本当に、さきのリゾットとこの冷製パスタのためにまた来てもいい!と強く思ったくらいだ。

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厨房には重を含め三人。右側の男性は地元で和食をしていた方で、この店の募集に応じてきてくれた。そして左にいる男性は、じつはお酢の酒造りのキーパーソンである。

「調理師免許もってるっていうから、蔵の仕事が忙しくならないウチは手伝ってもらってるんだよ」

と!

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しかも、サービススタッフには、なんと杜氏も(蔵が始まるまでは)加わっていた。しかもご妻君(後列左)も一緒に(笑)

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周年のサービススタッフとして、大阪から宮津へやってきてくれたのは、アイルランドと日本の血が流れるハナちゃん。

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こんな布陣でレストラン「アチェート」は船出をしたのである。

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というわけで、ここまでが前回(7月?)のお話し。 後編に続きます。

aceto アチェート
京都府宮津市新浜1968
18:00~23:00 火曜日、隔週水曜日定休
0772-25-1010(電話受付13:00~)