先日、京都料理芽生会のシンポ出席のために京都に行ったことは書いたが、その翌日に田鶴さんの畑にお邪魔した。それには一つ目的があって、8月以降の賀茂茄子を食べてみたいという思いがあったからだ。
賀茂茄子の出荷最盛期は6~7月と言われるのだが、それはナスの生理上、そこまでしか収穫できないということではない。ナスはご存じの通りその気になれば長く収穫できる作物だ。賀茂茄子も、以前は9月後半くらいまで引っ張って、ラグビーボール大の大玉になったのを食べることもあったと聞いていた。
「それ、食べてみたい、、、」
とずっと思っていたのだ。でも、それがなかなかできない。というのは、本場である上賀茂地区の賀茂茄子農家さんたちは、8月後半からは冬に収穫するスグキ菜を種まきしなければならない。賀茂茄子を植えていた畑にスグキ菜を種まきするなら、すみやかにハウスを撤去して整地し、元肥を施すなりしなければならない。またスグキ菜の圃場用地が他にあっても、作業が大変になるので収穫しないということもあるようだ。
従って、仕事上の関係で賀茂茄子をとり続けることができず、抜いてしまうというように聞いていた。
ところが、今回の芽生会シンポではもうひとつ、味わいに関する部分での変化も重要なポイントだと聞いたのだ。
僕が「以前は賀茂茄子もだいぶ遅くまで植えていたんですよね?」と尋ねると、瓢亭の高橋英一さんがこうおっしゃったのだ。
「賀茂茄子はね、8月の終わりになると、種がだんだんと大きくなって硬くなるんです。身を割るとはっきり種がわかるくらいに。もちろん、それは食べられないというものではありません。むしろ果肉の甘みが増すのですが、種がゴリゴリと歯触りを感じるくらいになるし、また種の入った心室部分が果肉から外れやすくなるんです。そういうこともあって、料理屋では使いにくい。」
そういわれるとますます食べてみたい、、、ゴリゴリするけど味わいは増した賀茂茄子、、、
ということで、田鶴さんの畑を訪ねたときにお願いしたのだ。
こういう綺麗なのじゃなくて、種が大きくなったってやつ、送って!
とお願いして届いたのがこのような賀茂茄子だ!
収穫末期ということもあってか、色もボケている部分が多いが、とにかく果肉が熟れているというのがわかる外観だ。
とりあえず割ってみると、、、
なるほど!
種が硬くなっているというのは一目でわかる。心室の形がハッキリ見てとれる。油で両面に焼き色をつけて、出汁と醤油で柔らかくなるまで炊いてみた。
この段階で、種のはいった心室部分と、それを包む台座的な実の部分の間に隙間が空いているのがわかる。これが英一さんのおっしゃっていた「心室部分がぽこっととれやすくなる」の現象だ。
実際に箸を入れると、、、
ぽこっととれた!
なるほど、今回は軽く炊いたので形のままに出せたけれども、加熱が深かったりすると、煮崩れて形をなさず、盛り付けできなくなる可能性がある。そうしたことから、料理店では使いにくくなってしまうという判断なのだろう。
翌日、こんどは京都のおばんざいとしてはお揚げさんと一緒に炊くのが基本とのことなので、太子食品の絹練りお揚げと、オクラとともに炊いてみた。
種がハッキリ見えるし、乱切りにして炊くと、たしかに鍋の中で果肉部分がはずれてしまうことがある。
では、お味はというと、、、これがじつに美味しい!
たしかに種には食感がある。ゴリッとするものも、そこまではなくかみつぶせるものと、さまざまだが、種の食感はハッキリと感じる。これをウルサイと感じる人もいることだろう。
ただ、果肉部分に甘みがあって、というのはハッキリと感じられる。通常規格の賀茂茄子だって甘みはあるけれども、それとはまた別次元のしっかりした甘み。成熟した果実ならではだ。
それと、心室のはずれ方がハッキリクッキリしているので、皮とまわりの果肉部分がこうやって綺麗に残る。
この、のこされた台座の部分と皮がじつにシクシクとした食感があって美味しいのだ!
じつは芽生会シンポ後に出して貰った料理のなかで賀茂茄子の田楽が出てきた際、英一さんが「ここの、皮のキワにある果肉が美味しいんです」と食べておられたが、その部分の風味もはっきり濃くなっている。
結論として、種がはっきり形をなしてきた頃の賀茂茄子は、ゴリゴリ感はあれどもとても美味しい。ナスとしての味わい自体はむしろ濃くなっていると感じた。
まあだからといって、こうした賀茂茄子も流通すべきだ!というわけではないのだけれども、京料理の料理屋さんではなく、定食屋さんみたいなところでは、こんな賀茂茄子を炊いたのをだしてくれたらいいのになあ、と思ってしまった。
野菜は、ニーズが合って流通が成立しないと、売買できない。現代の事情ではニーズがあったとしてもこうした「完熟賀茂茄子」(←といったらまずいかもしれないが)は売りにくい。
でも、この味は本当に捨てがたいなぁ、と思ってしまったのだ。いや、よいものをいただきました。
田鶴さん、英一さん、どうもありがとうございました!